「ハハハハハハッ!!風を感じる!見事な一体感!今の俺は誰よりも速いぞ!速いぞぉおお!! アリス、気分はどうだ?」
「速くて楽しいの……ゴーゴーなの……!」
白銀の世界をユウがアリスを肩車して全速力で駆けていた。
なぜかテンションの高くなっているユウだが、その顔はここに来たときよりも断然晴れやかだった。今彼の心には微塵も曇りはないだろう。
肩車されているアリスは口角を少し上げ、目を細めては微笑むように笑い、ユウの乗り心地を楽しんでいた。彼が常人よりも、遥かに速い速度で走り右左へと曲がっているため、まるで暴れ馬に乗っているように揺らされている彼女だが、特に落ちそうになることもなく乗りこなしていた。
二人が道をひたすら進んでいると少し広い場所に出た。その瞬間、ユウ達が進んできた道とは別の道から同じタイミングでその場に入ってきた人影を三つ確認した。
「サコ!ユコ!トモエ!」
三人の姿を確認するや否や風ような動きでサコに近づき、右腕で彼女を抱く。
「うわわ!ゆ、ユウ!」
驚くサコ。
同時に、右手でアリスを肩から降ろして上空へと投げ、左腕でそのままユコを抱く。
「先生!」
投げられたアリスは磁石にでも引かれるかようにぴったりとトモエの肩へとパイルダーオン!
「まあ、アリスさん。えらい派手な登場やね」
今ここにユウ達、五人が揃った。
その景色を見て、アリスは歓喜の声をあげる。
「ユウの声、届いたの!みんな、おかえりなさい!」
アリスはトモエの肩の上で明るく笑っていた。
ユウの左腕の中で、サコは走って荒くなった呼吸を整えつつ笑顔を振り撒く。
「やっと、あえたーーー!!」
「サコ!サコぉぉ!!」
ユコがサコの手を取り、握り締めて喜びの声をあげる。
「ハハハハハハッ♪」
その上からユウが二人まとめて抱き締める。
「お、おおユウ!あ、あんまりだきつくなよー!」
「ちょっと先生!少し苦しいよ~!」
「うるせぇ♪黙って抱き締められてろ!俺に生きてるって感じさせろぉ!クンカクンカスーハースーハー……ふぅ」
「ちょ、ちょっとユウ!においをかぐなよ!」
「く、くすぐったいよ~」
「ぐへへへ♪よいではないかよいでッッがッ!」
「センセ?あんまおいたはあかんよ?」
ユウの暴走はトモエが放った一撃により静まった。
「いたた……そんな強く叩かなくても良かったでしょうに」
「そうやろか?端から見たら、変質者と捕まった少女達って感じやったよ?」
「マジか!それほどでもなかった気がするが……あ、なるほどね。大丈夫!えこひいきは趣味じゃねぇよ。トモエもしてやるから、安心しろ!」
ユウは何を感じたのか、抱き締めていた二人を離し、両手を広げてトモエに飛び掛かった。
「ちょっとセンセ!?」
「あり?」
しかし、簡単にかわされてユウの両腕は空を切る。
「なんで避ける!?」
「いきなり飛びかかってきたらそうなるよ!」
「感動の再会だろ!ここは、笑顔で抱き合い喜びを分かち合うべきそうすべき!」
「センセなんかおかしいよ!?」
「そうか、な?」
ユウは首を傾げて、ユコとサコに向く。
「うん。たしかにユウがへんだ」
「先生、変なものでも食べたの?」
本気で心配する二人。
「大丈夫なの。病気でもなんでない……ただ、うれしさのあまり、歯止めが効かなくなってるだけのユウなの……」
そんな二人に説明をするアリス。
「ハッハッ、確かにあれだな。子どもの頃のように頭と体が軽い。ま、取り敢えず……三人ともお疲れ様」
ユウはここまでに来るのに苦労したであろう、三人に労いの言葉をかける。
「ふふふ、そやね。なにより、みんな無事で良かったわぁ……」
トモエが笑う。
なんとなく、この場所一帯に安心できる空気に包まれたのを感じる。
「ユコ!トモエ!」
そんな中、サコが大きな声を上げた。
「あ、あのさ……その……」
恥ずかしさからか、その先の言葉を躊躇しているようだ。しかし、意を決したのかしっかりと二人を見詰めて言葉を紡いだ。
「ッ!お、おこったりしてごめんな!ひとりで、ずーっとかんがえててよーやくわかったんだ……ユコとトモエはよわくなったサコをまもるためにあそこにのこってくれたんだよな?」
