ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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14. 太陽が出てすぐ~→朝方に変更しました。
無言の部分を変えてみました。
近日中に真名の間を=に変える予定です。

2016/3/25 
 題名が合っていないと思ったので変更しました。

2016/4/9
 ミューズさんや→ミューズに変更しました。


15.苛立ち

 スレイ達は木々の生い茂る森の中を慎重に進んで行く。

 普段であるならば、鳥のさえずりや獣の鳴き声といった、動物達の生活の息吹が感じられることだろう。だが今は異様な程静まり返り、生物の気配など少しも感じられない。

 その代わりとして森全体から感じられるのは、まるで彼等の動向を監視するかのような、まとわりつくような嫌な気配だった。

 

「なんか、すごく嫌な感じだ……。アタック達はずっとこの森に?」

「そんな訳ないやんか~。動物達と一緒に避難した後で、憑魔が出て行ってへんか何度か偵察に来ててん。そのついでに鳥達が、導師はんがマーリンドに来てるっちゅう噂を話してたから見に来てみてん~」

「あの、アタック様。失礼ですが、その時にハイランドの兵士を見ませんでしたか?未だ8名が森へ入ったまま行方不明なのです」

 

 歩みを進めたまま、真剣な面持ちでスレイの肩に乗るアタックに尋ねるアリーシャ。

 唸りながら記憶を掘り起こそうとするアタックだったが、反応は芳しくない。

 

「ん~確か~、森の奥へ入って行ったのをチラッと見た気がするんやけど、ちょっとウチにはわからへんかな~」

 

 アタックの曖昧な回答に、気持ちを沈ませながらお礼を言ってすぐ引き下がる。

 既に2週間が経過しており、やはり生存は絶望的に思えた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「これからどないするん~?」

「いや、どうするって言われてもな……」

 

 一方、ミクリオは自分達は何をすれば良いか悩んでいた。

 

 スレイ達を見送った後、ジイジが来るであろう昼頃までかなりの時間がある。

 だがこれと言ってやるべき事も無いため、手持ち無沙汰となってしまっていた。

 

 

「ねぇ、水の坊や。名前は何て言うの?」

 

 そこへ不意に名前を聞いてくるエドナ。

 ミクリオにとってエドナの第一印象はかなり悪く、またマーリンドへ出来る限り急いでいたこともあり、碌に自己紹介をしていなかった。だがそれよりも、エドナが自分を「坊や」呼ばわりすることに引っ掛かった。

 

「ぼ、坊や?」

「まだ生まれてそれ程経ってないなら坊やでしょ」

 

 当然でしょ?という顔をするエドナ。

 

「僕はミクリオ!坊やじゃない!」

「ふーん。呼びにくいから変えて良いかしら?」

「呼びにくいって……。まあ好きに呼んでくれ」

 

 ミクリオは初対面の時からの相手を馬鹿にした態度に、エドナに対してスレイ達程良い感情を持っていなかった。

 そのため言い方も普段より適当になってしまう。

 

「じゃあミッキー」

「なんだその馴れ馴れしい呼び名は!?ミクリオと呼んでもらう!いいね!」

「ふぅ、しょうがない。ミクリオボーヤ略してミボで我慢してあげるわ」

「それのどこが我慢してると……。もういい!」

 

 怒りに震えるミクリオだったがそれをおさめる。

 こういうタイプは茶化すのが目的であって、最初から相手の話など聞く気がない。

 それにこのマーリンドの件が片付いたら晴れてこの性悪女(エドナ)と別れられるのだ。

 

 そう思えば今は我慢が必要だと思い、矛を収めたのだった。

 

「ミッキーは――」

「ミクリオだ!」

「ああ、そうだったわね。ミボ(・・)はこれからもずっとスレイについていくつもり?」

 

 からかうように薄く笑みを浮かべ、ミクリオと呼ぶことはしないエドナ。

 普段ならばこんな馬鹿にしてくる相手に答える必要はないのだが、天族としての力不足を気にしているミクリオは、思わず声を低くして聞き返してしまう。

 

「……それはどういう意味だ?」

「そのままの意味よ。17年しか生きてない坊やには導師のサポートはキツいんじゃないの?死ぬわよ」

 

 からかうような笑顔はいつの間にか消え去り、一転して真面目な顔で言い放つエドナ。

 その言葉にミクリオは目を伏せ、歯を噛み締める。

 

 

