ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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最近、少しスランプ気味です。
話が進んできたからでしょうか・・・?

2016/4/9
 改行を修正しました。


10.下山、そしてマーリンドへ

 サイモンとの戦いが終わり、程なくしてミクリオ達がデゼルの力を借りてレイフォルクの山頂まで登ってきた。

 

 スレイ達の無事に安堵するミクリオ達だったが、山頂の一角に鎮座しているドラゴンを見て悲鳴を上げる程驚いていた。

 

 下山してマーリンドへ向かうためにエドナを呼びに行ったスレイだったが、少し待ってと言われたため、ミクリオ達と並んで眠っているドラゴンを眺めている。

 

 

「それにしてもおっきいよなぁ、このドラゴン。あの歯なんて俺の頭ぐらい大きいよ」

「噛まれたら痛そうですわね~」

「このドラゴンを見てそんなことが言えるライラを尊敬するよ」

 

 天然なのか本気なのかわからないライラに、呆れるミクリオ。

 

 ちなみにこの場にはアリーシャも戻ってっきている。

 

 チラチラとスレイを気にする素振りを見せるが、何も言わずにいる。

 

 スレイの方も偶に視線をアリーシャへ向けるものの、目が合うと下を向いてしまうため話す切欠が掴めないでいた。

 

 そんな2人に挟まれているミクリオとライラは互いに首を傾げるばかりである。

 

 デゼルはというと、スレイ達とは離れて野鳥や景色を眺めて暇を潰していた。

 

 

「それにしてもこのドラゴン、黒い靄が無いということは魔物なんじゃないか?」

「うーん・・・」

「魔物じゃないわ。どうして黒い靄が無いのか知らないけど、憑魔の筈よ」

 

 スレイ達の疑問に答える声に振り向くと、準備を終えて出てきたエドナが近くにやって来ていた。

 

「・・・何か憑魔だと言える根拠でもあるのか?」

 

 ミクリオはまだ嘘の試練について根に持っていたため、ついエドナに険のある態度をとってしまう。

 

「穢れが入り込んでからドラゴンになるまでを、この目で見たもの」

 

 エドナは気にする風でもなく淡々と答える。

 

「エドナのお兄さん、なんだよね?」

「・・・・・・聞こえてたのね。ええ、私の兄、だった(・・・)わ。今は見ての通りの怪物だけど」

 

 以前の兄を思い出しながらも、現在の兄の姿を見つめるその目は冷めている。

 

「そんな言い方・・・」

「事実よ」

 

 スレイが非難しようとするも、被せるようにばっさりと言い捨てるエドナ。

 

「なら浄化は出来ないのか?憑魔なんだろう?」

 

 ミクリオの当然の疑問に、エドナは自嘲気味に笑う。

 

「馬鹿ね。当然試したわ。その当時の導師が死力を尽くしても、こうして眠らせたまま封印するのがやっとだったのよ」

 

 導師となった者は属性によらない、特別な天響術を使うことが出来るようになる。

 

 その1つが封印の天響術である。

 その効果は数百年ドラゴンを封じておける程絶大なものであったが、代償として導師の命を削ってしまうという大きな欠点のある諸刃の剣であった。

 

 ちなみに、封印の解除は封印を施した導師の力量以上でなければ不可能である。

 

「他に戻す方法が在るんじゃないかと探し回った時期もあったわ。でも駄目だった。もう、諦めるしかないのよ」

 

 諦めてしまった少女に悲しみの表情は浮かばない。

 この長い年月で、そんな気持ちはとうに擦り切れてしまっていたのだ。

 

 

「わたしの話はこれで終わり。早くマーリンドへ行きましょう。一刻を争うんでしょ?」

「・・・わかった。マーリンドへ急ごう」

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「行ってきます、お兄ちゃん」

 

 返事はないと知りながらも、眠るドラゴンに声をかけるエドナ。

 

 

 エドナも加わったスレイ一行は急いで下山を開始する。

 天族達の協力もあってか、登りよりもかなりハイスピードで降っていく。

 

 

 移動している間、スレイはライラ達に先程襲ってきた謎の天族であるサイモンや、自身の急な力の上昇について話した。

 

