「もらったぁああ!」
敵の攻撃を受け止め、そこに攻撃を叩き込むランお得意のリベンジ攻撃。人の形をした木のクリミナル『トレントレディ』を真っ二つに切り捨てる。
敵は全滅。みんな戦い方が様になってきていて俺は嬉しい限りだ。
「ふぅー、勝った勝った♪」
生き生きとした表情で戻ってくるラン。元々、喧嘩とか得意だったのか、戦いに積極的な彼女。それに比べて対照的な他の面々。
「……疲れたの……」
「ユコも疲れてきちゃったよ……」
特にアリスとユコは体力がなく、すぐに疲れが来てしまう。
「わかった。一度キャンプに戻ろうか」
「ちょっと待ちなさい、教官」
俺を教官と呼ぶ少女、シン。俺の指示に異議あるようだ。
「はい、なんでしょうか?」
「ここ最近、まったく先に進めてないのにこれ以上グズグズしてていいのかしら?私としてはもう少し先に進んでみてキャンプがあるかどうか探索した方がいいと思うんだけど。どうかしら?」
「おい!それはアリスとユコに無理をさせるってことじゃねーか。オヤジ、そんな提案却下だ!」
「よこから口を挟まないでもらえる?私は教官と話してるの」
「んだと!」
ランがシンに迫る。シンは少しビビりながらも喋り続ける。
因みに俺は蚊帳の外。取りあえずアリスとユコにはこの時間に休んでもらう。
「まさかと思うけど、暴力で訴える訳じゃないわよね?教官でもない貴女にそんな権限はないわよ」
「アタシはオヤジみたいな男とは違う!アタシは二人を心配して休もうって言ってんだ!別にヨミガエリに期限があるわけじゃねーんだし、急がなくてもいいだろ?」
「あら言うわね?私、本当は知ってるのよ。貴女、本当はもっと思いっきり戦って暴れたいんでしょ?それなのに休もうだなんてねぇ」
「べ、別に関係ねーだろ!」
ランが押され始めた。その姿に味を覚えたのかニヤリと笑みを浮かべる。
これは調子に乗り始めるな。シンを静止しようとするが、間に合わなかった。
「この際だから、私が気付いていること全部言ってあげるわ。まずはアリス。貴女、最近戦闘中に限らずボーッとしてることが多いわよ。フォローしている周りのことを考えてちょうだい」
「ぅ…………」
俯くアリス。明らかに沈んでいる。アリスにも言い分が有るだろうに、聞かずに注意するのはよくないんじゃないか?
「おい、シン……」
「次にサコ。貴女、ユコに気をとられ過ぎよ。もっと周りも見てちょうだい」
「だ、だって……」
俺を無視してサコにも注意するシン。
お前もこっち見ろよ。
「あと、サコもサコならユコもユコよ」
「え!?ユコも?」
「貴女ね、一番動いてないのよ。それなのに疲れたってよく言えるわね。サコをうまく使ってるようだけどバレてないとでも思った?」
「ち、違っ……!」
ユコも否定しようとするが、言葉が見つからないようでそこから先が出てこない。
このままじゃ空気が悪くなる一方だ。マジで止めなければ。
「シン、その辺に…」
「教官、貴方もですよ?」
おーーっと?俺にも飛び火が来た!?
「たまに指示が遅い時があるわよ。貴方は私たちの後ろで構えてるから安全かも知れないけど、私たちは命懸けなのよ?そこら辺はしっかり認識してもらわないと困るわ」
「……はぁ、確かにな。言い訳させてもらうと四人から七人増えたからなんだけど……視野を広げるように努力するよ」
「ええ、そうしてちょうだい」
「たが、お前にもしっかりして欲しいと俺は思ってるぞ」
「え?私が?」
「お前、クリミナルが怖いんだろ?何時もみんなより一歩遅れてる。あと、もう少しみんなの気持ちを考慮すること。お前の隣にいるのはロボットやゲームのキャラじゃなくて、これからも試練を共にする仲間なんだからよ」
「…………」
シンも黙りこんでしまう。
「ま、取りあえずキャンプには戻っとこーぜ。回復薬切れちまったし、腹へった。飯食いたい。いいだろ?」
「……そういうことなら……仕方ないわね」
「悪いな俺の我が儘に付き合ってもらって。んじゃ、悪いけどトモエ。『リターン』できるか?」
「お安いご用や、センセ♪」
トモエは微笑むと、手を祈るように合わせる。すると、トモエを中心に光が広がり、周りにいた俺たちを包みこむ。
光が視界を埋めつくし目が眩む。光が収まってきた時には、見慣れた丸ベットがある部屋にいた。
「んじゃ、休みましょうか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
飯食って、風呂入った後、女子だけでしばらく雑談して眠ってしまった。因みにその時俺は彼女たちが寝そべっているベットの横にある机で一人、今後の計画を立てていた。
まずはここのお金代わりであるOPをどう使うか計算してと。どれをどれだけ買うか……。回復薬、食料、設備等考えることがたくさんだ。
「…………ふぅ」
一つタメ息を吐く。
これからどうしようか……。四人の時点でも一杯一杯だったのに七人も面倒を目なくてはならなくなった。しかも、一人人我が強いから衝突することもよくある。俺は今だに彼女達に心を開いてもらってないから、強く言っても言うこと聞いてくれたらラッキーなレベルだ。
考えるだけで気分が重くなり、またタメ息を吐く。
シンが言っていたことも気になる。確かに俺は力不足だし、アリスに限らず、みんな最近悩んでることがあるようだ。
疲れた誰かに愚痴りたいが、みんなにこんな情けない姿見せるわけにはいかない。嗚呼、先生は辛いね~。
「…………そうだ」
俺は椅子から立ち上がり、みんなが寝ているベットに向かう。音は立てない。
俺が今から何をやるか?簡単だ、仕事帰りの父親が子どもの寝顔を見てヤル気になるあれを味わってみようと思った。
さてさて、どうかな?
