ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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※隕石~の部分の比喩を詳しくしました。
※スレイの紋章の左右を間違えていたので修正しました。

9/11
※一部変更しました。
聖堂内の兵士が死亡→生存

2016/4/9
 誤字、脱字、改行を修正しました。またマルフォの一人称を私に変更しました。
2016/5/10
 マルフォの苗字を追記しました。それに加えて導師マルフォから導師サロワへと変更しました。



3.導師誕生

 聖剣祭、剣の試練当日。

 

 

 午前の部では一般人が、午後の部では貴族や王族自身、もしくはその推薦者がそれぞれ挑戦することになっていた。

 

 このような催し物の場合、普通は貴族や王族が先であることが常だ。しかしながらこの聖剣祭では、既に導師役が決まっている(・・・・・・・・・・・・)ため、このような段取りとなっているのだった。

 

 

聖堂の控え室。

 

「じゃーん!どうかな?」

 

 スレイは今、アリーシャに用意してもらった白を基調とした騎士の礼服に身を包んでいる。

 スレイの服は洗濯中だ。

 

 

「なかなか似合っているじゃないかスレイ!見違えたぞ」

「ヘヘッ」

 

 アリーシャの言葉に照れるスレイ。

 

「確かに。昨日までの泥んこ少年だとは誰も思わないだろうね」

「ウッ・・・」

「っと!その言葉は流石にマズい」

 

 ミクリオに言い返そうとしたところで止められてしまった。

 

 スレイも遅れて気づく。この流れでウッセーなどと言ってしまったら、アリーシャに勘違いされることになると。

 

 人からは見えない親友に目だけで感謝を表した。

 

 スレイ達が談笑していると、他の王族、貴族とその推薦された者達がやって来た。

 スレイはアリーシャに教えてもらった通りに敬礼して待つ。

 

「シャルル兄様にアメリア姉様!」

 

 アリーシャがやってきた王族に声をかける。

 

「元気そうだな、アリーシャ。行方不明になっていたと聞いて心配したぞ」

「ご機嫌良う、アリーシャ。何ともなさそうで良かったわ」

 

 王位継承権第二位シャルル・ディフダと第三位アメリア・ディフダが次々と挨拶をする。

 

「ご心配をお掛けしました。紹介します、アロダイトの森の奥で途方に暮れていた私を助けてくれた恩人、スレイです。この恩に報いるため、彼を剣の試練に推薦しました」

「初めまして、スレイと申します」

 

 スレイが緊張しながら挨拶をする。

 

「そうか、君が・・・。妹を助けてくれて感謝する。・・・ところで君はその時どうして森に?」

 

 シャルルがスレイを訝しむ。アリーシャが誰かに森まで連れ去られ、そこをスレイが助けたことになっていた。

 

 アリーシャからも聞かれることになるだろうと、あらかじめ簡単な礼儀も含めて教えてもらっていた。

 

「俺・・・、私はよく森に山菜を採りに行ってまして、それで迷っているアリーシャ・・・殿下に会いました」

 

 当たり障りのないように話すスレイ。

 この答えにシャルルも納得したようだった。

 

「アメリア姉様、そちらの方は?」

 

 アリーシャがアメリアの後ろに並ぶ、推薦されたであろう騎士の紹介を促す。

 

「そうね、紹介するわね。私が推薦する騎士、マルフォよ。この聖剣祭の主役(・・)をやってもらうことになっているわ」

「お初にお目にかかります。ご紹介に預かりましたマルフォ・サロワと申します。お見知りおきを」

「ああ。今日から色々と注目を集めるだろうが、頑張ってくれ」

 

 アリーシャがマルフォに言葉を返す

 

 ちなみに、シャルルは自分で挑戦することになっている。 実際は剣に触れる前に終了するが、試練に挑戦しようとしたという事実があるだけで良かったのだ。

 

「シャルル兄様、ヒース兄様は・・・、やはり来られないようですね」

「そうだな。仕方ないとはいえ、残念だ」

「謀殺されかかって以来、部屋に引きこもってしまったものね」

 

 そこで会話を切るように兵士がやってきた。

 

「失礼致します。午前の部が先程終了し、午後の部の準備が整いましたので、皆様聖堂へお越し下さい」

 

 

 

 

 

 スレイ達挑戦者は剣の突き立った台座、その檀上の脇で自分の番を静かに待っていた。 

 

 

 貴族の挑戦が終わり、遂にスレイの番が回ってきた。

 アリーシャは継承権第五位、王族で最も低いためため先にスレイが挑戦する。

 

「アリーシャ殿下より推薦。名をスレイ、前へ!」

「はいっ!」

 

 階段を一歩一歩ゆっくり踏みしめ、剣のもとへ向かうスレイ。

 

 自分は導師に選ばれないとはいえ、遥か昔の導師達が通った道程だと思うと緊張する。

 

剣の側にはライラもいた。スレイと目が合うと上品に微笑む。

 

 導師となる者を見極めるために出向いていたのだ。

 

 

