ゼスティリアリメイク 作:唐傘
2016/4/9
改行を修正しました。
スレイによる炎剣の一撃をまともに受けたアリーシャとルナールは果たして、生きていた。
拘束を解かれたアリーシャの体や衣服には斬られた跡も、ましてや火傷を負った跡すらも見受けられなかった。
対してルナールは、斬られた跡こそなかったものの、全身に火傷を負い重傷だった。
今は完全に気を失い、四肢を投げ出し倒れている。
ライラの大剣、もとい天族が変化した神器は導師の影響を強く受ける。
スレイの意志によって穢れと魔物以外への攻撃を選別出来るのだ。
そのため大切な者には傷を負わせず、ならず者にのみ傷を負わせることが可能となる。
ちなみにルナールが気絶しているのはスレイの攻撃自体ではなく、深く結びついていた穢れが殺されたことによるショックのためだ。
見事ルナールを倒したスレイは、汗をかき荒い息を吐きながら、フラフラとしながらもアリーシャのもとへと近づいていく。
「ハァ、ハァ・・・アリーシャ、無事で良かった。ハァ、怖い思いをさせて、ゴメンッ!」
アリーシャは首を横にふる。
「君はあんなにもはっきりと、私を助けると言ってくれたんだ。斬り殺されるかもしれないなんて微塵も思わなかったよ。かなり驚きはしたがな」
アリーシャがそう言って苦笑する。
「それより大丈夫なのか、スレイ?その、大分フラついているが・・・」
心配そうに尋ねるアリーシャ。
「ハァッ、ハァッ、あはは、駄目かもッ・・・」
「ッ!す、少しここで待っていてくれ!今すぐ医者を・・・」
「ごめん、もう、無理・・・」
言うやいなや体を投げ出しアリーシャの方へと倒れ込むスレイ。
スレイを支え切れず、その場で座り込んでしまう。
ちょうど、スレイを膝枕する形となってしまった。 ちなみに大剣は既に消え、ライラは人間には見えない天族の姿へと戻っていた。
「ちょ、ちょっと!スレイ!?」
慌てる少女をよそに、少年は安らかな寝息を立てて爆睡するのだった。
「あらあら、スレイさんも隅に置けませんわね」
ミクリオとライラは2人を見ながら並んで立つ。
「少し羨ましくはあるね」
「・・・ごめんなさいミクリオさん。わたくしの膝は既に先約がありまして・・・」
「いや、別に頼んでないし要らないから!?」
聖堂内にある仮眠室。兵士に運ばれここで眠っていたスレイは、ようやく目を覚ました。
「・・・あれ?俺いつの間に寝てたんだ?」
「お目覚めになりましたか?」
スレイがまだ目覚めきれない頭で状況を把握しようとしていると、横から女性の声がして振り向く。
そこにいたのは髪をツインテールにした同年代と思われるメイドだった。
「えっと、あなたは?」
「申し遅れました。私はアリーシャお嬢様の邸宅にてメイドをしております、クロエと申します。ただ今お嬢様は先の事件の後処理に追われているため、気がつかれたら知らせるように仰せつかっています」
クロエは頭を下げ自己紹介をする。
「アリーシャ・・・殿下の?」
「ふふっ、お2人は友人だと聞き及んでおります。気を楽にして下さいませ」
スレイのかしこまった言い方に、遠回しに必要ないと告げるクロエ。
「覚えておいででしょうか?スレイ様は悪人を倒し、お嬢様を助け出してすぐ気絶したようにお眠りになりました。お嬢様が大層心配そうになさっていましたよ?」
クロエは簡単に経緯を説明する。
「この度はお嬢様をお救い下さり、誠に有難うございました。お嬢様付きのメイドとして感謝に堪えません。それではお嬢様にスレイ様が目覚められたと伝えて参りますね」
クロエはスレイに感謝の意を伝えると、アリーシャを呼ぶために退出していった。
2人が話している間もミクリオとライラはずっと側にいた。
「・・・なあミクリオ。あの人、悪人・・・あのルナールってキツネ男を倒したって言ったけど、具体的にどうなったんだ?」
ミクリオにルナールのその後について尋ねるスレイ。
「あの後、キツネ男は気を失った状態で王城の地下牢へ連れていかれたよ。王族を殺害しようとしたんだ、情報を吐き出させてから近い内に処刑するらしいね」
ミクリオは複雑な気持ちだったが、努めて冷静にルナールについて事実を語る。
スレイも難しい顔をして考え込む。
