ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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 活動報告にも書きましたが、遅くなってしまって申し訳ありません!
 題名通りに描写出来ていたら嬉しく思います。

2016/4/29
 アリーシャの口調に関して一文加筆しました。
 エドナ「わかったわ。一緒にいく」→「良いわ。一緒にいく」に変更しました。
 アリーシャにも誘われたことを加筆しました。


18.気難しい彼女

 エドナは苛ついていた。その原因はスレイの行動だった。

 

 ネイフトと話していた時、突然顔を向けたかと思えば、妙案が浮かんだとばかりに勝手に目を輝かせるスレイ。そしてエドナが頼みもしないのに、マーリンドにあるドラゴン関連の本を全て読ませて欲しいと頼んだのだった。

 ドラゴンになった兄を元に戻す手がかりを探すためだと気が付いたエドナは、そんなことをしなくて良いと言ったのだったが、自分が調べたいだけだからと言って全く聞こうとしなかった。

 

 ジイジ達イズチの天族も、ドラゴンのことについては殆ど知らないようだった。

 

 森での捜索や重症者の様子見をする一方で、書庫に入り浸りドラゴンに関する手がかりを探すスレイ。アリーシャやライラ、ミューズ、そして渋々ながらミクリオも時々手伝っていた。

 手がかりなど見つからずにすぐ諦めるだろうと思っていたエドナだが、予想に反して5日経った今も探し続けている。無意味なお節介を焼く彼ら、主にその中心であるスレイに対して、苛々を募らせていたのだった。

 

 マーリンドの町を適当にうろつくエドナ。この苛々をどうにか発散出来ないものかと思いミクリオを探すものの、近くには居そうにない。だがそんな時、エドナはネイフトを始めとした面々と今後のマーリンドついて話をしているアリーシャを見つける。

 

「………では国にはこのように報告しておきます。他に物資で不足しているものはありますか?」

「いや、当面はこれで問題ありません。それではよろしくお願い致します」

「「あ、あのっ!王女様!」」

 

 ネイフトとの話が終わった後、数人の少女が緊張気味にアリーシャに話しかけて来た。

 

「うん?どうしたの?」

 

 アリーシャが少女に目線を合わせて尋ねる。

 すると1人の少女が後手に持っていた、甘い香りのする袋をアリーシャに差し出した。中を見るとプレーンとベリー系のクッキーが袋いっぱいに詰め込まれていた。

 

「これ、お母さんに習ってクッキーを作ったんです!王女様と導師様達に、町を救ってくれたお礼がしたくて!」

「これ貴女達が作ったの?すごく良い香りね、どうもありがとう。なら私から導師様にも渡しておくわね?」

「はい!お医者様や兵士の人達にも渡さなきゃいけないから、失礼します!」

 

 赤く照れた笑顔で元気に返事をする少女。そして彼女達はペコリとお辞儀をして走り去って行った。

 

 少女達を見送った後で、アリーシャは改めて香りを嗅いでみる。バターや砂糖、そしてベリーの甘酸っぱい香りが胸いっぱいに満たすと、自然と笑みが零れていた。

 

「へぇ、それがあなたの素の話し方なんだ?」

「わわぁっ!?エ、エドナ様!?」

 

 背後から突然話しかけてきたエドナに仰天し、アリーシャは危うく貰ったクッキーを落としかけてしまう。

 

「ちょっと。しっかり持ってないと危ないじゃない」

「も、申し訳ありません。エドナ様が側にいると気づかなかったものでつい」

「別に良いけど」

 

 エドナは興味無さ気に相づちを打ちつつ、クッキーの入った袋を見ながら、わたしにも貰う権利はあるわよね?と聞いてくる。

 天族は人間には認識されないためその活躍は知られてはいないが、人々のために尽力してくれたことは明らかだ。少女も町を救ったお礼と言っていたのでアリーシャは勿論です、と頷いて袋を差し出した。

 

「それで、何で普段はあんな男っぽい口調にしてるのよ?」

 

 エドナはクッキーに舌鼓を打ちながら尋ねる。アリーシャは恥ずかし気に口を開いた。

 

「その、私がまだ騎士見習いだった頃に師匠から言葉遣いで注意を受けたのです。言葉が軟弱だと心まで弱くなってしまう、騎士としての自覚を持てと。そのため私は師匠を真似て、騎士である時はあのような口調で話すことにしたのです。ただ、王女という立場も相まって子供やお年寄りにはかなり高圧的に聞こえていたようで、その時々に応じて変えることにしたのです」

