ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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41.真の仲間

「……え、あれ?なんで……まさか、俺……っ!?」

 

 アリーシャの尋常でない様子に、遅れて自分の身に起きていることを悟るスレイ。

 

 焦りと不安を織り交ぜながら目をよく凝らし、どんな小さな声も聞き逃さないとばかりに耳にも集中するが、何も変わらない。

 

「ア、アリーシャ…。みんなは…ミクリオは、今どこに……?」

 

 周囲の静けさに耐え切れなくなったスレイが呻くように尋ねる。

 

 アリーシャは無言のまま、指し示すように顔をある方向へ向けた。

 恐らくはその眼差しの先に、ずっと一緒に過ごしてきた唯一無二の親友がいるのだろう。

 

「……ミクリオ?」

 

 誰もいないその場所へ呼びかけてみる。

 

 だが、何も返ってはこない。

 

 実際にはその間もミクリオは幾度となくスレイに呼びかけているのだが、それを知るのはアリーシャと天族のみである。

 

 

 これがただの冗談であれば、どんなに良かっただろう。

 

 わっ!という声が響くと同時にミクリオ達が姿を見せ、皆一様に悪戯っぽく笑っていたなら、どんなに安心しただろう。

 

 

 まるで細い崖の道を目隠しで歩くかのように、覚束ない足取りでミクリオのいるであろう場所へ歩き、手を伸ばしてみるが空を切るだけ。

 

 

 ミクリオは視線も交わらないまま、自分の目の前で必死に手を振るう親友の滑稽(こっけい)な姿に、言いようのない(むな)しさと悲しさが湧き立つ。

 

 そしてついに耐えられないとばかりに膝から崩れ落ちた。

 

 今にも泣き出しそうな、くしゃくしゃに歪んだ酷い顔だった。

 

 

「どうして……っ、なんで、こんな……っ!!」

 

 ミクリオの悲痛な声が辺りに響くが誰もそれには答えない。

 

 

 自分の世界から取り除かれたかのように。

 自分が世界から切り離されたかのように。

 

 誰もいない。

 そこに存在していない。

 

 天族を認識出来ないということがどういうことなのかを、スレイは本当の意味で思い知ったのだった。

 

 

 

 どれだけの時間そうしていただろう。

 アリーシャはこれではいけないとばかりに頭を振ってスレイに話しかける。

 

「……とりあえず、私の屋敷に行かないか?ここに居るよりはまだ落ち着けるはずだ」

「…………そう、だね」

 

 今だ放心しているスレイだったが、何とか返事を絞り出す。

 

「ライラ様にミクリオ様、エドナ様もそれでよろしいですか?」

「……そうですわね。そうした方が良いでしょう」

 

 ライラは肯定し、エドナも頷いた。ミクリオは微動だにしないままであったが、ライラに促され何とか立ち上がった。

 

 

 そこへ一人の騎士がアリーシャの元へと駆け寄ってくる。

 

「姫様、お怪我はありませんでしたでしょうか!?」

「…大事ない。こちらへ来た魔物(・・)は私達で対処した。一体何があった?」

「それが…貴族街に迷い込んだ犬が突然魔物化したようです」

「そうか……。被害は?」

「目立った被害はありません」

「ならば良い。引き続き周辺の警護を頼む」

「はっ。承知いたしました」

 

 騎士はアリーシャに敬礼して去っていく。

 

 アリーシャ達もその場を後にした。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ラウドテブル王宮から逸れた貴族街。

 その先にアリーシャの邸宅があった。

 

 ラウドテブル王宮とは比べるべくもなく、王女が住むにしてはややこじんまりとしている。

 建物の造りはしっかりとしていて開放的なテラスには光が十分に射し、庭は質素であるが上品に整えられていた。

 

 そしてそれはアリーシャの雰囲気にとてもよく似合っている。

 

 

 普段、アリーシャは側仕えであるただ一人のメイド、クロエと共にこの場所に住んでいるのだった。

 

 

「お帰りなさいませ、お嬢様。……如何されたのですか?」

 

 戻ってきた主人に対して恭しく頭を下げるクロエだが、アリーシャやスレイの表情が陰っていることに気づき、心配そうに尋ねる。

 

「いや……。クロエ、お茶の準備を――」

 

 頼む、と言いかけたところでアリーシャはある問題に気がつき、ライラ達天族に目を向ける。

 

 

 クロエを含め、一般人には天族が認識出来ない。

 

