ゼスティリアリメイク 作:唐傘
2016/4/9
改行を修正しました。
何者かによって闇に呑まれたスレイとアリーシャ。
気がつくといつの間にか、雲が間近で見られる程高い、見晴らしの良い広い場所で立ち尽くしていた。
見れば固い荒れた地面の上に、ポツンと小さな花畑や石造りの小屋もある。
2人は警戒しながら辺りを見回す。
「アリーシャ無事!?」
「ああ!私は平気だ!だが一体何が・・・」
互いの無事を確認しながらも辺りを見回し警戒する2人。
そして2人は、
「これは・・・、まさか本当にいるなんて・・・」
「ドラゴン・・・!」
2人が、その巨大さ故に見上げなければならない生物。
そう、黒く、頑強な
言葉を失い呆然としていると、どこからともなく先程の声が響き渡る。
「フフフ。喜んでもらえたようだな」
幼くも艶めかしい声と共に、1人の少女が姿を現した。
濃い紫の髪を2つにまとめ、オレンジ色の花の髪留めで留めている。
肌は病的に白く、細い指を包む手袋や扇情的にも思える露出の激しい服装により、ミステリアスな雰囲気を醸し出している。
「・・・君が俺達をここへ?」
「察しが良いな。だが導師よ、せっかく山頂まで転移してやったというのに感謝の1つも無いとは、礼儀がなっていないな」
言葉とは裏腹に、愉快そうにスレイ達を見つめている。
だが何故だろうか、スレイにはその瞳に生気はあまり感じられなかった。
「・・・・・・」
素性も目的も不明な少女に対し、警戒を緩めようとはしないスレイ。
「フフン、まあ良い。ドラゴンのもとへ連れてきたのは
「・・・何処へ送る気だ?」
含む物言いにスレイが聞き返す。
「ドラゴンは冥土の土産。お前達がこれから行くのは、地獄だ!」
そう言い終わるや否や、何処からともなく短杖を出現させる少女。
それは自分の親友が杖を取り出す時と全く同じであった。
「まさか、天族!?」
スレイの驚きに、少女は口元に笑みを浮かべて短杖を振るう。
すると少女の近くにスレイ達を転移させた闇が出現し、そこから3体のハーピーが姿を現したのだった。
※ ※ ※ ※ ※
「・・・俺は戻る」
デゼルはそう言って踵を返す。
「ま、待ってくれデゼル!戻るって
「そうだ。交渉が失敗した以上、ここに留まる意味はない」
デゼルはエドナを睨むがエドナはそっぽを向いている。
「デゼルさん、せめてスレイさん達が戻ってくるまで待ってもらえませんか?デゼルさんが居なくなると戻るのが遅くなってしまいますわ」
「断る。生憎導師には興味がない。死ねとは思わないがなんとでもなるだろう。俺が守るのは
ライラの懇願するも、デゼルは聞く耳も持たず一蹴する。
「あなたもわたしと同じね」
「・・・なんだと?」
足を踏み出そうとしたデゼルだが、エドナの一言でその足を止める。
「そうでしょ?自分の関心が有るもの以外はどうでもいい。さっきわたしが言ったこととまるで同じじゃない」
エドナの皮肉に我慢ならなかったのか、デゼルは向き直り剣呑な雰囲気を漂わせる。
あわや一触即発の事態になるかと思われたが、レイフォルクの頂上より響く戦闘音と鳥のような甲高い声によりそれは免れた。
「誰かが山頂で戦っている・・・?まさかスレイ達じゃ・・・!?」
「・・・ッ!」
エドナは頂上で何かが起こっていると察すると、すぐさま地面を蹴りつける。
すると立っていた地面が突如隆起し、エドナを高く持ち上げたのだ。
ある程度高く上がったところで別の地面に降り立ち、また繰り返す。
瞬く間にエドナは山を登って行ってしまった。
「僕達も向かおう!スレイとアリーシャが心配だ!」
「ええ!デゼルさん、お願い出来ますか?」
「・・・チッ。《クイックネス!》」
ミクリオ達も急いで頂上を目指すことにする。
デゼルは不満気であったが、先程のエドナとの会話がチラつくのか何も言わずに天響術をかけるのだった。
※ ※ ※ ※ ※
出現した3体のハーピーは、そのスピードを活かした特攻や鋭く尖った羽を飛ばすなどして襲いかかってきた。
「また飛行タイプ・・・!アリーシャ!この憑魔をどうにか撃ち落とせないか?!」
リーチの関係で相性が悪いスレイは、憑魔の攻撃を避けながらアリーシャに訊ねる。
「任せてくれ!」
