「お前らが使えるスキルは全て覚えた。道具も買えるだけかった。色んな状況一つ一つに対応できる動き方を教えた。他にやることはあるか?」
『・・・』
七人は俺の問いに答えない。無言の承諾。
「わかった。じゃあ、最後に言っとくけど俺はお前らが負けるとは微塵も思ってねぇから」
「へっ、言われなくても負けねぇよ」
「おう!」
気合いの籠った返答に俺は自然にニヤリと笑う。
「まったく、頼もしい生徒だよ。しゃっ、行くか」
今までは行われなかった会議を終えて、俺たち八人はキャンプから出た。
どういう経緯でこうなったか説明しよう。
八人は何時も通りに先へ先へと道を進んでいた。すると、ある場所に足を踏み入れた瞬間、生の本能を刺激するおぞましく恐ろしい咆哮が彼らを襲った。
「ひぃっ!?」
「え?ちょ、なによこれ!?」
「なんか……やばそうやぁ……」
ユコ、シン、トモエの三人はただ、恐怖した。だが、他の五人は違った。
「これって……」
「オヤジ!」
「わかってる。遂に来たってことだな」
「おおー!やるぞー!」
五人は一度味わったことのあるこの感覚に確信していた。
「え?あ、あれなんなの、サコ」
「あれか?あれはな、え~と……つ、強いやつだ!」
「サコ……その説明じゃダメだろ。ユコが泣きそうになってる」
「だ、大丈夫です、ユコ、頑張れます、はい」
「うん、大丈夫じゃないね。えー、ちゃんと説明するとあれはな、この試練の番人。いわゆるボスだ」
「強そうです……」
震えるのが止まらないユコ。見ていると守ってあげたくなる衝動に襲われる。
ほっこりしているとシンが声を掛けてきた。
「教官、まさかと思うけどこのまま突撃とか考えてるんじゃないでしょうね?」
「流石シン。その通りだ」
「バカじゃないの!ここは一旦キャンプに戻って準備を整えるに決まってるでしょ
「お、おう。そうだな」
シンの気迫に押される。
早く先に進みたかったが、確かにここで急いでも仕方ないと判断し一度キャンプに戻ることにし、キャンプで準備をしていたのだった。
そして今、八人は引き返した場所に再び立っていた。
「よし、いくか」
俺の言葉に彼女たちは小さく頷き、遂に先に進むことになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
暫く道を進む一行。奥へ奥へと進むほど強くなるプレッシャー。臆することなく慎重に進んでいく。そして、広い場所に出ると遂に番人が姿を現した。
八人の前に大きな音を立てて落ちてきたのは、四つ足の巨大な獣型クリミナル。目のない猿の顔に雷の形をした角を生やし、全身を黄色い毛に覆われており、見える皮膚は毒々しい紫色をしていた。
クリミナルの名前は『エレキグリード』。沼ノ試練の番人である。
「……強大な力……すごく感じるの……」
「ううっ……怖いよ、サコ……」
「だ、だいじょーぶだぞ、ユコ!サコたちはまえにあーんなでっかいきょーりゅーぶったおしたんだからな!」
「そうそう!これでも私たち、修羅場くぐって来てるんだから!」
「この程度で修羅場?ふふん、こんなの肩慣らしよ」
足が震えてるのには突っ込まんぞ、と心で呟くユウ。
「みんな頼もしいわぁ。うちは見てるだけでもええかなぁ?」
「おいトモエ!サボんじゃねーぞ!」
「うふふ……冗談よ~♪」
「はぁ……ったく、緊張感ねーな……」
「う~ん……そんなことあらへんとおもうけどなぁ?」
「あーもう!ごちゃごちゃ言ってないでいくわよ!!ユウ!」
「わーってる!」
キサラギに促されなくてもやる気は十分のユウ。
「んじゃ、いくぞ!」
少女たちの気合いの入った返事。それに答えるように指示を返すユウ。
「まずは、キサラギ、ラン、サコ、アリスで牽制!他三人は待機!」
最初は様子見も兼ねて、番人と対峙したことのない三人を見ることで慣れさせようと考えての指示だ。
彼女たちは指示通りに動く。
まずは足の早いサコがお約束の突撃。強力なパンチ攻撃を繰り出す。
敵はその巨体に似合わぬ早さで攻撃を回避。そのままサコを凪ぎ払う。
「サコ!」
「こんぐらい、へいきだ!」
サコはまた敵に向かっていった。その間にキサラギとランが敵を間合いに入れる。
キサラギは後ろから近付き、攻撃する。
【二段切り】
キサラギはジャンプ切りを繰り出し、敵の右後ろ足を切り裂く。着地した瞬間、足をバネのように伸ばすことで勢いを乗せ、もう片方の後ろ足も切り裂く。
敵は咆哮をあげて怒る。が、同時にランが飛びかかった。
【エレキアタック】
雷を纏わせた剣で切り裂く。
ダメージは少ないようだが、敵は痺れたようで四肢がピクピクと痙攣して動けなくなっていた。
「キサラギ、ランはトモエ、ユコにチェンジ!」
相手が動けない隙に、先頭メンバーを交代させる。
この戦い方はボス戦などの大事な戦いの時、四人に絞って指示するのがよいと考え付いた結果の戦闘スタイルである。
交代の間、アリスは魔力を溜めていた。
【イターム】
何時もの魔法攻撃より強い力を込めた魔法攻撃。大きな魔力の弾を敵に向かって放つ。
見事、イタームは痺れて動けない敵の顔面へと命中。敵は苦しみながら鮮血を噴き出した。
ガァルゥルルルラッ!