 そのため彼女にお茶を頼んだ場合、アリーシャとスレイの二人分のお茶しか用意されないことになる。

 

 だが実際には天族を含め五人いるのだ。

 

 来客用の椅子は揃っているため問題はないが、カップなどの食器等はそうではない。

 不必要に多く頼めば不審に思うだろう。

 

 だからといって尊敬するライラ達天族を居ない存在として扱うなどと、アリーシャにとって全くの論外だ。

 

 天族の存在は出来る限り秘密にする方針である以上、彼女に給仕をしてもらうわけにはいかなかったのだ。

 

「お嬢様?」

「ああいや、なんでもない。…お茶は私が準備しよう。クロエは仕事に戻ってくれ」

「え!?いえ、お客様がお出でになっているというのに、お嬢様にそのようなことをさせるわけには参りません。どうか私にお任せ下さい」

「それは……」

 

 言い淀むアリーシャへライラが合いの手が差し伸べられる。

 

「わたくし達のことは気にしないで下さい。その気持ちだけで十分ですから」

「わたし、お茶より甘いお菓子が欲しいわ」

 

 エドナの要求に思わずクスリと笑みを浮かべるアリーシャ。

 申し訳ないと目で伝えつつも、女性天族達の気遣いに心から感謝した。

 

「……そうだな、では頼む。蜂蜜を使ったうんと甘いお菓子も用意してくれ。茶葉は心が落ち着けるものが良いな」

「畏まりました」

 

 一礼して屋敷へ入るクロエを見届けると、アリーシャはスレイ達に椅子を勧めた。それぞれ着席していく。

 

 誰もいないはずの椅子がひとりでに動いたことでスレイはそこに天族の誰か座ったのだと知るが、それは何の気休めにもならない。

 

 

「スレイさんとミクリオさん……かなり参ってますわね」

 

 スレイとミクリオは先程より落ち着きを取り戻しているが、やはりまだ顔色は優れない。

 

「そうね。それにあなたもね」

「…え?」

 

 そしてエドナの指摘するように、ライラもまた普段の透き通った色白の肌が青みがかっており、その心中が穏やかでないことを如実に物語っていた。

 

 

 そうしている内にクロエがワゴンを押して戻ってきた。

 

 日光の光を反射する純白の見事な陶器の数々に、ケーキやクッキーなどの多数の焼き菓子が所狭しと乗せられていた。

 

 蜂蜜特有の甘い匂いが漂ってくる。

 

「ありがとう、クロエ」

「恐れ入ります。普段であれば私が給仕を務めさせて頂きたく思うのですが…。席を外した方がよろしいでしょうか?」

「導師殿と積もる話もある。そうしてくれると助かる」

「畏まりました。それでは何か御用がございましたらお呼び下さいませ」

「ああ。……すまないな」

「滅相もございません。それでは失礼いたします」

 

 最低限の準備を手早く終わらせたクロエは、アリーシャとスレイに一礼し屋敷の奥へと戻って行った。

 

 

 待ってましたとばかりに焼き菓子を物色するエドナだが、あることに気がついた。

 

「…ねえ、カップの数が多いわよ」

「え?」

 

 見ればカップの数は六つ。

 スレイとアリーシャだけであるならば、明らかに過剰だ。

 

 しかしこの場に普通は見えない誰かの分まで想定していたのなら、それは納得のいく数だった。

 

「彼女は感づいていたようですわね」

「……そのようですね」

 

 カップの数が余計に一つ多いことからも確信していた訳ではないのだろう。

 

 アリーシャは要らぬ気苦労を背負わせてしまっているという一抹の罪悪感と共に、良く出来たこの自慢のメイドを、主人として誇らしく思った。

 

「言うまでもないとは思いますが、彼女は信頼に値するのですね?」

「はい。私が保証します」

「でしたら何の問題もありませんわね。とりあえずそのことは置いておいて、スレイさんの現状について話しましょう」

「スレイは……もう一生このままなのか?治す方法は?」

 

 アリーシャはお茶の準備を進めていく。

 

 そんな中、ミクリオが内心の焦りを現すかのようにライラに投げかける。

 それに対してライラは静かに首を振った。

 

「わかりません。わたくしも、このようなことは初めてですから」

「そんなっ!?」

「ミクリオ様、どうか落ち着いて下さい」

「……っ」

 

 興奮するミクリオを宥めるアリーシャ。

 

「ミクリオ、何か言ってた?」

 

 そこへスレイが尋ねてくる。

 スレイからして見れば、天族達の状況を知る手がかりがアリーシャしかないのだ。

 

