ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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 何週間も遅くなってしまい本当に申し訳ありませんでした。

 今回は説明回となります。

 アルトリウスという名字が出ますがテイルズオブベルセリアとは何の関係もありません。

2017/8/19
 真名が強制力を持つという部分で導師→人間などに変更しました。


33.今後の方針

「倒されている……?だけど災禍の顕主が元凶なら、今の時代には憑魔は存在しないんじゃ?」

「わたくしも後から伝え聞いただけなので詳しくは知らないのです。ですが作戦(・・)は確かに実行され、多大な犠牲を払いながらも討つことに成功したと聞いていますわ」

「作戦って?」

 

 ライラは1呼吸の間をおいて静かに口を開く。

 

「導師13人とその従士、天族による大規模な災禍の顕主討伐作戦です」

「「!?」」

 

 息を呑むスレイとアリーシャ。エドナは知っていたようでただ黙って聞いている。

 

「導師が13人も!?」

「ライラ様、導師というのは1人ではないのですか?」

「いいえ。ここ300年を除いたいくつもの時代では導師が複数人いることは珍しくはありません。そして、その中でも350年前は突出して導師が多く現れたのです」

 

 導師となるには天族が認識出来ること、そして300年以上時を経た天族から御霊(オーブ)を与えられることが条件となる。

 条件自体が揃えば導師が複数現れることは自明の理であった。

 

「13人の導師は互いに協力することなく、それぞれ各地で浄化を行っていました。ですがある時、1人の導師が北の大陸に居るという災禍の顕主の討伐に端を発したのです。導師が13人もいる今こそ一致団結して災禍の顕主を倒し、後世を平和なものにしよう、と」

 

 ライラは続ける。

 

「導師の方々は国に召し抱えられた者や世間と確執があった者、束縛されたくない者など様々で、最初は耳を貸してもらうことすらありませんでしたわ。ですがあの方の、ミケル・アルトリウス様の地道な説得の結果、数年をかけて結託することが出来たのです」

「とても立派な方だったのですね」

 

 アリーシャの言葉にライラは嬉しそうに微笑む。

 

「はい。とてもお優しくて、心の真っ直ぐなお方でした。いつか人間と天族が共存する村や町を作りたいと、子供のような眼差しでいつも嬉しそうに口にしていましたわ。導師としての才能もスレイさんと同様に満ち溢れた方でした」

「それからライラの想い人でもあったのよね?」

 

 エドナが口を挟むとライラは耳を赤く染め上げ俯いてしまう。

 スレイやアリーシャはライラの普段あまり見せないような様子に微笑ましく思いながらも、スレイは意を決して尋ねる。

 

「それで、作戦はどうなったの?多大な犠牲が出たって言ってたけど……」

 

 紅潮していたライラが平静に戻っていくのがわかる。いや、平静を通り越して気持ちが暗く沈んでいくのが手に取るようにわかった。

 

「先程もお伝えした通り、災禍の顕主は討たれたと導師パワント様から直接お聞きしました。ですが戻られたのは数人の天族と、導師パワント様お1人だけでした」

「「…っ!?」」

 

 ライラが詳しく聞き出すと、災禍の顕主を目指していた導師パワント達はその最中に憑魔と魔物の大群に襲われたのだと言う。

 各人が散り散りになって対応する中、ミケルを含む導師数人とその天族だけがその大群を突破し更に前へと進んで行った。憑魔や魔物との激戦を繰り広げていたパワント達であったが、憑魔の力が急に弱まったとほぼ同時に離れた場所に光の柱が立ったのだ。

 災禍の顕主が討たれたと確信したパワントが勝利を喜んだのも束の間、光の柱の方角より突如現れた黒い奔流に飲み込まれ意識を失った。

 

 パワントが意識を取り戻した時には何故か元いた場所から遠く離れた場所で倒れておりすぐに戻ったものの、そこには苛烈な戦闘の痕跡と、(おびただ)しい人間と魔物の遺体、そして息があるため消滅していない何名かの天族のみだったと言う。

