ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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2016/3/25
 15.焦燥というタイトルを変更しました。

2016/4/9
 神依する前の文に、アリーシャにアタックを預けてと追記しました。

2016/5/10
 大剣をその手に掲げ→大剣をその手に携え、間違っていたので修正しました。


16.火神招来

 ジイジから言われた言葉。「帰れ」というその一言に場の空気は静まり返る。

 数秒遅れて、ミクリオは頭が混乱する中、何とか言葉を絞り出した。

 

「か、帰れって今からイズチに………?だけど、ここからイズチまでかなりの距離が―――」

「儂等の乗ってきたグリフォンには、人目につかない町の外で待つように言ってある。ウーノとロハンをこの町に残らせるのだから、その分お前達も乗れるじゃろう。今の下界には危険が満ち溢れておる。スレイが戻り次第、すぐにイズチへ帰るんじゃ」

「で、でも、僕らは………」

「くどい」

 

 全て言わせないまま、被せるように言うジイジ。

 ミクリオは言葉を続けられず、手の平を強く握りしめ(うつむ)いてしまう。

 

 そんなミクリオを気遣ってか、ミューズはやんわりと話しかけた。

 

「ねえ、ミクリオ。貴方がスレイと一緒に世界を見て回りたいと思っていたことは知っているわ。でもね、イズチでもう少しだけ、あと10年か20年、旅立つ準備をしてからでも遅くないと思う。今回みたいに見切り発車で飛び出すよりずっと良いと、母さんは思うの」

「………………」

「その時になったら、母さんは貴方の事をきちんと見送るわ。だから、今回は我慢して帰りましょう?」

 

 子供に諭すように、ミューズは優しく話しかける。このまま旅を続けるかもしれないミクリオを心の底から心配していた。

 

 俯き続けるミクリオに、ジイジとミューズは諦めて素直にイズチへ帰ってくれるかと思った。だが顔を上げたその瞳には、ジイジ達の期待とは真逆の意志が込められていた。

 

「……………僕は帰らない」

「え?」

「僕はイズチには帰らないっ!!」

 

 ミクリオは声を大にしてジイジやミューズに言い放つ。

 

「確かにずっとスレイと世界を見て回ることを夢見て来た。10年後20年後でも旅は出来ると思う。でも僕はアリーシャやライラみたいな、同じものを見て聞くことの出来る仲間と旅がしたい!見切り発車だろうとなんだろうと、僕は今旅を続けたいんだ!」

 

 ミクリオは必死に自分の気持ちを叫ぶ。

 

「………だがの、今日まで下界を旅したお前ならわかっておるだろう。導師となったスレイは何とかなるかもしれぬが、ミクリオ。お前は天族として若すぎる」

「わかってる。だけど、10年20年なら霊力の上昇もたかが知れてる。だったら今死ぬ気で頑張ってでも、みんなと一緒に行きたいんだ!お願いだジイジ、このまま旅を続けさせてくれ!」

 

 心の内を全て吐き出すようにして叫びながら、頭を深く下げるミクリオ。

 ミューズはそんなミクリオを複雑そうに見つめていた。

 

 ジイジは今なお頭を下げ続けるミクリオを長く見つめ、重く長いため息をついた。

 

 沈黙の後、先に口を開きかけたジイジ。だが何かを察知したかのようにに突如マーリンドの森のある方向へと顔を向ける。

 

「ジイジ!」

「待て」

 

 なおも言葉を重ねようとするミクリオだが、ジイジがそれを制する。不審に思ってジイジが見つめている方向を見るが、ミクリオには何も見つけることは出来ない。先程までと何ら変わらない森の景色に見えた。

 

「………来る」

 

 そう呟いたジイジは眉間に皺を寄せて顔を険しくした。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 兵士2人を連れて森の最深部へと向かうスレイ達。兵士達の状態を考えれば、これ以上の戦闘は避けてマーリンドへ戻った方が良かったが、憑魔がいるらしい最深部まですぐそこだったため一緒に来てもらったのだ。

 最深部に辿り着き、森のより一層開けた空間に出た中心でそれはいた。

 

「導師はん、あの憑魔や~!」

 

 アタックの指す先。広い空間に王者のように居座る植物型の憑魔、エビルプラント。

 紫色をしたヒョウタン型の体に黒い目のような模様。くびれた辺りから腕のように蔓が伸び、その先端はハエトリ草のような形をしている。

 

