朝陽の幻想郷   作:朧月夜(二次)/漆間鰯太郎(一次)

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プライスレスなお仕事

 職人気質なんて言葉を聞くとまず最初に浮かんでくるのは、仏頂面で強面で「バカヤロウ! 技術は習うより慣れろだコノヤロウ」的な頑固な親父を連想する。よく国営放送の番組で見かけるような。

 

 下町にある町工場だって今は最先端のテクノロジーを投入した物であるから、そういうぼくのイメージはまさにステレオタイプなのだろう。けれどまあ、気難しい部分は今もあるだろうけれど。

 

 ある宇宙ロケットの部品を作っているのは日本の町工場だと聞いた事がある。今の世の中、それなりに経済力さえあれば月にだっていける時代だ。それほどに現代技術の進歩は凄まじいのだ。けれど例えばロケットの先端部分などの繊細な箇所は、昭和と呼ばれた時代から息づく日本の板金技術が未だに採用されている。

 

 微妙な曲線を描く部品は、コンピューター制御の旋盤で加工するよりも、職人が叩いて曲げた方がいいなんてケースもあるのだ。それは人間の繊細な器用さによるものであり、それがなぜ工作機械で再現できないのかは謎だ。けれども実際そうなのだから脅威である。

 

 とは言え現代では機械やコンピューターが人の領分を侵略し、そういった人の手による技術は淘汰されつつあるのもまた、現実なのだ。

 

 ぼくは幻想郷と言うレトロすぎる土地に住み始めて数ヶ月になる。最初は戸惑うことばかりだったけれど、今はそれなりに楽しんで生活している。

 

 先日ぼくは河童である河城にとりと知り合う事となった。彼女は非常にデリケートな性格をしており、打ち解けるまでに時間を要したが、今はいい友人であると言える。というよりも、一番親しい親友と言うものに近いかもしれない。

 

 それはぼくの仕事である霧雨魔理沙から本を死守するという、業務のパートナーであると言う部分も関係しているが、単純にぼくは河童のであるにとりの技術者としての向き合い方に尊敬しているのだ。彼女もまた、なかなか理解されない科学技術というものに興味を持っている僕を信用している。そういう共通項があるってことは、同じ目線で話せる事であり、それがきっかけとなり僕らはお互いを知りえたのだ。

 

 付き合ってみれば彼女はひどくあけすけな性格で、とても話しやすいのだ。極度の人見知りという欠点はあるにせよ、一度立ち位置がはっきりとした相手には随分と気安く接してくれる。河童にとって人間は古来からの関係により盟友であると言う認識があるらしい。それがあるにしても、ぼくとにとりはとても仲がいいだろうと思う。

 

 彼女と接して感じた凄さとは、外の世界の技術を(或いはその何世代先の技術でも)再現する事に強い使命を感じており、そしてその工程をどういう訳か自らの手で賄ってしまうというところだ。最初に述べた人の手の繊細な技術、それとコンピューター制御による工作機械の精密な技術、それを彼女は試行錯誤の結果に自分のものとしてしまうのだ。

 

 日本の伝統工芸の職人が地団駄を踏んで悔しがるだろう存在が河城にとりと言う訳だ。そして彼女と出会ったことで、ぼくは魔理沙との戦いを互角以上にすることが出来た。本当に彼女には感謝してもしたりないほどに。

 

 そんな事を直接彼女に伝えたならば、きっと「よせよ盟友」なんて苦笑いするだろうけれど。とにかくぼくはにとりという莫逆の友を得て、あの強敵である魔理沙に挑んだのだった。

 

 ★

 

 今朝からぼくは先日知り合った河童のにとりと一緒に、書庫で対魔理沙の罠を仕込んでいた。ぼくのオーダーをきっちりと彼女は製作してくれた。そしてそろそろ魔理沙がやってくるだろう時期でもあり、こうして作業をしていたのだった。と言うのも実際に計測してみて驚いたのだが、書庫の採光窓は高さにして二十メートル以上あるのだ。こんなビルのような高さにある部分に届くはしごなんか無いし、そうすると飛べる者にしか設置するのが難しいのだ。

 

 だからぼくは地上での作業を手伝い、実際の設置はにとりにお願いしている。彼女もまたこの不思議な作業に興味を示し、随分と乗り気でやってくれているようだ。

 

