ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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2016/4/9
 改行を修正しました。


7.商人娘と風の守護神

 なだらかな山々が見渡す限り連なるフォルクエン丘陵。

 普段ならば緑生い茂り、生き生きとした動植物達に足を止める旅人も多いだろう。

 

 だが今この場所で馬車を守る彼らには、そんな景色を楽しむほどの余裕は微塵もなかった。

 

「くそっ、数が多い上にやりにくい!」

 

 スレイは馬車の屋根上で右手に儀礼剣を構え、愚痴を零す。

 

 時間は昼を過ぎた辺りのことだった。

 

 このまま今日も何事もなく進めると思っていた矢先、突然鳥型の魔物、イーグルがスレイ達に襲いかかってきたのだ。

 

 甲高い声で鳴き、鋭い鉤爪をスレイ達に向けながら迫ってくるイーグル。

 

 スレイの後ろからも、その体を引き裂かんと特攻してくる。

 

 御霊(オーブ)によりアリーシャと同じく身体能力が上がっているスレイは難なくかわし、振り向き様にイーグルを切り裂いた。

 

 今回は上手く敵を殺すことが出来たが、先程からヒット&アウェイを繰り返すイーグルに、攻撃のリーチが短いスレイは攻め倦ねていた。

 

「ミクリオ!何とかこいつらを撃ち落とせないか!?」

「さっきからやろうとしているが駄目だ!全て避けられる!」

 

 水の天響術を放つも、イーグルは嘲笑うかのようにヒラリヒラリとかわしていく。

 そしてスレイよりも弱いと判断したミクリオに狙いを定め、特攻するイーグル。

 

「まずいっ!ミクリオッ!」

「ッ!?」

 

 スレイが叫び、ミクリオのもとへ行こうとするがもう間に合わない。

 

 鉤爪が間近に迫りミクリオを切り裂かんとしたその時、先端が尖った振り子、ペンデュラムがイーグルの胸を貫き絶命させた。

 

「全く・・・。世話を焼かすな」

 

 帽子を目深に被った黒服の男が、愚痴を零しながらもミクリオを助けたのだった。

 

 

 マーリンドへ出発する当日、レディレイク前で会った黒服の天族、デゼルと再会した。

 

 デゼルはセキレイの羽に同行している天族だったのだ。

 その理由として、彼らを護るように頼まれたとだけスレイ達に教えた。

 

「これじゃ先が思いやられるな・・・。導師!俺がこのウザい鳥共を片付ける!お前はこの道の先の憑魔をやれ(・・・・・・・・・・・)!」

 

 デゼルに指示され、スレイは走る馬車のその先を見る。

 まだ距離があるため豆粒程にしか確認出来ないが、見間違いようもない黒い靄はよく見ることが出来た。

 

 

「オイお前、今から俺がどうこいつらを倒すのか、しっかり見ておけ」

「僕はミクリオだ、お前じゃない!」

「どっちでも良い。足手まといになりたくなければ見ておけ」

「・・・ッ!」

 

 

 足手まとい。

 その言葉がミクリオに二の句を接げさせなくさせる。

 

 今はスレイも導師となったばかりであるため自分と同じく弱いが、スレイには伸びしろがあり自分にはそれがない。

 

 近い将来かけ離れていくであろう実力差を思うと、暗い嫉妬が湧き出てきそうだった。

 

 

 そんな気持ちを無理矢理振り払い、今はデゼルの戦い方を観察することに専念する。

 

 

 デゼルは風の天響術を纏ったペンデュラムを自在に操りイーグルへと仕掛ける。

 しかしイーグルへと伸びたペンデュラムは、僅かに方向がズレていた。

 

「・・・攻撃が当たってないじゃないか」

「良いんだ。これは誘導(・・)しているだけだ」

 

 ミクリオを見もせずヒュンヒュンとペンデュラムを操るデゼル。

 

 やがてミクリオも気付いた。

 イーグルがペンデュラムを避けようとして、デゼルから一直線になるように仕向けられていたのだ。

 

「あいつらは獣だ。威力の関係無しに何でも避ける。だからこそ誘導してやればこの通りだ。そして・・・《贄を貫け!ウインドランス!》」

 

 デゼルの詠唱により風の刃が打ち出されイーグルへと向かってゆく。  当然イーグルは避けようとするが、ペンデュラムが邪魔をする。

 イーグルはデゼルのウインドランスを真正面から受け、全て八つ裂きにされ地に墜ちていった。

 

 

 

 

 一方その頃、スレイは疾走してくる憑魔、ハウンドドッグを待ち構えていた。

 

「あっちは大丈夫そうだな。俺も負けてられないな」

 

 ハウンドドッグのスピードはとても速く、ぐんぐんと近付いて来る。

 

 そしてそのスピードを維持したまま、スレイへと襲いかかってきた。

 

 

 引きそうになる体をぐっとこらえ、敢えて一歩踏み出す。

 

