ゼスティリアリメイク   作:唐傘

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 エドナ回が思ったより長くなってしまいました。
 中途半端になってしまってすみません。


 ライラの一人称を私→わたくしに変更しました。
 近日中に以前の一人称も修正しようと思います。

2016/4/9
 改行を修正しました。
 リスク→危険に変更しました。


8.偽りの試練

 霊峰レイフォルクの登山口へと辿り着いたスレイ一行。馬を木に繋ぎ止め、そこで改めて頂上を見上げる。

 

 遠近感が麻痺する程の山の巨大さと、訪れるものを拒絶するかのような切り立った岩肌の荒々しさに、スレイ達は完全に圧倒されていた。

 

 

「すっごい山だなー、霊峰レイフォルクって」

「自然の偉大さを感じさせられるね」

 

 このような荒々しい山を初めて間近で見る少年2人は興味深そうに見上げている。

 

「霊峰レイフォルクは、ハイランドでも随一の高さを誇る山なのです。そして八天竜に数えられるドラゴンが棲んでいると言い伝えられている場所でもありますね」

 

 アリーシャがスレイとミクリオへ簡単に説明する。

 それを聞いてスレイは目を爛々と輝かせる。

 

 

 八天竜とは、天遺見聞録に載っている竜伝説のことだ。

 いわく、世界の何処かで眠る八天竜を決して起こしてはならない。

 一度目を覚ませば、世界は再び死と混沌に包まれるだろう、と。

 

 

「ここにあの伝説のドラゴンが・・・。なあなあミクリオッ!もしドラゴンに出会ったらどうするっ!?」

「いや出会ったら食べられて終わりだろ・・・。馬鹿なこと言ってないで正気に戻ってくれ・・・」

 

 いつの間にか冒険モードへと移行しているスレイに呆れるミクリオ。

 かく言うミクリオも、内心期待していたりもしていたが、はしゃぐ親友を見て頭が多少冷えた。

 

「本当にこんな場所に地の天族がいるのか?」

 

 デゼルが地の天族の存在を訝しむ。

 

「そ、その筈ですわ。・・・・・・大体200年程前には確実に」

「流石にその情報は古過ぎだろう・・・」

 

 ライラの危うい情報にミクリオはげんなりする。

 

「流石は天族様。やはり人とはスケールが違うのですね」

「アリーシャ。確かに天族は人間より寿命は長いが、天然天族(ライラ)を基準にするのだけはやめてくれ」

 

 溜め息を吐き頭を痛めるミクリオ。

 

「苦労しそうな導師一行(パーティー)だな。というかお前、心労で禿げるぞ」

「天族が禿げる訳ないだろう!!」

 

 当然だが完全に他人事なデゼルに、即座に反応しツッコミを入れるミクリオ。

 

 イズチに居た頃に比べ、彼の気苦労が増えているのは気のせいではないだろう。

 

 

『あなた達。漫才をしに来たのなら、迷惑だから余所でやってちょうだい』

 

 そこに突如、スレイ達に対して皮肉げに言葉を投げかける声が辺りに響き渡る。

 黄色い光球が山から舞い降り、すぐに人の姿に変わる。

 目の前に現れたのは、傘を挿したあどけない少女だった。

 手袋を右手だけにはめて傘を支え持ち、緑のリボンで結んだサイドテールの髪を静かに揺らしている。

 

 

「エドナさん!・・・ですわよね?」

「なんで疑問形?ていうかもしかしてこの子が?」

 

 疑問符を浮かべるライラに、スレイが尋ねる。

 

「あ、はい。わたくし達が探していた天族の方だと思います(・・・・)わ。ですが、以前の記憶より幼くなっている気がしまして・・・」

 

 困惑しながらもスレイの疑問に答えるライラ。

 

「あっ!わかりましたわ!貴方エドナさんの娘さんですわね?」

「天族を外見で判断するとか馬鹿じゃないの?幼く見えるのは、単にあなたが大きくなっただけでしょ。一番最初に会った時はあなた子供サイズだったじゃない」

 

 自信満々で断言したライラを、この少女、エドナはバッサリと切り捨てる。

 

 ライラは恥ずかしさで顔を赤らめ、ついでに馬鹿にされちょっと涙目である。

 

「どうせ、導師に夢中で忘れたんでしょ。あの時あなた相当色ボケてたものね」

 

 冷めた瞳をしているものの、口元をニヤつかせてエドナは以前のライラを暴露する。

 

「ちょっ!?エドナさん、しーっ!!しーっですわ!!わたくしの清楚なイメージが崩れてしまいますわ!」

「はあ?」

 

 手をパタパタと振って慌て、次に口元に指を添えるライラに思わず声を出してエドナは呆れてしまう。

 

 ちなみにこの場で、ライラに対して清楚なイメージを持っているのはアリーシャのみである。

 

 天族で湖の乙女、そして自分を付きっきりで看病していてくれたライラのイメージは、この程度では揺らぐことはなかった。

 