 この部屋の主であり、ぼくの上司でもあるパチュリーさんは、今は日課の太極拳をするのだと庭に行っている。嫌がる小悪魔先輩を無理やり従えてだ。随分と積極的になったものだと感心するが、実際に体調がすこぶるいいらしく、僕としても嬉しい。もっとも、ほうれん草は未だに苦いと嫌がるけれど。それ以前に作業の最中に舞い上がる埃の影響があるから、日課が無くても追い出すつもりだったのだけれど。

 

「ねえアサヒ、これ何してるの?」

 

フランがぼくらのやってる作業を興味津々と見ている。彼女は昨夜の食事のとき、明日この作業をするのだと紅魔館の皆に伝えた。それに一番興味を示したのがフランだったのだ。彼女はいつもこの時間は寝ているはずなのに、かなり頑張ってここにいるようだ。

 

「まだ内緒さ。魔理沙がやってきたら驚かせてやるよ」

 

 そうぼくは勿体ぶる。あっさり種明かししてもつまらないだろうと思うから。

 

「ぶー……ずるいよ。じゃあ河童に聞いちゃおうかな~身体に」

 

 フランはニヤリと笑いながら、爪をシャキンと出してにとりに迫まりよる。どうみても悪乗りしてるだけだが、にとりの顔は真っ青だ。服も青いから凄いことになっている。

 

「ひゅい!? や、やややめておくれよフランちゃん」

 

 だらだらと冷や汗を流し、彼女はじりじりと後ずさるが、フランは尖った爪をぺろりと舐めながらさらに迫る。これを姉であるレミリアさんがやったのなら、どうにも可愛らしくなってしまうだけだろう。ぼくのあまり物怖じしない部分がレミリアさんとしては解せないらしく、事あるごとに僕を怖がらせようとするのだが、結果は一生懸命背伸びしようとしている子供にしか見えないのだ。その愛くるしい姿を披露するたびに、咲夜さんが鼻を押さえるのが謎であるが……。

 

 それはそれとして、どうにも最近のフランは僕がいることで加減を覚えたらしく、その上で悪戯をすると言う成長を見せたのだ。気の触れた吸血鬼であるフランドール。一度暴れると手がつけられない戦闘狂。そんな姿を意図的に披露し、怖がる相手を見てケラケラ笑うのだ。それはそれは楽しそうに。勿論される側は洒落にもならないだろうけれど、変な余裕を身につけたフランは、今やレミリアさんよりもある種の威厳があるかもしれない。絶対にレミリアさんには言えないけれど。

 

 最近などフランはこの書庫に積極的に現れ、パチュリーさんに魔法を習ったりもしている。単純にフランは頭がいいのだ。そしてパチュリーさんが言うにはフランには魔法に才があるというし。四百九拾五年もの間引き篭もっていた彼女であるから、こうして誰かに教えを請うと言う行為自体が新鮮なのかもしれない。結果、知識を得ることは心の安定にも繋がるだろうし、レミリアさんも喜んでいたりする。

 

「おいおいフラン、あんまり苛めないでくれよ。手元が狂って魔理沙に負けたら困るだろう?」

 

 ぼくは流石に怯えるにとりが可哀相になり、作業の手を止めて悪乗りしているフランの後ろから両脇に手をいれて持ち上げた。ここまでの流れでフランは漸く手を止める。なんというか様式美みたいなものだ。かまって欲しい子供がやる行動とあまり変わらない。パタパタと嬉しそうにはためく宝石のような羽がキラキラとして綺麗だが、その反応は子犬のようで微笑ましい。

 

「だってフランも遊びたいんだもん……」

 

「……美鈴さんがさっきフランと弾幕ごっこしたいって言ってたぞ?(すまない美鈴さん)」

 

 ぼくは拗ねた口調で口を尖らせるフランをなだめ、そして美鈴さんを人身御供に差し出す。子供は飽きっぽいのだ。ならどうするか? それは新しい遊びを提案すればいいだけの話である。ぼくは美鈴さんとレミリアさんを交互にあてがい、事なきを得る。一度レミリアさんに「もうやめて」と涙目で迫られたが、妹の面倒を見るのは姉の責務であると言ったら半泣きでその場にうずくまってた。

 

「ほんと!? じゃ言ってくる~ふふふ……」

 