サコの問いに、ユコはちゃんと目を見て答えた。
「……うん。だけど、言ったらきっとサコは許してくれないと思って……」
「……うちもそれをわかっててユコさんの残ったんよ。苦しめてごめんな、サコさん……」
「ううん!もういーんだ!ほんのちょびっとだけすれちがっただけなんだってわかってるからな!」
サコはそう言って得意気に笑う。
「成長だね~」
ユウはそんな感想を呟いて笑った。
心の中で精一杯の祝福の拍手を鳴らして。
ユウはもう少しこの感じを堪能したかったが、気持ちを切り替える。
「みんな、それじゃそろそろほかの三人の所にいかないかい?」
「三人の所って……先生、居場所わかってるみたいな言い方だね」
「わかってるんだな、これが」
「おおー!すごいななんでわかるんだ!?」
「ふふん、それはな、これよ」
ユウは得意気に自分の鼻をつつく。
「鼻で………どうするの?」
「俺には感じる。近くにあいつらの臭いが留まっていると!」
「うわぁ……センセ、本当に人が変わったみたいやね。いろんな意味で」
「まあね。ま、俺にもいろいろあったのよ。さ、無駄話もそのへんで終わって、着いてこい!」
ユウ達は臭いを頼りに残りのメンバーの元に急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ユウ達が集まった場所から少し離れた場所にて、彼らとは別で少女三人が再会を果たしていた。
「あッ!ランとシン!」
「キサラギ!」
「無事だったか!」
三人は互いに駆け寄って、互いの無事と再会を喜ぶ。
「やっと会えたわ!もう、探すの大変だったんだからね!」
「そりゃこっちのセリフよ」
「そうだキサラギ。お前、オヤジ……や他の奴に会ってないか?」
「まだだけど。どうかしたの?」
「いや、別にたいしたことじゃねぇよ」
「ちょっとね」
「?」
ランとシンの心意がわからないキサラギであったが、やっとのことで再会できたこの瞬間を素直に喜んだ。
もう無理かもと思ったこともあり、その心情は計り知れない。
そんな風にしみじみとしていると、突然声が聞こえた。
聞き覚えのある、大きな声だ。
「キサラギ!ラン!シン!お前ら無事かぁぁああああ!!」
三人は声がした方を向く。そのタイミングより少し早めにユウがものすごいスピードで三人の前に滑り込んできた。肩にはアリスを乗せて、両腕でユコを抱えていた。
「みんな!怪我とかない?ユコが治してあげるよ!」
「見たところ、大丈夫そうなの……」
ユコとアリスは三人の状態を見て安堵する。
キサラギ達がユウ達の突然の登場で驚いていると、ユウ達の後を追うようにサコとトモエが走ってきた。
「お!みんなぶじそうだ!」
「センセ、もう少し待ってほしいわぁ……。うち、あんま走るの得意やないんよ?」
「悪い悪い。でも、これが一番早かったんだよ。二人ともありがと。今は休んでてくれ」
息を切らしている二人に労いの言葉をかけるユウ。
遂に、彼女達は全員で集まることが叶った。
ユウ達の登場で驚き、固まっていたキサラギが我に帰り、話始める。
「あんたたち……ふ、ふん。なーんだ!仲良くやってんじゃん。ユウの声が聞こえた気がして来てみたけど……心配して損しちゃった」
「なに!?俺の心配をしてくれたのか!優しいなキサラギは。では感謝の気持ちを込めてハグをしよう!」
「ち、違うわよ!みんなの!みんなの心配をしてたの!」
「え?心配……してくれたの……?貴女が……?」
キサラギの言葉が信じられないといった風に驚くシン。
「……べっつに!あんただけじゃないから」
あくまでツンツンした態度をとるキサラギ。
そんなキサラギの様子を見ていたユウが彼女のポケットに何かを入れているのに気付く。
「ん?キサラギ、お前なんか隠してるだろ」
「ッッ!!いや、これは……その……く、薬よ。しもやけに効きそうなやつ。落ちてたのよ」
「しもやけ?」
なんでしもやけなのかわからない。そんな感想を持ったユウはキサラギを見つめる。いや、ユウだけではない。他のみんなもを同じような視線を送る。
「・・・」
