朝陽の幻想郷   作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)

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産声

 幻想郷という土地に住み数ヶ月経つ。期間としては短いのだろうが、中身は非常に濃い。だからぼくは既に数年もここに住んでいるかのような、或いはここが僕の故郷なのだと錯覚を起こしている。

 

 思えばぼくの人生というものを短いながらも総括すれば、幻想郷に来るまでというくくりで考えたときにはあまり充実していなかったのかもしれない。十代は空虚だった。ゆえにあまり記憶に無い。大学というモラトリアムな期間だってそれほど特筆すべき事柄も無い。人並みに恋をしたり、月並みに悲しんだり。そういう事もいくつかあったけれど。だがそれはぼく以外の誰かだって同じ事であるし、わざわざ声に出して言うべきものでも無いだろう。

 

 そして就職に失敗し、意気消沈していたぼくがめぐり合った居場所。それがメリィさんのアルカナであり、そこからの十年ほどが僕の色のついた記憶の全てかもしれない。ぼくはどうしてこんなに淡白であるのか、または外に対して無関心であるのか。その理由はおぼろげにだが想像はつく。それは幼少時のとある期間に起こった出来事に起因しているのだ。

 

 けれどもぼくはそんなの言い訳であると断じる。だってそこに原因があるとしても、日々の生活は疎かに出来ないし、その慌しさの中でちまちまと過去の悲しみに囚われるなんて時間の無駄だからだ。それは非常に不快だと感じるぼくは、形式的ではあっても前を見ることだけを重視してきた。

 

 そういうぼくを「あなたは空っぽなのね。出来損ないのマカロンのよう」と言った人がいる。それを聞いたぼくは、なるほどその通りかもしれないと妙に納得したくらいだ。ぼくはどうにも怒ることも悲しむことも得意ではないのだ。

 

 そんなぼくをメリィさんはからかい続け、ぼくがクタクタになるまで振り回してくれた。だからこそアルカナに所属してからのぼくの記憶には色が付いているのだろう。そして今、ぼくは幻想郷というどこでもないどこかに居て、自分という物が望もうと望むまいとも変化していくのが分かる。ぼくはそれを非常に好ましく思っているのだ。

 

 ぼくを取り巻く新しい家族たちに囲まれて。

 本当に――――心のそこから。

 

 ★

 

 紅魔館の全員が一同に介した食事は非常に楽しいものだった。まあにとりには不幸なものだったかもしれないけれど。にとりが住んでいる妖怪の山はかつて鬼が治める場所だった。今は天狗が治めているが、形式的にはいまも鬼の領土だという。しかし鬼は人間と関るのが嫌になって山を降りてしまった。そんな妖怪の山であるが、鬼という存在はにとり達にとっては恐ろしい存在なのだという。

 

 だから鬼の影を思うものがあると、なぜだか無条件に恐怖を感じるのだという。たしかにぼくもメリィさんの旦那様(しつこいが女性である)を前にすると身体が勝手に震えるからな。そのエピソードは思い出したくも無いけれど。

 

 食事の間、ずっと青い顔をしていたにとりだが、それは吸血鬼もある種鬼と言えるからなのだろうか? たしかにレミリアさんもフランも珍しい河童の客に悪乗りして怖がらせてたからな。まあ最後は冗談だったのよと笑ったのだが、にとりは引き攣った笑いを返すという痛々しいものだった。

 

 そんな微笑ましい食事会を終え、にとりは脱兎の如くいなくなり、眠いと消えた吸血鬼姉妹を見送ったぼくは、雇い主であるパチュリーさんと書庫に戻った。食後の紅茶でも飲もうと誘われたからだ。

 

 ぼくはぼくで魔理沙への対策に忙しく、彼女は彼女で肉体改造に忙しい。そんな日常であったから、こうしてのんびり差し向かいでお茶を楽しむなんて事が無かった。だからどこか嬉しくもあり、ぼくは彼女の向かいに座っている。

 

 ちなみにここはぼくの定位置たる長机ではなく、彼女のプライベートスペースにある応接だ。ここに招待されるくらいには信用されてるのだろうと嬉しく思う。薄暗くはあるが、調度品も落ち着いたものばかりで、書庫の中とは少し趣が違う内装だ。

 

「こうして貴方といるのも久しぶりね」

 

 パチュリーさんは伏し目がちにそう言う。彼女はあまり人の目を見て話さない。それは表情を読まれない為の魔法的なクセだと聞いた事がある。

 

