ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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明けましておめでとうございます。

そして遅くなってしまい申し訳ありません。


今回は短く、またスレイ一行も出て来ません。


以前タイトル『暗雲』にて頭領をベアドとしましたが、風の傭兵団団長ブラドと似ているのでグリーズに変更しました。


39.悪謀蠢く

 ハイランド王国ラウドテブル王宮内、円卓の間にて。

 

 

 王位継承権第一位であると同時に内務卿も務めるバルトロを始めとした面々が集っていた。

 

 

「話が違うではないかバルトロ卿!今回の戦争、ローランスにいる内通者の手引きによって楽に侵攻出来るのではなかったのか!?」

 

 怒りを露わにしてバルトロに食ってかかるのは軍事機密等の管理を担うマティア軍機大臣。

 

 先の戦争でバルトロが軍を動かすにあたり、あらゆる便宜を図っていた。

 

「ローランスに一杯食わされた、ということであろうな。幸いなことに導師の介入で事無きを得たのだ。全く、導師様々だ」

「バルトロ卿!冗談を言っている場合ではないのだぞ!?陛下の許可を取らずに大規模に兵を動かしただけでなく、危うく我らが領土に攻め込まれるところだったのだ!我らの立場が危ういのだぞ!?」

「わかっている」

 

 感情のままに叫ぶ軍機大臣であったが、バルトロの煮え滾る感情を押し込めた腹の底から出したかのような低い声に思わず言葉を詰まらせる。

 

「このままでは我らは責任を追及され、最悪地位剥奪もあり得る。それに引き換え、あの小娘や導師は戦争を止めてみせたことで、私のものとなる筈だった手柄を横取りした挙句、更には民の支持を集めたのだ。これでは私は道化ではないか!」

「まあ確かに、姫殿下と導師に支持が集まっているのは些か問題ですな」

 

 ローランスとの戦争は今やハイランド全土に知れ渡っており、見事停戦させてみせた導師スレイとアリーシャ王女の知名度は急上昇していた。

 

 一部ではスレイを英雄視する声まで挙がっているのだ。

 

「愚民共ときたら一時の情勢にすぐ流されおって!」

「これは速やかに手を打たねばならぬでしょうな」

 

 吐き捨てる軍機大臣とは対照的にナタエル大司教は平静を保っている。

 

 今回の件には関わっていなかったため、自らの地位を心配する必要がないのだ。

 

「気楽なものだなナタエル大司教。傍から見ている分にはさぞ愉快であろう?」

「いやいや、私も内心では恐々としておるよ。なにせ『導師』などという目に見える偶像に好き勝手されてしまっては、我ら聖職者の権威が奪われる一方だ。かと言って簡単に処理できる訳もなく、頭が痛いことこの上ない」

「やはり、導師を取り込むことが一番手っ取り早い方法であろうな」

 

 頭を押さえる仕草をしてみせる大司教を余所に、ハイランドの法に精通するシモン律領博士が口を挟む。

 

 

 

 導師スレイ。

 

 聖剣祭の折、アリーシャ王女の推薦人として現れた謎の少年であり、現在は伝承通りの存在となりつつある世界の救世主。

 

 

 彼がすぐにでもバルトロの側につけば戦争の件は有耶無耶となり、同時に失われつつある権威も回復するだろう。

 

 だがそれにはどうしても排除しなければならない存在がいた。

 

「となれば、障害は姫殿下ですな」

「忌々しい小娘め」

「どうにか姫殿下を失脚させ、導師を我々の配下に置くことが出来れば良いのだが……」

 

 導師と接触するには、常にその傍らにいるアリーシャ王女がどうしても邪魔になる。

 

 引き離しさえすれば導師と言えどもただの少年、興味関心を引くものを提示すれば(なび)く可能性もあるだろう。

 

 

 問題は靡かなかった場合。

 

 バルトロ達が懸念しているのは特に、二人の関係についてだ。

 

 公式的には若き導師とそれを補佐する従者であるが、彼らは一ヶ月以上もの間二人旅(・・・)だ。

 

 ともすればそれなりの関係になっていたとしても不思議ではない。

 

 

 その繋がりが権威の独占か主従の信頼か、あるいは友情か恋愛かは知るところではないが、その場合は無理に事を進めれば導師を明確な『敵』と認識される恐れがある。

 

 導師スレイだけを取り込みアリーシャ王女を排斥するにはそこが不安材料であったのだ。

 

 

 

 三名がどうやって導師を取り込むが意見を出し合う中、バルトロは黙って考えを巡らせていた。

 

 

 現在内通者とは連絡が取れず、ローランス側の状況は全くもって掴めていない。

 

 戦場へと赴いた兵達は後数日もすればレディレイクに帰還するとの報せを受けている。

 

 その報せによれば一時魔物化したランドン師団長は意識不明のまま拘束され、また導師も魔物化した者との戦闘で意識を失っていたが今は回復しているという。

 

 導師が意識を失っている間にはアリーシャ王女が出来る限り付き添っていたとの話も耳にしていた。

 

 

 

 アリーシャ・ディフダ。

 

