ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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2016/4/9
 改行を修正しました。
 叔父様→叔父上に変更しました。


5.国王との会談

 あの後スレイの旅に同行することについて、アリーシャは前向きに考えてみると言った。

 

 まだ事件の後処理をしなければならないからということで戻ろうとしたアリーシャだったが、その時部屋に扉をノックする音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 翌日、スレイとアリーシャ、それに人から認識されないミクリオとライラは、レディレイクの上方にあるラウドテブル王宮へと登城していた。

 

 その理由はやはり導師スレイだ。

 

 混沌の世を鎮めるとされる導師が誕生したとあって、ハイランド王国からの支援等も含めて話をしたいと昨夜言伝をもらったのだ。

 

 エントランスホールを抜け、そのまま真っ直ぐ謁見の間を目指す。

 

 そして間もなくその扉へとたどり着き、スレイ達は気を引き締め入室した。

 

 

「ようこそ導師よ」

 

 玉座に座ってこちらに声をかける壮年の男性。彼こそがアリーシャの父であり現国王のランスラッド・ディフダ王その人である。玉座から少し段の下がった両隣には、宰相らしき側近とランスラッド王の弟であり継承権第一位のバルトロ・ディフダがいた。

 

 

「召喚に応じ参上致しました。アリーシャ・ディフダと導師スレイです」

「うむ。楽にして良い」

「はい」

 

 国王はスレイへ顔を向ける。

 

「さて、よくぞ参られたスレイ殿。伝承の上でしか語られていない導師に一目会ってみたくてな。しかし若いな。年はいくつだね?」

「今年で17になります」

 

 このような初めての場所に緊張しながらもしっかりと受け答えするスレイ。

 

「17か。アリーシャの2つ年下になるな」

「はい。ですが彼はその年にして余りある勇気と行動力で私を救ってくれた、立派な少年です」

「うむ、そうだな。スレイ殿、娘の窮地を救ってくれたこと、誠に礼を言う」

 

 アリーシャの誉め言葉と国王からのお礼の言葉に緩みそうになる頬をしっかりと締めるスレイ。

 

 隣にいるミクリオも、自分のことのように嬉しそうにしている。

 

「さて、ここから本題だが、導師の目的が異変の原因を突き止め浄化することだと聞いている。そして魔物になったものを戻すことも」

 

 現在は導師は救世主という認識のみで、具体的に何をするかなどは世間に知られていない。

 

 

そのため昨夜言伝をもらった後、アリーシャによって天族の存在を除いた(・・・・・・・・・)導師の目的やその力が報告されていた。

 天族はその性質から暗殺者向きだ。

 国からの後ろ暗い依頼を受けないためにも、スレイ達4人で話し合い天族の存在を伏せることにしたのだ。

 

 アリーシャ自身、必要なことならば何でも使うきらいのある国王であったが、信頼している。

 

 しかし叔父であるバルトロに対しては警戒していた。

 

 

 宰相が兵士に合図をし、箱型の檻を持って来させる。人の腰程の大きさの檻に入っていたのは、黒い靄を発生させる緑の体表とギラついた目と口が特徴的な憑魔、ゴブリンだった。

 

「これは魔物化の兆候があった城下の子供をいち早く檻に入れたものだ。浄化を頼めるだろうか?」

 

 国王はこの憑魔を使ってスレイの実力を推し量ろうとしていた。

 

 魔物化とは、近年その数を増やしている現象だ。

 突然人間が魔物に変化するため、今まで原因は謎に包まれていた。

 しかしアリーシャの報告により、導師ならどうにか出来るのではないかと、こうして導師の前に持ち出したのだ。

 

 

 憑魔へと一歩に出るスレイ。

 憑魔は檻から出ようと暴れるが、弱い個体の憑魔であるため逃げ出すことは叶わない。

 

 憑魔を弱らせて大人しくさせるため、スレイはミクリオに目で合図する。

 しょうがないとばかりに肩をすくめながらも杖を出現させ構えるミクリオ。杖は霊体化してあるため、人から見えず出し入れ可能だ。

 スレイも儀礼剣を構える。

 