「そうですね。何かとバタバタとしてましたから。けど最近はパチュリーさんの体調もいいようですし、その点は非常に嬉しく思ってます。たとえこうしてお茶に誘ってもらえなくても」

 

「ふふっ、ありがとうアサヒ。貴方には感謝をしているわ。貴方をこうしてお茶に誘えなくても」

 

 そしてパチュリーさんは少し微笑んだ。

 

 最初は全く興味を示さなかった、いやむしろ逃げようとすらしていた彼女の体質改善プランであるが、ある程度こなしてみると彼女自身が積極的に取り組むようになってくれたのだ。まあほうれん草は未だに苦手だとしても。それは食事は別にしても、美鈴さん指導の太極拳などのスローな運動が彼女の低い体力でも出来たこともあり、それが結果として現れたことで彼女も本気になったのだ。

 

 魔法使いという種族は人間の必須な欲を捨て去ることでなれると言う。それは食事だったり睡眠であったり。食事を摂らず眠らないという生活がどんなものかはぼくに想像はできないが、それが当たり前となっているのだからそこに必要性は感じないのだろう。

 

 魔法使いの仕事は、というよりも有り余る時間を使って行なわれるライフワークは、魔法を究めるための研究に尽きるのだという。そこを究めんとする結果が不老なのか、究めんとするために不老になるのかは最早「卵が先か鶏が先か」という不毛な話になるのでこの際置いておく。けれど結果不老になった彼女たちは日々研究に勤しむことになる。

 

 けれどパチュリーさんはその成長が止まったとき(魔法使いに覚醒したとき)に、やっかいな副作用を持ってしまった。それが病弱であるということだ。それは長い呪文(スペル)を唱えるためには非常にやっかいな障害となった。彼女自身は非常に膨大な魔力を持ち、蓄えた知識もまた膨大だ。けれどいざそれを行使するとなった時に、結果はその日の体調で左右されるという非常にリスキーな魔女なのだ。

 

 彼女はぼくが来るまではどこかそれを諦めたように生きていた。そういうものだと受け入れてしまった彼女は、改善よりも停滞を選んだという事だ。そこにぼくが現れ、おせっかいをした結果、上手い事いい方向に転んだのだ。それはぼくにとっても喜ばしいし、仕事の結果としても誇らしい。

 

 目の前で静かに紅茶を飲んでいる彼女が、出来れば健康であってほしいと願うぼくの小さな家族愛。そう表現した後の反応がもし冷ややかなものであったなら、ぼくは少しばかり凹んでしまうので言いはしないのだけれども。

 

「そういえばようやく白黒への対策は終わったのよね」

 

 膝の上に置いてある本を指でなぞっていた彼女は、思い出したかのようにそう言った。

 

「ええ、河童という思わぬ援軍を得ましたから、仕掛けは上々という感じですね」

 

 ぼくは少し得意気な顔をしたかもしれない。

 

「そう、結果を楽しみにしているわ。レミィの見立てでは、あの白黒は明後日あたりに来るようね」

 

「なるほど、なら後はぼくの心構えひとつですね。まあ見ててください。貴方が弾幕をする事も無く終わらせて見せますから」

 

 そう、必ずそうなる。その程度の自信はあるのだ。そして何より、ぼく自身が魔理沙と対することを非常に楽しみにしている。

 

「なら安心して見物させて貰うわね。ああ、それと。貴方に頼まれていたあの筒に術式を刻んでおいたわ。色々考えては見たけれど、魔方陣を刻んだほうが効率がいいみたいだったから。発動させるには簡易的なスペルを唱えるだけでいい。それで何度も繰り返し使えるわ」

 

 そう言って彼女は何も無い空間からあの薬莢のような筒を取り出した。センターテーブルにことりと置かれた筒。赤、青、金色、白そして五色が混ざり合ったようなのが一つの計五本。

 

「ありがとうございますパチュリーさん。しかしぼくは魔法使いじゃないから、スペルなど分かりませんよ?」

 

「そう構えなくても良いわ。言うなればこれは、長い呪文を私がその九割を唱え、最後の一節を貴方が唱えるようなものと考えて。実際はその部分をこの魔方陣で完了しているのだけれど。簡単に言えばそういうことなの。そしてその陣の効果によって、必要な魔力は()()()()から勝手に集めるのよ。だから普通の人間に過ぎない貴方でも扱えるわ」

