バーン・レイジーを退けた後、俺は一人隅で負傷している足の手当てをした。
なんとな走れるまでになり、立ち上がって元の場所に向かう。
待たせていた彼女達の元に戻ると、みんな気合いの入った顔で、やる気を語っていた。
「あのヤロー、このままでかい面させてやるかよ!」
「勝ち逃げされるんはちょっと我慢できへんよねぇ……?」
「当ったり前!!この借りは利子つきできっちり返さなきゃ!ケイオス鯖No.1ギルマスの名が廃るってもんよ!!」
「サバ……?」
「ギルマス……?」
「……コホン……と、とにかく四天王の奴等をぶっ倒すのよ!」
「おう、そーだな!」
なんだか珍しく七人の息が合っている気がする。
やはり、目に見えて分かりやすい、同じ目標があると、自然にみんなの視線が重なるからだろう。と俺は思った。
「お前ら、おまたせ」
「あ、ユウ。もう大丈夫なの?」
「ああ、ちゃんと歩けるよ」
俺は見せ付けるようにして、地面を踏む。
「はぁ……もう二度とあんな無茶しないでよ」
「そうだぜオヤジ。戦いはアタシらに任せてりゃいいんだから」
「……おう。できるだけ気をつけるよ」
「ちゃんとしてよね?」
「・・・」
接し方が妙に優しい気がする。
まあ、気のせいだろ。んじゃ、みんなの気合いが消沈する前に出発しますか。
「さあ、出発だ!目指すは、打倒四天王!」
『おおーー!!』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
最初のフロアを探索しながら、四天王を探す我ら一行。
新しい階層になったことで、出てくるクリミナルの種類も一新された。
火を吹く蜥蜴《サラマンダー》。炎を纏う豚《ファイアホッグ》などなど、炎と力で攻めてくるクリミナルが多く出現し、俺達は苦戦を強いられた。……初めの内は。
「みんな……カチンコチン……!」
アリスの新スキル【ミナヒエール】
広範囲に氷魔法を放つ強力な技であり、ここのクリミナルはほとんどが氷の攻撃を苦手としているため効果は絶大。
一瞬にして多くの敵を撃破。アリス無双が続いた。
新技故に、連発できず、アリス無双は長く続かないと思われた。がしかし、ある程度の戦闘を切り抜けると、他のみんなも環境への慣れと経験で力を付けて、クリミナルを圧倒し始めていた。
「バリバリだぜぇ!」
ランの新スキル【サンダーボルト】
遂にランも魔法攻撃をし始めた。電撃を周りに放出する技で、威力はアリスの魔法攻撃ほどないものの、命中すると痺れて麻痺するおまけが、とても強力だった。
「援助よろしく!」
キサラギの新スキル【OPハント】
技名そのまま、攻撃しながらここでのお金、OPを盗む技である。別に戦況が大きく変わるわけではないが、後でモチベーションが上がる。
戦闘終了後、俺はキサラギと一緒に増えたOPを確認してニヤニヤ笑う。
「きあいでなおす!」
サコの新スキル【サコ・チャクラ】
どういう原理なのか分からないが、淡いオーラを纏い、自身の傷と体力を回復させる技。本当に気合でなんとかしてるのか?
発動後はいつもより調子の良い動きをする。
「全部直すよ!」
ユコの新スキル【キュア】
麻痺や毒、つまり状態異常の回復ができる技。相手も普通に戦うと勝てない、と感じたら毒やら麻痺やらを狙ってくるので、もしものときにありがたい。
唯一の活路を潰されたクリミナルが哀れでなりませぬ。
「見えへんよ?」
トモエの新スキル【居合い】
鞘に納まっている刀を抜刀し、一閃する技。トモエ曰く、運がいいと相手を即死させるらしい。……即死もなにも、基本一撃で敵を倒せるから関係ないんじゃないかな。
こんな感じに、みな確実に力をつけている。その異様な早さを実はシンの活躍もあった。
「幸運のロール!」
シンの新スキル【タロットEXP】
カードによる不思議な恩恵でいつもより、一回一回の戦闘の経験を無駄なく吸収できるようになる。
経験値ブーストというやつだ。
彼女達はしっかりと強くなっていった。個人としてもだが、チームとしてもだ。
やはり、バーン・レイジーと遭遇してから彼女達は強い仲間意識を持ち始めており、戦い方も互いに背中を任せているように見える。
協調性が芽生えたのはいい。けど……けど。
「ほい、いっちょ上がりだ♪」
「こっちも……片付いたの……」
「こらー!まてー!にがさないぞー!」
「ユコがすぐに治すから、みんな頑張ってね。ヒール!」
「あ、こっちにも敵さんがおったよ♪」
「よしよし、経験値稼ぐわよ!」
「お金とアイテムも置いてけー♪」
すごく楽しそうですね君達。
仲間と一緒に敵を殲滅していく度に仲が深まっていく彼女達が心配でなりません。乙女として。
彼女達もかなり強くなっているようで、前の階層みたく、雑魚クリミナルを圧倒。もはや、クリミナルが哀れに思えてくるようになった。
本当に女の子として、如何なものかね?
