ゼスティリアリメイク   作:唐傘

23 / 45
 短いです。スレイ達は出てきません。
 次への事前準備みたいなものです。

 これに伴い3.導師誕生、人物紹介、設定紹介を少し修正しました。


第二章 災禍の顕主
20.暗雲


 スレイ一行がマーリンドに滞在中の時のこと。ハイランド王国の王都レディレイクにて2つの不穏な動きを見せていた。

 

 

「くそうっ!!」

 

 とある屋敷で、ハイランドの騎士マルフォ・サロワは自室で独り、一般市民なら卒倒する程の高級酒を次々と飲み下していた。

 これらの酒は、本来ならば導師になった祝いとして以前から用意していた品々だったが、導師になり損ねたことでそれが全くの無駄となってしまった。

 

 現在マルフォは謹慎の命令を受けており、一日中屋敷に籠って酒をあおる生活をしていた。町へ繰り出すことは可能だが、一歩外を出れば『偽導師』として罵詈雑言を投げかけられ冷めた目で見られた。

 

 マルフォは怒りと憎しみに心を燃やしながら思う。

 これも全ては『導師』という名の称号と『聖剣』、そしてアリーシャ王女を横取りした、あいつ(・・・)のせいなのだと。

 

 自分こそが輝かしい栄光と未来を掴む筈だったのに、目が覚めてみれば全てが終わっていた。どこの馬の骨とも知らないぽっと出の小僧が真の導師として持てはやされ、対して自分は偽導師という汚名を着せられ罵られ、外を出歩くことすら出来ない日々。

 

 あの小僧(スレイ)がいなけえば今頃は、導師として名を馳せ民衆の支持と羨望を集め、強権を振るっていた筈。上手くすれば国王に近しい役職も手に入った筈。

 そしてそのためには末端の姫(アリーシャ)を伴侶として迎える必要があった。片手間に騎士などをしているものの、見た目も良く民衆の支持も厚い彼女ならばうってつけだ。マルフォは本気でそう思っていたのだ。

 

 体裁を整えるために当時は気にしていないとしたものの、内心では欠片もスレイを許していなかったのだった。

 

 

 声を抑えもせずに愚痴を零しながら次の酒に手を伸ばそうとし、周囲には既に空き瓶しか無いことに気が付く。

 マルフォは苛立ちながら声を張り上げた。

 

「チッ。誰か!酒を持ってこい!」

「はぁい、どうぞォ」

「……は?」

 

 部屋の扉へ顔を向けていると、艶やかな声と共に手に持つグラスに注がれる聞き慣れた水音。驚いて正面に向き直ると、いつの間にやら女が酒瓶を持ってそこにいた。

 

 腰まである長い髪も、肉付きの良い肢体を包むドレスも全て黒。肌は白く一目見て美人だとわかるものの、顔に張り付くニタニタとした気味の悪い笑みが全てを台無しにしている。まるで獲物を弄ぶ意地の悪い猫のようだった。

 

「ッ!?」

 

 マルフォは遅れて動こうとするも、よろけて椅子やテーブルと共に無様に転がってしまった。その衝撃で空き瓶が割れる。

 

「ちょっとォ、あたしが注いであげたっていうのに何零してんのよ。ダサい男」

「きき貴様、何者だ!?」

 

 狼狽しながら声を荒げるマルフォ。かなり酔っている自覚はあったものの、それでも誰かが部屋に入れば気付く筈であり、また音も無く真正面に立たれるなどもっての外だった。

 

「アハハハッ!あなたってホント駄目よねェ。そんなだから導師の称号も王女様も奪われちゃうのよォ。偽物導師様?」

 

 マルフォの問いには答えず、今だに立つことの出来ない醜態を嘲う女。マルフォは羞恥と怒りで容易く沸点を超え、立ち上がり割れて尖った瓶を逆さに持ち殺意を漲らせる。

 

 ところがそんなことには少しも意を介さず、女は囁く。

 

「ねェ、あなた。あのお子様導師から、全てを奪ってやりたいと思わない?」

 

 マルフォは思わず手に持っていた瓶を落として呆ける。

 

 女は口元を三日月のように歪めた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 そして所変わり、ラウドテブル王宮にある地下牢の中。ここには王宮にて犯罪を犯した者、もしくは王族をその手にかけようとした者を閉じ込めておく場所だ。ここに入れば最期、特例を除いて日の下に戻れるのは死体となった後となる。そのような特別な場所であるため滅多にここに入る者はおらず、現在投獄されていたのは1名のみであった。

 そしてそんな中、牢の格子から首を出して必死に喚き散らす男が1人。

 

「なァ、さっさとここから出してくれよォ!!王女様死んじゃいねぇんだから構わねーだろォ!?だったら未遂だって未遂ィ!!」

 

 レディレイクの聖堂でアリーシャ殺害を企て、大暴れして捕まったルナールだった。聖堂では誰もが恐怖する程の迫力を見せていたルナールだが、今はただの小物感に溢れている。

 尋問に耐えるだけの最低限の治療はしてあるものの、それ以外は放置されているため火傷は化膿し、顔や体は痣だらけだった。

 

 尋問の結果、所属する組織の名が『獣の骨』という暗殺集団であること、アジトは移転を繰り返しているため現在地が不明であること。そしてアリーシャ暗殺の経緯に関しては、『頭領』と呼ばれる上司に暗殺するように告げられただけであり、詳細は殆ど知らなかった。

 これ以上締め上げても他の情報は出無さそうだと判断され、あとは数日後に処刑を待つばかりであった。

 