「来ますわ!」

 

 スレイ達の姿を見つけると一直線に襲い来るエビルプラント。

 跳ねるように近づいて来ると、ハエトリ草のような腕をハンマーのように振り回し、スレイ達目がけて叩き潰そうとしてくる。

 

 攻撃を回避しつつ散開し、各々迎撃を開始する。アリーシャは突きを繰り出す傍ら、2人に攻撃が集中しないよう牽制し注意を引き付ける。スレイは振り回される腕を回避しつつ素早く切りつけ、ライラは少し離れた場所で隙を見て小規模な火弾をエビルプラントに浴びせかけていく。

 

「よし、いけそうだ!」

 

 順調にエビルプラントを押しており、確かな手応えを感じるスレイ。

 このような攻防を何度も行い、最後にアリーシャとライラに合図する。

 

「ライラ、今だ!」

「はい!《我が火は爆ぜる魔炎!バーンストライク!》」

 

 スレイとアリーシャは一斉に離れ、その隙にライラが大きな炎弾をエビルプラントに立て続けに降らせる。

 もう殆ど動くことの出来ないエビルプラントに、スレイは足早に近付き、霊力が込められた儀礼剣で切り裂き浄化した。憑魔の元となっていた一輪の植物が地面に落ちる。

 

「これでマーリンドを蝕む疫病も止まった筈だ」

「ああ、そうだな」

「お2人共、頑張りましたわね」

 

 

 だがそんな時、突然アタックが危機感を募らせ慌て始めた。

 

「あかん!これはあかん~!」

「あかんって、一体何が?」

「マーリンドが蛾みたいな憑魔に襲われてるんや~!」

「「なっ!?」」

 

 驚愕して言葉を無くすスレイとアリーシャ。

 そしてそれに追い打ちをかけるようにして兵士2人がいた方角から悲鳴が上がる。スレイ達の方へ走ってくる兵士の後ろには、今だにゾンビ状態と見られる猪が執拗に追いかけていた。

 

「なんでまだ動いてるんだ!?確かに元凶は浄化したはず、…………って、まさか!?」

 

 驚きながら遅れて気付くスレイ。

 アタックはあのエビルプラントが動物達を殺したとは言ったが、更にその後で霧のようなものが発生して動物達が動き出したと言っていた。つまりカビを撒いた憑魔とエビルプラントは別だったのだ。

 

 スレイとアリーシャは同時に兵士の方へと走り出す。そして兵士とすれ違い様にアリーシャが猪の勢いを殺してスレイが切り裂き浄化した。 

 

「無事か?!」

「は、はい。事前に気付けたのでなんとか無事です」

 

 尋ねるアリーシャに兵士の1人が答える。

 その間にもスレイ達の回りには続々と動物達が集まってくる。互いに背を向けながら構えるスレイ達。

 

「兵士の方達が無事で何よりですわ。ですがどうしましょう?また倒しながらマーリンドに戻っていたら時間がかかり過ぎます」

「…………そうだ。ライラ、レディレイクの聖堂でしたみたいに、神依の炎を噴射させてマーリンドまで飛んでいくことは出来ないかな?あれなら数分でマーリンドに行けると思うんだけど」

「…………そうですね、可能だと思いますわ。ですがスレイさんに加えて他に3人も運ぶとなると、流石に無理です。マーリンドへ到着する前に神依の制限時間の約10分が過ぎてしまいます」

 

 その答えに頭を悩ませるスレイだったが、そこで。

 

「行ってくれ、スレイ」

 

 アリーシャが油断なく構えながら言う。

 

「でもそしたらアリーシャ達が……!」

「………君が向かった後、私は彼等と一緒に隠れていたという遺跡の場所へと向かおうと思う。それほど遠くはないし、いくらかは凌げると思う。2人共、10分有ればこの導師殿がなんとかしてくれる。それまで持ちこたえられるか?」

 

 兵士2人へ尋ねるアリーシャ。ライラの言葉が聞こえないため、いまいち理解しきれていなかったが2人は大きく頷いた。

 

「よくわかりませんが、アリーシャ殿下がそこまで信じている方ならば何の問題もありません!」

「今日までずっと生き延びたのですから、あと10分くらい楽勝ですよ!」

 

 閾値を振り切ってしまったのか、少々ハイになりながら叫ぶ兵士達。それを聞いてアリーシャは笑みを浮かべて頷く。

 