「天滝波ッ!!」

 

 

 がら空きとなっていた腹へ、霊力を纏った儀礼剣を一気に切り上げる。

 大きく切り開かれた腹から霊力が毒のように体中にまわり、悲痛な叫びを上げながら崩れ去り霧散した。

 

「ふう。よしよーし、もう大丈夫・・・あっ」

 

 スレイによって穢れを浄化された犬が目を覚ます。

 そしてスレイに気づくとすぐ、一目散に逃げてしまった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 夜。

 

「いやー、昼間は大変だったね。普段はあんなに魔物は寄って来ない筈なんだけどね」

「もっと力をつけないとって痛感したよ」

「最初にしては上出来だって!でもあの泥んこ少年がたった数日でこんなにも出世するなんてね~」

 

 スレイとセキレイの羽一行は見晴らしの良い場所で火をおこし、交代で見張りをしながら夜営をしていた。

 

「俺も導師には憧れてたけど、まさか自分がなるとは思ってなかったよ」

 

 スレイは火に薪をくべながら思ったことを口にする。

 今はスレイとロゼが見張りを担当していた。

 

「やっぱり、国から沢山支援金を貰ってるんでしょ?」

 

 指を輪っかにしてガルドを表現し、にひひといやらしい笑みを作る。

 勿論本人は冗談でやっている。

 

「うっわ、悪そうな顔。確かに貰ったけど、俺だって今度はそう簡単には騙されないぞ!」

 

 実際、殆どお金に縁のなかったスレイでも多いとわかる程の支援金を渡されていた。

 

 他にも体力回復のためのグミやボトル等のアイテム、旅のための道具一式、更にはハイランド王国領の手形や現地で融通してもらうための書状まで用意されていた。

 

 そしてもう1つ、導師の伝承に倣って、白を基調としたマントも渡されていた。

 

 今スレイは元々着ていた青い服の上に、そのマントを着ている。

 スレイとしてはアリーシャから結局貰った騎士服の方が良かったのだがマントに似合わず、また旅に向かないということでアリーシャ専属のメイド、クロエに預けることとなった。

 

「いやあたし騙してないし!ちょっとからかっただけじゃん!・・・まあ、自分で騙されないって言ってる人間程危ないんだけどねー」

 

 スレイの言葉を否定したあと、敢えてスレイに聞こえる程度の小声で独り言を呟く。

 

「どういうこと?警戒してる分、騙されにくいんじゃないか?」

 

 案の定、スレイは小声を聞き逃せず聞いてしまう。

 

「多分スレイってさ、今売られている物の価値を全然知らないでしょ?」「うん。正直全くわからない」

 

 困ったように笑うスレイ。

 

「例えばスレイがグレープグミを欲しかったとして、今売ってるのが3千ガルド。だけど適正価格は2千ガルド。お金は国持ち。さてどっちを買う?」

「うーん・・・。お金を気にしないで良いならその場で買うかな。わざわざ他を探してまで2千ガルドで買う必要もないし」

 

 スレイが選んだ方を聞いて、ロゼはうむうむと頷き満足そうにする。

 

「まあ当然そうするよね~。でももしもっと高い買い物で、売る側が不当に値段を釣り上げていたら?適正価格が分からず、懐も別に痛まなかったら?」

「買う・・・かも」

 

 スレイが眉間に皺を寄せながらも肯定する。

 

「でしょ?それでカモと思われたら気づかずにお金をふんだくられるから気を付けなよって話!」

「なるほどなー。ロゼと話してると本当勉強になるよ!」

「うむうむ。それは良かった!ではスレイ君、今の話の授業料をば!」

 

 両手を擦り合わせ、にひひとまたいやらしい笑みを作ってお金をせびるロゼ。

 勿論これも冗談である筈である。

 

「うわ、ロゼ悪どい。・・・はっ!もしかして今までの話、全部ロゼが実際にした売り方なんじゃ・・・」

「そんなことするかっつうの!!あたしは真っさらな商人掲げてるんだから!どんだけあたしのイメージ悪いんだか!」

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「ねえ、話は変わるんだけどさ。スレイって見えない何かを連れてるの?」

 

 ロゼの真剣味を帯びた問いにスレイはギクッとなる。

 

「えっと・・・、どうしてそんなことを聞くんだ?」

「どうしてって、そりゃ何も無いところから水鉄砲が魔物を攻撃してたらそう思うでしょ」

 

 

 確かに、スレイ1人では魔物を捌ききれず、ミクリオが天響術で魔物を牽制していた時はあった。

 スレイは何と言えば良いか頭を悩ませ、押し黙ってしまう。

 

 

 ちなみに今ライラはアリーシャの傍におり、ミクリオは少し疲れたと言ってスレイの体の中で休んでいる。

 今までイズチの里では、ミクリオ達天族は人間と同じようにベッドの上で寝ていたが、スレイのような特殊な人間がいれば、その肉体に宿って休むことが可能だ。

 

