ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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副題:「女性は強し」

※真名はマオクス・アメッカを起点に考えているので、おかしく感じる方もいるかと思いますがご了承下さい。

2016/2/28
 真名の間の部分を変更しました。
 例:マオクス・アメッカ→マオクス=アメッカ

2016/4/9
 改行を修正しました。


6.真名

 疫病の蔓延る町マーリンドへ向けて、スレイ一行を乗せたキャラバン隊の馬車は走り続ける。

 

 

 マーリンドへの物資は、数日前スレイが煙管を換金した商人キャラバン隊『セキレイの羽』が請け負うこととなった。

 

 彼らは人数が5人と少ないものの、どんなところにでも必ず商品を届けて売ると評判であった。

 

 

 そんな中、スレイに同行する騎士姫アリーシャは、揺れる馬車の中・・・・・・ぐったりと寝込んでいた。

 

 

「ご迷惑をお掛けして誠に申し訳ありません、ライラ様(・・・・)・・・」

「いいえ~。従士として必要な試練ですから仕方ありませんわ」

 

 アリーシャの弱々しい声にライラが優しく応える。

 

 

 驚くべきことにアリーシャには今ライラがしっかりと見え、スレイの助けを借りずに会話することも可能となっている。

 

 実は2日前、マーリンドへ出発する前日にスレイと従士契約を結んだためであった。

 

 その恩恵として、ライラ達天族が認識出来るようになったのだ。

 そしてその代償、というより弊害としてアリーシャは今も高熱と体の激痛に苛まれていた。

 

「殆ど目を覚まさなかった昨日より随分と良くなってますわ。もう少しの辛抱ですよ」

「はい・・・」

 

 布でアリーシャの汗を拭きながら励ますライラに力無く笑顔を作るアリーシャ。

 

 今アリーシャは鎧も上着も脱ぎ、花のような髪留めも取って楽な格好で寝ている。

 

 ちなみに敷布団はライラのものを借りていた。

 

 ライラいわく、布団の内側に薄い水袋を入れ、それを羽毛で覆って作った最高の寝心地を堪能出来る布団なのだという。

 

 水と羽毛による反発性は素晴らしく、天響術で水を温めれば暖かく過ごすことも可能。

 そして更に水を抜けば小さく畳んで、収納して持ち歩くことすら可能な優れた一点物・・・であるらしい。

 

 

「あ、アリーシャ起きた?」

 

 御者席に開いている窓から、顔を覗かせてアリーシャの様子を窺うスレイとミクリオ。

 

「あ、ああ・・・。その、大丈夫・・・」

「いけません、スレイさん!!」

 

 気まずそうに顔をそらして答えようとしたアリーシャを、ライラがスレイの視線を遮るように立ちはだかった。

 

「え、何?」

「お2人共!汗の掻いた女性の寝姿を見ようなどと、言語道断ですわ!デリカシーが無さ過ぎます!」

「わ、わかった。ごめん・・・」

 

 普段からは想像も出来ないような剣幕で言い放つライラにスレイはたじたじになる。

 ミクリオも驚いてすぐに顔を引っ込めた。

 ライラの想いが伝わったのか、同じく御者席に乗っていたロゼにも怒られていた。

 全く!これだから男は・・・等々がアリーシャ達の耳に聞こえてくる。

 

「さあ、わたくしがスレイさん達を(・・・・・・・)見張っていますから、ゆっくりと休んで下さい」

 

 アリーシャの方へくるりと向き直り、優しく布団を掛け直す。

 

 意外と世話好きなようだ。

 

 苦笑しながらライラに感謝を述べ、アリーシャはまた眠りに就く。

 

 

 夢に見た天族との出会いと、素敵な真名を授けられた2日前の出来事を思い出しながら・・・。

 

 

 

 

「従士契約?」

「はい。従士契約とは、天族や穢れの見えない一般人が導師の眷属となることでそれらを認識し、共に戦えるようになる術ですわ」

「そんなことが可能なのですか?!」

 