アリーシャはハーピーの羽による攻撃を、身の丈程もある長槍を操り一閃のもとに弾く。
そして間髪入れずにハーピーへと迫り、気合いと共に鋭い突きを浴びせる。
回避行動を取ったハーピーだが間に合わず、脇腹と翼の一部に攻撃を受けよろめいた。
スレイはその隙を見逃さず、霊力を纏った儀礼剣でトドメを差そうとする。だが、
「わたしを忘れてもらっては困るな!」
少女は短杖を振り、いくつもの闇色の球体を出現させる。
拳大程もあるそれらは一斉にスレイへと襲いかかった。
慌てて回避しようとするスレイだが間に合わない。
闇の弾はそのままスレイに直撃するかと思いきや、スレイを守るように土壁が現れ難を逃れた。
「わたしの家の前で戦闘するなんて、よっぽど痛い目に遭いたいようね」
音も無く地面に着地して少女を睨むエドナ。
「ありがとうエドナ!お陰で助かった!」
「別に。ここで気絶でもされたら、わたしの家で看病する羽目になるじゃない。そんなの嫌よ」
相も変わらず毒を吐くエドナに苦笑するスレイ。
「以前と見た目が違うけど、あなたサイモンよね?その幸薄そうな顔は見覚えあるわ」
傘の先端を少女、サイモンへ向け言い放つエドナ。
「フン。貴様の毒舌は相変わらずだな、エドナ」
若干不機嫌になったのか、鼻を鳴らすサイモン。
「この子達をこんな所へ連れてきて、一体どういうつもり?」
「フフフ。なに、殺す前に、是非とも伝説のドラゴンを見せてやりたくてな」
「・・・下らない。聞いて損したわ。寝言は寝て言いなさい!」
もう話す必要はないとばかりにサイモンへと走り出すエドナ。
その進行を妨げるかのように一体のハーピーが襲いかかるがしかし、
「邪魔よ」
ハーピーの真下から土の柱を出現させ激突させる。
痛みに呻くハーピーの翼を掴み取り、勢いのままに
そしてエドナは瀕死になったハーピーへ、霊力を込めた拳の一撃を見舞って浄化した。
細腕であるエドナが何故このような怪力を発揮出来るのかというと、天族は属性毎に特性を持っているためである。
地属性のエドナは怪力の特性を持つ。
浄化され逃げる鳥を無視してサイモンに目を向けると、彼女は短杖を突き出し詠唱を始めていた。
「ッ!!お兄ちゃんっ!!」
血相を変えて走り出そうとするエドナだが、最後の1体となったハーピーに体当たりされ、吹き飛び地面に手と膝をつく。
エドナが再びサイモンに目を向けると、そこに映ったのは口の端を吊り上げ
「《デモンズランス!》」
巨大な黒槍が迫る。
既に天響術を使う余裕も無い。
長年、兄の事を絶望視しながら暮らしていたためか、エドナは足掻くこともせず、既に自分の命を諦めていた。
心に浮かぶのは、人々に翻弄され兄に縛られた、馬鹿な人生だったと思う気持ちのみ。
そんなことを思いながら目の前の光景を見つめていると、不意に視界に割って入る者がいた。
立ち塞がるのは、マントをはためかせ両手で儀礼剣を支え持って構える、少年導師スレイ。
アリーシャと協力してハーピーの1体を倒し、続いてエドナに体当たりした個体も切り捨て浄化した後すぐ、エドナが狙われていると知って無我夢中で間に滑りこんだのだ。
その行動に考えなどまるで無い。
スレイの有り得ない行動に、この場にいる少女3人は目を見開いて驚愕した。
そして黒槍はスレイに激突する。
「ぐぅっ・・・!!」
体が引き裂かれそうになりながらも懸命に耐えるスレイ。
そして少しでも意味があると願って、剣や体に霊力を込め続ける。
耐え続けても一向に威力が衰えない黒槍。
スレイの体力も限界に近づいていた。
このままスレイが力負けするかと思いきや、思いがけない異変が訪れる。
突然スレイの中の霊力が体から溢れ出る程劇的に増え、スレイは黒槍を押し返し始めたのだ。
そして気合いと共に剣を振り抜き、黒槍を明後日の方向へ弾き飛ばしたのだった。
「あの術に立ち向かうだけでも驚いたが、更に押し返すとはな・・・」
「どうして天族なのに憑魔を従えているのか、聞かせてもらおうか?サイモン」
霊力の輝きを放ったまま、スレイはサイモンに剣を向ける。
「・・・さて、な!」
サイモンはとぼけると、自分を中心とした闇を展開してあっという間に消えていった。
「・・・・・・ふうっ!」
サイモンがここから去ったとわかり、スレイは緊張を解いて大きく息を吐く。