 言われなくても、自分が近い将来このパーティーの足手まといになるかもしれないことは十分わかっていた。

 

 多少の傷なら治せる。

 小動物や幼児が元の憑魔なら、なんとか浄化することも出来る。

 

 だがミクリオの、天族としての現在の限界は、そこまでだった。

 

「……まあ、時間も出来たことだし、少しは考えてみたら?離れるのなら、これから来るって言う故郷の天族と一緒に帰れば良いんだし」

 

 自覚はしているらしいと判断したエドナは、そう言い残して宿へと戻って行く。

 

 「タッキーにごはんあげないとねー」などと聞こえる独り言を呟くエドナに「も~、ゴールデンシュナイダーゆーてるやん~」と言って後ろをついて行くディフェンス。

 

 ミクリオはエドナに何も言い返すことも出来ず、独りその場に残された。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 マーリンドを出発してから既に昼に差し掛かっており、当初はアタックの協力もあって1時間程で真っ直ぐ憑魔の下へと辿り着けると思われていたが、そう簡単には事は運ばなかった。

 

 森とは言ったものの、そこかしこに遺跡の残骸と見られる跡があり、また木々の開けた空間もあるこの森に限って言えば、迷うことは殆ど無い。

 それは遺跡の特徴ある残骸や、木々の間から覗き見ることが出来る、一際高くそびえ立つ大樹が目印となるためだった。

 

 では何故かと言うと、カビによりゾンビと化した動物に断続的に襲われ迎撃を余儀なくされてしまい、開けた空間を梯子するようにして遠回りをしていたためであった。

 

 

「秋沙雨っ!」

 

 前方から襲ってきた鳥や狐、野犬といった動物を、構えた儀礼剣で素早く連続で突き出し、切り裂いていく。最後に倒れていく動物の合間を縫って出て来た猪を切り上げて倒す。

 儀礼剣には霊力を流しているため、襲ってきた動物達は憑魔の一部であるカビを浄化されそのまま動かなくなっていく。

 

「くそっ!!」

 

 スレイの口から思わず文句が飛び出る。

 あれからこのような戦闘を何度行ったかも覚えていない。

 

 襲われるのだからどうしようもないとはいえ、既に死んでいる者を切りつけることは気分の良いものではない。

 まして、彼等は今自分の肩で泣いているアタックの友達だと思うと、罪悪感とやり場の無い怒りがスレイを苛立たせていた。

 

「スレイ、気持ちはよくわかるが落ち着いてくれ」

 

 横で襲い来る動物を薙ぎ払いながらスレイを心配するアリーシャ。

 アリーシャもスレイと同じような気持ちだったが、騎士として精神的な鍛錬も積んている分、まだ冷静だった。

 

「あともう少しですから頑張りましょう、ですよねアタックさん?」

「うん……」

 

 アリーシャの倒した動物を浄化しながら尋ねるライラに、アタックが言葉少なに相づち打つ。

 

 言われて冷静さを失っていたと気づいたスレイは、2人にお礼を言ってからアップルグミを口に運んで気を落ち着かせる。

 林檎の甘い爽やかな味にささくれ立った心が癒されるようだ。

 アタックにもアップルグミを渡す。かなり参っているようだったが幾分落ち着いたようだった。

 

 スレイとアタックの状態を鑑みて、どこか落ち着ける場所で少し休憩しましょう、と進言しようとしたライラだったが、その前に新たなゾンビ化した犠牲者がやってきてしまった。

 

 それは至るところに赤い染みを作った、半壊しているハイランド兵特有の鎧を着込んだ人間が6人(・・・・・)

 

「っ……!」

 

 アリーシャはやはり……、と悔しさに心を滲ませる。

 生きていればと思っていたものの、そう都合良くはいかなかった。

 

 そんなアリーシャの心中など知らずに、奇声を上げてスレイ達へ襲い掛かってくる彼等。

 スレイとアリーシャも迎え討とうと構えるが、死んでいても同族である人間であるためか二の足を踏んでしまう。

 

 そこへ、2人の前を遮るようにして立つライラ。

 

「わたくしがやります」

「で、ですが……!」

 

 2人にニコリと微笑みかけてから向き直るライラ。

 ライラが勢い良く両腕を広げると、何十枚もの紙で出来た札、紙葉が持っていた手から宙に舞う。そして紙葉はライラの火の霊力によって瞬く間に燃え上がり、種火となって周囲の空気を含み大きな炎と化す。そのまま近づく彼等との距離を詰めていく。