「ハイランドの者は土壇場でこそ強い。私達なら大丈夫だ。私を信じてくれ!」

 

 奇しくも、ライラが例えとして言っていた「私を信じてくれ」という言葉。

 その言葉にスレイは沈黙した後、覚悟を決めた。

 

「……………………わかった」

 

 そう言うと、スレイはアリーシャにアタックを預け、ライラの方へと振り向く。

 

「俺に、力を貸してくれ!『想い焦がす情熱』(リュケーネウロ=アメイマ)!!」

「はいっ!」

 

 ライラが瞬く間に光球へと変わり、そして聖堂で見せた火を象徴するかのような両刃の大剣へと姿を変える。

 スレイが手を伸ばして柄を握ると、大剣から霊力が大量に吸われていく感覚を覚える。以前は制御しきれず倒れてしまったが、既に神依に耐えられる体となったため何の問題もない。

 そして大剣を掴んだ腕から、まるで上書きされるかのようにその姿を変えてゆく。体は染められていくかのように純白の衣装を身に纏い、所々に赤と金の模様が刻まれる。茶色かった髪は白く染まり、身の丈を越すほど長くなり1つにくくられる。スレイが至るところに身に着けていた黄色い羽は火を象徴するかのように赤く染まり、静かに揺れ動く。

 

 

「『火神、招来!!』」

 

 炎がスレイの周囲に吹き荒れる。

 これが神依。地形を変え得る程の圧倒的な力、導師の最強の切り札である。

 

 

「すごい……」

 

 姿を変えたスレイに驚きを隠せないアリーシャと兵士達。呆けている間にもゾンビ状態となった動物達が迫ってくるがしかし、スレイの大剣の一振りで発生した炎によって周囲は浄化され動かなくなった。

 

 

「アリーシャ!ここは任せた!」

「………!ああ!」

 

 スレイの言葉に驚いた顔をするも、アリーシャはすぐ嬉しそうな笑顔になる。

 スレイはそれを見届けると、大剣から炎を噴射させて一目散にマーリンドへ向かっていった。

 

「ふふっ」

「……?アリーシャ殿下、どうされたのですか?」

 

 こんな状況で笑うアリーシャを不思議に思う兵士。

 

「いや………。スレイが私に任せたと言ってくれた、ただそれだけのことなのに堪らなく嬉しくてな」

 

 油断なく周囲を警戒しながらも喜びを噛み締めるアリーシャ。

 

 そんなアリーシャを見て、導師殿が羨ましいと小声で呟く兵士とその後頭部を殴って黙らせるもう1人の兵士。

 

「さあ、導師殿が場を治めてくれた今の内だ!集まってくる前に隠れていた遺跡へ急ごう!」

「「はっ!」」

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「《双流放て!ツイン―――》」

「待つんじゃ、ミクリオ」

 

 ミクリオは突如町を襲った巨大な蛾の憑魔、ペインモスに向けて天響術を放とうとする。だがその前にジイジに腕を掴まれ制止させられた。

 

「手を出してはいかん。ミクリオ、お前ではどうにも出来ん」

「だけど!憑魔に今対処出来るのは僕達天族だけだ!ジイジ達も手を貸してくれ!」

 

 ペインモスを見据えながら叫ぶミクリオ。だが誰も何の返答も無いことに不審に思い、ジイジ達へ振り向く。

 ペインモスが羽ばたきと共に放たれる霧、鱗粉によって人々が苦しめられている中、ジイジ以外は気まずそうにしながらも動こうとせず、またジイジは眉間に皺を寄せたまま何も言わない。

 

「………ジイジ?それにみんなも母さんも、どうして?………まさか、彼等を見捨てるつもりなのか?!」

「………ミクリオよ。若いお前には、理解しろと言うのは酷であろう。だが、我等天族は安易に人間に関わるべきでわない。下手に動けば人間に我等の存在が知られてしまう。人間にとって、見えぬ我等は決して尊敬などでは無く、むしろ恐怖の対象となり得るのじゃ」

「………っ!だから、だから見捨てろって言うのか?!」

 

 ジイジは肯定も否定もしない。だがミクリオの腕を掴む手は先程よりも強くなった。

 