 ルナールは全身の痛みと死の恐怖に苛まれながら思う。

 

 あの2人の小僧(・・・・・)さえいなければ、自分はこんなことにはならなかったのにと。あいつらのせいで自分はこんな目に遭うのだと。

 

 穢れを宿しながら正気を保ち、尚且つ魔物化しないルナールは貴重だった。頭領やその直属の部下の女も同様に穢れを宿しているため組織のトップになることは出来なかったが、それでも下っ端だった以前と比べれば天地程の差があった。たまに標的以外を殺してしまうことはあっても穢れとその力を理由に不問にされるため、ルナールの人生は正に血のように赤い薔薇色だと言えた。

 だが穢れを払われ、たかが辺境の小僧共によってそれは潰えてしまった。

 

 ルナールは、強者(・・)である自分をこんな理不尽な(・・・・)場所に追いやった、あの2人を今すぐ八つ裂きにして殺してやりたいと延々と思っていた。

 

 

 ルナールがそんなことを考えていると、暗い影から抜け出すようにして目の前に黒ずくめの大男が現れた。

 2メートルは軽く超えている背丈と、服の上からでもわかる程に盛り上がる筋肉で覆われており、熊を連想させる。だがそんな見た目とは裏腹にその瞳は冷徹そのものだった。

 

「と、頭領………!?助けに来てくれたんですかい!?クヒヒャヒャヒャ!やったぜィ!これで牢を出られるッ!」

 

 そう言ってルナールは喜び、スレイとミクリオをどうやって殺そうか既に算段を立て始めていた。すると不意にルナールの前を横切る、光る何か。目でそれを追った先、そこには長大なナイフがルナールの太腿に深々と刺さっていたのだった。

 

「ヒギャアアアアアアアッ!!?」

 

 ルナールは堪らず叫び声を上げる。

 

「い、痛ぇよォッ!!と、頭領!何でこんな―――」

「黙れ」

 

 容赦の無い重低音の声に、恐怖に引きつるルナールは痛みも忘れて口を閉じる。

 

「勘違いするな。俺が貴様を助けに来たのは貴重な人間だからでは無い。我等『獣の骨』が、貴様のような無様な醜態を晒すことを良しとしないためだ。最近の貴様は余計な行動が目に余る。恥を知れ」

「ぐぅッ………、も、申し訳ありません………」

 

 恐怖に支配されながら、ルナールは謝罪の言葉を口にする。心の底では頭領を罵倒するものの、勝てる相手ではなく処分されるのが落ちであるため従う他なかったのだ。

 

 大男、獣の骨の頭領グリーズはキラリと光る何かを投げて寄越す。それはルナールの足元に転がった。

 

「次にこのようなことがあれば貴様を処分する。肝に銘じておけ」

 

 その言葉に体を震わせるルナールだが、光る何かを拾い見たルナールの顔には、恐怖や痛みによる脂汗と共に邪悪な笑みが零れる。その顔には復讐という名の愉悦に塗れていた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 時を同じくして霊峰レイフォルクの山頂。

 

 この数日、どこを見ても景色は1つも変化していない。

 この場所で唯一動きを見せていたエドナが下山していたため、まるでここだけが世界から切り取られたかのように静寂に包まれていた。

 

 だがそんな制止した世界に、外から異物が入り込む。

 

 軽快な調子で山頂へ登って来たのは、奇抜な格好をした1人の男だった。

 

 20代の年齢を思わせる若者で色黒の肌。腰にまで届く長い白髪で毛先は緑に染まっている。不真面目そうな雰囲気とは裏腹に、目は肉食獣のように鋭い。

 だがそんな彼の一番の特徴は、上半身が裸ということだった。よく引き締まった色黒の肌の上に白いペイントを施しており、下手をすれば露出狂と思われかねない程の奇妙な姿だった。

 

 男は軽く見回した後小屋へと近付き、エドナの名前を呼んでノックする。だがいくら待っても返事は無かった。

 

「ありゃ、留守か?」

 

 不思議そうに手を顎にやり首を傾げる。

 エドナならば居留守を使っている可能性もあるが、誰かがいる気配が少しも感じられない。食料でも採りに出掛けているのかとも思ったが、扉の前に微妙に積もる砂埃から見て、少なくとも数日は出入りされていないことが窺える。かといって、エドナの性格を考えるとドラゴンになった兄を見捨てて他へ移住したとも考えられなかった。

 

「どうしたもんかねぇ………」

 

 男は頭を悩ませる。男はエドナの兄が遺した願い(・・)に応えるため、今まで魔物の蔓延る北のレイスノー大陸へと旅に出ており、そして最近になってようやくその手立て(・・・)が見つかったのだ。

 そのためこうしてレイフォルクへやってきたのだが、肝心のエドナがいない。

 

 途方にくれて辺りを見回すと、封印され眠り続けるドラゴンが目に入る。そしてそのドラゴンへと近づいていった。

 

アイゼン(・・・・)。テメェは昔のまま、ちっとも変わらねぇな」

 

 男は目を細め、軽薄さの中に親しみを込めてドラゴンになったエドナの兄、アイゼンの名を呼ぶ。だがアイゼンはその声に応えることは無い。

 

 無論男も返事が無いことは承知していた。そしておもむろに腰のホルスターに手をやり、1000年前の遺物である銃、ジークフリートを抜く。

 

 銃口をアイゼンに向け指を引き金にかける。男は獰猛(どうもう)に笑った。

 

 

 




 次の投稿は遅くなるかも知れません。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。