霊力も元に戻ったようである。
「2人共、大丈夫だった?」
「・・・・・・大丈夫じゃないっ!」
2人に声をかけるスレイだったが、駆け寄ってきたアリーシャに突然怒鳴られてしまった。
「え!?アリーシャ、どこか怪我を・・・」
「違う!!スレイ、君はどうしてあんな無茶ばかりするんだ!?私の時だってそうだった!一歩間違えれば君は死んでいたかもしれないんだぞ!?なのに、どうして・・・っ!」
今にも泣きそうな顔でスレイに訴えるアリーシャ。
エドナを背にして黒槍に耐える彼を見て思い出したのは、聖堂での事件。
そして、ルナールの凶刃を必死に凌いで自分を守る、意外に大きな彼の背中。
いつかその背中に風穴が空いてしまうかと思うと、アリーシャは恐くて、胸が締め付けられて仕方なかったのだ。
「・・・ごめん、アリーシャ。でも俺はただ守りたかっただけなんだ。今も、アリーシャの時も」
「ッ!・・・もしあの時君が死んでしまっていたら、私は君と関わったことを一生後悔していた。私が君を殺してしまったのだと」
「・・・ッ!」
何も言えなくなるスレイ。
アリーシャも目を伏せて沈黙し、少し周りを見てくると言って、スレイから逃げるように歩いて行ってしまった。
「わたしからも言わせてもらうわ」
エドナに声を掛けられびくりと肩を震わせるスレイ。
「スレイと言ったかしら?あなた、この試練不合格よ」
「!?でもまだ時間は・・・!」
「途中で道が途切れていたでしょ?実は試練なんて嘘。もっともらしい理由をつけて、帰って欲しかっただけなのよ」
エドナの告白に驚くスレイ。
エドナは更に続ける。
「でもね、本当の試練だったとしても不合格にしたわ。わたしはあなたが嫌い。自分を危険に晒してまで誰かを守るあなたを認めない」
「・・・ッ!!」
「安心しなさい。マーリンドへは行くわ。あそことは全く縁が無い訳じゃないし、一応あなたに命を救ってもらった借りもあるしね」
だがスレイはそれを聞いても浮かない顔をしていた。
「・・・?あなたに協力はするって言ったじゃない。もっと嬉しそうにしなさいよ?」
「・・・エドナは、俺が迂闊な行動したから嫌いって言ったんだよな?」
エドナは先程自分が嫌いと言ったから落ち込んでいるのかと内心呆れていたが、一応聞かれたことに答えることにする。
「そうね。私欲のままに行動する人間が一番嫌いだけど、自分を犠牲にして他人を助けようとする、後先考えない人間も嫌い。ムカつくわ。それが何?」
「・・・エドナにまた人を好きになってもらいたかったからさ、もっと考えて行動すれば良かったなって思って」
スレイのその言葉に、思わず見開いてスレイを凝視してしまうエドナ。
数秒程見つめていたかと思うと、すぐにくるりと背中を向けてしまった。
「・・・・・・・・・・・・そう。それは残念だったわね。あなたのせいでもっと嫌いになったわ」
「・・・・・・そっか」
「ええ」
口元は笑みを浮かべるスレイだったが、目と声には隠しきれない哀しみが宿っていた。
それを知ってか知らずか、エドナは短く答えるのみ。
「それじゃわたしは家でマーリンドへ行く準備をしてるから、出発する時に呼んでちょうだい」
スレイに背を向けたまま話すエドナ。
「わかった。エドナ、ありがとう」
「・・・どういたしまして。そういえばお礼を言ってなかったわ。こちらこそ、あの時助けてくれてありがとう」
「うん。どういたしまして」
スレイの先程よりは幾分嬉しそうな返事を聞いたエドナは、そのまま自分の住む小さな家へと向かって行った。
家に入り扉を閉める。 だがすぐには動かず、扉にもたれかかってしまう。
「・・・馬鹿じゃないの」
『
これでは、以前は自分が人を好きだったかのような言い方ではないか。
心に苛立ちが募る。
エドナの耳には、もっと嫌いになったと言ってしまった後の、スレイの哀しげな声がずっと残って離れなかった。
エドナの武器が傘なのはわかっていますが、人に似た者を傘で突き刺すというのは嫌に生々しく感じたので却下しました。
ちなみに天族は個人でも浄化出来ますが、憑魔が強くなればなる程より困難になっていくため導師の協力が必要となります。
次回投稿は来週金曜日を予定しています。