 まずサイモンについてだが、ライラに聞いたところ闇属性の天族ではないかとのことだった。

 

 サイモンが放った天響術は勿論、転移は空間を歪めて闇を作る術を応用したものであり、まず間違いないらしい。

 サイモン自体については、ライラはわからないと答え、また知っている風なエドナは言いたくないの一点張りだった。

 

 

 力の上昇については、スレイの体に霊力が完全に馴染んだ証拠だと言う。

 よって、スレイはようやく完全な神依が可能な段階にまで至ったのだ。

 

 これは導師としてはかなり速い方であり、ライラはスレイには導師としての素質が高いと誉めちぎっていた。

 

 

 登りの半分の時間もかけずに登山口まで到着した一行。

 

 試練は嘘だったことが発覚したわけだが、花を供えたいと思っていたこと自体は本当であったらしく、山頂の花畑で摘んだ花を墓に供えたのだった。

 誰の墓かは教えてもらえなかったが、エドナから墓には大勢の人間が眠っているとだけ教えてもらった。

 

 

「アリーシャ。その、さっきのことなんだけどさ・・・」

 

 

 馬に乗る直前、スレイは意を決してアリーシャに話しかける。

 

 どうして無茶をして助けるのかというアリーシャの嘆きにも似た訴えに対して、未だスレイは答えを出せずにいた。

 それでもスレイはこのままにしておきたくはなかったのだ。

 ところが、

 

「・・・さっきはすまない。あまりのことに少々取り乱してしまった。もう大丈夫だ」

 

 と、手の平を返したように謝られてしまったため、スレイは何も言えなくなってしまった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「う~ん・・・」

 

 時間は日がかなり傾いた夕方頃。

 

 スレイ達を待つセキレイの羽の1人、ロゼはあっちへウロウロ、こっちへウロウロと、目的もなく歩き回っていた。

 

「おいロゼ、少しは落ち着いたらどうだ?スレイ殿とアリーシャ殿下ならきっと大丈夫だ」

「でもさー、ちょっと遅過ぎない?いつも供えてるデゼル様のご飯だって消えてなかったし、きっとスレイ達に同行した筈なのにだよ?」

 

 ロゼを見かねたエギーユが口を出すが、ロゼの不安は晴れない。

 

 ちなみにセキレイの羽では、亡くなった先代の頃から風の守護神、デゼルのご飯を供えている。 かれこれ12年間ずっとだ。

 最初は皆いつの間にか供えた食べ物が消える現象を気味悪かったものの、慣れていってしまった。

 

 

 ある日、消える瞬間を見てやろうとロゼが見張っていたことがあったが、いくら待っても消えはしない。

 

 仕方がないので、一度席を外してすぐ戻ると皿ごと消えている。

 そしてロゼは悔しい想いをすることがままあった。

 

 更に皿は後で綺麗に洗われ、そっと返却されているのだ。

 

 軽くホラーである。

 

 

「きっと山の頂上まで探しに行ってるんだって!ロゼもこっち来てトランプやろうよ!」

「そうだよ。丁度区切りも良いしね。はい、フィルの負け」

「え?あっ!いつの間に?!」

 

 ロゼの1歳年下の双子、トルメとフィルがエギーユと共にトランプに興じている。

 

 そしてあと1人、セキレイの羽のロッシュは空いた時間を利用して、帳簿の整理や備品の確認などをしていた。

 

 強制されている訳ではなく、単にそういうマメな仕事が好きなのだ。

 

 

 騒がしい双子の声を聞きながらまたウロウロし始めたところで、ふとロゼは足を止める。

 

 ロゼの耳に、急速に近づく蹄の音が聞こえてきたのだ。

 

 瞬く間に姿が大きくなっていく。

 

 走る馬に跨って、スレイとアリーシャが戻ってきたのだ。

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 マーリンドへの道を塞ぐ土砂の前に、エドナが傘を差して佇んでいる。

 スレイはエドナから数歩離れた場所に、その外の面々は更に後ろに控えている。

 

「それじゃエドナ、お願い出来る?」

「はいはい」

 

 スレイに適当に返事をした後、傘を支えていない方の手で目の前の土砂に触れる。

 