敵は怒りに身を任せて暴れまわる。地面を抉り飛ばして岩石で攻撃する。
サコ、トモエは軽やかに岩石を避けるが、元々身体能力が低いアリスとユコはとっさに動けず直撃しそうになる。
「ユコーー!」
サコはユコをかばい直撃。アリスも直撃。
「あかんよ!」
尚も続く敵の攻撃。岩石の雨が容赦なく四人に降り注ぐ。
動かないアリスの前にトモエが立ち、飛んでくる岩石を弾くが、捌ききれずにトモエにも被弾。
傷付いた体でも尚、ユコをかばい続けるサコ。
「このままじゃマズイ!オヤジ、アタシをユコと交代させてくれ!アタシなら、攻撃を引き寄せながら受けきれる!」
現状を打破しようと交代を提案するがユウは……
「ん?しないよ」
と簡単に却下した。
「オヤジ、テメー!」
「ちょちょちょ待てって!別に見捨てるとか作戦放棄とかそう言うのじゃないなら!」
「じゃあ!」
「まさかこんな台詞言うとは思わなかったよ。ラン、よく見ろ。ユコはまだやれる」
そう言われ、ランはユコに目を向ける。そこには、サコの影に隠れながらも、手にしている箒に力を溜めているユコの姿だった。
ユコはサコの影から飛び出して、箒を敵に向かって振るう。
【アタックダウン】
箒から放たれた光が敵を包み込む。すると、敵の攻撃力は落ちていき、飛ばされる岩石の量、大きさ、速度が全体的に下がった。
これにより、敵の攻撃は猛攻とは呼べなくなり、避けやすくなる。
「みんな!遅くなってごめんなさい!すぐに治すよ!」
【ヒール】
ユコの振りかざす箒から緑色の優しい光が放たれ、サコ、アリス、トモエを包み込む。すると、三人の怪我はみるみるうち治癒していき、元通りに動けるまでに至った。
「本当はサコにかばってもらわずにやってほしかったんだけどね~。まあ、いきなりじゃ酷だし怖がりのユコにしちゃ頑張ったよ」
ユウの言葉にランは戦っている四人に視線を戻し、静かに見守り始めた。
戦いは四人の完全回復と敵の力の減少で流れが一気に加速する。
「よくもやってくれはったなぁ!」
トモエが敵の迎撃を避けながら敵に近づき、鞘に納まっている刀に手をかける。
【松葉崩し】
抜刀からの力任せの一閃。敵の量前足を叩き折るように引き裂き、敵の攻撃力は更に下がった。
攻撃力が二段階下がったことで、力技の岩石攻撃が行えなくなり動きが止まる。そこに、アリスが追い討ちをかける。
「冷えるの……」
【ヒエール】
無数の氷の弾丸が敵に襲いかかる。ダメージを与えつつ敵の体温下げることで、体力を奪い素早さを下げる。
「これで、奴の持ち味であろう力と素早さは封じられた。奥の手でもなけりゃ後はただの攻撃し続ければいい。ここの敵は炎に弱かったし、こいつもそうだろ」
淡々と呟くユウ。そこには、慢心も迷いもない。ただ勝つことを、彼女らの無事を信じる気持ちのみ。
「サコ中心に叩けば早く終わるな。お前ら、サコサポートしながら戦ってくれ」
「まかせろ」「やっと私の番ね」「仕方ないなぁ」
「よし、サコ以外の全員交代!」
ユウの指示でアリス、トモエ、ユコがラン、シン、キサラギとメンバー交代を行う。
「はい、お疲れさん」
帰ってきたメンバーに労いの言葉をかけるユウ。
それと同時に三人はサコの側に辿り着いていた。
「サコ、調子は?」
「さっきからサコのこうげきがあたらない!むかむかするぞ!」
「オヤジがサコは思いっきり暴れろって言ってたよ。バックアップは任せとけ」
「おっしゃー!」
戦いが始まってから見せ場がなく、不満だったサコに気合いが入る。
「まずは下準備よ!コール、アシスト!!」
【OPR・アシスト】
シンがカードを放つと、四人の周りを囲うようにカードが円を作り、回りだした。そして、シン、サコ、ランがカードに手をかざし力を込めると全てのカードが光を放ち四人を包み込む。四人の全ての能力が上がった。
「さあ!これでボッコボコよ!」
シンの言葉に強化された三人が一斉飛び出す。
三人が目指している敵は先程からやけに動かない。戦意を喪失……したわけではなく、溜めているのだ。そして、その時は来た。