 親友の名前が出れば尚更気になるというものであった。

 

「治す方法がないか聞いたミクリオ様に、ライラ様がわからないと答えたんだ。そしたら――」

「ミクリオが怒鳴った、って感じかな。ああ見えて結構怒りっぽいからなぁ」

「……はぁ。まったく、誰のせいだと思ってるんだ」

 

 親友の焦る姿を想像し苦笑するスレイに、ミクリオの焦りが萎み、呆れに変わっていく。

 場の雰囲気もいくらか和らいだようだった。

 

 

「落ち着いたようで何よりですわ」

「そこににいる、のほほんとした誰かさんのお陰でね」

「うふふっ。…では順番に整理していきましょう。まずスレイさんの症状についてですが、やはり突然認識出来なくなるというのは通常あり得ないことですわ」

「……何が原因があるということか?」

「はい。そして発症のタイミングが先程霊力を使った直後ですので、霊力に関連した変調であると考えると、思い当たる原因が二つあります」

 

 ライラは細い指を二本立てる。

 

「一つはかの者、災禍の顕主の黒い靄に侵食され、干渉されたためでしょう」

 

 災禍の顕主に掴まれた際、スレイは干渉されて神依(カムイ)を強制的に解除されている。

 その時嘔吐していたことからも変調の切っ掛けになったと言えなくもない。

 

 

 そしてもう一つは。

 

「……僕と融合した神依モドキのせい、か」

「……はい。恐らくは」

 

 最後の一幕、スレイとミクリオは融合し、神依にも似た力でヘルダルフに一矢報いた。

 

 だがそもそもミクリオは神器化することが出来ず、スレイと神依を発現させることが出来ない。

 更に付け加えるなら、あれが神依であったかどうかすら不明なのだ。

 

 であれば、スレイにどんな変調が起こったとしても不思議ではない。

 

「わたくしが思うに、どちらかもしくは両方が原因でスレイさんの体に急激な負荷がかかり、天族を受け入れることの出来る器としてキズ(・・)が出来てしまったのではないかと考えますわ」

「キズ、か……」

 

 ライラの説明にミクリオは腕を組み、考える。

 

「仮にライラ様の言った通りだとすれば、それは自然に治癒するものなのですか?あるいはミクリオ様の天響術で傷を治すことは出来ないのですか?」

「自然に治るのであればそれに越したことはないのですが、こればかりは何とも言えませんわね」

「肉体的な傷なら僕でもどうにか出来るかもしれないけど、天族を受け入れることの出来る器のキズと言われても、どこを治せば良いのかわからないな」

「精神的なもの、と捉えた方が良いでしょうね。……アリーシャさんありがとうございます。あら、美味しい」

「この香りはカモミールですね」

 

 お茶を注ぎ、手際良く渡していく。

 

 

 ちなみにスレイはアリーシャからカップ受け取り時折口をつけ、そして話す言葉に真剣に耳を傾けつつ、テーブルの上からひょいひょいと消えていくケーキやクッキーに目を奪われては、興味深げに頷いていた。

 

 

 アリーシャ、ライラ、ミクリオの三人が頭を悩ませる中、お菓子を摘まんでいたエドナが口を開く。

 

「いっそ見えなくなったままの方が良いんじゃない?」

「なっ……!いくら何でも言って良いことと悪い事があるだろう!?」

「そうですわエドナさん!あんまりですわ!」

 

 ミクリオとライラが叫ぶがエドナに意を介した様子は見られない。

 

「……どうして、そのように思われるのですか?」

 

 アリーシャは自分も思わず言いだしそうになる気持ちを抑え、エドナに真意を問いかける。

 

 

「三すくみって知ってる?」

 

 エドナはケーキを手に取り、三角形の頂点の位置に均等に並べる。

 

「憑魔は人間に害を為し、その憑魔を導師が浄化する。なら導師は?」

 

 一つ一つ指で示し、最後に三つ目のケーキを持ち上げるとパクリと食べてしまった。

 

「人間に破滅させられる。期待され、疎まれ、勝手な欲望に翻弄され、大抵の導師は悪い結末を迎えるわ」

「……っ。それは導師の宿命ですわ。それに、スレイさんがそうなると決まってるわけではありません」

「そうね。でもだからこそよ」

「……何が言いたいんだ?」

「導師としての『力』を持っていてさえ、宿命から逃れられずに大半は自分を犠牲にする。なら『力』を失った導師の末路はもっと悲惨なはずよ。元に戻るかも知れないなんて下手な希望を抱いたまま導師を続けたら、きっとスレイはボロ布のようになって、死ぬわ」

