俺、トモエ、シン、サコ、ユコは他の三人を探そうと、次の階への階段を上っていた。
「ほんまにみんなどこ行ったんやろ?」
「……置いてかれちゃったのかな」
「合流できたら文句言ってやるわ」
「お前ら落ち着け。もうすぐ次の階だ」
次の階へ到着する。
周りを見渡すが、三人はいない。代わりに、前と代わり映えしない銀世界が広がっているだけ。
「ほんとうに、ここにさんにんがいるんだよな!」
「ええ、そのはずよ」
「なら、さっさと行こうか」
俺達は雪の積もった道を歩き出す。
道中の会話が少なくなっている。みんな、心の中に拭えない不安があるんだろう。
疑心が疑心を大きくして、いつ爆発してもおかしくない。
願わくは、これ以上悪いことが起きないように。俺にはそう願うしかできない。
暫く歩いていると、あるものを見つけた。
三人……ではなく、門扉だ。
しかも、門扉には文字が書かれていた。
俺は躊躇いながらも文字を読み始める。
『四人のうち、一人の力を我に捧げよ。さすれば扉は開かれん』
「力を捧げるって……どうなっちゃうの?」
「さあ……腕力が弱くなるだけなら、まだ良いけど……」
「生命力って意味だとヤバイな……」
門扉のお題に俺達は自然と嫌な方向に考えてしまう。
「……前の扉と同じように元に戻す方法がきっとこの向こうにあるはずよ」
「たしかに、鍵探しがそうだったな。じゃあ、なんとかなるか」
「よし!またじゃんけんだな。うらみっこなしだぞ!」
「そうね、そうしましょ」
四人は円を作り、それぞれ中心を向く。
「いくわよ?じゃーんけーん……」
シンの掛け声に合わせて四人の腕は動きそして……
「ユコ……!!ユコがまけた……!!」
「さ……サコ……ユコどうしよう……」
じゃんけんの結果、負けたのはユコだ。
ユコは顔を真っ青にして狼狽する。まるで世界が終わるような勢いだ。
それを見かねたサコがとんでもないことを口走る。
「ユコ、だいじょーぶだ!!サコがかわりになってやる!」
「なに言ってんだよサコ!公平だからじゃんけんしたんだろ!」
「べつにかわりをひきうけちゃダメなんていってなかったろ!ユウはだまってろよ!」
サコは俺に怒鳴りちらし、勝手に扉のほうに行ってしまった。
「おいとびら!!きーてるか!!サコのちからをおまえにやる!サコがよわくなるんだぞ!」
次の瞬間、サコの体を青い光が包みこんだ。かと思ったら、すぐに光は発散した。
光から解放されたサコは膝をつく。同時に扉が開く。
「さ、サコ!!しっかりして!」
倒れたサコにいち早くユコが近づく。
「ん……んん、さ……サコは……平気だぞ!」
段々と調子が戻っていったサコはそう答える。
「見たところ、変化はないようやけど……」
「ってことは、おそらく教官並の戦闘能力に下がったとかそのあたりでしょうね」
「ごめんね。戦えなくて」
「サコ、無理しちゃダメよ」
「おう、わかってるってば!」
「ほな……先へ進もか……」
サコが体をはって開けてくれた扉を潜ることにする。
「サコ、辛かったら俺がおぶってやるぞ?」
「しんぱいいらない!サコはだいじょーぶだ!」
サコはさっさと先に行ってしまった。
後ろから見ていて無理しているのは明らかなのだが、聞いちゃくれないだろう。
俺はできるだけ、サコから目を離さないように心がけようと決めた。
暫く進んでいると、突然前方で煙が上がり、中からクリミナルが現れた。
前に沼ノ試練でみた木型のクリミナルに似ているが、色が水色で別種だとわかる。
「で、でたよ!!」
「先に進むには殺るしかなさそうね」
「よーし、いくぞ!」
「あほか。お前は極力前に出るな」
「っ!なんでだよ!」
「さっき力を吸いとられたばかりだろ!」
「こんぐらいへいきだ!」
サコは聞く耳を持ってくれない。
「ああもう!サコ、絶対に無理はすんなよ!」
不安が残るまま戦闘が開始する。
先に動いたのは敵『氷結レディ』。
枝のような手をしならせ、シンに振るう。
「ダークショット」
「了解!」
シンは魔力の玉を突っ込んでくる氷結レディに放つ。
攻撃は命中。敵は後方に吹き飛ぶ。
「今だよ!」
ユコは倒れている敵に【ガードダウン】を発動。
防御力を下げ、次の攻撃に繋ぐ。
敵が起き上がる前に、トモエとサコが追撃に向かう。
「手間かけさせんといて」
トモエが【松葉崩し】を放ち、敵の片腕を切り飛ばす。
次に、サコが【ほのおパンチ】を繰り出す。
「え?」
しかし、サコの攻撃は不発に終った。
サコの拳が敵の顔面をとらえたはずが、衝撃音などなく、敵も微動だにしない。
いや、これは不発じゃない。
「サコ!下がれ!」
必死の叫びも一歩遅れのようで、氷結レディの攻撃が早かった。
鞭を打つような往復ビンタがサコを襲う。
サコは後方に吹き飛び、倒れてしまう。その体は今まで見たことのないダメージを負っていた。
サコの戦闘能力は想像以上に落ちていた事実に唇を噛むもすぐに立ち直りサコの治療に入る。
「シン!なんとか三人だけで対処してくれ!できるか?」
「余裕よ!」
俺は戦闘の指揮をシンに任せた。
戦闘終了。
氷結レディは煙となって消滅した。
「か……勝った……」
「なんとか、ね……」
三人だけでは辛かったようで、肩で息をしている。
その様子を見ていたサコが申し訳なさそうに話す。
「ご、ごめんな……サコがもうちょっとつよかったら……」
「サコさん、それは言いっこなしやろ?」
「そうよ。誰かが犠牲にならなきゃ、あの門は通れなかったんだから……」
「う……うん……。サコ、がんばってはやくもとどおりになる!」
「うん!弱気なサコはサコっぽくないよ。頑張って、ユコより強くなってね!」
「おう!!まかせとけーー!!」
みんなから応援され、元気を取り戻していくサコ。
でも、俺は彼女の心が晴れていないのに気づいている。
たぶん、他の三人もわかってはいるだろう。
「じぁあ、はやく進もうぜ」
俺はなんとも言えない気持ちに支配され、先に進むことを提案する。
四人はそれを承諾し、再び前に歩き出す。
依然、雪は降り続く。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ある日の探索中、地獄にはにつかわしくないピンクの日記帳が落ちていた。
不思議に思い、手に取ってみる。
中々の厚さがある。最近の若者なら、日記なんてPCで書くだろうに。珍しいな。
段々と興味が湧いていき、遂に中身を見てみようと日記を開けようとしたその時。
「おいユウ!ひとのにっきをかってよんじゃダメなんだぞ!」
後ろからサコの叱責が飛んできて、思わず驚いてしまう。
ごめん、と謝るとサコは俺に寄ってきて、日記をひったくりどこかに投げ飛ばした。
「ひとのにっきをのぞくのはぜーーったいダメなんだからな!」
他人の日記を勝手に投げるのもどうかと思うけど。なんて言えるはずなく、素直にはいと言う。
まさかサコに叱られる日が来ようとは……。
謝る俺の姿に満足したのか、サコは「わかればいいんだ」と言ったような顔でどこかに行ってしまった。
俺はちらりと、日記が飛んでいいったほうを見て、すぐにサコの後を追った。
ららら~♪