「ふーん。わざわざ男の師匠の言葉を真似なくてもいいのに」

「あ、いえ、マルトラン師匠は女性ですよ。ここ最近はローランス帝国とは小さな衝突を繰り返すのみですが、師匠は10年ほど前の戦争では『蒼き戦乙女』(ヴァルキリー)と恐れられ、その当時のハイランド王国では最強だったそうです」

 

 エドナは適当に相づちを打つ。

 

「そんなにすごい人が、よくあなたみたいな弱そうな人を弟子にとったわね。やっぱりお姫様だからかしらね」

「………はい。その通りです。騎士に憧れた私は、無理を言って師匠に頼み込んだのです。父も出来るならやってみろという姿勢だったので、簡単に騎士見習いにさせてもらえました。ですが問題はその後でした」

 

 アリーシャは当時の事を思い返して苦笑する。

 

「他の騎士見習いと同じように兵舎へ入れられ、最初の頃は毎日雑用ばかりさせられて、王女としての扱いはまるでされませんでした。師匠からは、この程度で音を上げるなら辞めろと事あるごとに言われました」

 

 事実、アリーシャと同時期に入った騎士見習いは耐えきれずに辞める者も多く、1ヶ月で当初の半分の人数となっていた。

 騎士となる者はその殆どが家を継がない貴族だ。そのため自尊心の高く、雑用を押し付けられることに我慢ならなかったのだ。

 

 マルトランはただアリーシャに辛く当たっていたのではない。アリーシャに騎士になる厳しさを身をもって教え、音を上げるまで待っていたのだった。だがマルトランの意に反して、アリーシャは2ヶ月、3ヶ月と辛い日々を順調に乗り越えていき、遂には騎士となったのだった。

 

「やっと騎士に任命された日の事は今でも鮮明に覚えています。それまで鬼のようだった師匠が優しい顔で、良く頑張ったなと初めて褒めてくれたのです。あれは本当に嬉しかった………」

「ふーん」

 

 思い出に浸るように話すアリーシャ。任命された後マルトランから数々の非礼を深く謝罪されたが、むしろ特別扱いなどせずに自身の甘い考えを叱咤してくれたことに感謝した。正式に騎士となってからはマルトランから直々に槍の手ほどきを受けたのだった。

 

 熱の入るアリーシャとは逆に、聞いていたエドナはどうでもいいけどちょっと気になった程度の興味だったので冷めたままだった。

 そんなエドナに気付き、アリーシャはしまった、と思うと共に別の話題に切り替えた。

 

「そ、そういえばエドナ様。約束していたお願いは何か決まりましたか?」

 

 慌てたアリーシャにそう聞かれ、そういえばそんな約束をしていたと思い出すエドナ。機会があれば何かお願いという名目の意地悪でもしようと思っていたが、スレイの事もあり、またどうでもいい約束だったため今の今まで忘れていたのだ。

 

「そうね………。何でも良いのよね?」

「はい!」

 

 アリーシャの気持ちの良い返事を聞いて、エドナは薄く笑みを浮かべる。

 

「じゃあ踊って」

「………はい?」

 

 アリーシャは意味がわからず疑問符を浮かべるのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 アリーシャとエドナはあまり人目のつかない場所へと移動した。

 エドナとしては道の往来でアリーシャに踊らせることも面白いとは思ったものの、今から教える通称・リスリスダンスを仮にも一国の王女が人目のある中独りで踊っていた場合、彼女の社会的地位はことごとく失墜するだろう。

 

 ちょっとした意地悪が大好きなエドナだが、流石に相手の人生を奪うような悪辣なからかい方は好まなかった。

 

 エドナは貰ったクッキーを持ちながら、目の前で踊るアリーシャに厳しく指導する。

 

「全然駄目ね。いい?リスリスダンスで一番重要なのは腰よ。見る者にもこもこふさふさのリスの尻尾をはっきりと幻視させるのよ。あなたのそんな小さい腰振りじゃ、世の男共は見向きもしないわ」