「……」

「だったらいっそ全部投げ出して、普通の人間として暮らしていった方がこの子にとって幸せかもしれないわ。まあ、最初の内は相当大変でしょうけど」

 

 エドナの辛辣な物言いにアリーシャ達は押し黙る。

 

 スレイがまた認識出来るようになる事が一番望ましく、それを前提に物事を進めていくことがこれからの最善だろう。

 

 だが同時に、治るという確かな保証が無い以上『もしも』の場合も考慮しておかなければならないのだ。

 

 

 アリーシャがスレイに今までの話を伝えると、しばらく考えた後で笑みを浮かべて言った。

 

「…ありがとう、みんな。なんか俺、すげー嬉しい」

「へ?」

「は?」

「はあ?」

 

 ライラ、ミクリオ、エドナが揃って呆気に取られる。

 明らかに今の状況で出るような言葉では無かったからだ。

 

 スレイが気にせず、いや気づかずに続ける。

 

「みんなの事が認識出来なくなって、どんな話をしてるんだろうとか、嫌な想像ばかり浮かんできて不安だった」

「スレイ……」

「けどアリーシャの話を聞いて、みんながこんなにも俺のこと真剣に話してくれてるってわかって、嬉しいって思ったんだ」

 

 相変わらずミクリオの声は届いていないが、スレイは目の前に彼らがいると信じているため、話す言葉は淀みない。

 

「俺は、導師の使命を投げ出したりはしない、というより続けていきたい、かな。戦争のこと、ドラゴンのこと、災禍の顕主のこと。色んなことを知って、そのままにしたくないって思ったから。導師を続けていけるかはわからないけど……」

「……馬鹿ね。導師の使命なんて、ぱーっと忘れちゃえば簡単なのに」

 

 エドナが独り言のように呟くが、聞こえているのはアリーシャと天族のみだ。

 

 

 

「……天族の皆様、先立つ無礼をお許し下さい」

 

 突如アリーシャが立ち上がり、天族達へ謝罪した。

 

「…?はい……?」

 

 アリーシャの唐突な行動に意味を図りかねた天族三人は顔を見合わせる。

 その間にアリーシャは移動し、ミクリオの後ろに立つとそっと両肩に手を置いた。

 

 ミクリオの頬に朱が交じる。

 

「ア、アリーシャ?」

「スレイ。ここに君の親友、ミクリオ様がいらっしゃる」

 

 そういうと次にライラ、その次にエドナへと歩み寄る。

 

「こちらには湖の乙女のライラ様が。こちらにはエドナ様がそれぞれいらっしゃる」

「ちょっと。わたしには何もつけてくれないの?」

 

 顔を上げて睨むエドナに、アリーシャは微笑んだ。

 

「ふふっ。そうですね…妖精のように可愛らしいエドナ様、ですね」

「フフン。なら良いわ」

「イタズラや悪口ばかりで全く悪びれないからか。なるほど、言い得て妙だな」

「……」

 

 (すね)をガツンと蹴り込む。

 声にならない悲鳴が上がった。

 

「スレイ、覚えているか?聖剣祭で君が意識を失い、そして目を覚ました後の事だ」

「勿論。懐かしいな、もう随分前のことみたいだ」

 

 天族がいることを悟ったアリーシャに、スレイは身振り手振りで表現し、教えたのだった。

 

「あの時の感動は今でも胸に残っている。私にとっては忘れることの出来ない思い出だ」

 

 その時まで本の中だけの存在だった天族の声を聞いた時。

 そして従士契約をして初めて天族を目にした時。

 

 かつての少女(アリーシャ)が夢見た世界が、現実となった瞬間だったのだ。

 

「君がまた認識出来るようになるのかどうかは、私にはわからない。導師を続けるのか、それとも辞めるのかも、君自身が決めることだ。だがこれだけは言える。私は君の従士として、そして友として、君が宿命などというものに押し潰されない様に支えになりたい。私はこれからも君の助けになりたいと、心から思っている」

「アリーシャ……」

 

 真っ直ぐな瞳に見つめられスレイは心は揺れる。

 

「……なあ、アリーシャ。アリーシャはあの時、どうしてすぐに天族の事を信じられたんだ?正直、今もまだ不安なんだ…。多分俺、アリーシャがいなかったらすごく取り乱してたと思う。それなのにどうして……」

 