 スレイが剣の前に立ち、柄を両手で握る。

 一呼吸入れて引っ張り上げ、・・・やはり剣は抜けはしなかった。

 

 

 壇上をおりる。

アリーシャが小声でお疲れ様と言ってきたので小さく微笑んだ。

 

「アメリア殿下より推薦。名をマルフォ・サロワ、前へ!」

「はい」

 

マルフォが壇上へと登り、剣の前に立つ。

そしてキンと音を立て、剣はあっさりと抜けたのだ。

 

ライラはそれに驚き、顔を伏せる。

 

 

「抜けた・・・、剣が抜けた!」

 

そんな声を皮切りに皆口々に言葉を発する。

 

「鎮まれ!」

 

一喝すると鎮まり、次の言葉を待つ民衆。

 

「皆の者よ。今まで抜けることのなかった聖剣が抜けた。これすなわち、今より地獄の苦しみが終わりへと向かうことの証である!この導師サロワが、皆を平和へと導くだろう!」

 

 マルフォが剣を高く掲げると、背後にある炎がより一層と猛る。

 

民衆の誰しもが、この導師サロワが平和で幸福な日々へと導いてくれると信じていた。

 

今この瞬間までは。

 

 

 

 

 

聖堂のステンドグラスが勢いよく割られ、そこからあの男(・・・)が侵入してきた。

 

「き、貴様!何者だ!?」

「・・・俺様かァ?俺様はそこのお姫様をブチ殺しに来た大悪党、ルナール様だァッ!クヒヒャヒャヒャヒャ!」

 

イズチを襲い、マイセンを殺した張本人、ルナールが今度こそアリーシャを殺しにやってきたのだ。

 

「侵入者め!この私が成敗してくれる!」

「クヒヒャヒャヒャ!」

 

 壇上から飛び降り剣で切りかかるマルフォ。

 ルナールはそれに嗤いながら応戦する。

 

 

「導師殿があいつを止めている今の内だ!扉付近の兵士は避難路の確保、その他の者は援護に回れ!急げ!」

 

 この聖堂内を警護していた主任でアリーシャの師匠、マルトランが兵士に素早く指示を飛ばす。

それを聞いて兵士が動く。だが何かで押さえつけられているかのように、全く動かなかったのだ。

 

「何をしている!早く開けないか!」

「そ、それが、何かで固定されているようで・・・ヒィッ?!」

 

 兵士の1人がやっと数センチの隙間を作る。その隙間から見えたのは、外で警護していた筈の同僚達の死体であった。

 そうしている間にも、状況は更に悪くなっていく。

 

既に援護していた兵士は倒され、マルフォもフラフラだ。

 ミクリオも援護しようとしていたのだが、戦いながらも周りに気を配っていたため、隙を突くことが出来なかった。

 

ルナールはマルフォの精彩さの欠いた剣を弾き飛ばし、蹴りつけて壁に吹き飛ばした。

 

「さぁて、邪魔者は片付けた。後はァ・・・」

 

ルナールがアリーシャに狙いを定める。

 

 ルナールが自分だけを狙っていると判断したアリーシャは、出口の扉とは別方向、剣の刺さっていた台座のある壇上近くへと足を運んだ。

 

「お前の狙いは私1人だろう!これ以上他の者を傷つけるな!」

「アリーシャ!この馬鹿者!!」

 

マルトランの叱責するように叫ぶがもう遅い。

ルナールは既に走り出し、アリーシャへと迫る。

 

そしてその爪でアリーシャを引き裂かんとした時、マルフォの剣を握ったスレイが凶刃を受け止めた。

 

「アァ?!」

「なっ!?スレイ、何をやっている!?君は逃げるんだ!」

「ぐぅっ・・・!アリーシャが殺されるのを知ってて、逃げる訳ないだろッ!!俺はアリーシャを助けるために、ここまで来たんだッ!!」

「ッ!?」

 

スレイの言葉に頬を染めるもすぐ苦しそうな顔になる。 そこまで想ってくれていることに嬉しく思う反面、友と思える程の人間を自分のせいで危険に晒したくはなかったのだ。

 

 

ルナールの攻撃を必死に捌くこと数度、度重なる激烈な攻撃に耐えかね、砕けてしまう。

だがその間に、マルトランがルナールのすぐ近くまで来ることに成功した。

 

「良くやった、少年!」

「チィッ、邪魔だァ!!」

 

苛立ちを見せるルナールに壇上まで吹き飛ばされるスレイ。

 

ルナールはアリーシャへと迫る。アリーシャに凶器の爪を突きつけ、マルトランへと向き直った。

 

「クヒヒャヒャヒャ!流石にお前さん程の奴を相手していたら、逃げられちまうかもしれないからなァ。こういう手を取らせてもらうぜェ」

「貴様ッ!今すぐアリーシャ姫を離せ!」

「師匠・・・」

 

 間合いを取る双方。だがじりじりと足を運び、ルナールは大きなステンドグラスに近づく。

 

アリーシャを殺してすぐ逃走を図るつもりなのだ。

 