ただ一人。シンを除いては。
そんなシンの様子を目ざとく感じ取ったランが、なんとなくシンの指を見てみると、彼女の手の状態に気が付いた。
「お前、しもやけしてんじゃねぇか!しかもこんなに赤く腫らして!何したんだよ!」
「……ちょっと探し物しててね」
「鍵でしょ」
「え?」
「最初の門の鍵を探してくれてた時なんでしょ?私達を助けるために頑張ってれたのよね?」
「…………」
なにも言い返さないシン。
確かにあの鍵探しの時、一番働いていたのはシンだったな。とユウは思い出していた。
「そうか……そうだったんだ」
その話を聞いたランは笑顔で納得した表情を浮かべる。
「……別に。それぐらいは普通でしょ。仲間、なんだから」
「ふふっ、まあね!」
ランとシンとキサラギの三人が互いに笑い合う。
とても和やかな雰囲気だ。
「本当にツンデレって面倒臭いっすね(ボソリ)」
「仕方ないの……ツレデレーズだから(ボソリ)」
「さっすっがッッ(笑いを堪える)」
「そこ!さっきからなに喋ってんのよ!」
「いえ、なんでもありません」
「なの」
小声で話すユウとアリス。それに気づいたのかキサラギが睨みを効かす。
「まあまあ、そろそろこのへんで全員集合、仲直りってことで!」
これ以上話が拗れないようにするためか、ランが大きな声でそう提案する。
「賛成なの!」
「サコもだいさんせー!!ユコもだよな!」
「うん!もちろん!!」
「そんなに長い間離れてたわけじゃないけど」
「ほんと長く感じちゃった」
「やっぱ七人揃わねーとな!」
「うふふふふ……そうやねえ!」
「七人って、俺は入ってねぇですかぁ?」
「そうだ、オヤジ。お前、大声でアタシとシンにセクハラっぽい言葉叫んだだろ!!」
「なぁんのことかな?」
ニヤニヤと笑って誤魔化すユウ。
こんなやり取りが久しぶりで懐かしく、みんながまた集まれたと言う事実が再認識できた少女達は笑い合う。
最初の頃よりもずっと綺麗に、わだかまりのないキラキラと輝いた笑顔だ。
今正に、少女達の絆が堅く結ばれたのを感じた。
「でもさ、一体なんでアタシ達、こんなことになったんだ?」
突然、そんなことを言い出すラン。その質問にユウが答える。
「それについては大体予想がついている。だが、それを話す前に俺達がすれ違った時のことを思いだして整理しよう」
「アリス達の方は……最初、鍵を探し回ってたの……」
「でも、貴女達の姿はなかったのよね」
アリスとシンが言う。
「アタシらの方は、何故かしらないけど門が開いたから、オヤジ達を探そうと思ってな」
「一応、入れ違いは不味いと思って書き置きを残してたんだけど」
ランとキサラギがそう言う。
「書き置き?そんなのどこにもなかったわよ」
「え?確かに書いたわよ?」
「やっぱりな。これではっきりしたな」
「センセ?なにがわかったの?」
「思い出せ、大体その辺から、て言うか最初からおかしな現象が起きてただろ?」
「……?」
「雪だよ、雪。あの雪が俺達の心境に反応を示すかのように強くなったりしてたのを感じてたか?」
「確かに……雪が弱くなったらクリミナルが消えたよ」
「つまり……俺達は幻影を見せられてたんだよ。集団催眠みたいなもんだ。あの雪はその為の仕掛け。そして……」
ユウはゆっくりと後ろを振り向いて言葉を発した。
「その幻影を見せていた黒幕がいる。そうなんだろ?」
その言葉に誰も答えない。それでも彼は話続ける。
「こそこそ見えない所で眺めて、俺達がバラバラになっていく様を楽しんでたんだろ?終いには俺を殺そうとしたな。確かにあん時の俺は、あと一押しで道を踏み外すところだったが、あれはずさん過ぎなんだよ。直接声をかけるなんて悪手もいいところだぜ?自分の存在をしせることになるだからなぁ!!」
ユウの怒声に対して、静寂が辺りを包む。
少女達はユウが向いている方を見続けているが、何かが出てくる様子など、どこにもなかった。
一同はまだ見ぬ敵より、ユウの頭が心配になってきたと感じ始めたその時、
「愚かなことよのぉ……」
ただ一言。何者かの呟きを聞いた。
ユウが新なるユウになり始めました