「うん、しっかり寝てるな」
何時も身だしなみを気にするイマドキガール、キサラギ。丸くなりながら、枕を抱いて眠っている。
ああ、確かに。これは良いものだ。
見ているだけで不思議と笑みが溢れる。端から見れば女の子の寝顔を覗くようにみている変態にしか見えないのだが気にしない。
ちょっと、出来心でキサラギの頬をつついてみる。
「う~~さわるな~~……」
本当に寝言だろうか?妙にタイミングの良い台詞を吐くキサラギ。俺は驚いて身を翻して逃げ出しそうになった。
これ以上刺激するとマズイ気がするのでキサラギから離れる。
最後に頭を撫でておく。すると、キサラギが少し笑ったような気がして俺も思わず笑顔になる。
次はランとトモエ。その二人に挟まれているアリス。
三人仲良く川の字で寝ている姿は姉妹……と言うよりは親子か?う~ん、いつの間にこんな仲良くなってるんだ?女の子って不思議だね~。
何時も気の強い厳つい表情のランも寝るときは安らかな気の抜けた顔になっていてカワイイ。ギャップ萌えってやつか。
起きていると時ですら無防備なトモエ。寝ている姿は更にキワドイ。正直、こんな姿を男に見られたらどうなってしまうのか……十中八九、襲われるだろう。しかし、俺はそんな感情を抱けない。寧ろ彼女が心配になる。別にトモエに女性としての魅力がないと言っているわけじゃない。ただ、俺がトモエに限らず彼女たちを娘のように感じているから……だろうか?よくわからん。ただ、そう言うことなのだと理解して欲しい。にしても、本当にエロい体つきだな~。肩こったりしないのかね?
そんな二人に包まれるようになって寝ているアリス。その顔は何時もの彼女からは考えられないような生き生きとしたものだった。不思議な物言いだが、本当に寝ているときの顔の方が生き生きとしてるんだよ。マジで。
しかし、このスリーショット。見ているだけで幸せになってくる。……嗚呼、思いっきり抱き締めたい。けど、そんなことしたら俺は……ただじゃすまない。クソッ、鎮まれ我が体よ!
そんな訳でサコユコの元へ。ハハッ、やっぱり本物の姉妹は違うなぁ。互いにぎゅってしてやんの。嗚呼、この景色を写真に収めたい。けど生憎カメラがない。ならば、今のうちに飽きるまで眺めていよう。そうしよう。
二人は寝返りをうつときも同じタイミングで動き離れようとしない。もうっマジカワワ///
これ以上いると鼻血でそうなんでこの辺でおいとまする。
ありゃりゃ、これまた随分と散らかってるね~。
シンの様子を見に行くと、横に倒れるように寝ている彼女と彼女の周りに散らばっているカードがあった。ゲーム中に寝落ちした俺にそっくり。
なにやってんだか。そう思い、片付けようとするとカードになんか色々と書いてあるのがわかった。なにこれ?……オペレーション?すまねぇ、英語はさっぱりなんだ。でもまあ、こいつもこいつで色々と考えてんだろ。素直じゃないね~。
カードを一束にまとめて片付けておく。
さて、そろそろ戻るか。机に戻り座り、体を伸ばす。
もうひと頑張りしますか!心の中で気合いを入れて作業を再開した。
寝顔を見た効果は、言うまでもなく俺の心を癒した。
嫌な予感がする。もうすぐ、ここの試練の番人と戦う、そんな予感だ。『オーバーイート』と戦った時と違って、人数も増え、みんなも戦いなれてきた。なにも心配することがないように思えるが、やっぱり心配なことがある。
みんな、なにかしらの悩みを抱えてる気がするのだ。次に彼女達が目覚めた日には相談してくれることを祈る。最悪、こっちから聞いてやるか。
そろそろ俺も眠くなった。
ユウは何時も通り、ベットではなく机に突っ伏す形で寝息を立てるであった。
次はガールズオーダーかな。
私はランとマフラーの恋人巻きしたいですね。もうすぐクリスマスですし。