スレイがこんなことを聞くのはやはり、イズチの里で殺され遺体も残さず喰われたマイセンのことがあるためだ。
殺された当初、スレイとミクリオは悲しみと、ルナールに対する怒りを持っていた。正直な所、アリーシャに危険を知らせた後はスレイ達も里へ戻り、里の皆と共にマイセンを弔うつもりでいた。
敵を討とうにも自分達では返り討ちされることが目に見えていたし、どこにいるかもわからなかったからだ。
ところが偶然とはいえ再び相まみえ、倒して捕まえることすら出来たのだ。十分な敵討ちと言える。
だが処刑されると聞いて、素直に喜べはしなかった。
仮にも友人を殺したルナールに対して、このままのうのうと生きて欲しいとは思っていない。
また、相応の罰を受けさせてやりたいとは思っていた。
だが間接的とは言え、自分達が誰かを死に追いやったという現実に、なんとも言えないもどかしい気持ちになるのだった。
「まあ、あの男は自業自得だ。考えてもどうしょうもない。それよりスレイ、体はもう平気なのか?」
「・・・うん、平気みたいだ。でも俺はどうして眠ってたんだ?」
「それはスレイさんが『
疑問に思うスレイにライラが聞き慣れない言葉を口にする。
「神依?」
「はい。神依とは導師にとっての最強の切り札。攻撃力を飛躍的に上げ、敵を殲滅する秘技ですわ」
スレイにライラが答える。
「スレイのあの強さより更に上があるのか、それは凄いな。だがそれとスレイが倒れたことに何の関係があるんだ?」
「わたくし達天族の神器化は元々導師の神依と対となるもの。素の状態のスレイさんが扱うには、負荷が大き過ぎたのですわ。もっとも神依自体、かなり霊力を消耗するので、もって10分程度ですが」
ライラはミクリオに説明する。
「なるほどなー。じゃあどうすれば俺も神依を使えるようになるんだ?それと、やっぱりミクリオも神器化が出来たりするのかな?」
「神依はスレイさんが真名を持ち、協力する天族の真名を知り、そして霊力を十分扱えるようになって初めて完全な神依となりますわ。それからミクリオさんの神器化ですが、残念ながら百年程時を経た天族でないと出来ません」
それを聞いてミクリオは落胆する。
少なくとも83年は待たないと出来ない計算になる。
「そして今スレイさんの体に宿っている
「確か俺に、ライラ自身の分身とか霊力の塊だとか言ってたよね?」
ライラが頷く。
「御霊に意志は存在しませんが、それ以外は私の体と構造がほぼ同じです。そのためそれ自身が莫大な霊力を保有し、また半永久的に生み出すことが出来ますわ」
つまり、スレイの体に霊力を作り出す内臓器官を付与した形となる。
スレイが爆睡した原因は、剣の形態のライラを扱うための霊力が足りず、生命力で無理矢理補っていたためである。
「なるほどなー、それにしてもライラって300年以上も生きてるんだ?」
スレイは何となしに言ってみただけだったのだが、ライラの雰囲気が途端に変わった。
「・・・・・・それが何か問題でも?」
顔は上品ににっこりと笑っている。こうして見るとかなりの美人だ。
だがその笑顔の奥に見え隠れする何かにスレイは無意識に危険を察知した。
「い、いや~、ライラって上品で凄く美人、それに大人の風格もあるからさ、全くそんな感じには見えないなーって」
「まあ!スレイさんったらお上手ですわね~、ふふふっ」
まんざらでも無さそうなライラに、スレイは胸を撫で下ろした。
スレイ達が話をする中、失礼するという声と共に扉が叩かれた。
アリーシャがやってきたのだ。
「こんばんは、スレイ。体の調子はどうだ?」
「俺はもう平気だよ。正直、ただ寝てただけだしね」
「確かに、寝ていただけだね。アリーシャの膝を枕にして。大衆の目の前で」
アリーシャに答えるスレイにミクリオが茶々を入れてくる。だがそんなことよりも、聞き捨てならない言葉があった。
「えッ!アリーシャの膝を枕に!?俺が!?」
「スレイ?」
やはりミクリオの言葉に思わず反応してしまうスレイ。
「あー、これは・・・そう!クロエさんから聞いたんだ!それで・・・」
「スレイ」
誤魔化そうとしたスレイに言葉と手でそれを制する。
「誤魔化さなくていい。・・・君には天族様が見えていて、今ここにもおられるのだろう?」