 ライラの説明に驚くアリーシャ。

 ちなみに今は人気のない所でスレイを介して話している。

 

「では私も・・・」

「お待ち下さい」

 

逸る気持ちで従士契約をお願いしようとするアリーシャをライラが制する。

 

「従士契約には幾つかの問題がありますわ。まず従士は浄化の力が使えず、身体能力が上がるのみ。そのため従士の主な役目は敵の足止めや囮、盾役、浄化可能になるまで弱らせることなど、役目として辛く苦しいものばかりですわ」

 

 ライラは視線を下に落とし、瞳を揺らす。表情は悲しんでいるのか、憂いているのか判別がつかない。

 

「それに従士契約後、数日間は高熱や激痛に見舞われますわ。それでも、行いますか?」

「・・・問題ありません。元よりスレイの後ろでただ控えている気などありません。覚悟の上です」

「・・・・・・わかりました」

 

 アリーシャの固い決意に、ライラは一度目を閉じてから、揺れる気持ちを振り切るかのようにしっかりと目を見開いた。

 

 

「では従士契約の前に、まずスレイさんに真名をつけましょう」

 

 ライラはスレイの正面に向き直る。アリーシャを離したスレイの両手を前に差し出してもらい、優しく握る。

 

「《我より生まれし聖なる苗に息吹を与え、枝葉を伸ばしここに芽吹かん。覚えよ。導師たる汝の真名は・・・・・・『自由な旅人』(シャルテ=リレイテ)》」

 

 ライラが真名を口にした瞬間、スレイの中の霊力が一斉にざわめき体中を駆け巡る。

 勢い余った霊力の一部が光となってスレイから溢れ出し、空中へと散り消えていった。

 

「スレイ、大丈夫か?」

「・・・大丈夫。だけど、なんだか物凄かった」

 

 心配したミクリオが声をかける。

 スレイはまだ少し呆けた顔をしていたが、手を閉じたり開いたりして体を確かめていた。

 

「これで、あとはスレイさん次第で神依を使えるようになりますわ。わたくしのつけた真名は気に入りましたか?」

「ああ、すごく良いと思う!」

「確かに、これからのスレイにはピッタリかも知れないね」

 

 スレイの喜びようを見て、ライラも嬉しそうに微笑む。

 

「そして完全な神依に必要なわたくしの真名ですが、スレイさんの道を切り開く剣、『想い焦がす情熱』(リュケーネウロ=アメイマ)ですわ。共に平和な世界のために頑張りましょう」

 

 

 

 

 

「さあ、次はアリーシャさんの番ですわ」

「アリーシャ、今から従士契約をするって」

「あ、ああ!」

「ではスレイさん、アリーシャさんの両手を輪になるように握って下さい。わたくしの詠唱に続いてアリーシャさんに真名をつけてあげて下さい」

「・・・わかった」

 

 アリーシャに声をかけ、ライラの指示通りに手を握るスレイ。

 緊張した面持ちでアリーシャは目を閉じ、じっと待つ。

 ライラは2人の肩に手を置き、目を閉じ気を静める。

 

「では始めます。《導師に宿りし聖なる枝樹に新たなる芽いずる。覚えよ。従士たる汝の真名は・・・》」

「・・・《『咲き誇る笑顔』(マオクス=アメッカ)》」

 

 スレイが真名を口にするとスレイからアリーシャへ光が流れ込む。 今まで感じたことのない感触に戸惑うアリーシャ。しかし、

 

「アリーシャさん、大丈夫ですわ。怖がらずに受け入れて下さい」

「は、はい!」

 

 ライラに怖がらなくて良いと言われ、意を決して身を任せることにする。

 

 スレイから小さな光の塊ようなものが流れ込む。

 

 従士になるには導師に宿る御霊(オーブ)のごく一部を分けてもらい、それによって従士として覚醒するのだ。

 

 その御霊の一部が霊力を生み出しアリーシャの体内を巡る。

 

 体内を巡るものに暖かさを感じるアリーシャだがしかし、自分の体に合っていないようなザラつく違和感が残った。

 