 

 パチュリーさんの説明を聞きながら、カラフルな薬莢を手に取る。ここは薄暗い部屋であるのに刻まれた魔方陣――円に複雑な文様が刻まれた部分が薄青く輝いている。ぼくはしばらくそれに見惚れ、それをジャケットの内ポケットにしまった。

 

「これで魔法使い気分を楽しめますね」

 

 ぼくはヘタクソなウインクを飛ばす。いい年であるぼくが魔法なんて笑っちゃうけれど、どこかそういうオカルトに無意識の憧れを持つのは仕方が無いだろう。だってパチュリーさんが使う魔法はどれも綺麗で幻想的だからだ。

 

「ふふふっ、ならアサヒにも教えてあげるわ。誰だって大小の差はあっても魔力はあるものよ。でも初歩の魔法を習得するとしても、あの白黒くらい努力は必要だけれど」

 

 そういって彼女は少し笑った。引き合いに魔理沙を出すのはやはり、彼女を認めているからだろう。そこにちりちりと嫉妬を感じる。その嫉妬は複雑で、ぼくは結局普通の人間でしかないけれど、人間である魔理沙が縦横無尽に空を飛ぶことがうらやましいのだ。まあ、ぼくの雇い主が誰かを褒めるという部分への嫉妬も多少はあるかもしれないが。

 

「ぼくに出来るでしょうか?」

 

「努力するなら、或いは」

 

 本当に出来るかは分からないけれど、出来ることならやってみたいとぼくは思った。パチュリーさんの表情にからかう様子はなく、ただ幽かな微笑みを湛えた例のポーカーフェイスだった。もうすぐやってくる魔理沙との一戦が終わったら、ぼくはそれを習ってみたい。そう思ったんだ。

 

 ★

 

 その日、書庫には大勢の人がいた。紅魔館では妖精メイド以外は全員そこにいた。他にはにとりと森近さんの姿もある。妖怪の山に行った時に現れた烏天狗の女性も何故かいた。咲夜さんが朝から準備していたようで、いくつかのテーブルや椅子が設置してあり、ティーパーティが出来るようになっていた。

 

 まっさらなクロスがかけられたテーブルの上には色とりどりのお菓子が並び、席についた面々に咲夜さんは紅茶を注いで歩いていた。これは一体何の騒ぎなのか? それはぼくが無謀にも魔理沙に挑む姿を見物しようという趣向なのだ。

 

 ぼくはスーツから幽香師匠に作ってもらった赤い格子模様の服に着替えて最後の準備をしている。にとり特製のサスマタをチェックする。グリップの根元にはきちんと白い薬莢が装填されている。これで安心だ。

 

「アサヒ、がんばってね!」

「アサヒさん、負けないでください!」

 

 のんきにフランと小悪魔先輩が声援をくれる。まったくこっちは緊張で胸が張り裂けそうだと言うのに。レミリアさんは静かに紅茶を飲んでいるが、この部屋に来た段階である言葉をくれた。

 

「どういう結果になるにせよ、貴方は私たちの家族よ。あまり気負わずにやればいいわ。そしてせいぜい私を楽しませなさい。負けたら血を飲んでやるんだからね」

 

 そういって彼女は背伸びしてぼくを頬を撫でると、静かに席についた。結果はどうなるか分からないが、信頼してくれているのは感じた。威厳もあるし。

 

 とにかくまあ、必死なぼくを他所に、彼女たちはせいぜいこのイベントを楽しむのだという事だろう。こっちとしても望むところであるし。

 

 ぼくは無言でこっちを見ているパチュリーさんに頷き、そして吃と魔理沙が来るだろう窓を見上げた。もうすぐ彼女がやってくる。

 

 ★

 

 かつてこれほどに緊張したことがあったのだろうか。そのくらいぼくの心臓は鼓動を速めている。それでいて恐怖は感じない。きっとぼくの脳の中ではアドレナリンが噴出しているのだろう。

 

 けれどそんなぼくを嘲笑うかのように魔理沙はまだ来ない。もっとも、彼女はぼくがこんなに周到な準備をして待ち構えているなんて知らないのだ。だからぼくが勝手に待ち構えているだけであって、それはとても一方的なものでしかない。

 

 しかしレミリアさんの能力で見たぼくの運命では、どうやら今日が魔理沙と出会うとあるらしい。ならばぼくはそれを信じて待つのみだ。

 