【マッハエイト】
荒ぶる雷神の如く超スピードで連続攻撃を繰り出すエレキグリードの必殺技である。
側に近づく前に三人は大打撃を受ける。はずだったが今の彼女らがそう簡単に殺られるわけがない。
敵に突っ込んだ内の一人、ランは二人の側を離れて立っていた。
「ほら、かかってこい!ラン様が相手だ!」
【リベンジ】
剣と盾をぶつけ、大きな声でかかってこい言う。見事までの挑発。一般レベルの知能を持つならば乗るはずがない。しかし、クリミナルの多くは知能が中途半端である。故に、エレキグリードは挑発に乗り、ランに突撃。息を飲む連続がランに浴びせられる。
「なんだよ、期待させといてこの程度かよ」
ランは当然の様に無傷。その事実に敵は驚きたじろぐ。
巨獣が、少女を殴り、傷つけるどころか、殆ど動かせない。と言うスラッグ、ならびに全ての雑魚大笑いなことになったのか?
簡単である。ランはメンバー内最強の防御力を持つ。そんな彼女は今OPR・アシストで防御力が上がっている。それに加え、彼女は挑発をして自分に攻撃が来ることがわかっている。来ることがわかっているのなら防御もしやすい。そして極めつけが、エレキグリード自身の攻撃力が2回下げられ、スピードも下げられおり、本来の威力より壊滅的に弱まってしまった。これにより、必殺技が効果なしなどと言う結果になった理由である。以上、解説終わり。
「次はアタシの番だ!」
ランはビビっている敵の脳天目掛けて剣を振るう。
敵は苦悶の咆哮をあげた。
そんな敵に休む暇を与えず、すかさず追撃。
「サコ!炎、構えて!」
「オッス!」
【火炎爆裂剣】
サコの炎の拳とキサラギの斬撃によるコンビ攻撃。
敵は二人の攻撃をくらい、転げ回る。そこでシンが逸速く動き敵に近付く。
「コール!ファイア!」
【OPR・ファイア】
シンはカードを一枚敵の真上へ投げると、それはを放ちサコをその場へと移動させた。次にシンは炎の魔法攻撃を行う。その攻撃に合わせてサコが上空から炎の拳を振り下ろす。
敵は身体のあちこちが焦げ臭くなりながら、地面に押し付けられる形で倒れる。最早、虫の息だった。
「これで……おわりだぁあああ!!」
【ほのおラッシュ】
炎を纏わせた両拳で連打を浴びせる。
「どとうのサコらっしゅ!!」
連打を浴びた敵は悲鳴にも似た咆哮を響かせると遂に、その姿を煙、そして塵へと変えて姿を消した。
「ふぅ、勝ったな」
戦いに勝利した。
やあ、私だ。DAMUDOだ。
まず、少し更新が遅れたこと、詫びましょう。そして、言い訳をします。
まずね、この回、本当に書くの悩んだ。とりあえず、このボス戦は彼女たちが戦いに慣れた・慣れる姿を書くってのは決まってた。故にあの圧勝。
そこで、どう倒そうか悩んだのよ。できればみんな均等に活躍させたい。最低全員一回はスキルを使うことが条件で作ってたの。で、ボスが炎に弱いからサコが〆をとるのは決定で、後はゲームやりながら決めてたのよ。そしたら、エレキグリードが弱いのなんの!その時点のおしおき全て終わらせて挑んだら3、4ターンで決着がつくの。だから全員が納得のいく活躍するまでやってたら、遅れたの。
気づいた時にはもうあれで、いつも通りノリで書けや!ってことにしたんだけど、ここに更なるトラップが……シンです。
文字で表す以上、ターン制なんてありません。故にゲームでできない囲んで一斉に叩くができます。つまり、シンさんがゲームばりの活躍をしない!さあ、大変!
と言うことがあり、結果……シンさんのカード万能!みたいになりました。すごいよね……カードの場所に瞬間移動させたり、カード同士が見えない回路で繋がれていてパワーアップの範囲を広げるとか。
でも、いいんじゃない?あるていどは何でもやってもいいのが二次創作だし、オリジナリティーって悪いことじゃないもん、ね?
もしかしたら、みなさんが色々と納得できないところがあるかも、知れません。その時は感想とかで書いていただければ、答えれる限り答えるつもりです。
以上、あとがきでした。
お疲れさまです。