「《双流放て!ツインフロウ!》」

 

 ミクリオの天響術に合わせて剣を振るスレイ。

 ミクリオの声と同時に、杖の先から水が出現する。そしてそれは2つに分かれ、水流が螺旋を描きながら憑魔へと真っ直ぐ向かい直撃する。

 螺旋の水流の直撃によりフラつく憑魔。

 

 続いてスレイが剣に霊力を纏わせ横に振ると、それは波のように前方へ飛び憑魔を切り裂いた。

 

「ほう・・・。見事」

 

 果たして憑魔の体はボロボロに崩れ去り、虚空へと溶けていく。そして残ったのは4~5歳程のまだ幼い子供のみとなった。

 

「導師の実力、しかと見た。あれで全力ではないのだろう?」

「はい!もっと強い憑魔・・・、魔物でも問題ありません」

 

 国王は聖剣祭での顛末も当然耳にしている。実力はもっと上だと確信していた。

 

「うむ。では貴殿を本物の導師と認め、国として支援しよう」

「では兄上、支援の一つとして、私から導師の旅に同行する優秀な部下を用意しましょう」

 

 今まで事の成り行きを見守っていたバルトロが口を挟む。

 

「お待ち下さい叔父上。旅の同行に関して、既に私が導師から声を掛けて頂いています」

 

 アリーシャはバルトロに対して静かに、だがはっきりと告げる。

 

「ふん、小娘が何を言う。貴様1人では導師を守ることすら出来んだろう」

 

アリーシャがバルトロの言葉に対して言い返そうと口開きかけたところで、スレイに止められる。

 

「俺・・・、私は力があるから守ってもらう必要はありません。むしろ、住民との仲介や交渉の方がよっぽど必要です。それにはアリーシャ殿下のような民衆に支持のある人間が適任です」

 

 スレイはバルトロに対して毅然とした態度で言い放つ。

 嘘は言っていないが、バルトロのアリーシャに対する言い草には少しムカッときていた。

 

「しかし導師殿、仮にも一国の姫を簡単に・・・」

「良かろう」

 

 バルトロが言い終わる前に国王があっさりと許可を出す。

 

「あ、兄上!?」

「騎士などをしている時点で、姫云々の言い訳は通らんわ。導師よ、バルトロの言っていた通り腕は未熟だが、本当に良いのだな?」

「はいっ!」

 

 スレイの返事に満足そうに口をつり上げると、国王はアリーシャへと向き直る。

 

「アリーシャよ」

「はい」

「お前は努力家なれど、未だ騎士としても王女としても半人前だ」

「・・・」

 

 アリーシャの顔が下を向く。

 

「だからこそ、この旅で国を、世界をその目でしっかりと見てきなさい」

「・・・!はいっ!」

 

 国王の言葉にハッと顔を上げるアリーシャ。そして国王の期待に応えるかのように、声を上げて返事をするのだった。

 

 

 旅の物資や路銀等の話は滞りなく進んだ。

 

 国からの依頼としてスレイ達はまず、現在原因不明の疫病で悩まされている町、マーリンドへと向かうことになった。

 道中の必要な物資を届ける者達の護衛と、被害の原因を究明することを任されたのだ。

 

 

 国王との会談は終わった。

 だがその間中、バルトロはスレイとアリーシャをずっと憎々しげに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

「あの、ミクリオさん。ミクリオさんは氷の天族ではないんですの?」

 

 

 会談が終わった後、スレイ達はレディレイクへと戻ってきていた。

 そこでライラが疑問をミクリオに投げかける。

 

「いや、僕は水の天族だ。氷の天響術が使えるのは、母さんがくれたこのサークレットのお陰なんだ」

 

 そう言ってミクリオは前髪をかき上げる。

 そこには確かに綺麗な細工の施されたサークレットがあった。

 天族にはいくつかの属性があり、それによって使える天響術がそれぞれ違ってくる。

 