 いつもはほとんど灯りのない薄暗い書庫が、今日は沢山の来客のためにいくつもの燭台に火が灯され、周囲はとても明るい。それでもまあ、地上の部屋よりは随分とくらいのだろうが。

 

 ぼくは両手にソフトボールほどの玉を持ち、罠に上手くかかれば魔理沙が落ちてくるだろうポイントをじっと見つめている。傍らにはにとり謹製のぼくの武器、サスマタも立てかけてある。

 

 さあこい魔理沙、ぼくは心で何度もそう呟き、彼女が来るのを静かに待つ。

 

 レミリアさんを筆頭にティーパーティーを続ける面々は、まるでぼくなんか目に入らないかのように楽しそうな歓談を続けている。ちらりとそれを横目に見て、ぼくはくすりと笑ってしまう。これがイベントなのだと騒いでいたが、それとてちょっとしたアクセントでしかないのだ。それほどに長命な妖怪たちに流れる時間はゆっくりなのだろう。

 

 フランが口を汚してそれをレミリアさんが甲斐甲斐しく拭いている。口では素っ気無い言葉しか言わない彼女だが、実は中身はそうでもないのだ。当主の威厳と素の彼女。どっちにしろ彼女以外のここの住人はレミリアさんの本音などお見通しだ。ぼくも含めて。

 

 にとりと烏天狗さんが何やらくすくすと笑いあっている。その横で森近さんが咲夜さんにこのお菓子はなんなのかと尋ねている。まったく平和な風景がそこにある。

 

 ぼくはただの人間だ。それこそなんの取り得も無い。外の世界ではそれなりに教養があるほうだと自負していたが、ここじゃそれも小さなことだ。だって百年も生き、そのほとんどを研究に費やしているパチュリーさんの知識の前では、ぼく程度の教養じゃ霞んでしまう。

 

 たとえばぼくが運動が得意だとしても、ここの姉妹は笑顔でぼくを蹂躙できる。小悪魔先輩だって簡単にぼくを蹂躙できるだろうさ。そういう物差しの長さの違いをぼくは何度も実感し、それでもこの場に立っている。

 

 もはや勝ち負けじゃないような気さえしている。ぼくはある時レミリアさんに貴方はもう家族なのだと言われたことがある。その言葉はぼくにとって非常に驚きであったし、打ち震えるほど歓喜を感じた。早くに両親を亡くしたぼくには”家族”という響きが甘美なものに聞こえたのだ。

 

 日本では家族というと結びつきはあっても、割と個人個人好きにやっていると思う。しかし国も文化も違えば中身も変わってくる。西洋に行けば宗教観もあるだろうが、非常に家族という集まりを重視している。家族の誰かが傷つけば、全員で悲しみ、全員で行動するほどに。家族という集まりにきちんとした信念というか、愛しているという言葉をおはようという言葉と言うトーンで言い合える関係だろう。

 

 それは言葉だけに留まらず、何かを決定するときは家族と話し合う。上手く言葉では言い表せないが、日本でいう家族とは明らかに違った、強固な結びつきがそこにはある。この紅魔館、とくにレミリアさんを中心とした集合体は、一見するとそれぞれ好き勝手にやっているように見えるけれど、しかし心という部分での結びつきは凄まじいものを感じる。

 

 言葉ではない、なんというか空気でそれを感じるのだ。そんな言葉を受けてぼくはすっかりここに馴染もう、馴染みたいと今日までやってきた。この魔理沙との勝負は、幻想郷の妖怪たちでは当たり前の日常だろう。まあ実際は弾幕ごっこをするのだけれども。

 

 この一戦は、ぼくにとってはこの幻想郷の住人となる本当の意味でのきっかけのように感じているのだ。妖怪を恐怖し、人里に篭って生涯を終える人間。ぼくは彼らと同胞ではあるけれど、そこに属したいとは考えていない。たしかにフランがたまに加減を間違ってぼくに怪我をさせることもある。それが時として死に至るような怪我に発展するかもしれない。

 

 けれどもぼくはそれはそれで仕方の無いことだろうと思うし、そうならないように精一杯知恵を絞っている。その結果どうにかなったとしても、それは事故のようなものだと考えている。ぼくの価値観がいまや、ろくでもないものになっていたとして、それがなんだと言うのだろうか。

 