 

「遺体の中には導師の方々もいたそうですが、人数が合わなかったそうです。恐らくは導師パワント様と同様にどこかへ飛ばされてしまったのでしょう」

「ライラはその作戦には参加していなかったんだよね?」

「……はい。同行を願い出ましたがまだ100年を経ていない若輩でしたので、この時ばかりは頑なに拒否されてしまいました。あんなことになると知っていたなら無理矢理にでも付いていきましたのに……」

 

 ライラは心の底から悔恨を滲ませる。

 

「わたくしはミケル様がまだ生きていると信じ、あの人を探す旅に出ました。ですが見つからないまま、月日だけが無情にも過ぎていきました。……そうこうしている間に憑魔が力を取り戻し、恐らくは討たれたはずの災禍の顕主が復活したと知ったわたくしはレディレイクへと赴き、導師の出現をずっと待っていたのです」

 

 話の途中、ライラは一瞬だけ、僅かに目を伏せた。だがそれは誰にも気づかれることはなかった。

 

 

「過去にそのようなことがあったのですね……」

「導師の英雄譚はいくつも読んだことがあるけど、そんなの初めて知った。確かにこんな話、簡単に話せるものでもないよな。話してくれてありがとう、ライラ」

 

 ライラは微笑みだけ返し、アリーシャとスレイはこれまでの話に衝撃を受け難しい顔をして考え込む。

 

「……今の時代に俺以外にも導師がいる可能性は無いのかな?過去に導師がたくさん存在した時代があったなら、今の時代にだって他に導師がいるかも知れない。ライラはどう思う?」

「わたくしは正直なところ、スレイさん以外の導師がいる可能性は限りなく低いと思いますわ。導師の存在はスレイさんが思う以上に人々に大きな影響をもたらします。今日まで旅をした中で1度も他の導師の噂を耳にしたことがないので、いないと考えるべきでしょう。それに天族を認識出来る人間が御霊(オーブ)を持てば導師になれるとはいえ、この時代では特に厳しいと言わざるを得ませんわ」

 

 

 ライラが言うには現在は様々な悪条件が重なっているため導師が現れにくいのだ。

 

 まず大前提として天族を認識出来る程の適性、才能を持った人間が昔よりもかなり少ないのだと言う。

 また災禍の顕主討伐作戦に起因することであるが、200~300年以上の時を経た天族のほとんどが作戦に参加し亡くなったことで、昔に比べて天族自体の数も激減しているのだ。

 そして何よりも、多くの同胞を人間の作戦で亡くしたことで人間に対し強い不信感を抱く者が多くなり、結果天族は人里に寄り付かず、認識云々以前の状況となっているのだった。

 

 

 さらには御霊の特異性も導師の出現を阻害する一因となっている。

 

 御霊とは天族の体と造りがほぼ同等の、300年時を経た天族が生涯の中で1つだけ生成することの出来る意思を持たない霊的構造体である。天族を認識出来る者が持てばその者は導師となることが出来、また物に付与すればその属性の天響術を使用することが出来る道具と化す。

 

 それだけではない。天族の体と造りがほぼ同等ということはつまり、代用が利く(・・・・・)のだ。瀕死の重症を負ったとしても時間的、環境的余裕があれば1度だけ復活することが可能だった。

 また物に付与した場合、人間などに知られれば強制力を持ってしまう真名が刻まれてしまうことなどから、御霊を手放す天族はそうそういないのだった。

 

 

「天族にとって御霊とは、簡単には手放すことの出来ない命綱のようなものです。そしてそれを手放すということはそれ相応の覚悟と意味が込められているということになりますね」

「ライラはそんな大切なものを俺に……」

 

 スレイはそう言って神妙な面持ちで自身の胸に手を当てる。

 

「それだけの覚悟があると受け取ってもらえれば嬉しいですわ。覚悟という意味でならミクリオさんのお母様もそうなのでしょう。ミクリオさんのことを本当に大事に想っているのですね」