 

一方、スレイは悲鳴をあげる体を無視してようやく立ち上がった。

 

「くそっ、早く何とかしないとアリーシャが・・・!」

「スレイさん」

 

ライラがスレイの隣に佇む。

 

「ライラお願いだ。ライラも手を貸してくれ」

「手を貸すことは確かに出来ますが、それではあの者、『憑魔』は倒せませんわ」

「あれが憑魔・・・?人間みたいなのに?」

 

憑魔とは、生物、無生物を問わず穢れに憑依され、果てに魔物のように姿が変わったしまった怪物を指す。

憑魔は強力な力を有しているため、退治は困難を極める。

ちなみに人間からは憑魔と魔物の区別はほとんどつかない。

 

 

穢れだけを殺し、宿主を救うには天族の霊力による浄化の力が必要不可欠だ。

だが憑魔の状態では浄化は厳しいため、人間の導師と協力するのだ。

 

「あれは恐らく、穢れを受け入れてますわ。あの者を倒すには天族と導師の力が必要でしょう。わたくしと、スレイさん、貴方の力が」

 

 ライラの言葉に、スレイは目を見開いて驚く。

 

「俺!?でも俺が導師になれるかどうかなんて・・・」

「なれますわ。導師の前提条件として、天族が認識出来ることですから」

 

 更にライラは続ける。

 

一度(ひとたび)導師となれば、穢れを浄化し続ける過酷な日々を強いられるでしょう。そして、救うべき人間からも、畏怖され、またその力を利用されるかもしれません。・・・その覚悟はありますか?」

「・・・・・・」

 

ライラに応えず、アリーシャを見つめる。 ルナールに拘束され、息をすることさえ苦しそうにしている。

 

「・・・わかった。俺は、導師になる。アリーシャを救うために力を貸してくれ、ライラ!」

「はいっ!」

 

スレイの答えにライラは嬉しそうに応える。

 

ライラは両手を前に突き出し、手のひらを中央に向ける。

すると、ライラの全身から光の靄が溢れ出し両手のひらの中に集まり球を形作った。

 

「これはわたくしの分身、霊力の塊『御霊(オーブ)』と言います。危険な状況ですので後で説明しますが、これをスレイさんに宿すことによって導師として覚醒します」

 

両手を出すように言われるスレイ。

すると御霊はスレイの手の中へと移り、溶けるように体の中へ入っていった。

その後すぐに熱いエネルギーのようなものが全身を巡り始める。

不意に左手の甲に熱を感じて見てみると、遺跡の手袋と同じ紋章が浮かんでいた。

 

「それは導師となった者に現れる証ですわ。そして・・・、後はあの者を倒すための聖剣ですわね」

「ライラ、剣はもう・・・」

 

マルフォが抜いた剣は、まともに使えない程砕かれていた。

 

「いいえ。聖剣ならここに(・・・・・・・)

 

言うや否やライラの体が光となり、剣を形作る。

それは炎をイメージした、見る者を圧倒させ畏怖させる、両刃の大剣。 聖剣はそのまま台座へ移動し、深々と突き刺さった。

 

『さあ、スレイさん!剣を!』

 

スレイは頷き両手で剣に手をかける。

 

 手の甲の紋章が強く輝いた。

 

 

 

 

 

人々は見た。

壇上にいた少年が剣を掴む動作をすると、まるで霞が晴れるかのように大剣が姿を現すのを。

 

そして少年が大剣を抜き放ち横に構えると、それを合図とするかのように、赤と白の綺麗な炎が剣から勢いよく噴き出すのを。

 

当然、ルナールやアリーシャからもそれは見えていた。

あまりの異常な光景に思わず見入ってしまう。

その一瞬の間にスレイは炎を噴き上げ一気に近づく。

 それはまるで、燃え盛りながら落下する隕石のごとき凄まじさ。

 

「オイオイオイ、テメェ一体なんだそりゃあ!?この女がどうなっても良いのかよォ!?」

 

焦るルナールはアリーシャを盾にとり脅迫する。

だがスレイは止まらない。ただ、一言。

 

「アリーシャ。俺を信じてくれ!」

 

果たしてアリーシャは。拘束され、苦しそうにしながらもニコリと微笑んで見せた。

 

「チィッ!」

 

人質もろとも自分を斬ろうとしていることを理解したルナールは。

悪あがきとばかりにアリーシャを手に掛けようとする。

 だがその爪はアリーシャへと届く前に凍りつき、固まってしまった。

 

「やっと隙を見せたな」

 

ミクリオはずっと待っていた。ルナールに隙ができるこの時を。

 

霊力を術として昇華した技術、天響術により冷気を発生させ、瞬時に凍らせる。

 

だがこれも憑魔にはただの時間稼ぎにしかならない。

しかし、それで十分だった。

 

「クソォォォッッ!!」

 

 吠えるルナールとスレイを信じて身を任せるアリーシャへ、躊躇なく大剣が一閃された。

 




ストックが無くなったので、次の更新は2~3週間後になると思います。

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