 ほら、嬉しそうに走っていった。ぼくは美鈴さんのその後を思い、心の中で合掌する。今はパチュリーさん達も一緒にいるはずだから、彼女にも併せて合掌を。そんなぼくをにとりは胡散臭い表情で見て呆れているが、作業を進めたいのだから仕方が無い。これが紅魔館での処世術なのだ。

 

「アサヒ、あんた子供の扱い上手いね?」

 

 にとりはどこか感心したように言う。

 

「そりゃね。フランはちょっと力の強い子供だよ。でも頭はいいからちゃんと話せばわかるんだ」

 

 少しばかり得意気なぼく。

 

「その度に美鈴が泣くと……アサヒって相当鬼畜だよね。人間のくせに妖怪を手玉にとる悪だよ悪……」

 

 なんて失敬な。これは弱い人間だからこその処世術なのだ。

 

「後ろにフランが牙を向いているぞ!!」

 

「ひゅい!?」

 

 にとりの後ろを指差してやると、彼女はその場で飛び上がるほどに驚いた。

 

「なんちゃってね。さ、作業作業」

 

 本気で泣きそうになっているにとりに合掌。

 

「ほんとタチの悪い盟友だよ……」

 

 にとりの呟きが書庫に響いた。

 

 ★

 

「ん~アサヒ、この辺でいいかい?」

 

「そうだなあ、もう少し外側にずらしてくれるかい? 魔理沙に見えると困るから」

 

「わかったよ」

 

 ぼくは下から指示を飛ばす。にとりはふわふわと浮きながら、採光窓の大きさに合わせた木枠をはめていく。採光窓の大きさは幅が二メートルほどで、縦は七十センチほどある。わりと大きく思えるだろうが、咲夜さんの能力で不自然に大きいこの部屋の規模からすれば、満足に光を取り入れるレベルには至っていない。

 

 こういう大きな屋敷の地下部分と言うのはどうしても採光面でも空調面でも、地上部分に比べて圧倒的に不足になる。そのために屋敷の外側を掘りのようにし、そこに窓を取り付けることで補っているのだ。箒に乗って飛んでくる魔理沙は、ここに直接飛び込んでくるという手段を用いる。それは彼女の美学でもあるが、単純に玄関から進入し、長すぎる廊下を伝ってここへ来ることが面倒だという事もあるに違いない。パチュリーさんから聞いた魔理沙の性格とは随分と大雑把なようだったからな。

 

 そこでぼくが考えた罠の第一段階がこの窓にとある加工をほどこす事なのだ。貴重な本を奪いに来る鼠には、鼠らしい罰を与えようという考えである。そしてその罠に引っかかれば、自動的に彼女の機動力を奪う事が出来るのだ。精神的にも相当にダメージを与えられると思う。

 

 窓枠に合わせた木枠の厚さは二十センチほどもある。その中にある物を仕込んであるのだ。これは内側から見れば結構な大きさなのだが、外からは決して分からないだろう。それにはにとりの技術がふんだんに使われているのだから。

 

 ぼくが彼女とはじめてあったとき、にとりは姿を隠していた。それは彼女が言うには光学迷彩というモノらしい。具体的には周囲の景色を投影するスクリーンの役割を持つシートを被っていたと言う。そうすることで周囲の景色に限りなく自然に溶け込んでしまい、視認するのが難しくしているのだ。

 

 これは僕らの世界では既に国防軍で実用化されているし、わりとポピュラーな技術なのだけれど、にとりは自分の発想からこれを実用化までこぎつけているのだから恐ろしい。

 

 そしてそのシートを作成した外枠の魔理沙が見るだろう面に貼り付けているのだ。これなら魔理沙にも気づかれないだろう。そしていつも通りに窓を突き抜けてきたら――もう想像するだけで笑いが止まらない。

 

「よーし。んじゃこれでここは大丈夫かな。もう降りていいかい?」

 

 作業を終えたにとりはそう言うと僕の横に降りてきて笑った。自分の仕事が形になって嬉しいのだろう。しかし木枠には詰め物がしてあり、総重量は相当な物だったのに、にとりは片手で軽々と持って見せた。やはり彼女もまた力持ちな妖怪なのだとぼくは改めて理解した。

 