 

 スレイの態度で聞かれたくない話だと勘違いしたロゼが先に口を開く。

 

「あー、ごめん。あたしの聞き方が悪かった。実はもう知ってると思うけど、あたし達セキレイの羽には風の守護神様がついてるんだ」

「風の守護神様?」

 

 

 スレイはチラリと、馬車に背を預けて腕組みをしているデゼルを見やる。

 

「あ、今そっちにいるんだ。それでその風の守護神様も風を操るから、スレイの見えない仲間も同じなのかなーっと思ってさ」

 

 再度ごめんね、と苦笑いしながら話題を終わらせようとするロゼ。

 

 ロゼの正直な態度に、スレイも黙るのを止めることにした。

 

「・・・天族っていうんだ」

「ん?」

「見えない仲間達のこと。ロゼ達を守ってる天族はデゼルって名前だってさ」

 

 スレイが何を言っているのか理解し、ロゼは目を見開く。

 そして嬉しそうにそっかぁ、天族のデゼルかぁ、と呟いている。

 

 デゼルのいる方向へと振り向いた。そしてデゼルへ、笑顔で一言。

 

「天族のデゼル様っ!いつも守ってくれてありがとっ!」

「・・・・・・フン」

 

 返事らしい返事をせず、黒い帽子を深く被り直してそっぽを向くデゼル。

 

 ロゼにそんなデゼルの様子が判る訳もないが、ロゼは満足そうにしていた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「これは、そんな・・・」

 

 朝方復調したアリーシャは、特にライラやセキレイの羽、そしてスレイと共に馬車を護衛していたデゼルに感謝の意を伝え、スレイと共に護衛としての任務を果たしていた。

 そして昼頃、あと少しでマーリンドへ到着するという時に、目の前の光景に絶句してしまった。

 

 なだらかな山々が並ぶフォルクエン丘陵、その隙間とも言うべき道の先に、今も疫病で苦しめられている町、マーリンドがある。

 

しかし今その道は、大量の土砂によって全く通行出来ない状態となっていた。

 

「刻一刻を争うという時に、これでは物資の輸送も救助も何も出来ないではないか・・・!」

 

 茫然し途方に暮れるとするアリーシャ。

 セキレイの羽も戸惑っている。

 

「これは・・・、他に何か手はないのか?!」

「・・・地の天族の力を借りましょう」

 

 スレイの悔しそうな叫びに、ライラが静かに応える。

 

「地の天族?」

「はい。ここより西にある霊峰レイフォルクに、1人で住んでいる筈ですわ。彼女の力でこの土砂をどかしてもらうのは如何でしょう?」

「・・・うん、そうしよう。それが良いと思う。アリーシャもそれで良い?」

「ああ!霊峰レイフォルクなら、馬で行けばそこまで遠くはない。ライラ様、ありがとうございます!」

「いえいえ」

 

 ライラの提案にスレイ達は決断しそれに乗る。

 

 そうと決まれば善は急げ、セキレイの羽にもそのことを伝え準備を始める。

 

 スレイの突飛な話に多少驚いていたものの、やはりデゼルのことがあってか、比較的すんなり受け入れられた。

 ロゼもフォローに回ってくれたことも大きかった。

 

 セキレイの羽はここに留まり、スレイ達は出来るだけ速く地の天族を連れて来ることで合意した。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「待て」

 

 早速霊峰レイフォルクへ出発しようとしていたスレイ達を、呼び止める者がいた。

 

「デゼル?どうしたんだ?」

「俺も行く」

「え?でもロゼ達の所にいなくていいのか?」

 

 チラリとロゼ達の方に視線を向けるスレイ。

 

「風の力で周辺を調べたが、昨日の憑魔のような導師なしでは厄介な奴はいなかった。なら俺の力で移動を速めて、とっとと地の天族を連れて来る方が効率が良い」

 

 そうスレイに進言してくるデゼル。

 

 風の天族は空気そのものやその流れを操ることが出来る。

 マーリンドの状況もよくわからない今、スレイが断る理由は見当たらなかった。

 

 エギーユから馬も一頭借りる。

 

 ライラとミクリオは、移動中はスレイの体に宿ってもらうことになった。

 デゼルも己を光球に変えてスレイに宿る。

 

 スレイは乗馬をしたことがないため、アリーシャに手綱を握ってもらう。

 

『いくぞ。《クイックネス!》』

 

 デゼルはスレイとアリーシャが馬に乗ったのを見計らい、風の天響術をかける。

 馬はデゼルの風に慣れているのか、平気そうにしていた。

 

 

 目指すは霊峰レイフォルク。

 そこで地の天族の協力を得ることだ。

 




※今回から文章に区切りをつけてみました。

 次話投稿は来週金曜日の予定です。
 そのあと以降の展開を調整したいので、申し訳ありませんが期間が空くと思います。

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