「……ぁ…………」
いつまでもここにいたって仕方ない。先に……。そうだ、先に向かわないと。俺は前に進まなきゃならないんだ。
まずはこの門扉を開けなきゃならない。
俺一人じゃ課題をこなすなんて無理……ん?
『1opをこの場に置き捨てよ。さすれば扉は開かれん』
なんだこれは。今までの課題より全然簡単じゃないか。
こんなので本当に……開いた……。
目の前に道ができた。
「……行くか」
足が重い。ここを通るのを怖がっているのか?
後ろを振り向いてみる。誰もいない。
門を潜るとやはり扉は閉まった。
これじゃ、もう戻れないか。
「…………」
ツラい。
苦しい。
俺は……なんのためにこの道を歩いているんだろう……。
「……………………」
道は長い。
雪は降る。
寒い。
歩こう。歩こう。
先に。先に。
・
・・
・・・
・・・どんだけ歩いたかな。
道はまだ続く。ゴールはあるのか?
雪は更に勢いを増す。顔が痛い。
すごく寒い。手足の感覚が無くなっていく。
辛い。辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛い辛いつらいつらい辛いつらいツラい辛いツラいツラいツラいツラいツラいツラい、あああああああああああああああああああああああ!!!
『なら何故進む?』
……え?
『やめたいのだろう?終わりたいのだろう?』
…………
『さすれば、全てから解放され自由だ。なにも考えなくていい』
………………あッ。
遂に階段を見つけた。
これを上がれば先に進める。
『もうこんなもに固執する必要もないだろう?後ろを向くがいい』
……え?
クリミナルが出てきた。
『そいつに殺されろ。そうすればすぐに楽になる』
…………
『それとも階段を上るか?ツラくツラく苦しい孤独の、絶望の場所に自ら苦しみに行くのか?』
…………
俺の足は動かない。
……俺は死んで楽になりたいのか?なんか違くないか?
『おお、賢い賢い。すぐ楽にしてやる』
クリミナルが近付いてくる。
来るな。来るな。俺は、死ぬわけにはいかない。
ナンデ?
なんでって死にたくないから、かな?
ジャア、階段上ル?
それは……ダメだ。できない。
ナンデ?
なんでだろう。ここを上るくらいなら死んだほうがましって気がする。
ジャア、理由。キミガ死ニタクナイ、上リタクナイ。ソノ理由。
……ここで死んで何になる?階段を一人で上って何をする?連れてこなきゃ……!ここに引っ張って来なきゃならない奴らがいる!
それが理由かい?
ああ!今度は間違えない。俺が選ぶ道は『死』でも『階段』でもない。『戻る』んだ。
良かった。それでこそ少年だ。
ッ!そうやって俺を呼ぶのは……まさか先生ですか?
「…………」
俺の問いに答える者はいない。
なんだろうか。今、とっても気分がいい。
やらなきゃな。最後まで責任は果たす大人になってやる。何時までも変わらないままはいけませんよね?先生。
「あいつらを……地獄に落とさせてたまるかってんだ」
俺は大きく足を前に出す。もちろん、俺が進んできた道を戻る方向に。
そうだ、クリミナルいるんだった。
「邪魔なんだよ!」
俺の攻撃はクリミナルには通じない。なら!
俺は走ってすり抜けようと試みる。が、普通に動きを読まれて突進される。
「ふんぬッ!!」
だが、吹き飛ばされる訳にはいかない。
俺はクリミナルを受け止めて、そのまま後ろに投げる。
クリミナルは地面へと倒れた。
「ざまぁみやがれってんだ!」
俺は全力で走る。手遅れになってはならない。
──────
「おいおい、こりゃどうなってやがるんだ?」
さっき閉まったはずの扉が開いていた。
理由はわからないがこれは好都合!