 今この時もペインモスはマーリンドを襲い続けている。ばら撒かれた霧のような鱗粉を突っ切って、生気の感じないカビにまみれた動物も次々と姿を現していた。

 兵士達も異変を察知して次々と集まって来ているが、憑魔の鱗粉による視界の悪さも相まってかなりの苦戦を強いられていた。このまま敵が増加し続ければ瞬く間に中心部へと侵入され町は更なる地獄と化すだろう。

 

「くそっ!このっ!」

「視界が悪くて敵を把握しきれない!」

「こいつら、死んで起き上がった住民と同じなのか!?」

 

 何とか迎撃しようとする兵士達だったが、この状況に混乱しきっていた。

 そんな時、ミクリオは遠くの方から男性のくぐもった声と金属が転がる音を耳にする。目を凝らしてよく見れば、兵士の1人がうめき声を上げて地に転がっている。兵士が転がって来た先には生気を感じない猪がいた。彼はこの猪の体当たりを食らったのだったとミクリオは理解する。

 そして止めを差すつもりなのか、兵士の下へと近づいていく。

 

「まずい、あのままだとあの兵士は殺される!」

「行ってはならん!」

 

 ジイジに強く制止されるが、ミクリオはそれを無理矢理振りほどく。そしてジイジに言った。

 

「ジイジ、彼等は人間だ!スレイと同じ人間なんだ!!スレイなら僕達天族を見捨てたりはしないし、僕だってスレイと同じ人間を見捨てるわけにはいかないんだ!!」

「ミクリオ!!」

 

 ジイジを振り切り、倒れた兵士の下へ走り出すミクリオ。猪はすぐそこまで迫っていた。

 

「《双流放て!ツインフロウ!》」

 

 ミクリオの放った天響術が猪に当たり体勢を崩す。そこへ走る勢いそのままに杖を突き出し、霊力を注ぎ込んで浄化した。

 

「はあっ………。よし、これなら僕の力でも何とかなるな」

 

 倒せたことに安心し、息を吐くミクリオ。兵士は自分の身に何が起こったのか理解していない様子だった。

 

「このっ!離れろ!!」

 

 声がした方向を見ると、他の兵士が鳥に襲われながらも倒れた兵士の方へと走ってきていた。

 ミクリオはその後ろを追いかける鳥へ、天響術を放つ。

 

「《出でよ、絡み合う荘厳なる水蛇!アクアサーペント!》」

 

 ミクリオの詠唱により放たれたのは、互いに絡み合う水で出来た蛇だった。蛇は逃げる兵士を通り越し、後ろを追いかける鳥に絡まりそのまま遠くへと消えて行った。

 

 安堵するミクリオだったが、自分に覆いかぶさる影に気付き、はっと振り向く。

 そこには、ミクリオの背丈を優に超す大熊がミクリオと兵士に襲い掛かろうとしていたのだった。

 

「まずい………!」

 

 そう言ってミクリオは倒れて動けない兵士の腕を掴もうとするが、自分は人間に触れることが出来ずすり抜けてしまう事実を思い出す。普段から人間のスレイやアリーシャに触れることが出来ていたため、咄嗟の事で天族は人間に触れられないということを失念していたのだった。

 

 振り下ろされる凶爪。そこへ。

 

「《氷刃断ち切れ。アイスシアーズ!》」

「《赤土目覚める。ロックランス》」

 

 突如、地面から氷柱が突き出し大熊の爪を挟んで防ぐ。更に同じく地面から飛び出した、先の尖った石柱が大熊の体を突き刺し縫い止めたのだ。

 

「ミクリオ、怪我は無い!?」

「やっぱりミボね。こんな状況で気を抜くなんて、間抜けにも程があるわ」

 

 慌てて駆け寄るミューズと、傘を差しながら平常運転で毒舌を吐くエドナがミクリオの側に歩いてきた。

 

「母さん!?………とエドナも」

「せっかく強くて可愛くて、更には思いやりのあるわたしが助けてあげたのに随分な言い草ね。ああそっか、ミクリオ坊やは愛しいママにだけ助けてもらいたかったから、わたしにはお礼の一言も無いのよね」

「エドナが助けてくれることが意外だっただけだろう!?それから僕はママなんて言ってないし、自分で可愛いとか思いやりがあるとか言うな!全く、そんなだからお礼も言いたくないんだよ!」

 

 さもおまけというようについ言ってしまったミクリオに対してエドナは毒舌を重ね、それに対してつっこみを入れるミクリオ。

 言い争いをしながらも周りを警戒するミクリオ達。やってきた兵士は倒れていた兵士に肩を貸し、周りで起こった現象に混乱しながらも、何とか路地の方へと移動していった。。

 