何と言うか迷い、スレイはミクリオ達をチラリと見る。
するとミクリオから意外な返事が返ってきた。
「スレイ。実は君が寝ている間、ライラと話し合ったんだ。この先導師として活動するのなら、僕達天族を理解出来る他の人間が必要だと思うんだ」
「ええ、そしてその理解者として、アリーシャさんが良いのではないかと思いますの。如何でしょう?」
それを聞いてスレイは考える。
確かに、これから導師として活動しなければならないのに、天族の存在に加え、世間知らずな自分では無用な問題を抱えてしまうかもしれない。
民衆に対して信頼の厚いアリーシャに手伝ってもらうのは妙案におもえた。
「スレイ?」
「ああ、ごめん。・・・・・・うん、アリーシャの言う通り、俺には天族が見えているんだ」
「!やはりそうか」
スレイはもう誤魔化すのは止め、正直に話すことにした。
「ほら、ここに俺の親友と湖の乙女がいるんだ」
スレイは身振り手振りで表現しながら2人の天族を指し示す。
アリーシャはそんな示してくれた場所をじっと見つめる
そして、意を決して頭を下げた。
「私はこの国で騎士をしております、アリーシャ・ディフダと申します。認識は出来ませんが、こうしてお会い出来て光栄に思います」
天族の姿が見えない人にとっては、虚空に話しかけるなど奇特な行為に映る。
だがスレイを信じて頭を下げて自己紹介するアリーシャにミクリオとスレイは感心した。
「アリーシャさんは本当に心が清い方なのですね」
「本当にね。アリーシャの真摯な態度に、僕らも直接返事を返してあげたいんたけど」
「声を届けるだけなら、導師であるスレイさんがいるので可能ですわ」
アリーシャに直接返事も返せないと悔やむミクリオに、ライラが言葉を返す。
「スレイさん、わたくしとアリーシャさんにそれぞれ手を繋いでもらえますか?」
そう言ってライラはスレイに手を差し出す。
スレイは頷いてライラの手を取る。ついでにミクリオもスレイの手に触れる。そしてアリーシャに断って同じく手を取った。
「もしもしアリーシャさん、聞こえますか?」
「ッ!はい、聞こえます!女性の声が!」
アリーシャの声には驚きと喜びが入り混じっている。
「一体どうなってるんだ?」
「導師であるスレイさんは、今や人と天族の中間と言える存在。なのでこのように仲介することも出来るようになったのですわ」
「なるほど。つまりスレイが電話線の役割をしているという事か。」
「いや、誰が電話線だ」
「君が」
ミクリオの言葉にツッコミを入れるスレイだが、君がと言われ反論出来ない。
「ふふっ、スレイの親友の天族様は面白い方だな」
「そうなんだ。ミクリオの奴、いっつもこんな感じで小言言ってきてさー」
「なっ!?誤解させるようなこと言わないでくれ!」
笑うアリーシャに、さっきの仕返しとばかりにミクリオのことを悪く伝えるスレイ。
それにミクリオは
「え~、それでは初めまして。わたくしは先程湖の乙女と紹介された、ライラですわ」
「僕はミクリオだ。こちらこそ、君のような立派な人間に出会えて光栄だ。それと、僕は別に小言は多くないから」
ライラとミクリオがそれぞれ自己紹介をする。
アリーシャが天遺見聞録でしか存在が語られていなかった、天族。
それが本から抜け出てきたかのように自分の目の前に存在していて、自分に語りかけてくれるのだ。
アリーシャの心の底から嬉しさが湧き上がってくるのだった。
「さてアリーシャさん。まずスレイさんが、先の事件で導師となったことは理解していますね?」
「はい。今ではマルフォ殿ではなく、誰もが認識出来なかった真の聖剣を抜いたスレイが真の導師だと信じております」
先の事件でマルフォが偽物の導師だということが民衆に露見し、反発を招く恐れがあったが、スレイという疑いようのない本物の導師が誕生したことで、なんとか場は収まった。
アメリア達に泥を塗ってしまった形となったが、本人達は気にしていないとのことだった。
「導師の使命は世界各地の異変を突き止め鎮めること。単刀直入に言いますが、貴方にスレイさんの補助をお願いしたいのです」
※分かりにくい方へ
天族の神器化→青○クの青○炎
神依→ガン○ムのトラン○ム
のようなイメージで書いています。