「え、えっと、踊りに男性は関係ないと思うのですが………」

「あなた馬鹿?動物の踊りと言えば求愛のダンスよ」

「き、求愛!!?」

「そうよ。自分の好きな異性を落とすために、時に可愛らしく、時に情熱的に相手を魅了するの。スレイでもミボでも良いから目の前に男がいると思って踊りなさい」

「えっ!?いや、あのっ!?」

 

 内心アリーシャのあたふたする様を楽しみながら、殊更真剣ぶった顔で指導するエドナ。

 アリーシャは顔面を火を噴いたように赤くしながら踊り続ける。頭の中は既にパニック状態だった。

 

「アリーシャ。せっかくわたしが教えてあげてるんだから、もっと真剣にやりなさい」

「い、いえその!真剣にと言われましても………!」

「………はぁ。しょうがない。どうも真剣になれないようだから、とっておきの秘密を教えてあげるわ」

「とっておきの秘密、ですか?」

「ええ。リスリスダンスという踊りは腰を酷使する。それはつまり腰の強化に繋がるわ。その結果、リスリスダンスを極めれば槍の威力が倍増するのよ」

「!!!」

 

 雷に打たれたかのように驚愕するアリーシャ。

 

 だが嘘である。

 もしかすると多少の威力は上がるかも知れないが、そんなことはエドナもわからないのだ。

 

 まだ顔は赤いものの、キリリとした真剣な面持ちに変わるアリーシャ。その澄んだ瞳には先程のような羞恥や混乱は見られない。

 

「エドナ様が私を想って直々に教えて頂いているというのに、不真面目なことをしてしまい本当に申し訳ありません。見た目に惑わされた私が愚かでした」

「気にしないで良いわ。あなたなら大丈夫。きっとこのリスリスダンスをものに出来るわ。しっかりと精進するのよ」

「はいっ!」

 

 こうして更に2時間、アリーシャは踊り続け、エドナはからかい続けるのだった。

 

 

 リスリスダンスを踊り終えた後。

 

「エドナ様!この度は直々のご指導、誠に有難うございました!」

「お礼なんて要らないわ。わたしも色々楽しかった(・・・・・・・)しね」

 

 大量の汗を掻きながら、澄み切った笑顔で感謝を述べるアリーシャ。これほどまでに清々しい気持ちはマルトランとの槍の稽古で辛くも1本取った時以来だろう。エドナの嘘には微塵も気が付いていないが。

 対するエドナも、理由はどうあれ楽しかったというのは本心だった。ここまでからかい甲斐のある人間は中々おらず、また真剣に信じてくれるのだから面白かった。少なくとも、スレイに抱いていた苛々は無くなったのだった。

 

 だが、楽しかった、という気持ちを言葉にして、エドナは一転して心に陰が出来る。

 この数百年の間、エドナは楽しいなどと言う気持ちを持たずに過ごしてきた。人に裏切られ避けるようになり、ドラゴンになった兄を見捨てることが出来ずに無為に過ごす日々。明日から、またそんな生き方を続けなければならないという現実に寂しさを覚え、また人間に関わり過ぎたと後悔したのだ。

 

 アリーシャはエドナの変化を察し、尋ねる。

 

「エドナ様?どうかなさったのですか?」

「………別に。ただ、また元の生活に戻るのかと思うと少し―――」

 

 と言いかけてエドナは咄嗟に口を(つぐ)む。沈んだ気持ちに引きずられて、認めたくない気持ちが思わず口を突いて出てしまったのだ。

 言いかけて止めたエドナに、アリーシャは疑問を深める。

 

「少し………どうしました?」

「………何でもないわ。気にしないで」

「………………」

 

 会話が途切れ、沈黙が続く。そしてエドナはこの沈黙に耐え切れなくなり、どこかへ行こうと歩き出そうとした時、アリーシャが口を開いた。

 

「あの、エドナ様」

 

 エドナはピタリと足を止める。顔だけアリーシャの方へ振り向いた。そして。

 

「よろしければ、私達と共に旅をしませんか?」

「………え?」

 

 その言葉を聞いてエドナは目を見開く。

 

「今、スレイはドラゴンに関しての手がかりを探しています。この先エドナ様のお兄様を元に戻す方法が見つかるかどうかはわかりません。ですが、旅をすれば思いがけない何かが見つかるかもしれません。それに………」

「………それに?」

 

 一旦区切ったアリーシャと、その続きを促すエドナ。アリーシャは、少し照れたはにかんだ顔で言った。

 