 

「まあいいわ。それで、わたしに何の用かしら?」

「実は・・・」

 

 スレイはマーリンドの現状と、道が土砂に埋まってしまい通行出来ないことをエドナに説明する。

 

「・・・なるほど。その土砂をわたしにどかして欲しいってことね」

「事態は刻一刻を争うのです。どうか私達に力をお貸し下さい、エドナ様」

「・・・あなた人間よね?まさか従士なの?」

 

 アリーシャの切実な訴えに、一瞬だけエドナの眉間に皺が寄る。

 

 それには答えず、エドナはアリーシャについて尋ねる。

 

「は、はい!この度導師スレイに従士とさせて頂きました、アリーシャ・ディフダと申します」

 

 突然のことに困惑するも、アリーシャは淀みなく答える。

 

「・・・主神(ライラ)から説明は受けていると思うけど、危険は承知の上(・・・・・・・)なのよね?」

「はい。危険は承知の上(・・・・・・・)です」

「・・・?まあいいわ。それで、土砂の件だったわね」

 

 アリーシャの受け答えに違和感を覚えるも、エドナは特に興味も無いため話を切り上げた。

 

「は、はい!どうか力を・・・」

「嫌よ」

 

 アリーシャの言葉を切り捨てるように、否定の言葉を被せるエドナ。

 

「そんな・・・」

 

 天族であるエドナに否定され、アリーシャはショックを受けてしまう。

 

「別に良いじゃないか!地の天族なら土砂くらい余裕だろう?」

 

 エドナの態度とアリーシャに見かねてミクリオも口を挟む。

 

「ええ、余裕ね。でもわたしは人間に協力するのは嫌。人間は嫌い。もう関わりたくないの」

 

 明確な拒絶に、思わずミクリオも黙ってしまう。

 

「おいテメェ、我が儘もいい加減にしろ」

 

 セキレイの羽の事を気にしているのだろう、デゼルも声を荒げてエドナを睨みつける。

 

 だがエドナはそんなものどこ吹く風と、相手にもしない。

 

「エドナさん頼む!本当に土砂をどかすだけで構わないから!」

「さん付けなんてしなくていいわ。媚びても変わらないから」

 

 スレイも頼み込むがエドナは頷こうとはしない。

 それでも尚スレイは諦めずに頼み込む。

 

「エドナ、お願いします!」

「嫌よ」

「お願いします!」

「嫌」

「お願いします!!」

「嫌だって言ってるでしょ鬱陶しい」

「お願いします!!」

「い・や」

「お願いします!!出来ることなら何でもするから!」

 

 スレイの最後の言葉に、いい加減飽き飽きしていたエドナがピクリと反応する。

 

「はあ。・・・わかったわ」

 

 少しの沈黙の後、諦めたように溜め息を吐いてみせるエドナ。

 

「え!?じゃあ・・・」

「勘違いしないで。これからわたしがあなたに試練を課すわ。それに合格出来たら、しょうがないから協力してあげる」

 

 後ろ手に手を組んで、さあどうする?と薄い笑みを浮かべてスレイを窺うエドナ。

 

「・・・わかった。その試練を受けるよ」

「フフッ、決まりね」

 

 エドナは目を細めて笑みを深くする。

 

「それで、何をすれば良い?」

「焦らないで。試練と言っても難しいことじゃないわ。この山頂に咲いている、白い花を摘んできてもらいたいの」

 

 エドナはレイフォルクの山頂を指し示す。

 

「花?」

「ええ。そこにお墓が祀ってあるでしょ?それに供えるための花よ」

 

 見れば登山口の脇には、祠のような石が鎮座してあった。

 台座の上には(しお)れかけた花が供えられている。

 

「レイフォルクは見ての通りの切り立った山よ。足を踏み外したら死ぬから気をつけなさい」

 

 一応の忠告はしてくれるエドナ。

 

「忠告してくれるなんて、やっぱりエドナは優しいんだな」

「ふざけないで。あなた顔見知りの死体がある家でゆっくり生活出来る?」

「・・・イイエ」

 

優しいと声をかければ毒舌が返ってきたため、スレイも閉口してしまう。

 

「ルールは今日中に花を摘んでくること。それ以外は問わないわ」

 

 簡単でしょ?とニコリと笑って小首を傾げるエドナ。

 とても少女らしく、様になっている。

 

「さあどうぞ、導師様?」

 

 そして挑発的な笑みを浮かべながら道を譲るエドナ。

 

 

 スレイ達は早速頂上へ向けて歩き出す。

 ところが、

 

「あなた達は駄目よ」

 

 エドナは閉じた傘で、ミクリオ、ライラ、デゼルの進行を妨げたのだ。

 

「どうして僕達は駄目なんだ?!僕達もスレイの仲間だ!」

「わたしは試練だと言ったわ。仲間の天族が力を貸すなんて、反則もいいところよ」

 

 ミクリオはエドナにくってかかるが、エドナは試練だからと聞く耳を持たない。

 