 

「《我が火は舞い踊る、紅蓮の業嵐!トルネードファイア!》」

 

 舞うような動きで腕を振るい、炎はライラを中心として竜巻のように燃え上がる。

 周囲にいた彼等はその火力によって一瞬の内に灰となり、猛る炎の中へと消えていった。

 

「……申し訳ありません、ライラ様」

「ごめん、ライラ。俺――」

「当然の反応ですから気にしないで下さい。ですがこのような事はこれから何度でも起こるでしょう。そんなとき、躊躇して命を落とすような事は決してしないで下さいね」

 

 ライラは優しく諭すように言う。

 

「……わかった。あと、ありがとう。気遣ってくれて」

 

 スレイはハイランド兵達のあの炎で尚燃え残った鎧の一部を見やる。ライラが敢えて強力な炎で燃やし尽くした理由は、中途半端に燃やしてボロボロになった遺体をスレイ達に見せないため、死した彼等を無用に辱めないためだった。

 

「……いいえ」

 

 燃やすことを得意とする火の天族は、少しだけ悲しげにスレイに笑いかけたのだった。

 

 

「ど、導師はん~!また……!」

 

 またもやってきたハイランド兵2人をアタックが見つけ、慌ててスレイに伝える。

 身構える3人だったが、様子が違った。動きはゾンビと化してどこかぎこちなかった先程の兵達とは違い、しっかりとした足取りでこちらに向かって手を振っている。また「救助に来てくれたのか!?」や「俺達助かったんだ!」等の叫びが聞いて取れる。

 

 後に聞いた話で、彼等は隠れられる遺跡の残骸の中で必死に身を隠し、死んだ仲間の食料や水、それと目を盗んで採ってきた木の実を消費して、ずっと救助が来るのを待っていたとのことだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 ミクリオはマーリンドの住民を何となく見つめながら、ずっとエドナに言われたことを考えていた。

 

 ミクリオは、スレイがいつも自分の隣にいた親友だから、その親友が世界の浄化を担う導師になったから、自分もそのまま旅に着いていくんだと思っていた。

 

 

 だが今になって周りの状況を顧みると、自分も一緒に行くべき理由が、導師一行としての自分の存在意義が無いことに気が付く。

 

 元々旅の目的だった、アリーシャに危険を知らせるという目的は既に果たしていた。狙っていた暗殺者ルナールも今は牢獄にいるため安全だ。

 

 つい1週間程前まで同じ力量だったスレイは導師となって身体能力が上がり、尚且つ神依という切り札まである。

 

 そんなスレイをサポートしてくれる仲間も出来た。強さとして申し分がなく、また的確にスレイの歩む道を指示してくれるであろう主神のライラ。浄化が出来なくても従士となって、戦闘のサポートやスレイと他の人々を繋ぐことの出来る人間のアリーシャ。

 

 では、自分は?

 自問して、この2人以上に出来ることがないことに思い至ってしまう。

 自分が有利な点と言えば水の天族であることぐらいだが、これから旅を続けていき、もし仲間として100年以上時を経た水の天族が仲間となれば、それすら無意味となってしまう。

 

 いつか昔にスレイと約束した、『世界中の色んな場所を見て回って、色んな遺跡を探検しよう』という夢は、皮肉なことに同じ時間を生きてきたからこそ叶えることが出来ないかもしれなかった。

 

 

 

 ミクリオが頭を悩ませ苛立つ中、先程から人々の様子がおかしいことに気付く。

 皆空を指さして、口々に騒めいていたのだ。

 

 人々が指す上空に目を向けると、何か獅子のような鳥のようなものが2つ浮かんでいることに気付く。そして同時に思い至る。

 

「あれはまさか……、魔物か!?」

 

 警戒を強めるミクリオ。町の住民も落ち着きがなくなり、兵士が出張ってきた。

 だが緊張が町を包む中、魔物、グリフォンは特に何をする訳でもなくただ滞空し続けていた。 

 

 誰もが見つめる中、滞空していたグリフォンから4つの光球が降りて来る。

 だが人々はそれに構うことなく、そのままどこかへ飛んで行くグリフォンの向かった方角を見続けるばかりであり、ミクリオは人々にはあの光球が見えていないのだと気付く。

 