そう心配していると、ラン達が手を振って俺を呼ぶ。
「おーい!オヤジー!早く行こうぜ!」
彼女達はとてもいい笑顔をしていた。
……本人達が楽しんでるならいいか。そう思い、俺も心配事などなかったように返事をする。
「はいよ、すぐ行く」
俺は歩を速めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
探索しながらレベリング。
四天王を探すついでに目につく敵を全て倒しているので、道中、俺は安心である。クリミナルからすれば辻切り集団に襲われているだけだろうけど。
そんな感じで着実に歩を進めていると、ユコが何かを見付けて指を差す。
「あっ!!あのクリミナルっ!!」
そこにいたのは、厳つい顔に角を生やして、俺のなん回りもデカイ体つきをしている、黒スーツを着た人型のクリミナルだ。
「他のと違うねえ!!きっと四天王なんやろ!」
トモエの考えは当たりだろう。
俺達はすぐに奴に近付こうとした。その時、奴もこちらに気が付いた。すると、一目散に逃げ出した。
「お、おい!逃げたぞ!?」
「してんのーのくせににげるのか!!??ひきょーものー!」
「あんなガタイで逃げ出すのかよ。……いや、無理もないかもな」
「ユウ、なんか言った?」
「いえ、別に」
すぐに、俺達は奴を追いかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「よーやく見つけた!今度は逃がさないからね!」
「覚悟しなさいよー!」
少し進んだところで、奴は立っていた。
キサラギとシンが意気込んで近付こうとするが、すぐに奴は二人に気が付き、またもや逃げ出した。
「な、なによあの逃げ足の速さ!?」
「ありゃ無理だぜ!追い付けねーよ!」
奴の足の速さに、みんな舌を巻く。
どうしようかと悩んでいるとユコが案を言う。
「どこか、逃げ道のないとこに追い詰める、とか……?」
「あ、なるほど」
「さっすがユコだな!そのさくせんにけってーだ!」
「う~ん。そやけど、どうやって追い詰めるん?」
トモエの質問にユコは俯いて答えない。すると、アリスが手をあげた。
「アリスには視えるの……」
「おおっ!そーだよ、アリスには超能力があるんだよな!」
「……あの子逃げた先に行き止まりが沢山あるの……」
「それ、本当なんでしょうね?」
アリスの言葉に少し疑いをみせるシン。
シンの言い方がキツいからかアリスが退いてしまう。
可哀想なので、俺がフォローを入れる。
「大丈夫だろ。アリスが嘘を言う訳ないし。それに他にあてもないしな。そうだろ、アリス?」
「うん……アリス……嘘つかないの……はやく行くの……」
「そんなに自信があるのね。いいわ、行きましょ」
シンも納得して、俺達はアリスが示す場所へと向かい始めた。
いざ、移動しようとしたら、アリスが俺の袖を引っ張って呼び止める。そして、「……ありがとう」とだけ告げて先に行ってしまった。
「……嬉しいもんだね、やっぱり」
俺は彼女達の後ろを歩き始める。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《???》
ある時のことだ。
探索中にあるものを見つけた。
携帯電話。
どうして地獄こんなものがあるのか?
不思議に思い、拾ってみる。
「ちょっとあんた。他人のケータイ見るとか犯罪よ!」
キサラギに注意された。
それもそうだと思い、元の場所に置いておいた。
「…………」
その時のキサラギの表情が妙に引っ掛かる。
どうもDAMUDOや。
さて、最後のあれ。あれですよ。忘れてから、ああいう形で書いたよ。