 人とそうではない者の境目はどこにある。見た目か、中身か。それは感じる者の受け取り方で違ってくるとぼくは思う。見るに耐えない醜悪な、知性もなく本能のまま襲ってくる妖怪。それはぼくだって危険だと思うし、馴れ合おうなんて思わない。

 

 では紅魔館の住人は? にとりや森近さんは? 風見幽香さんだってそうだ。これらの存在は誰にとって危険なのかって事が大事なんだと思う。ぼくが立つ位置はどうだ。ぼくはそれらの領域(エリア)に望んで立っているのだ。

 

 彼女たちに共通することは、各々が別の思想を抱いていたとしても言葉だけはちゃんと通じるという事だろう。そしてひどく理性的であるということ。それぞれの思惑はあっても、それでも会話はしてくれるという紳士的な部分があるのだ。それは言葉をかわして気持ちを通い合わせることもできるかも知れないという意味になるだろう。

 

 ぼくはそれを出来る立ち位置にいる。ならそうするだけだ。何より彼女たちは人間よりも人間らしい。妬み、嫉み、それを凌駕する己の価値観がある。煩わしい足の引っ張り合いなどに時間を無駄に費やさない。それが妖怪の特異性であるだろうし、ぼくにとって非常に好ましい。

 

 打算もあるかもしれないが、このぬるま湯にぼくは浸かっていたい。日々何かと身体を動かしながら、それでも人から見れば退廃的な、そんな紅魔館でぼくは生きていたい。そう思うからこそ、今日ぼくは本気で魔理沙とやらねばならないのだ。

 

 その時ぼくの背筋に何かを感じた。パチュリーさんの側で魔法に関る物に日々触れていたせいか、ぼくの勘というかアンテナみたいものは鋭敏になっているようだ。危ないと感じると、実際に何か危ないことが起こったり、ドアの向こうからフランが来るだろうなと感じたときには実際フランがやってきたり。これが一体なんなのかは分からないけれど、いまぼくの勘は魔理沙がやってきたと言っていた。

 

 ぼくはきっと今、ひどく強張った表情をしているに違いない。だが心はわりと静かである。さあこい魔理沙、ぼくはここにいるぞ。漲る力が両手にある玉を潰さないように気をつけながら、ぼくは書庫の窓をにらみ付けた。

 

 以前ならバリンとガラスの弾ける音がしただろう。だが今日は違った。ドンという衝突音と共にぬらりとした塊が落ちてくる。

 

「くっそー、なんだこいつは!」

 

 そう魔理沙がぼくの罠にひっかかったのだ。ぶち破られた窓から涙型の塊がおちてくる。それは糸を引きながらまるでスローモーションのように。鋭敏さを増したぼくの精神が、刹那の出来事をゆっくりと観測した訳ではなく、にとりの光学迷彩を施された窓の裏側に、大量に仕込まれた”とりもち”の塊に魔理沙が飛び込んだだけの話だ。

 

 それは彼女の全身を包み、魔法による推進力を一気にそぎ落としたのだ。いくら彼女が空を飛びまわれるとしても、こうなれば翼をもがれた鳥でしかない。そして彼女はぼとりと書庫の絨毯に落ちた。

 

「さあこい魔理沙。ぼくは君をやっつけてやる!」

 

 こうしてぼくの幻想郷ではじめての戦いが始まった。

 

「へっ、やるじゃないかアサヒ。なら挨拶代わりに昼間に輝く星でもくらいな」

 

 魔符『ミルキーウェイ』

 

 魔理沙は身動きの取れない中、不敵な笑みを浮かべると、全身を輝かせた。

 そして放たれる昼間の星。渦巻く螺旋の天の川。

 ぼくは一瞬見惚れてしまったが、それでも身体を前に進ませた。

 

 ねえ魔理沙、ぼくは弾幕を撃てないけれど、それでも少しはかわすことくらいできるんだよ。

 きっと今のぼくの表情を見たら、メリィさんは驚くことだろう。

 こんなにも感情を露わにするなんてきっと無かっただろうから。

 

 でもぼくはちゃんと理解している。

 この感情は”楽しい”だ。

 ぼくは今、笑顔なのだ。

 さあ幻想郷よ、こんなぼくを受け入れてくれ。




終わんなかった。次回が魔理沙との戦いのメインになるかと思います。

なんかgdgdですが、これがこの小説なので申し訳ない。

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