「母さんと、それからエドナもありがとう。お陰で助かった。だが良いのか?ジイジの忠告を無視しても」

「家族を守るためだもの。ジイジ様も、イズチのみんなの事を想ってああ言っていたのよ。そこはわかってあげて」

 

 ミクリオは2人にお礼を言った後、ミクリオと同じくジイジの制止を振り切ってきたであろうミューズを心配する。イズチの里と、そしてそこに住む天族やスレイを大事に想っていると知っているミクリオは納得はしていないものの理解することは出来た。

 ちなみに、若干付け加えた感のあるミクリオのお礼の言葉に、エドナは誠意が無いと愚痴を零していた。

 

「で?あの子達が浄化しに行った憑魔が何でここにいる訳?」

「………わからない」

「そう。ライラがいるから殺されたとは思えないし、案外、面倒になって逃げたのかもね」

「スレイは絶対にそんなことはしない。必ず憑魔を浄化しに来るはずだ」

 

 スレイ達の身に何かあったのではないかと不安を募らせるが、それよりもミクリオはスレイを信じていた。

 

 周りを警戒していたミクリオ達は、いつの間にか周りの怒号や戦闘音が減っていることに気付く。そして程なくして、ジイジ達がミクリオ達の下へ歩いてきた。

 

「この馬鹿もんが。お前1人では、出来ることなどたかが知れてるとわかるであろうに」

「………まさか、人間達を助けてくれたのか?あんなこと言っていたのに?」

「………まあ、これほど視界が悪ければ、誰が何をしたかなど判別のつけようもなかろう」

 

 ふん、と大層不機嫌そうに鼻を鳴らしてそっぽを向くジイジ。ウーノとロハンも、やれやれとばかりに苦笑を浮かべている。

 

「あ、ありがとう、ジイジ」

「良い。それより、来たぞ(・・・)

 

 ジイジはそう言って視線を一点に固定する。それはスレイ達が憑魔を浄化しに行った森の方角だった。

 ジイジが見つめている方角を見やるも、何も見ることは出来ない。だが程なくして、ぼんやりと赤みを帯びて灯る小さな光が見て取れた。その光は見る見るうちに輝きと大きさが増し、勢いそのままに地面に落下して周囲の霧のような鱗粉を燃やしていった。

 

 そしてあらわになる、親友のその姿。

 

「スレイ………!」

 

 純白の衣を身に纏い、ライラが変化した大剣をその手に携え、多大な熱量を帯びた炎を引き連れて、導師スレイは戻って来たのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

『スレイさん!もう時間が……!』

「わかってる!一気に片を付けるっ!!」

 

 神依を発現させて一目散にマーリンドへ向かったスレイは、霧の発生とその原因の憑魔を見た。

 飛んでいた勢いそのままに荒く着地し、一刻も早く憑魔ペインモスを浄化するべく大剣を構える。

 

 やってきたスレイを危険な存在だと感じ取ったのか、町にけしかけていた死した動物達を反転させスレイを襲わせる。それと同時に強く羽ばたき鱗粉を撒いて目暗ましをする。

 

 全てがスレイ1人を狙うこの状況に対し、スレイは何の脅威も感じはしなかった。

 

「『《炎壁推現!カラミティフレア!》』」

 

 神依化し、対となる天族が神器化した大剣を持つスレイは、その天族の属性の天響術、それも極めて高い威力の神依専用の術を使えるようになっていた。

 

 突如としてスレイの眼前に巨大な炎の壁が出現する。その壁は津波のように動物や鱗粉、ペインモスへと襲い掛かり、次々と呑み込んでいく。

 動物は浄化され動かなくなり、鱗粉は燃え散り、ペインモスは金切り声を上がて燃え盛る。

 

 スレイの構える大剣は纏う炎が猛り、勢いを増す。そしてその熱により眩しい程に白熱していく。

 大剣から炎を噴射させ、スレイが跳ぶ。

 

「これで終わりだ!!!」

 

 スレイは炎渦巻く大剣を、渾身の力をもって振り下ろした。




 ペインモスという憑魔は原作にはいません。ペイン(苦痛)モス(蛾)です。
 やっとマーリンド編の終わりが見えてきました。あとはいくつか話を入れてから新章に移ろうと思います。

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