 それらの光球、いや、彼等天族(・・・・)は地表近くまで降りると人型となり、ミクリオの前に降り立った。

 

 そう、イズチからマーリンドまで、たった半日来る方法とは、知性ある魔物、グリフォンに乗って来ることだった。

 

 降り立った4人の天族。

 

 青色の前髪を掻き分けた髪型をした青年。水の天族、ウーノ。

 瞑っているような細い目と褐色の肌が特徴の中年の男性。地の天族、ロハン。

 イズチの里の長を務めスレイの育ての親でもある背の低い老人。雷の天族、ジイジ。

 

 そしてあと1人。ミクリオがとても良く知っている、毛先が水色の白髪を後ろで三つ編みにして纏めている女性の天族。

 

「か、母さんっ!!?」

 

 ミクリオの母であり氷の天族、ミューズだった。

 

「ミクリオっ!」

 

 喜びに弾んだ声で駆け寄ろうとしたミューズだったが、ジイジの一言により感動の再開は台無しとなってしまった。

 

「この馬っっ鹿もーーーーーんっ!!!」

 

 あまりの大音量に思わず耳を塞ぐミクリオ。これが微塵も聞こえていない人間達が羨ましくなる。そしてまた怒鳴られる大半の原因を作った、ここにはいないスレイを恨めしく思った。

 

「人間に危険を知らせる目的が果たされたのなら早々に戻ってくれば良いものを、こんな所で油を売りおって!里の皆がどれだけ不安に思っていたことか!!」

「里のみんなを不安にさせたことは謝るし、本当に悪かったと思っている。だけど聞いてくれジイジ!僕達にも事情があって―――」

「そんな謝り方で誠意が見て取れると思うてか!!特にお前の母はあれからずっとお前を想って泣いておったのじゃぞ?」

 

 ジイジに叱られ、まず目の前の心配させた母に謝らなければならないと気付いたミクリオ。

 

「……母さん。心配かけて、本当にごめん!」

「……っ!」

 

 深く頭を下げて謝るミクリオに、感極まったミューズが今度こそ駆け寄りミクリオを強く抱きしめる。

 

「貴方が無事で、本当に良かった……!母さん、貴方に何かあったんじゃないかと心配で心配で……」

「そんな大げさな……」

 

 年頃の少年らしく、照れ臭いため内心離して欲しいミクリオだが、無理に離れようとすればまたミューズを泣かせてしまうとわかっているためしばらくそのままにしておく。

 

 ミクリオが生まれる前はこうでは無かったようなのだが、ミクリオが生まれて間もなく夫が亡くなったため、ミクリオに対して度を越して心配性になってしまったのだ。

 

「母さん、そろそろ……」

 

 本題に入るためにも離れてもらいたいため、ミューズの肩を軽く叩くミクリオ。しかしミューズは離れようとしない。

 

 どうしたものかと考えるミクリオだが、ふとこの光景をエドナに見られたらまた何か言われかねないと思い宿の窓を振り向く。

 

 

 その窓に映っていたのは、ミクリオの方をバッチリと見ているエドナ。その顔に浮かべていたニヤニヤ笑いは、ミクリオと目が合ったことでより一層深くなる。

 宿の構造上、エドナがミクリオを見下ろす形になっていることも憎らしい。

 

「ミューズ。そろそろミクリオと話がしたいのじゃが良いかな?」

「あ、はいっ」

 

 名残惜しそうに離れていくミューズ。離れてもらったミクリオは放心状態となっていた。

 

「何じゃ、シャキッとせんかミクリオ!して、スレイは今どこに居るんじゃ?」

「…………あ、ああ。スレイなら今森に潜んでいる憑魔を浄化しに行ってるところだ」

 

 なんとか復帰したミクリオはジイジに説明する。スレイが導師になったことも既にノルミンを介して説明してあった。

 

「お願いだ、ジイジ。町の人達を治療してやってくれないか?僕達では、これ以上手に負えないんだ」

 

 懇願するミクリオ。初めからマーリンドに来ても良いと思う者を連れて来たようで、ウーノとロハンはジイジの答えを待つのみである。

 

「…………良かろう」

 

 意外な程呆気なく了承してくれたジイジ。

 だが次の言葉にミクリオは頭の中を真っ白にさせた。

 

 

「お前達の後始末は儂等大人が引き受ける。冒険は終わりじゃ。お前達子供は即刻イズチへ帰れ」

 

 


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