ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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原作のスキルを出す予定が無く、また都合上ノルミンの能力・種族を変更しています。

2016/2/28
 太陽が出てすぐ~→朝方に変更しました。
2016/6/5
 サブタイトルのウチ等→ウチらに変更しました。


14.ウチらノルミンゆーねん!

 遠くから近付いてきた足音が、スレイやライラ、エドナが居る女性部屋の前で止まる。そして控え目に扉をノックされた。

 

「済まない。ミクリオだが、ちょっと急用なんだ。入っても良いかな?」

「スケベ。今アリーシャが着替え中よ」

 

 エドナがミクリオをからかおうと嘘を吐く。普段のミクリオならば慌てるだろうと思われていたが、扉の向こうはとても静かだ。

 

「・・・・・・へぇ、それはおかしいな。アリーシャなら今僕の隣にいるんだが。早く開けてくれないか?」

「待って下さい。今開けますわ」

 

 冷ややかに催促するミクリオ。

 ライラはそれに応えて扉の前へ移動する。

 

 出迎えられたミクリオとアリーシャは、ヌイグルミのような2つの物体と大きな鷹を、それぞれ腕に抱えて立っていた。

 鷹は時々首を回して辺りを見回しているのみで、アリーシャの腕の中で大人しくしている。

 

 入りながらミクリオはエドナを睨むが、全く目を合わせようとしない。

 

「それで、急用とは一体・・・・・・あら?」

 

 ライラもミクリオの抱いているヌイグルミの正体に気付いた。それと同時に、一対の触角のような飾りを付けた金の兜を被ったヌイグルミと鍋をひっくり返したような兜を被ったヌイグルミがライラへ向かって飛び出した。

 

「あ、おいっ」

「ライラはんやんか~!久しぶりやな~!」

「やな~」

 

 ヌイグルミは緩い放物線を描きながらライラの豊かな胸へと飛び込もうとする。だがライラは慣れた動きで流れるように横へ一歩移動し、難なくそれを避けた。

 

 そしてヌイグルミは、慣性に従うまま偶々ライラの後方にいたエドナへと向かう。だがエドナも無言で傘を開きそれを当たり前のように防御した。潰れた声が漏れたが、エドナは完全に無視だ。

 

「・・・・・・どういうことか説明してもらえますか?」

 

 ヌイグルミを方を見ていたライラがゆっくりと笑顔でミクリオへ向き直る。

 その静かな威圧に怯えるように、ミクリオは何度も強く頷くのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 時は少し遡る。

 

 

 2人が警戒を強める中、森の方角から飛んでくる鳥らしき生き物。その生き物はミクリオとアリーシャの頭上を一度旋回した後、螺旋を描くように緩やかに2人の前へ降り立った。

 旋回していた時既に、この生き物が鷹だったことに気が付く。だが問題は鷹ではなく、その背中に張り付く2つの物体、いや、2匹のヌイグルミのような謎の生物だった。

 

 ヒョコヒョコと足を動かしミクリオ達の方へ背中を向ける鷹。背中のものを早く取ってとでも言うかのように、ピューイと一声鳴いて促す。

 

 アリーシャはこの謎生物に心当たりが無かったが、ミクリオは既に正体に気付いていたため躊躇なく鷹の背中から謎生物を取ってやる。

 

 それはノルミンと呼ばれる、とても希少な知性ある魔物だった。

 

 

 人間から見れば憑魔も魔物も、同じように理性もなく暴れまわる化物だ。

 だが天族の側から見れば憑魔と魔物は違う存在であり、またほんの数種類とはいえ理性と知性を持った魔物がいることを知っていた。

 

 ノルミンは基本的には森や遺跡、天族が集まり住む隠れ里にいることが多くその場所に定住している。

 だが大勢で暮らしているかと思えばそうでもなく、居たとしても1つの場所に2~3体が精々だ。

 

 また魔物とは言ったものの、一番最年長のノルミン以外はまるで攻撃力が無く、性格はお気楽そのものだ。ついでに少々女好きでもある。

 だが全くの無能というわけでもなく、動物との意思疎通やノルミン同士で交信することが可能だった。

 

 遥か昔からいるこのノルミンだったが、これ以外のことは天族でさえ知らない謎に満ちた生物であった。

 