 

 そう言ってライラは優しげな視線を眠っているミクリオに向ける。

 

 ミクリオは幼少の頃から額のサークレットを身に着けている。それはつまりミューズがどれだけミクリオを大切に想っているかの表れでもあった。

 

「ちなみにですが御霊を応用すれば人間……というよりは導師が天族に転生することも可能ですわ。最も、確実にとは言えませんが……」

「へぇ~そうなんだ。導師が天族に生まれ変わるなんてあんまり想像出来ないけど、もし俺が天族になったらミクリオと何百年でも遺跡巡りしてそうだな」

「まあ」

「スレイらしいな」

 

 実感がまるで湧かないため軽く流すスレイに対し、ライラは口元に手を添えて笑みを浮かべ、アリーシャは同意するように頷き、エドナは無言ながら呆れた表情をする。

 

「でも、そうか。もし本当に災禍の顕主が復活してるなら今の俺達だけじゃ太刀打ち出来そうにないから何とかならないかと思ったんだけど、俺以外の導師は望めそうにない、か」

「そうなりますわね」

 

 真剣な表情に戻ったスレイの言葉にライラは同意する。

 と、そこでアリーシャから声がかかった。

 

「スレイ。災禍の顕主については勿論懸念すべき問題だが、とりあえずは今後の方針を決めないか?」

「今後の方針?」

「良いんじゃない?今回の事で色々反省点も見つかったみたいだし」

 

 アリーシャの言葉にエドナが後押しする。アリーシャはそれを嬉しく思いエドナへ顔を向けるも、何故かぷいっと顔を背けられてしまった。

 心当たりがないため疑問符を浮かべるアリーシャだが、気を取り直してスレイに向き直る。

 

「今回、私達は暗殺集団の思い通りに分断され、対処が後手に回ってしまった。そして憑魔が……いや、憑魔の力を十全に操る人間(・・・・・・・・・・・・)が敵となったことで、今までとは異なる戦いを強いられることになってしまった」

「……うん」

 

 スレイは自分の掌を見つめてアリーシャの言葉を噛み締める。

 

 今日まで憑魔や魔物と多く相対してきたスレイ達にとって、動物または植物寄りの姿をしたそれらは純粋な力は強いが本能に任せた直線的な攻撃が多く、対処の難しい相手ではなかった。

 だが今回は違った。相手は人殺しを生業とした暗殺者に、確かな剣の技術を身につけた騎士だったのだ。

 しかもその内暗殺者2人は憑魔の力を使いこなし、導師の力が覚醒したと勘違いしていたものの、騎士マルフォも憑魔の力を有していた。

 

 憑魔化し理性を失った人間と戦ったことはあれど、憑魔の力を使いこなした上で殺意を持って襲ってくる人間とはほぼ初めての戦闘であり対処し切れていない面もあった。

 

「そこでなのだが、ハイランド王国に戻ったら人に相対する心構えと技を身につけるためにも、私共々マルトラン師匠(せんせい)に稽古をつけてもらうというのはどうだろう?師匠は槍の名手だが剣の心得もある。きっとスレイの力になってくれるはずだ」

「俺の剣術は我流だし、稽古をつけてもらうのは良いかもしれない」

 

 スレイは同意する。

 イズチの里で何度もミクリオと手合せしていたとはいえ、師匠と呼べる存在がいない。

 

 一度剣を扱う者に自身の腕を見てもらうことは有益であるように思えた。

 

「あと、天族か従士になってくれる人間を探して仲間にしてみるのも良いんじゃない?仲間が増えれば不測の事態でも対応出来るようになるかもしれないし」

「仲間か……。確かにその方が心強いかもしれないな」

 

 エドナの提案を聞いたスレイが頷く。

 

「でしたらロゼさんをわたくし達の旅に誘うというのはどうでしょう?」

「え?ロゼを?」

「ロゼさんでしたら面識がありますし、何よりわたくし達天族の事情を知っていますわ」

「彼女の戦闘を真近で見ましたが、剣の腕前も相当なものでした」

「あの子商人なんでしょ?ならアイテムを買ったり、国を行き来する時も融通が利きそうよね」

 

