「地獄からの使者である仲間達の力を借りて、テメーらに死刑を執行することで俺達の仇討ちは完了する!」
「地獄からの使者って、ここ自体が地獄の一部だろ!」
「シャーーーーーラップ!!」
バーン・レイジーが吠えると、奴の両爪が紫色に染まる。
「ハンドの怨みだぁ!」
ハンドの技である『怨念の爪』をバーン・レイジーは繰り出した。
そのことに気がついたシンが指示を飛ばす。
「あれを食らったらダメ!全力で避けて!」
バーン・レイジーは一番近くにいたランに狙いを定め、爪を振り下ろす。
しかし、ランは後に退くことなく正面から突っ込んでいった。
「ちょッなに考えてのよ!?」
思わず声をあげて驚くシン。
そんな彼女のリアクションなどお構い無しに事は進む。
爪が当たる直前、ランはバックステップをしてかわす。目の前で地面に突き刺さる腕へと足を掛けて、バーン・レイジーの顔目掛けてジャンプ。そのまま剣に電撃を纏わせて【エレキアタック】を放つ。
「くらえぇええ!」
「あめぇよッ!」
バーン・レイジーは口から炎を吐き、ランを撃ち落とす。
そして、落下するランに拳で追撃し、地面に叩き付ける。
「よくもランさんをッ!」
ボロボロにされたランの姿を見せつけられたトモエは怒りのあまり、不用心に突っ込んでいった。
トモエが攻撃的な姿勢に煽られたのか、サコも続いて攻撃の体勢をとる。
二人までなに血迷ってんのよ!?
シンは二人の行動に混乱した。まさか、感情的になって突っ込んでいくとは思っていなかったからだ。
そのまま、シンは頭を抱えて策を考えるも何も思い付かず動けない。
この瞬間、シンの指揮するパーティーは崩壊した。
トモエは刀を引き抜き、力任せに振るう。同時に、サコが【ほのおパンチ】を放つ。
「あめぇ、あめぇんだよ!子猫ちゃん達よぉおお!」
バーン・レイジーは二人の攻撃を避けるでもなく、正面から受け止めた。
ダメージはあるようだが、全く痛がっている気配がない。
「こいつは、ビーストの分だぁあ!」
バーン・レイジーが両手を振り上げると、腕の筋肉が締まり固くなっていき、凶悪なものへ変貌した。
その両腕を自身に肉薄している二人に向かって、上から振り落とす。
強烈な一撃で地面に叩き付けられた二人は地に伏せたまま動かなくなった。
「子猫ちゃん達は弱くなった」
バーン・レイジーが少女らを見下ろして呟くように言葉を発する。
「俺様に勝るほどじゃねーが、仲間達を倒す実力は確かにあった。ただ単純な戦いなら俺様が負けていたかもしれねぇな。だが!」
大きな声をあげる。
「テメーらには俺様をゼッテー倒すって気迫がよえぇ!そこがテメーらの敗因なのさ!ハハハハッ!」
高らかに笑うバーン・レイジーを見上げ、絶望した表情て膝をつくシン。
負けを認めた敗北者の顔をしている。
悔しくて、涙が出そうになる。
シンにはバーン・レイジーの高笑いを聞きながら、悔しがるしか出来なかった……しかし、
「なにそっちだけで盛り上ってんだよバカちん共がぁああ!!」
そんなことはないとばかりに大きな声をあげる男、ユウはランのものである剣を振りかぶって投げた。
「あだっ!!」
剣は見事バーン・レイジーの頭に命中。しかし、ユウの攻撃なのでダメージは入らない。
そんなこと、相手が痛がればユウはどうでもよかった。
「この野郎!……思いっきりテメーの存在を忘れてたがぁ、今さらなんなんだ?そんなにさっさと殺してくれってか?上等だぁあ!最初の時もテメーに止めを刺せなかったからなぁ!」
バーン・レイジーの言葉にユウは頭痛を訴えるジェスチャーをする。
それが癪に感じるバーン・レイジー。
「すましてんじゃねぇぞ!」
怒りに燃ええ、爪を立ててユウのもとへ向かうバーン・レイジー。
「おいおい。そんなことして大丈夫なのかよ?」
「テメーをぶっ殺すんだ!なんの問題があるってんだよ!」
「いや、周りに目がいってないな~って思って」
ユウがニヤリと笑いながら言う。
バーン・レイジーがハッとして振り返る。
「みんな寝てる場合じゃねーぞ!!」
ボロボロになるまで痛めつけられていたはずのランが緑色の光を発光させている盾を構えて立っていた。
彼女はダメージなど残ってないような機敏な動きで光る盾を天に掲げて吼える。
盾から光が広がり、倒れ傷ついているトモエやサコを優しく包み込むと、夢かうつつかみるみるうちに傷が消えていった。