 「ご苦労さん、にとり。冷えたお茶があるから飲んでくれ。一休みして最後の打ち合わせをしようじゃないか」

 

「ありがとうアサヒ。遠慮なくいただくよ」

 

 僕はあらかじめ用意してあった緑茶を彼女にだしてやった。僕が紅茶ばかりで日本茶が無いことを嘆いていたら、咲夜さんがいつの間にか買ってきてくれたのだ。そしてそれを淹れたものをパチュリーさんの魔法で作った氷で、ポットごと冷やしておいたのだ。主を使うなんて酷い眷属だなんてパチュリーさんは言うけれど、出来上がったお茶を飲むとこれはこれで悪くないから定番にしましょうなんて掌を返した。

 

 ふとシャリシャリと音がする。ぼくが音の方向を見ると、にとりがどこから取り出したのか、青々としたきゅうりをお茶請けにしていた。

 

「……ねえにとり、どこからきゅうりを出したんだい?」

 

 ぼくが思わずそう聞くと、彼女は妖しくにやりと笑った。

 

「ふふふ、女には秘密が多いのさ。アサヒ坊やには少し早いけどね」

 

 突然、謎の女を演じ始めた彼女であるが、いかんせんきゅうりである。そこにぼくは何の色気も感じなかった。というよりもやはりぼくの知る伝承通り河童はきゅうりを好きなのか。そうかそうか。

 

「しゃりしゃり……」

 

 無心できゅうりを頬張るにとり。もう何も言うまい。

 

「そうだアサヒ、これが例のやつだよ。あとはあんたの主に魔力を注いでもらえば使えるよ」

 

 にとりはふと思い出したかのように、いつも背負っている緑のリュックサックから長い物を取り出した。これは別口で彼女に依頼していた武器のようなものだ。まさかぼくだって丸腰で魔理沙とやろうなんて考えてはいなかった。

 

 それはそうだろう。彼女はこの幻想郷でもトップクラスの弾幕を操る魔法使いなのだ。その彼女に比べてぼくは戦闘力と言う意味ではほとんど何も無い。例の太いレーザーなんか喰らったら、一瞬で終わりだ。その対策として作ったのがこの武器だ。

 

 にとりが次々と部品を取り出す。ぼくの手の大きさにあわせて設計した、五十センチほどの長さがあるグリップ。ここを両手で持つようになっている。そして同じ長さの棒があと五本あり、それらを繋いでいく。ちょっとした釣竿のような見た目だろうか。それぞれをアタッチメントで取り外しできるようになっており、その先端にアルファベットのUの形になった金属を取り付ける。これで完成だ。

 

 グリップ部分の一番下には蓋があり、そこに金属の筒を入れるようになっている。ようは銃弾の薬莢に似たものだ。とは言えこれは銃ではなく、もっと違ったものだ。その形状が示すとおりこれは所謂サスマタと呼ばれる道具なのだ。

 

 よく時代劇で江戸時代の奉行所の人が、下手人を取り押さえるのに使った道具だ。ただこれはその薬莢部分をこれからパチュリーさんに魔法的な何かを施してもらうことで、ぼくの武器へと変化するのだ。

 

 窓に設置した第一弾の罠を食らって大変なことになった魔理沙に、あといくつかの攻撃を加え(それもまたにとりに頼んだ)、最後のトドメをこれで刺すのだ。ぼくはそのシーンを思い浮かべ、またもやふふふとほくそ笑んでしまう。最早、魔理沙など恐れるものか。彼女はぼくに弾幕ごっこをすることもなく無様にやられるのだ。

 

「ねえアサヒ、また気持ち悪い笑い方してるよ……それ怖いからやめなってば」

 

「……すまない。というか気持ち悪い言うなよ」

 

「しかしこれだけやったら流石の魔理沙もなす術なくやられるだろうね。これを考え付くアサヒも大概さね。魔理沙は友人であるから少し可哀相になってきたよ」

 

 そういってわざとらしく溜息をつくにとり。魔理沙を心配するような事を言ってるが、思いっきりその顔は笑っている。にとりだって大概だろうに。彼女自身もこの顛末を楽しみにしているのだ。

 

 基本的に娯楽の少ない幻想郷だからそれも仕方の無いことだろうと思う。人里では人間がそれなりに遊びの文化を作っているのだろうけれど、妖怪は一々頭を捻って娯楽を作り出すなんてしない。それはやたら長命であるからもあるけれど、基本的に妖怪同士が頻繁に馴れ合うことなどしないという理由も関係あるだろう。