 霊力を流し込んで2~3秒もすると手を離して数歩退く。

 

 そしてそれは起こった。

 

 幾つも積み上がっている岩の隙間から砂や泥が川のように流れ出し、地面を這うように脇へと移動していく。 やがて誰かが押し出しているかのように、岩も1人でに転がり出した。

 

 砂や泥と同じように、勝手に脇へと移動していく岩。

 

 

 ものの1分もせずに大量にあった土砂がなくなり、元あった通り道が姿を現したのだった。

 

 

「エドナ様、この度は力を貸して頂き誠に感謝します。これでようやくマーリンドの者達に救援物資を渡すことが出来ます」

 

 後方に控えていたアリーシャがエドナに近づき声をかける。

 

「別に。ただスレイへの借りを返しただけよ」

 

 エドナの態度は素っ気ない。

 だが何を思い付いたのか、一転してエドナは明らかに何かを企んだ、含みのある笑顔をアリーシャに向ける。

 

「ねえアリーシャ。わたしはこんなに頑張ったんだから、1つくらいわたしのお願いを聞いてもらっても良いわよね?」

「は、はい!勿論です!どんなお願いでしょうか?」

 

 アリーシャは天族であるエドナの言葉を断る筈もなく承諾する。

 

「ふふっ、ありがと。そうね、考えておくわ」

 

 エドナはニコリと微笑むのだった。

 

 

「エドナはこれからどうするんだ?俺達はこれから疫病の原因を調査するつもりだけど」

「そうね・・・。とりあえずあなた達と行動を共にするわ。特に行きたい所があるわけでもないし。ああ、今からレイフォルクへ送ってくれても構わないわよ?」

「あはは、ごめん。折りを見て必ず送り届けるからさ」

 

 出来ないとわかっていて、今から帰してくれても良いと言うエドナに対して、スレイは苦笑して答える。

 

 恩人を歩いて帰す訳にもいかないため、現状、ここに留まったもらうしかないのだ。

 

 

 セキレイの羽の面々は今の光景にはかなりの衝撃を受けていた。

 

「これは、たまげたな・・・」

「デゼル様達ってこんな事も出来るんだ・・・」

 

 デゼルのことで不思議な現象に慣れているセキレイの羽も、ここまでとは想像していなかったのだろう。

 皆一様に口を大きく開けている。

 

「スレイ、今のもの凄かったね~!やっぱり地の天族様って、山みたいに大きかったりするの?」

 

 興奮したロゼがスレイへ駆け寄ってきて話しかける。

 恐らくロゼは小山ぐらいの巨人を想像しているのだと見当がつく。

 

「この子失礼ね」

「あはは・・・」

 

 険のある目でロゼを見るエドナに、スレイが苦笑する。

 

 そんなスレイの目線の低さに、ロゼが目を丸くした。

 

「え?地の天族様ってそんなにちっちゃいの?」

「・・・この子埋めて良いかしら?」

「お、落ち着いてって・・・」

 

 目を細くしだしたエドナに、スレイは冷や汗をかきながら(なだ)める。

 

「それではアリーシャ殿下、導師殿。早速マーリンドへ参りましょう」

 

 

 エギーユに促されマーリンドへ足を進めるスレイ達。

 

 だがエドナはライラを捕まえるとそこに留まった。

 今は2人きりである。

 

「エドナさん?わたくし達も早く行かないと・・・」

「さっき、どうしてサイモンのことで嘘を吐いたの?」

 

 エドナの問いにびくりと震えるライラ。

 

「そ、それは、その・・・」

「何?」

 

 狼狽えるライラに、エドナは更に詰め寄る。

 

「・・・こ、頃合いを見計らって少しずつ教えようと思っているからですわ!サイモンさんのことも含めて、衝撃的な真実が多過ぎますから」

「・・・・・・ふうん、そう。まあ好きにすれば?わたしがとやかく言うことじゃないしね。面倒だし」

 

 エドナは納得はしていないものの、もう興味が失せたとばかりに身を翻す。

 

 

 エドナが去った後、ライラは重く長い溜め息を1つ吐いたのだった。

 




 すみません、次回投稿は未定です。

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