バーン・レイジーの攻撃がおさまり、後には土煙が巻き上がる。その中に三つの人影が地面で寝ていた。その内の一つが頭を押さえながらゆっくりと体を起こす。
しばらくその状態でいると、なにかを思い出したかハッとなり、隣にいる者を揺すり起こす。
「おい、オヤジ!大丈夫か!?」
「あ"ーー足が千切れてる気がするー」
「大丈夫、しっかりくっついてる。他はないか?」
「それ以外は特に痛くないかな。起き上がるから肩貸して。急いで逃げねぇと」
「まったく。無茶すんなよな」
ユウ達は無事だった。
バーン・レイジーの放った炎が直撃する瞬間、ランが急いで腕を伸ばして盾をユウの背中にやり、守っていたのだ。
「結局、ランの盾で防げたなら俺いらなかったよな」
「何言ってんだよ。オヤジがいなかったらサコは危なかっただろうし、アタシもこの距離だから大丈夫だったってだけだから、助かったよ」
「あれぇ?なんか何時になく素直じゃない?」
「はあ!?き、気のせいだろ!アタシは別にいつも通りだしさ!」
「そうっすか」
二人で会話をしてキサラギ達の方へ向かっていると、俺の腕の中で眠っていたサコが目を覚ました。
「あ、あれ?」
「お、サコ。やっとお目覚め、がっ!?」
「ぐげっ」
サコの状態を確認しようと声を掛けていたら何かが顔へ直撃。その勢いのまま、ランに掴まっていた腕がするりと落ちていき、地面へ勢いよく倒れる。
なお、サコも巻き込まれた。
「オヤジ!?大丈夫か?」
「大丈夫じゃないけど大丈夫。なにが飛んできた?……カードだ」
「なにやってんのよ!バカ!」
聞き覚えのあるキンキンとした高い声が近付いてきて、「バカ!」と罵声を浴びせられた瞬間、そいつは倒れている俺を蹴りやがった。
「いて!何しやがるんだ、キサラギ!」
キサラギは息を荒くしながら俺を見下ろす。なんか、怒ってるようで。
その後、他の奴らも来たがキサラギのこれからの行動が気になってそれどころじゃない。
「何しやがるんだじゃないでしょ!あんた死にたいの!?」
「いや死にたくないよ。特に、地獄がこんなところだって知った今はね」
「じゃあなんであんなことしたの!!」
「いやいや、庇ったくらいでそこまで怒られますかね?」
「当たり前でしょ!あんたは私達と違って、体の丈夫さは普通だし、戦っていっても強くならないし、回復薬とか治癒魔法もほとんど効果がないんだよ!ほんと、バカ!」
「まあ、死んでねーんだしいいじゃん。俺はやりたいことやっただけ。それを生徒である君達に俺を止める権限はないよ」
納得した様子もなく俺を睨むキサラギ。
「ほらほら、終わりよければ全てよし!今は逃げることだけ考えろよ」
「……わかった」
「うん、いいこ。さて、誰か俺を引っ張り起こしてくれない?足痛くて力入んないだわこれが」
「はぁ、カッコつかねーぜ、オヤジ」
「すまんね。さあ、逃げるぞ!」
「どこに逃げるって?ああ!!」
突如、真後ろから聞こえるドスの効いた声。
声の主は、そこにあった煙を吹き飛ばしその炎の巨体を現した。
「バーン……レイジー……」
「仔猫ちゃん達!勝負ほっぽりだして逃げようなんて考えは甘いぜ!勝負ってのはどっちかが死ぬまで終わらねーんだ!」
バーン・レイジーは俺達の目の前で大きな声をあげる。
このままではすぐに攻撃されて全滅だ。
さっきの戦い見ててわかったが、こいつはまだ本気を出しちゃいない。
なんとか、なんとかしねーと……。よし、無茶でもやるか。
「いやー流石お強いですね、バーン・レイジーさん!」
「ああん?なんだ急に?」
「ええ、ただあなた様の強さに感服致しました。流石、この階層の頭を務める番人!レイジーファミリーにこの人ありと言われることだけあります!正に最強の名に相応しい!」
「そ、そうかぁ?ふふ、ふっふふふ、ハッーハッハッハ!やっぱり俺様は最強か!」
「それはもう!イケメン!天下一!男の中の男!」
「そうだろそうだろ!いやー、テメーよくわかってんじゃねーか!」
俺が誉めに誉めるとですっかり上機嫌になるバーン・レイジー。
やっぱりクリミナルだな。喋れるから少しは精神面が強いかもと心配したがやっぱり単純だった。
「ちょっとユウ!あんた急になに言い出すのよ!?」
「あ?大丈夫、お前らは静かにしてればいい。ここは俺に任せろ」
キサラギ達になにもしないように指示し、話を続ける。
「しかしですよバーン・レイジーさん。今回のことはよくないんじゃないですかね?」
「ああん?」
「いやいや、ただね。男の中の男ともあろうレイジーファミリーのトップ、バーン・レイジーがいたいけな女の子とひ弱なわたくし相手に、
「な!?ふ、不意討ちだぁ!?」
「ええ不意討ちです!あなたと最初に対面したとき、堂々と正面から突撃しました。その時、最初に攻撃したのはあなたでしたよね?男の中の男ともあろうお方がレディーファーストを知らないなんてねぇ?」
「ぐっ!だ、だがそれじゃ不意討ちじゃねーだろ!」
「いえ、不意討ちです。不意討ちの定義は不意をついて攻撃すること。不意とは予期せぬ事態のことをいいます。つまり!炎ノ試練に入って最初に出会った敵がその番人であるバーン・レイジーだったことこそが、正に予期せぬ事態なのです!」
「な、なにぃ!!?」
「更に!私達はここに来る前、前の階層の番人とそれはそれは激しい死闘を繰り広げていました。(説明省略。どんな戦いだったか、嘘ましましで盛大に演出)。つまり!私はあなたと戦う前からすでにボロボロ!」
「う、うお!」
「更に!この環境!(ここも省略。急に暑いところに来たから普段の最高のパフォーマンスができない云々かんぬん)つまり!元々こちらがわが、圧倒的不利!それを踏まえて、今の状況。いかがですか?自分は最強の男だと胸はって言えますか?」
俺が熱弁してから投げた問いに、バーン・レイジーは。
「確かに。テメーの言う通りだぜ」
ユウの思惑通りの返答をした。
計画通り!(ニヤリ
「おい!俺はどうすればいい?どうすれば最強の男と言える?」
「簡単です。今すぐ私達を見逃して、再戦の機会を用意するだけで、あとはまっていればいい」
「わかったぜ!なら、この炎ノ試練にいる、俺様のファミリーの四天王に勝てば俺様のいる場所に辿り着けるようにしよう!これでどうだ?」
「バッチリです!流石バーン・レイジー!埋め合わせも機敏ですごい!」
「ハッハッハ!ま、テメーらがうちの四天王に勝てるかどうかもあやしいがな!んじゃ、待っててやるよ」
そう言って、バーン・レイジーは炎のように消えた。
「・・・」
静寂の中、予期せぬ危機をなんとか切り抜けることに成功し、安堵のタメ息をつく一同。そんな中、とりあえず俺は、みんなに向かってドや顔でピースする。
話術って言うより、屁理屈こねた揚げ足とりですね。
さて、オリジナルな展開でバーン・レイジーさんがおバカ単純キャラになっちゃったけどいいね。
四天王たちか……インビジさん……。