 

 彼等は鷹にしがみついて森を抜け出した後、とりあえず一番近いマーリンドを目指したらしい。

 そしてマーリンドが見えると、丁度何やら話をしていた天族と人間がいたため、意を決して降り立ったのだった。

 

 森内部の現状を簡単に説明されたミクリオ達は一度皆で相談し合う必要があると考え、確実にエドナかライラがいるであろう女性部屋へと足を運んだのだった。

 

 なお、ノルミン達は抱いて運ばれるならアリーシャが良いとごねたが、ノルミンの性格を知っているミクリオが却下した。

 ちなみに、魔物は普通の生物とは違うのか、天族でも触れることが出来る。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「知らん人もおるし、自己紹介しとこか~。ウチはアタックゆーねん!よろしゅうな~!」

「ウチ、ディフェンスゆーねん~。よろしゅうな~」

 

 先程の事など微塵も覚えていないかのように、金の兜と鍋の兜のノルミンがそれぞれ自己紹介をする。

 

「俺は導師のスレイ!で、2人を運んできた天族がミクリオで、騎士の女性が俺の従士をしているアリーシャ!」

 

 スレイの紹介に合わせてミクリオとアリーシャもそれぞれ挨拶を済ませる。

 

「へ~、現役の導師(・・・・・)はんなんてウチ久しぶりに見たわ~!それでエドナはんとライラはん、どっちが主神なん~?」 

「わたくしです。・・・それで、森で何があったか詳しく話してもらえますか?」

 

 楽しそうに聞いてくるノルミンのアタックだったが、ライラに尋ねられると風船が萎む勢いで意気消沈して泣き始めた。

 

 

 ちなみにノルミンが乗ってきた鷹は、アリーシャが宿屋の人間から貰ってきた生肉をエドナがフェイントを交えながら鷹に与えていた。

 

「う、うぅ・・・ぐすっ・・・。あ、あんなぁ・・・、ウチ等森で動物達と昔からずうっと仲良う暮らしててん。でもな、大体1ヶ月前に突然憑魔がやってきてな、ウチ等を攻撃し始めてん・・・」

 

 悲しそうに呟くアタック。ディフェンスもその時の事を思い出しているのかポロポロと涙を零している。

 

「ぐすっ・・・。何とか動物の半数は森の外へ逃がせたんやけど、あとは殆ど殺されてもうて・・・。それにその後変な霧が出たかと思ったら、死んだ筈の動物達が動き出すやん?もうどうして良いかわからんようになってん・・・」

「それは・・・。それはとてもお辛かったですね・・・」

 

 アタックの話を聞いた一同は皆表情を暗くする。出会ってから普段は表情が少ないエドナでさえ、その表情に陰を作っていた。

 

「ウチは・・・、ウチは悔しいねん!ウチも兄さんや導師はんみたいに力があれば皆を守れたのに・・・。それやのに・・・・・・」

「・・・アタック。実は俺達、明るくなったら森へ行って憑魔を浄化しに行こうと思ってるんだ」

 

 スレイの言葉に顔を上げるアタック。その拍子に大きな瞳に溜まっていた涙が零れ落ちる。

 

「良かったらアタック達も協力してくれないかな?俺達、憑魔がどんな姿をしているかもわからないんだ」

 

 それを聞いてアタックの下がっていた(まなじり)が釣り上がる。

 

「わかったわ!ならウチがアイツん所まで道案内したる!皆の敵討ちや~!」

「ウチも頑張る~!」

 

 ノルミンは上に向かって短い腕を突き出し気合いを入れるのだった。

 

 

 ノルミンにはもう1つやってもらいたい事があった。

 それはノルミンの持つ、互いに交信する能力でジイジに伝言を残すことだ。

 

 予めこちらの状況を伝えておけば、後で説得もしやすいだろうと考えてのことだった。

 

 

 話もまとまりミクリオがノルミン連れて自室へと戻ろうとした所で、スレイが徐にアリーシャへと向き直る。

 

「ア、アリーシャ!」

 

 緊張した声で名前を呼ぶスレイ。

 