「お、おおー!すごいすごい!もうなんともないぞ!」
「うち、やられっぱなしは好きやないんよ?」
動けなくなるほどのダメージを受けていた二人は戦えるまでに回復して、立ち上がる。
「バーン・レイジー。お前さん、散々俺の生徒に気持ちが弱いとか説教してたが、俺から言わせればお前は周りを見る目がないね。全くって言っていいほど」
「んだとッ!?」
「そうでしょうが!だから、ランを治療してた俺の存在に気付けなかったろ?その後も、調子にのって俺に集中してるから、ああやって回復されて。話にならないね」
言葉の弾丸を浴びせられ、怒りに体を震わせているバーン・レイジー。その迫力は凶悪な犯罪者も裸足で逃げ出してしまうほどに恐ろしい。
それでも、ユウはふてぶてしく前に立つ。
「ついでに言ってやる!俺達はなんとしてでも生き返ってやるんだって覚悟の決まってる連中だ!テメーを倒すって気合いが弱い奴なんざ一人としていねぇんだよ、バァーカ!」
「バカだと!?このバーン・レイジーがバカだと!!?」
「何回だって言ってやる!バカあほドジ間抜け屑ゴミ(自主規制)ファッ◯ュー!」
子供のように暴言を並べるユウ。これが大人のやることなのだから、端から見ればいたたまれないだろう。
しかし、この程度でカンカンになるのが今のバーン・レイジーである。
「ぐがぁあああああ!!ぶっ殺してやる!!」
バーン・レイジーは目を血走らせ、本能のまま動く獣のような獰猛さを剥き出しにしてユウに襲い掛かった。
「あとお前さん。精神面脆すぎだろ。これぐらいの挑発に乗るかい?」
ユウは心底呆れた顔でバックステップ。少しでも離れようとする。そして、
「アリス!ヤっちゃいなよ!」
「わかったの……」
バーン・レイジーの側面に忍び寄っていたアリス。すでに【アゲール】で彼女の魔法攻撃力は格段に上がっていた。
彼女は本を広げて攻撃をの準備をしており、ユウの合図で【ヒエール】を発動する。
「ひんやりなの……!」
氷の塊が幾つも生まれ、バーン・レイジーに向かって次々と降り注いでいく。
「ぎゃああああああああ!!」
【ヒエール】を受けると大きな声をあげて苦しむ。
この階層の敵は氷の攻撃に弱いのでバーン・レイジーもそう言うことなんだろう。
苦しんでいるバーン・レイジーを尻目にシンに声をかける。
「おいシン!さっさと立てや!」
「きょ、教官……?」
「なにいつまで情けねぇ顔してんだよ!らしくない!」
「わ、私は……」
「いつもみたいに偉そうにふんぞり返ってりゃいいんだよ!そんなお前だから頼りにするんだ!もし、どうしようもなくなったら、今度は俺を頼れ!」
ユウはいつもみたいな軽い笑みを浮かべる。
「俺はお前の、お前らの先生だからな」
「ッ……」
その時、バーン・レイジーがゆっくりと起き上がる。
「あー、頭冷えたわ。スゲー、クールだ。やってやるよ……全力で潰してやるよぉおお!」
【ボスの底力】が発動。
バーン・レイジーが纏っている炎は青色に変わり、ゆっくりと傷が癒えていく。
自然治癒力が上がり、全能力が上がる。これがバーン・レイジーの奥の手だ。
「おーい、シン。あれやるぞ、あれ。前に言ってたやつ」
「あれって……『ダブル』?」
「そうそう。よろしくね」
「……わかった。まかせてちょうだい!」
シンは立ち上がる。いつもの自信に満ちた表情だ。ただ、目だけは何時もよりキリッとしていた。
「メンバーは?」
「シン、ラン、サコ、アリスで頼む」
ゆっくりとシンとユウは近付いていく。
「俺は、キサラギ、ユコ、トモエに指示をする」
シン考案のダブルとは、ユウとシンでパーティーを二つ作り、強敵を安全に且つ効率よく倒す作戦である。
元々、ユウ一人では七人全員の動きを見ながら指示を飛ばすのは困難な為、四人に絞って戦っていた。
それを解消するのがダブルである。
当初は、シンの力不足を理由に却下していた。しかし、今ならとユウは判断した。
「決着つけるぞ!」
『おうッ!』
「掛かってこいやぁあああ!」
両陣営のボルテージは最高潮に上がり、炎ノ試練一番の熱気が生まれる。
みんながみんな、気合いと興奮で頭が真っ白になりがらも無我夢中で自分が成すべきことをやっていた。
バーン・レイジーは【インビジの魂】を発動させ。火の玉のクリミナル『フレイムボブ』を召喚して一斉にユウ達に突撃させる。