俺は最後にみんなと別れた場所に戻って来た。
確か……あいつらが行っちゃったのって、あっちだったな。
走る。足は軽い。息も上がらない。
今の俺ならいつまでもどこまでも走っていける。そんな感じがする。
でも、向かう場所はあいつら。それ以外は眼中にない!
「みんな、どこ行ったんだ……!」
走り回っているが人影の一つも見つからない。
「キサラギ!!」
誰か気付け!
「ラン!!」
返事はない。
「サコ!!」
頼む!
「ユコ!!」
クソッ!無事でいてくれよ!
「シン!!」
なんで誰もいない。
「トモエ!!」
まるで、雪が俺の声をかき消すみたいだ。
頼む!誰か返事をしてくれ!
「アリス!!……ッ!」
今、返事が聞こえたか?幻聴?いや、幻聴であってたまるか!声のした方はあっちからか?考えても仕方ねぇ、行くぞ!
走って行くとどんどんとアリスの声を感じるようになった。
絶対にいる。そう予感したその瞬間。タイミングを狙ったいたかのように彼女を見つけた。
「あ、アリス……」
俺は今にも泣きそうなのを堪えて彼女に近づく。
「どうしたんだ?大丈夫か?」
彼女はうずくまり、熱心に何かを呟いている。
「アリスは大丈夫なの……ちゃんと……みんなが帰ってくるようにおまじないしていたの……」
そう言って、アリスは両手を合わせて祈るように言葉を紡ぐ。
「雪……雪……やめ……
雪……雪……やめ……」
ああ、大丈夫だ。みんな、ちゃんと、無事だ。
だって、こんなにも思い合っているじゃないか。
誰も悪くない。ただ、ささいなすれ違いが重なっただけ。
ああ、心が晴れるようだ。
そう。俺の心に一点の曇りなどない!
そう思った時、雪は止み、厚い雲に覆われていた空が明るくなった。
今ならきっと、声が届く。
俺はありったけの力を振り絞り、みんなの名前を地獄の隅まで声が届くように叫んだ。
序でに一言おまけしておく。
──────────
ユコとトモエはクリミナルと戦闘をしていた。場所は二人が本隊と別れた門の前。
「はぁ……はぁ……」
ユコは武器を構えてクリミナルに威嚇するも、その肩は荒い呼吸に合わせて上下しており、誰もが見ても疲労困憊なのは明らかだった。
そんなユコにクリミナルが襲いかからないのは、彼女の隣で戦意を燃やし続けるトモエがいるからだ。しかし、彼女もまた、すでに疲労が限界に来ている。
「このクリミナル……倒しても倒しても復活してくるなんて」
忌々しそうにぼやくトモエ。
このクリミナルはトモエ達が倒す度に、どこからともなく現れて襲ってきていた。
何度も連戦を続けるうちに体力を着実に削られていたのだ。
「だけど……サコたちのためにも、ここでくい止めなきゃ!」
「うん……そやね!」
それでも二人は武器を握る力を緩めない。それどころか更に力を入れて戦う姿勢を見せる。
そんな彼女達の覚悟が奇跡を呼んだのかどこからともなく声が聞こえた。
『ユコぉぉおおお!!飴やるから頑張れよ!!』
『トモエぇぇえええ!!胸が重くて辛いかもしれないが頑張れ!』
「え?先生?」
「どないしたん?ユコさん」
「今、先生の声が聞こえたような……」
「え?実はうちも……。にしてもセンセ、頭がおかしくなったんやろか?」
二人は、小さくても確かに聞こえたユウの声を不思議に思ってた。その時である。彼女達に降り注いでいた雪が止んだのだ。
「雪が……やんだ……」
「あっ!クリミナルが!」
不思議な出来事は声や雪だけでは終わらなかった。
彼女達の目の前にいたクリミナルが突然消えていったのだ。更に、さっきまで固く閉ざされていた門扉が、最初から鍵などなかったかのようにゆっくりと開いた。
「扉が開いたよ!」