 スレイからチラリと見えるアリーシャの後ろにはライラがしっかり!と言うかのように握り拳を作って見つめ、エドナも鷹の方に顔を向けながらも横目で成り行きを見ている。

 

「レイフォルクでの事だけど、ごめんっ!」

「えっ?」

「俺、昔からあんまり考えないで行動してて、憧れの導師になって浮かれてた。何でも出来ると思って、周りの人の事、何も考えてなかった。だから、ごめんっ!」

 

 突然頭を下げるスレイに驚くアリーシャだったが、スレイの態度に一番驚いていたのはミクリオだった。今まで親友として接してきた彼でさえ、こんなに殊勝になったスレイを見たのは初めてだった。

 

 アリーシャはスレイの後ろのミクリオを見る。ミクリオは笑みを浮かべて頷いた。

 

「い、いや、私の方こそ本当に済まなかった!一方的に非難しておきながら、私はスレイと話すのが怖くて逃げていた。聖剣祭の時に、自分も同じことをしたというのにそれを棚に上げてしまっていたんだ。だから私の方が・・・!」

「アリーシャは悪くない!元々俺が導師としてしっかりしていれば・・・!」

「いいや、スレイは十分良くやってくれている!私がもっとしっかりしていれば・・・!」

「いいや俺が・・・」

「何を張り合っているんだ?」

 

 互いに譲らずループしかけている2人にミクリオが見かねて水を差す。

 脱線しかけていた2人は赤くなりながらも冷静になった。

 

「とにかく、俺はもっと考えて『一番良い選択』になるように頑張るから。アリーシャやみんなのこと、もっと信じるようにするから、どうかこれからも頼らせて下さい!」

「あ、ああ!勿論だ!私も君のことを全力で支えよう!」

 

 やれやれと肩をすくめるミクリオ。

 微笑ましそうにニコニコとするライラ。

 「茶番ね」と言いながらも、2人を見つめ続けるエドナ。

 

 三者三様の反応を見せる天族達だったが、3人共この不器用な2人を見守り続けるのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 出発の準備を終えて朝方。

 

 スレイ達は森へと続く扉の前へと集まっていた。

 

 昨日の時点で今日森へ入り元凶を討つ事は、町長や兵士他に伝えられていた。

 そこで町長や他住民の何人かは見送りを、兵士は自分達も加勢する旨をスレイとアリーシャに進言していたのだが、2人はどちらも不要だと伝えていたため他の誰も来ていなかった。

 

 待っていたジイジからの返信だがつい先程連絡があり、なんととりあえず何名かを連れて昼頃にマーリンドに向かうから待っておれとの事だった。

 

 エドナの言葉を全肯定する訳では無いが、天族、特にジイジは人間と関わることを良しとしない。そんなジイジがそのような連絡を寄越すのだからスレイとミクリオはかなり驚いた。

 それだけではない。

 スレイ達がイズチの里を出てからマーリンドまで約1週間程かかって来ている。それを僅か半日で向かうというその移動手段が検討もつかなかった。

 

 何はともあれ、来てくれると言うのならスレイ達もそれを考慮に入れて動かなければならない。

 そのため面倒臭がって森の探索を断ったエドナとジイジ達の顔見知りであるミクリオ、そしてノルミンのディフェンスがマーリンドに残ることとなった。

 

 森へ向かうのはスレイとアリーシャ、ライラに道案内のアタックになった。

 

「道案内よろしく、アタック」

「任せとき~!ウチが敵の姿をバッチリ覚えてん、大船に乗ったつもりで頼ってな~!」

 

 

 そうスレイに告げると、その小さい体に似合わないジャンプ力でまた性懲りもなくライラに突撃するアタック。

 だがライラは流れるような動きでそれを回避し、そのままアタックの首根っこを掴んで自然にスレイの肩へと張り付けた。

 

「ぐぬぬ~、相変わらず鉄壁やな~」

「アタックさんが頼りですわ。よろしくお願いしますね」

「どうかお願いします。アタック様」

「!むふふ~、べっぴんさん2人にそないゆわれたらウチも本気出すしか無いやんな~!」

 

 ライラとアリーシャの言葉に調子を良くするアタック。

 

 そしてスレイ達は気を引き締めて森へと向かうのだった。

 


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