 不安を露吐するスレイに対し、アリーシャはくすりと笑みを零した。

 

「私があの時すぐに信じられたのは君のお陰だ」

「俺の?」

「ああ。聖剣を抜いたから、ということもある。だがスレイはあの時、そこに天族様がいることがごく自然であるように笑顔で話していた。天族様の存在も信じていたが、何よりも君を信じていたから」

「俺を……信じた?」

「ああ。君が今、私を信じてくれているように」

 

 今のスレイが、かつてのアリーシャだっただけのこと。

 今のアリーシャが、かつてのスレイだっただけのこと。

 

 信じることに大層な意味などは無く、ただそれだけなのだ。

 

「そっかぁ。そうだよなぁ……。よぉし!」

 

 スレイは心を切り替えるように顔を叩いて気合いを入れる。

 

「くよくよするのはもう止めだ!今すぐどうにかなることでもないし、みんなは確かにここにいる。今はそれだけで十分!」

 

 

 迷いや不安を全て取り去ることは出来ないが、今はこれで良い。

 完全に頭を切り替えたスレイはアリーシャと今後の事を話し始めるのだった。

 

 

 

「……真の仲間か」

「は?」

「何ですか?それ」

 

 一方、調子の戻ったスレイを見て表情を和らげる天族三人。

 

 そんな中、ミクリオが事も無げに呟いた言葉にエドナとライラが疑問符を投げかける。

 

「以前ジイジが言っていたんだ。『同じモノを見聞き出来ねば、共に生きる仲間とは言えん』って。その時はスレイと同じ『天族を認識出来る人間』だけがスレイの本当の仲間になれると言っているんだと思っていたけれど……」

「今は違うと?」

 

 ミクリオは頷く。

 

「例えばリスウェルで襲撃してきた暗殺者は、スレイと同じように『天族を認識出来る人間』だった。けどあいつらがスレイの本当の仲間だなんてことは絶対にない。なら、今見聞きしているものが違うスレイとアリーシャは?」

「まあ、有り体に言っても仲間と言えるかもね」

 

 話し合う二人を見てエドナが相槌を打つ。

 

「僕もそう思う。ジイジが言っていた『同じモノ』というのは『全く同じ景色』ではなくて、『たとえ見え方が違っても同じ本質』なんじゃないか、とね」

 

 今のスレイとアリーシャの景色は同じモノではない。

 

 だが彼らは互いの見ている景色をそれぞれ信じ、異なる考えを理解し、共感している。

 同じ本質の柱を別々の視点で見つめ、その違いを正しく受け入れている。

 

 ミクリオはジイジの言っていた『仲間』とは、この二人のような関係を示していたのではないかと思ったのだ。

 

 

「なるほど~。考えさせられるお話ですわね。ところで、そうなると人間でないわたくし達はどうなるのでしょう?」

「え?いや……仲間なんじゃないか?」

「何ですかその煮え切らない態度!ミクリオさんは、わたくし達はスレイさんやアリーシャさんの真の仲間ではないと言うのですか!?」

「急にそんなこと言われたって答えられるわけないだろう!」

「エドナさんはどう思います!?」

「どうでも良いわ」

「そんなぁ!」

 

 二人の同意を得られずよよよと泣き崩れるライラ。

 そんないかにも演技ですと言わんばかりの胡散臭さに呆れた顔をするミクリオであったが、ふと視線を感じて目を向けると、スレイが凝視していた。

 

 そしてミクリオの勘違いでなければ、確かに視線が合った(・・・・・・)のだ。

 

「……スレイ?まさか、僕達が見えて……?」

「薄らとだけど、段々見えてきた!声も……!」

 

 それからは大騒ぎだった。

 

 

 ライラは喜びつつもほっと胸を撫で下ろし、エドナは嫌みを言いつつも口の端が上がっていた。

 

 ミクリオは破顔させ、目端に涙を浮かべてスレイと喜び合っていた。

 

 アリーシャはそんな二人を見つめ、心の底から嬉しそうに笑っていた。

 

 

 

「ところでさっき仲間がどうとかって話してなかった?」

「その辺りから聞こえていたのか。それは――」

 

 ミクリオが説明するとスレイは納得したように頷き、そしてさも当然のように言った。

 

 

「そんなの決まってるじゃん。アリーシャもミクリオもライラもエドナも、みんな俺の大切な仲間だよ!」

 




如何でしょうか?

原作等では割とあっさりめなので、見えなくなったらどう感じるのだろうと考えながら書いてみました。

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