「エドナ様が一緒ならきっと、旅がもっと楽しいものになると思うのです」

 

 アリーシャは、少し、の後に続く言葉が『寂しい』ではないかと予想した。事実それは当たっていたのだが、アリーシャはそれをそのまま聞いてしまえば、この少女は恐らく反発するのではないかと思ったのだ。そこで自分なりに言葉を探し、嘘ではない、真摯な言葉を伝えたのだった。

 

 しかしいつまでも反応が無いことに焦り出すアリーシャ。そして。

 

「あ、あの!あとリスリスダンスの他にも踊りを教えてもらいたいですし、それにっ―――!」

「プ、フフッ」

「え?」

 

 アリーシャの予想外の言葉と狼狽え様に思わず吹き出すエドナ。

 アリーシャにきちんと向き直り、言う。

 

「アリーシャの気持ちはわかったわ」

「え、では………」

「そうね。考えておくわ」

「…!はい、ありがとうございます!」

 

 エドナの答えに喜び頭を下げるアリーシャ。

 

 エドナは、アリーシャが自分の言いかけた言葉が何なのか気付いているのだろうと思った。それでもその気持ちを利用しないアリーシャに、ほんの少しだけ心の中でお礼を言うのだった。

 

 さて、旅をするにしても断るにしても、エドナがアリーシャに応えるためにはスレイの真意を聞かなければならない。

 どうして頼んでもいないのに、時間を割いてまでドラゴンを調べるのかがどうしてもわからないのだ。スレイが大層な理由を考えているとはあまり思わなかったが、エドナは納得がいかなかったのだった。

 

「スレイに聞きたい事があるから、わたしはもう行くわ。ついでだし、このクッキーも持って行ってあげる」

「承知しました。では申し訳ありませんが、お願い致します」

 

 そう言ってエドナはスレイのいる書庫へと足を運んだのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 見渡す限りに本が並べられている書庫の中で、スレイはドラゴン関連の本に囲まれながら1人頭を悩ませていた。

 そこへエドナがやって来た。

 

「あれ、エドナ?どうしてここに?」

「わたしが来たら何か問題でもあるの?」

「問題は無いんだけど、さ。勝手にドラゴンの事調べて怒らせたから」

「………もう怒ってないわ」

「………ごめん」

 

 スレイはばつが悪そうに言う。

 ネイフトに告げた後、エドナからそんなことをしなくて良いと暗に否定されたスレイだが、自分が勝手に調べるだけだからと言うと逆上させてしまったのだ。

 迷惑よ、何かのアピールのつもり?ふざけないで等々、散々言われたあとでスレイに近づこうとはしなくなった。ミクリオ達の話によると、時々遠くから様子を見に来てはいたようなのだが。

 

 エドナがそんなにも嫌がるなら止めようかと悩みもした。だがそれだとエドナは元の生活のまま、何も変えられず過ごしていくだろう。

 エドナは望んでそこに居続けたのではない。ただ兄の事を見捨てられずに側にいることしか出来なかったから、数百年の長い間を過ごすしかなかったのだ。

 

 スレイは、自分がまた人を好きになってもらいたいと思った少女が、心を擦り減らし続ける生活を送っていくことに納得がいかなかったのだった。

 

「とりあえず、はい、これ。町を救ってくれたお礼にって、女の子がくれたそうよ」

 

 スレイの様子に軽く溜息をつきながら、エドナはクッキーを手渡す。スレイは喜び、お礼を言って受け取った。

 

「それで、何か手がかりは掴めたのかしら?」

 

 アリーシャの用事を終えて尋ねるエドナ。だがスレイの反応は複雑だ。

 

「ここにある本全部調べてみたけど、直接的な手がかりは見つからなかった。でも、手がかりになるかもしれないものは見つけたんだ」

 

 そう言ってスレイは今にも崩れそうなボロボロの紙束を取り出した。

 

「何、その汚いの」

「あはは………。これはアリーシャ達が避難した遺跡の地下の小部屋あった物なんだ。殆ど風化してかすれてるけど、ほら、ここ」

「………5、体………竜?………これが何?」

「これだけだと何の意味も無いけど、これのお陰で発想の転換になったんだ。八天竜は最初から八体いたんじゃなくて、昔からあった竜の伝承に後付けされて八天竜になったんじゃないかってさ」

 