 女性3人がロゼについて意見を出す中、スレイは1人難しい顔をする。

 

「けどロゼが仲間になってくれるとは思えないけどなぁ。俺から見てもセキレイの羽の商人として誇りを持ってるみたいだし、難しいんじゃないかな」

「……そういえばあの子、穢れは見えていたのにわたし達天族は見えてなかったわよね。普通そんなことってあり得るのかしら」

「ない……、と思いますわ。ですがわたくし達への接し方も演技には見えませんでしたし……。デゼルさんがセキレイの羽に同行している事もそうですが、何か事情があるのでしょうか?」

「待って、もしあの子が仲間になったらあのデゼル(まっくろくろすけ)も付いて来るの?ならわたしは反対よ。暗殺者だとしても、あんなに躊躇なく人を殺せる天族なんて絶対まともじゃないわ」

 

 エドナはデゼルの常軌を逸した行動を思い出し眉間に皺を寄せる。スレイやアリーシャも複雑な表情を浮かべた。

 

 以前の印象では無愛想ながらもセキレイの羽の者達を大切に想っていることが窺うことが出来た。

 だがそれに反して今回、獣の骨の暗殺者に対して苛烈なまでの憎悪の感情を見せ、実際に暗殺者の1人を惨殺した。何かしらの事情があるにしてもスレイ達にとってはデゼルの行動はあまりにも行き過ぎであるように映ったのだった。

 

 

「とりあえず仲間のことは今は置いておこう。実は俺も、今後のことで少し考えていたことがあるんだ。災禍の顕主やドラゴンのことにも気を配っていくとして、それと一緒にエリクシールについても調べていこうと思ってる」

 

 アリーシャやライラ、エドナはそれぞれ意外そうな顔をする。

 

「それは万能薬としてドラゴンを元に戻せるかもしれないから、だけではありませんわよね?」

 

 ライラの問いかけにスレイは頷く。

 

 騎士マルフォと戦っていた時のこと。マルフォは導師として覚醒したのは『あの方』からエリクシールをもらって使ったのだと口走っていた。

 

 だが実際は導師になったのではなく、最期は歪な憑魔となってザビーダに討たれた。

 もし文献に記されている通りの本物のエリクシールであるならば憑魔に変化するはずがなく、またその前に見た液体の偽エリクシールも穢れ特有の黒い靄は見えなかったため、穢れや憑魔に結びつく気がしなかった。

 

 そのため、スレイは導師として憑魔に変化するエリクシールを調べてみようと思ったのだった。

 

 

「まさか、スレイはそれを飲んだのか!?」

 

 話を聞いていたアリーシャが鬼気迫る顔でスレイに詰め寄る。

 

「飲む寸前だったんだけど、旅の人が助けてくれてさ」

「そうか……。良かった」

 

 偽エリクシールを飲んでないとわかりアリーシャは安堵する。

 

「そんなに不味いものなの?」

「はい。依存性が強く、飲んだ者は偽エリクシールを求めて止まなくなると聞きます。我がハイランド王国でも密かに出回っているようで、多数の貴族が手を出し、身を崩しています。取り締まろうとはしているのですがなかなか出処が掴めず……」

「恐ろしいですわね……」

 

 エドナの問いに答えたアリーシャの言葉を聞き、ライラは悲しそうな表情を浮かべる。

 

「『あの方』だとか、アリーシャやエドナが聞いた『実験』だとか気になることもあるし、災禍の顕主にも関係があると思うんだ。どうかな?」

「私は賛成だ。もしかしたら偽エリクシールの根絶にも繋がるかもしれない」

「穢れを祓うのは導師の務めです。わたくしも異存はありませんわ」

「まあ良いんじゃない?」

 

 アリーシャ、ライラ、エドナはそれぞれ頷いた。

 

 


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