「従士契約は無事終わりましたわ。目を開けて下さい」

 

 ライラに促され、恐る恐る目を開けるアリーシャ。

 そこにはスレイの他に、今まで見たことのない神秘的な装いをした男女がアリーシャを見つめていた。

 

「あなた方が、ライラ様に、ミクリオ様・・・?」

「初めまして、と言うべきでしょうか。わたくしがライラですわ」

「僕がミクリオだ。声でわかると思うけどね」

「はいっ!初めまして・・・、お会い出来て光栄ですっ・・・!」

 

 涙ぐみながらも顔全体で喜びを表すアリーシャ。

 そんなアリーシャを3人は微笑ましそうに見ている。

 

「それにしてもスレイ、先程の『マオクス=アメッカ』とはどんな意味なんだ?」

 

 涙を拭いながらスレイに尋ねる。

 その問いかけに、ライラは口元に手を当ててニコニコとし、ミクリオはニヤニヤとスレイをからかうように見ていた。

 

 スレイは頬を掻き、照れたように視線をずらしながら言う。

 

「その、『咲き誇る笑顔』・・・。今のアリーシャみたいな、花が咲いたような笑顔を想像して、つけたんだ・・・」

「ここはもっとビシッと言うべきじゃないのか?」

「ですわね~」

「う、うっせー!」

 

 茶化す天族2人。照れ隠しなのか、2人に声を上げるスレイ。

 

「・・・嬉しい」

「う、うん・・・」

 

 頬を染め、下を向きながらも感想を伝えるアリーシャ。

 たった一言だが、言い表しきれない沢山の想いがそこに詰まっていた。

 

 言葉を発しにくい気まずい沈黙が場を包む。

 

「あ、あのっ!天族様!失礼は重々承知ですが、触れても構わないでしょうか!?」

「え、ええ!勿論ですわ。ふふっ」

 

 無理矢理沈黙を壊そうと、アリーシャが慌ててお願いする。

 驚きはしたものの、アリーシャが天族に会うことを夢見ていたとわかっているライラはそれを承諾する。 差し出される手におずおずと触れる。

 そしてぱぁっと顔を綻ばせるアリーシャ。

 まるではしゃぐ子供のようだ。

 

 スレイに背中を押され、ミクリオもアリーシャの前に行く。

 ライラに倣ってミクリオも手を差し出そうとしたところで、ふらり、とアリーシャが抱きついて来た。

 

「ちょっ!?ああアリーシャッ?!」

「ミクリオ様・・・。申し訳、ありません・・・。私・・・」

 

 アリーシャの突然の行動に慌てふためくミクリオ。

 首にかかる熱い吐息、頬を赤くした潤んだ瞳に、ミクリオは熱に浮かされそうになる。

 

「ああアリーシャ、嬉しい気持ちは分かるっ!だだが少し大胆過ぎるんじゃないかと・・・」

 

 ミクリオが言い終わる前に、ライラに頭をペシンと叩かれる。

 

「何お馬鹿なことを言っているんです!先程言った高熱が始まったのですわ。早く安静にしてあげなければいけませんわ」

「あ、ああ・・・」

 

 ライラに怒られ、スレイがアリーシャを背負い安静に出来る場所へと移動する。

 

 このあとミクリオは先程の醜態をスレイに存分にからかわれたことは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 その翌日。

 アリーシャの体調不良で出発は延期になる予定だったが、アリーシャが目を覚まし、自分の我が儘でこうなったのだからと半ば強行に出発した。

 セキレイの羽の面々はアリーシャの容態を心配そうにしていたが、熱と痛みを抑え込んで必死に頼むアリーシャに根負けして、少しでも悪化したら引き返すという条件で了承した。

 

 ちなみに、ぐったりとしたアリーシャを連れてきたスレイは、ロゼから無理矢理連れてきたと思われ再会してすぐに理不尽な平手打ちを食らっていた。

 




次は来週金曜日を予定しています。

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