「急いでみんなのところに戻ろ!」
彼女達は迷わず走り出した。この先の道などわかるはずもないが、彼女達に響いた声が彼女達の足を目的の場所まで引っ張っていく。
──────
とある場所。
サコは一人、壁に背中を預け、膝を抱えて座り込んでいた。
「ユコ……さむがってないかな……?クリミナルにおそわれていたら……」
一人になっても考えることはユコの心配。しかし、不安事ばかりが頭を過るため、押し潰されそうな感覚と共に恐怖が少しずつ襲ってくる。
「ユコぉ……ユウぅ……」
サコは自分を守るように小さく踞ってしまう。その時、
『サコぉぉおおお!!!』
ユウの声が響く。
「ッ!?ユウ!そばにいるのか!?」
返事はない。ただ、一方的な言葉が飛んでくる。
『一人だろうからって泣いてんじゃねぇぞ!』
「な、ないてなんかないぞ!」
そう言ってさっきまでの情けない顔を誤魔化すように自分の頬を叩いて気合いを入れるサコ。
「・・・」
それ以降、ユウの声は聞こえてこない。が、サコの心にあった不安はどこかに消えていた。
「……ユウはどっかでサコをさがしてるんだ。こんなところでじっとしてても、どーにもならないもんな!サコのほうからいってやるぞ!」
そう言って走り出すサコ。
この時、サコは気付いていなかったが、吹雪いていた雪が止み、失っていた力が元に戻っていた。
─────────
更にとある場所。
「シン、下がってろ!アタシがなんとかするから!」
「大丈夫よ、このくらいっ!」
ランとシンがクリミナルと戦闘を行っていた。
しかし、二人はじりじりと壁際にへと追い込まれており、状況は不利であった。
ランはなんとかしてシンだけでも逃がそうとしていたが、シンはそんなことゴメンとばかりに動こうとしない。
「大丈夫じゃねーっつの!逃げろって!」
二人がクリミナルを前に言い争っていると、
『シン!!ラン!!生きてるよな!?生きてなかったらケツを揉むぞ!序でに胸も揉むぞ!エロ同人みたいに!!』
と、相当アホな声が響いた。
「「ーーーーーッッ!!?あのエロオヤジ(エロ教官)!!とんでもないこと叫んでんじゃねぇよ!!」」
二人は顔を真っ赤にして激昂の声を上げる。
「おいシン!あいつをぶん殴りに行くぞ!ついてこれるか!」
「上等!不思議と力がみなぎってんのよ今!」
ランとシンの息が合い、さっきまで苦戦していたクリミナルを軽く一蹴。そして、ユウに全力の一撃を放つために力を溜めるのであった。
─────────
「ふん……なによ……」
キサラギは一人で目的もなくうろうろと歩いていた。
戻るべきかどうか考えているのだが、どうにも決まらない。
そうして時間だけが過ぎていった。すると、
『キサラギぃぃいいい!!いい加減、返事ぐらいしろや!』
切れ気味のユウの声が聞こえた。
「え?ユウ?……もしかして、なんかあった?……戻らなきゃ」
キサラギはさっきまで悩んでいたのが嘘のように走り出した。もしかしたら、彼女に必要だったのは誰かの後押しだったのかもしれない。
────────
「はぁ……はぁ……」
一通り、好きに叫んだユウは息を整えて呼吸を整える。
そして……最後に目の前の少女の名前を呼んだ。
「アリス……ありがとう」
少女は小さくコクリとうなずくと、そばまで駆け寄ってきた。
「ユウの声……届いた……?」
「ああ、届いたはずさ」
俺はアリスの頭に手を置いて軽く撫でる。
「さぁ、行くぞ!みんなもとに!全員集まれば、反撃の狼煙が上がり、流れはこっちのもんだ!」
俺はアリスの手を引いて歩き出す。
この小さな手と、再び繋ぐ六人の手を絶対に離さないと心に刻み込んで。
雪はもう止んだ。
さあ、反撃の狼煙をあげろ!