 

 この閉ざされた箱庭のような幻想郷で、互いに面識の無い大妖怪がいるのだって普通のことなのだ。だから暇を持て余し、有り余る力を発揮するために弾幕ごっこをするか、酒を飲んで酩酊を楽しむのだろう。レミリアさんがぼくを幽香師匠の下へ送ったのだって、後から聞いたらレミリアさん本人に幽香師匠との面識は無かったと言ってたのだ。じゃあなぜ送ったのと聞いてみれば、面白そうだったからという答えを貰った。

 

 知識として知っていても、それがイコール面識があるにならないと言う事だ。彼女の自身の能力もあって知ったと言う部分もあるだろうが、人里の稗田家の当主が代々編纂している本にもそれなりの情報が乗っているのだと言う。それを見るとある程度の実力者の名前が書いてあるのだ。ぼくはまだ見たことが無いのだけれど。

 

 まあこれで魔理沙が死ぬというほどの凶悪な仕掛けでもないし、その辺は安心してにとりも見物に回るのだろう。とは言えぼくは必死なのだけれどね。必死でやらなきゃあっという間に黒焦げにされそうだ。逆に言えばここまで周到に準備しなければ、本来は普通の人間如きじゃ相手すら出来ないのだから。

 

 そう考えるとパチュリーさん達がぼくに任せようと考えたのが腑に落ちる。ぼくは何度か咲夜さんに連れられて人里へと行ったが、そこで見たのは歴史の教科書に載っているような昔の姿のままの街並みだった。道は舗装なんかされてないし、家は長屋がほとんどで、目抜き通りもまた古風な商店街という様子である。それなりに歴史が好きなぼくの知識でいえば、江戸末期から明治初頭というレベルだと思う。

 

 ぼくは彼らと同じ人間である。だがことテクノロジーと言う部分に限っては、外の世界は別格であるだろう。ここには子供でも持っている携帯端末など無いし、そもそも電気すら無いのだから。ぼくにはここが何かのテーマパークにすら見えるくらいだ。

 

 そういった技術や知識的な部分では、多分この幻想郷の中ではトップに属する知識量だと思う。レミリアさんたちから聞いた話では、人里にも多数、外から入ってきた人間もいるらしいが、現状を見ればぼくよりも随分と昔の人間なのだろうと思うし。

 

 そういう先の知識を持ったぼくならではの発想をパチュリーさんは期待しているのだ。そして発想を再現できない部分をパチュリーさんの魔法や、にとりの馬鹿げた技術で補う。この仕事はぼくの物ではあるが、別に誰かに頼ってはいけないなんて制限も無いのだし。

 

 ぼくはこの仕事をするに当たって、彼女から金銭的な報酬を貰うわけではない。ただ衣食住を保障してもらい、メリィさんへの手紙を出してもらう、ただそれだけだ。けれどその低い保障を補ってあまりある楽しさがこの仕事にはあるのだ。これは普通の人間じゃ絶対に体験することの出来ないというのが何よりの報酬だと思う。レミリアさんがぼくを家族だと言ってくれてるのも含めて。

 

 ぼくは出来上がったサスマタを眺めながら、この奇妙な現実を思い、思わずにんまりとしてしまうのだった。

 

「何やら嬉しいのはわかるけど、その笑い方は気持ち悪いって言ってるじゃないか」

 

 本当にこの河童は失礼だと思う。

 

 とにかくこうして、魔理沙への準備は無事に終わったのだ。あとは彼女がやってくるのを待つのみだ。最初は無謀だと思ったこの仕事が、今は心から楽しみだ。そうこうしているうちに、咲夜さんが呼びに来た。彼女もまたどこかで作業が終わるのを見ていたのだろう。あまりにもタイミングがいいからね。

 

「アサヒ、お嬢様がみんなで食事をしましょうと言ってるわ。そこの河童も一緒に来なさい」

 

 ぼくは震えるにとりを引き摺って、みんなが待っているであろう食堂へ向かうのだった。

 

 




次かその次で終わる気がします。多分

今回から 僕→ぼく へと表記を変更。
理由は前後に漢字があると読みづらいから。

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