 バルトロは最初、その存在に気にも留めなかった。

 

 現国王()の末娘で王位の継承権も低い、ただの小娘。

 どこぞの有力な貴族と婚姻でも結んでくれれば利用できる。その程度の認識だった。

 

 ある時、アリーシャが騎士見習いになったと耳にしたバルトロは思わず声を上げて笑った。

 

 騎士として身を立てるということはもはや王位を諦めていることと同義であり、王女としての本分さえ捨てるこの変わり者を滑稽とさえ思った。

 

 

 だが月日が経つにつれ、アリーシャを慕う声が増えだした。

 

 兵や民の中でアリーシャの実直さ、ひた向きさに心を動かされる者が出てきたのだと言う。

 

 そして今や導師の従者にまで登りつめた。

 

 

 

 疫病の蔓延した街であろうと、戦争のただ中であろうと躊躇せずに向かうその行動力が。

 

 

 導師スレイや教導騎士マルトランなど、飛び抜けた才を持つ者達を惹きつけるその人望が。

 

 

 民を愛し、国を良くしていきたいと願うその理想が、バルトロにとっては酷く邪魔なものであった。

 

 

 自分が王座を取ることが出来たとしても、あの小娘は必ずや今後の障害となる。

 

 そう結論づけたが故に暗殺を生業とする者共に依頼を出したというのに未だに生き残っている。

 

 このレディレイクに戻ってくる好機を逃してはならない。

 

 

 早急に始末をつけなければならない。

 

 

 バルトロは暗い決意を新たにするのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ラウドテブル王宮内のある一室にて。

 

 濃い暗闇を月明かりだけが照らし出す中、髪も服もまるで整えられていない青年がベッドに腰かけたまま、静かに俯いていた。

 

 傍目には生きているのかすら怪しい青年だが、不意に生気を取り戻したように動き出した。

 何の彫像品も置かれていないただの壁へと視線が移る。

 

「おや。意外と遅かったですね」

 

 そしておもむろに言葉を投げかけたのだ。

 

 その呼びかけに呼応するように暗がりの闇が一層濃くなり、仮面をつけた大柄な男が湧き出るように姿を現した。

 

「……」

「導師と湖の乙女以外の仲間の殺害に失敗したそうですね。聞いていますよ、一人も殺せなかったばかりか逆に仲間が殺され、しかも狐には逃げられたとね」

「……黙れ」

 

 男は殺意を強くさせるが青年は困ったように笑みを浮かべるだけ。

 

「あれは我ら獣の骨の恥晒しだ。見つけ次第必ず処分する」

「処分、ですか。(いささ)か勿体ないですね、あれほど憑魔としての適性が高い者はそうはいないというのに」

「どれだけ適性があろうと中身が矮小であればどうにもならん。所詮は我ら獣の骨の信念も理解できない小者だったというだけだ」

「信念、ですか」

 

 青年は面白そうに笑う。

 

「そういえば、エリクシールの効果は如何でした?」

「どうせ知っているのだろう?あんなにも早く暴走するのでは使い物にならん」

「そうですか……。やはりまだ改良の余地がありそうですね」

「しかしよくも(うそぶ)いたものだ。エリクシール(あれ)に死人を生き返らせる効果などないのだろう?」

 

 思索に耽っていた青年が一瞬何のことかわからないといった顔をするも、すぐに合点がいったという表情になる。

 

「ああ、成程。『王女を殺してエリクシールを使えば、従順でキレイな王女として生き返る』と言った事ですか。一応間違ってはいませんよ?死体でも憑魔にはなれますから。まあ『生き返る』というよりは『起き上がる』と言った方がより正確ですけどね」

 

 そう言って悪戯っぽく笑う彼に、獣の骨の頭領グリーズは仮面で隠された顔をしかめる。

 

 

 実験台となったマルフォに同情している、などということは全くない。

 

 この青年とは協力関係にはあるものの、自らの信念と大きく違えるならば殺害も視野に入れてはいる。

 

 だがこの目の前の青年は、どこか得体が知れない。

 

 要人を幾度も葬ってきたグリーズであったが、相手の力量を見極め不意を突くことに長けた暗殺者としての本能が敵対するなと告げているのだ。

 

 このろくに筋肉もついていない青年に対し、確かな恐怖を宿していたのだった。

 

「おや、どうかしましたか?」

「いや……」

 

 グリーズの沈黙を不思議に思ったのか、問いかけてくる。

 

 だがそんな他愛のない一言でさえ、まるで全て見透かされているようで、とても居心地が悪い。

 

 そのためグリーズはそうそうに切り上げることにした。

 

「しかし経緯の報告をするつもりだったが、無駄足だったようだな」

「いえ、助かります。協力関係を維持する上で直接会うというのは重要ですから」

「思ってもいないことを。では失礼する、ヒース王子殿下(・・・・・・・)

 

 皮肉気に畏まって頭を下げて見せて闇に溶けていくグリーズを見送った青年ヒース・ディフダは、まるで糸が切れたかのように唐突に生気を消失させ再び俯くのだった。

 

 




1~2時間ほど後でもう一話投稿します。

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