先行していたランとトモエに指示を飛ばす。
ランに向かって二体のクリミナルが突撃する。盾で一匹受け止め、もう片方を縦にバッサリと切り捨てる。腕に力を込めて盾にくっついている方を地面に押し返す。
トモエは近付いてくる敵が間合いに入ってきた瞬間、目にもとまらぬ速さで抜刀し、瞬きする間に敵を真っ二つに切り裂く。
少人数での攻撃はまずいとクリミナル達は判断し、歩調を合わせて一斉に飛びかかる。
それを見て、ランが【サンダーボルト】を発動。剣から放たれた電撃がクリミナル達を次から次に感電させていく。
痺れて動けなくなったクリミナル達を今度はトモエが【千鳥】で一掃する。
目の前が広がり一気にバーン・レイジーに近寄る。
バーン・レイジーは残りのフレイムボブと共に攻撃する。
それを予想していたユウ達は後方にいるアリスに攻撃の準備をさせており、ベストなタイミングであるこの瞬間発動する。
アリスの【ミナヒエール】が発動すると、無数の氷塊が広範囲に降り注ぎ、辺り一帯を氷漬けにする。
それに巻き込まれたフレイムボブは全員消滅。しかし、バーン・レイジーは怯むことなく凶爪を向けて突っ込んでくる。
咆哮をあげながら、ランが一歩前に出る。正面から本気のバーン・レイジーと激突する気だ。そうなる前に、ユウがDEFブーストでランの防御力を上昇させ、ユコは【アタックダウン】を発動させ、バーン・レイジーの攻撃力を下げて、サポートする。
爪と盾が衝突し、衝撃音が響く。
バーン・レイジーの攻撃は止めることができた。しかし、ランが少しでも力を緩めたら吹き飛ばされてしまいそうな顔で必死に踏ん張っている。
ユウ達はランの頑張ってる内に二手に別れる。ランはユウが引っ掴んで横に思いっきり引っ張り救出する。同時に左右からアリス、ユコ、シンの連続魔法で攻撃。
バーン・レイジーは炎の壁を生み出し、防御に転じた。
防御。これを待っていた。
「今だァあああ!」
接近組も左右から捨て身攻撃。無理矢理にでも、炎の壁を突破するつもりだ。
バーン・レイジーが防御に転じたと言うことは、あのレベルの攻撃を食らうとヤバイと言うことだ。
そうとわかれば、奴を攻撃を絶対に受けてはいけない状況に追い込み、防御だけに集中させて攻撃に転じることができないように……さっきのランみたいにしてやる。
そうなればあとは、全力でぶつかるだけ。
炎の壁を破れずに攻撃をやめれば俺達の負け。
炎の壁をぶち破り、本体を引きずり出せば俺達の勝ち。
正に一か八か。確実にやれる算段なんてない。彼女らを信じやる。それだけだ。
『はぁあああああああ!!』
誰の声かもわからないくらいみんながみんな、喉が裂けんばかりの大声で咆哮をあげて、力を振り絞る。
生きるか死ぬかの状況でこそ、生物は最も美しくなり、最も強くなると誰かが言っていた。そうかもしれない。
キサラギ、ラン、アリス、サコ、ユコ、トモエ、シン。最初のなんともまあやる気のない姿は、今の彼女達にはない。
純粋に『生』をもぎ取る為に、目の前の壁を突破する。いくら血を流して自分の獲物を必ず敵の体に突き立てようとする。
そんな欲望に忠実な彼女達の姿は本当に美しい。
長かった。誰の武器だったのか今となっちゃわからないけど、誰かの武器が壁を突き抜けた。すると、炎の壁は綺麗に消え去った。
全員の攻撃が炎の中からバーン・レイジーに吸い込まれるように入っていく。
今だと、この瞬間から、怒涛の攻めが始まる。
最初の一撃でこうなることはわかっていた。
「ははぁ……や、られ……たぜ……」
最後にそんな言葉聞こえ、それ以外には何も聞こえなくなる。
静寂が俺の耳を支配する。
大きななにかが煙のように消え、それを取り囲んでいる少女達は完全に消え去るまで見守っていた。
全てが消え、遠くにある扉が開かれる。その奥に階段があるのが見える。
次の試練の解放。それは俺達の勝利を意味していた。
誰かが一人、歓喜の声をあげて俺に飛び込んで抱きついてくる。釣られて、他のみんなも一緒になって抱き合う。
俺の目の前にはさっきまで顔が嘘に思えるような花のように明るい笑顔を振り撒く少女達が……。
この時からだったと思う。暫くは気付かなかったけど、俺は彼女達を……
心底好きになった。
どうもDAMUDOです。
最後は好きな少女をメインに決めて読んでね。
壁ぶち抜いたり、最初に抱きついてきたり、ね。