 属性は8つ。火・水・風・地・氷・雷・光・闇となる。

 

 

「少し見せてもらっても?」

「ああ、構わないよ」

 

 ミクリオがサークレットを外し、ライラに手渡す。

 

「・・・やはりこれには御霊(オーブ)が宿っていますわね。・・・あら?この真名は・・・」

「ん?」

「あ、いえ、何でもありませんわ」

 

 笑顔を浮かべて誤魔化すライラ。

 天族が作り出す御霊の使い道として、2通りある。

 

 1つは適性のある人間に宿して導師とすること。

 そしてもう1つは道具に宿すことだ。

 御霊を宿した道具には、御霊を作り出した者の真名が刻まれる。

 そして道具の所持者は、御霊の属性に応じた天響術を使うことが出来るようになるのだ。

 

 

 ミクリオの場合、水系の天響術のみ使うことが出来るが、氷属性の御霊が宿ったサークレットを所持しているため氷系の天響術も使うことが可能である。

 

 

「それにしても、あのバルトロという男。どうにも良い感じはしなかったな」

「そうですわね。終始お2人を睨んでいましたし」

 

 ミクリオにサークレットを返しながら先程の会談の様子を話す。

 

「あの人、アリーシャを目の敵にしているみたいだったよな」

「うん?」

「あ、バルトロって人の話をしてたんだ」

 

 天族の声が聞こえないアリーシャにスレイが手短に説明し、ついでに話が聞こえるように手を繋ぐ。

 

「お2人を睨んでいたので心配になりまして・・・」

 

 スレイの肩に手を置き話すライラの言葉ですぐに納得するアリーシャ。

 

「確かに叔父の動きには注意を払っておく必要がありそうですね。叔父は以前暴動になりかけた際、武力で鎮圧させようとして失敗したのです。その時後釜として一任された私がなんとか鎮めたため、敵視しているのだと思います」

 

 アリーシャは表情を暗くしながら答える。

 

 実のところ、ルナールという暗殺者を差し向けたのもバルトロではないかと疑っているのだ。

 

「でもアリーシャってすごいよなー。そんな状態から民衆を鎮めて支持まで得たんだから」

「そんなことは無いさ。クロエや他の人にも手伝ってもらったし、私は、ただ諦めたくはなかったから。それに民衆の支持なら君だってあるだろう?」

 

 

 そう言ってアリーシャは視線を別の方へと向ける。

 スレイもそちらに目を向けると、疎らに集まった人々がスレイを見ていることに気付いた。

 

 

「あっ!導師様だー!」

「昨日の剣出すところ見てたぜ!すげー格好良かった!」

「最後倒れたのはダメだったけどねー」

「まあ!姫様と手を繋いで(・・・・・)歩いちゃって、仲が良いのねぇ~」

 

 人々の声に空いている手を振って応えるスレイ。

 そしてまたその声で今の状況を思い出し、繋いだ手をパッと放して離れる。

 

 それをしっかりと見ていた人々ははやし立て、2人を赤面させるのだった。

 

 

 そんな2人、というよりスレイを見て、少しだけ寂しそうにしている少年が1人。

 

「・・・ミクリオさん?どうしました?」

「・・・・・・いや。ついこの間までいつも隣を歩いていたのに、この町に来てからたまにスレイが遠く感じるなと思ってね」

「なるほど。所謂(いわゆる)ホームショック(・・・・)ですわね」

「・・・・・・・・・・・・いや全然違う。納得しかけたけど。それにショックじゃなくてシックだ」

 

 

 

 

 

 

「それにしても、手を繋いでいないと会話が出来ないというのは色々と不便だな」

「確かに。特に町中じゃ変な誤解をされかねないよな」

 

 ミクリオの言葉にスレイが同意する。

 

 するとライラがこんな提案をしてきた。

 

「ではスレイさんの真名も決めなければいけませんし、アリーシャさんと従士契約をしては如何でしょう?」

 


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