 スレイの持つ天遺見聞録には八天竜の存在が書かれていたが、詳細な場所やその年代は書かれていない。恐らくこの天遺見聞録の作者は、わざと読者に勘違いさせることを狙って書いたのではないかとスレイは思ったのだ。

 

 スレイは世界地図を取り出しエドナに尋ねる。

 

「いくつかの本ではお兄さんが300~400年前に現れたことになってるけど、それで合ってる?」

「………そうね。約350年前よ」

 

 スレイはペンでレイフォルクを円で囲み、年代を書き込む。そのまま他の伝承やおとぎ話にあった場所と年代を次々書き込んでいく。すると誤差はあるものの、大きく8つの場所に円が集中したのだ。そしてその年代はレイフォルクを含む300~400年前の5ヶ所と、それ以上の年代と思われる3ヶ所に分かれたのだった。

 

「特に古いのはこの3ヶ所。そしてその中の2ヶ所に何か手がかりがあるんじゃないかと思ってるんだ」

 

 1つはレディレイクから北東に位置する、陸から離れた孤島。

 もう1つは北のレイスノー大陸の西に位置する、一面氷に覆われているらしい地域だった。

 

 除外した場所は『竜の餌場』と呼ばれる危険地域であり、伝承から見ても関係は無さそうだと踏んだのだ。

 

「他の場所も探すとして、まずはこの2ヶ所を目標にしようと思う」

「………やっぱりわからないわ」

「え?」

「スレイ。どうして探すの?あなたの目的は何?そんなことしても、あなたに得なんて無いじゃない」

 

 スレイの話を聞いて、兄を元に戻す方法を一応は探そうと努力していることはわかった。

 だがやはり、スレイがそこまでする程の目的がどうしても見えてこなかったのだ。

 

 スレイは沈黙するが、やがて口を開いた。

 

「まず、勘違いされたくないから先に言うけど、エドナ、俺達と一緒に旅をしてみない?」

「………それは、お兄ちゃんを戻す方法を探す代わりに旅に付き合って力を貸せってこと?」

 

 だがスレイは首を横に振って否定する。

 

「違う。エドナが来ても来なくても、戻す方法は探すよ」

「………じゃあ一体何が目的なの?」

「目的っていうか、前にも言ったじゃん」

 

 スレイはニカッとエドナに笑いかけて言ってのけた。

 

 

「エドナに、また人を好きになってもらいたいってさ!」

 

 

 エドナは唖然とした。

 まずそんなこっ恥ずかしい台詞を2度も言える神経を疑い、次にそんな目的で動くスレイの頭を心底心配した。

 

「エドナのこと、ほっとけないんだ。だからお兄さんを元に戻す手伝いをしたいと思うし、旅を通じて少しでも人を好きになってもらえたらって思うんだ。旅の事、少しだけでも考えてくれないかな?」

 

 エドナはさっきまでスレイを警戒していた自分が馬鹿馬鹿しく思えた。

 ここまできて実は何か企んでいるのではないかと思わないでもないが、今までの言動や行動からしてそれほど腹芸が得意ではなさそうだということもわかっていた。

 

「はぁ。あんた(・・・)達って、本当に………」

 

 素直で不器用な、珍しいくらいの変人。

 スレイとアリーシャに対して、エドナはそう結論付けたのだった。

 

「良いわ。一緒にいく」

「えっ!ホント!?」

「ええ。アリーシャにも誘われてたしね。ただし、もし元に戻す方法を探す素振りも見えないようなら、あんたを許さないから」

「わかった。エドナ、ありがとう!」

 

 エドナは威圧するように言うが、真剣に大きく頷くものの堪える様子もないスレイ。そして笑顔でエドナに礼を言うのだった。

 

「仲間になったことだし、せっかくだからサイモンについて少し教えてあげるわ。と言ってもあなた達のことを完全に信じた訳じゃないから、わたしに関連しないことだけだけど」

「うん。俺達の事、少しずつ信じてくれればそれで良いよ」

「………ふん。それで、サイモンが憑魔を従えられる理由だけど、心当たりがあるわ」

「心当たり?」

「ええ。恐らくその理由は、闇の天族の特性である限定的な『洗脳』よ」

 

 天族はそれぞれ属性に応じた特性を持つ。エドナは闇の天族の持つ特性『洗脳』によって憑魔を操っているのだと推測したのだった。


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