「大丈夫だってミクリオ。エドナの言うとおり、花を摘みに行くだけなんだからさ」

「た、確かにそうかもしれないが・・・」

「ミクリオ様。私がスレイを守りますから、どうか安心して下さい」

「・・・・・・わ、わかった」

 

 2人に説得され、渋々ながら諦めるミクリオ。

 

 2人はそのまま険しい山道を登って行ってしまった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

 険しい山道をスイスイと登っていくスレイとアリーシャ。

 

 常人ならばほどなくして息を切らし立ち止まる程キツい道のりだが、身体能力が向上している2人には問題にならなかった。

 

「導師や従士の力とは凄まじいものだな。これだけハイペースで歩いても殆ど疲れないなんて」

「本当だよな。俺も体力には自信があった方だけど、こんなに楽に山道を歩けた事なんて無かったし。案外体の作りが変わってたりして」

 

 後ろを歩くアリーシャに振り向きながらスレイは足も止めない。

 警戒を怠っているわけではないが、それ程の余裕があった。

 

「それにしても、なんでエドナはあんなに人間を嫌ってるんだろう?」

 

 スレイは先程のエドナの様子を思い出す。

 

「・・・もしかしたら、エドナ様は以前人間の願いを聞いて、相当嫌な思いをされたのかも知れない。本当に嫌いなだけなら、私達とは話そうともしないんじゃないか?」

 

 アリーシャも先程のエドナを思い出しスレイに考えを述べる。

 アリーシャは、自分が真摯に訴えた時だけ嫌そうにしていたことから、その内容ではなく言葉自体(・・・・)に嫌悪感を持っていたのかもしれないと思ったのだ。

 

「・・・うん、そうかもしれない。もしそうなら、また人間を好きになってもらいたいな」

「ああ、そうだな」

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「ふう。やっと見えなくなったわね」

 

 スレイとアリーシャが出発して1時間が経った頃、エドナは疲れたように溜め息を漏らした。

 

「おい、約束は守るんだろうな?」

「あなたもしつこいわね。合格すれば、きちんと協力するわよ」

 

 尚も食いついてくるミクリオに対して、しっしっと犬を払うように手を振り嫌そうにするエドナ。

 

「でも安心しましたわ。断られた時はどうしようかと思いましたが、やっぱりエドナさんは優しいんですわね」

 

 ライラは安堵したように微笑む。

 

「優しい?わたしが?・・・フフフッ、どうせ1時間もしないであの子達は花も摘めずに帰ってくる(・・・・・・・・・・・)だろうし、教えてあげる」

 

 ライラの言葉に触発されてかエドナの雰囲気が変わり、言葉に含みを持たせて告げる。

 

「どういうことだ!?まさか花があるなんて嘘なんじゃ・・・!」

「嘘なんて吐いてないわ。花はちゃんと山頂にある。でもね、フフッ、一部の道が完全に崩れてるから、天族以外はまともに通れないのよ」

 

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「困ったなー、これじゃ先へ進めないな」

 

 その頃、スレイとアリーシャはエドナが故意に隠していた、崩落した道で立ち往生していた。

 

 

「やっぱり試練って言うからには、簡単には行かせてくれないかー」

「そうだな。もしかしたらエドナ様も、私達がここをどう乗り越えるかが見たいのかもしれない」

 

 真面目な顔をして話す2人だが、エドナにそんな意図は全くない。

 

 

 怒り狂って戻ってくると思っていたエドナの誤算は、2人が思った以上に真面目で素直だったことだろう。

 

 おもむろに崩れ落ちた道の下を覗くスレイ。

 

「うっわー、たっか・・・」

 

 覗き込むスレイはその高さに苦笑いし、顔にはビュウビュウと強風が吹き付けてくる。

 

 そしてソロソロと後ずさり、アリーシャへ一言。

 

「よし、アリーシャはここで待ってて。俺が1人で行ってくるからさ」

「は?!」

 

 笑顔を引きつらせてアリーシャに言ってのけるスレイ。

 だがアリーシャも、そんなスレイに納得出来る筈もなく。

 

「い、行くってどうするつもりなんだ!?」

「いや、壁に剣を刺して渡ろうかと・・・」

「君は馬鹿か!?そんなことで渡れる筈がないだろう!!・・・ここは従士として私が跳んで渡る!スレイはここで待っていてくれ!」

「はあっ!?そんな無謀なこと、アリーシャにさせる訳ないだろ!俺が行く!」

「いいや、私だ!!」

「俺だ!!」

 

 自分が山頂へ行くと言い争う2人。

 

 ちなみにここは険しい山道。

 一歩踏み外せば瞬く間に死へと向かう危険地帯である。

 

「仲睦まじいことだな。ならばわたしが送ってやろう(・・・・・・)

「「ッ!?」」

 

 言い争いに夢中になり、つい周囲の警戒を怠っていたスレイとアリーシャ。

 

 その隙にすぐ近くまで来ていた何者かの存在に、気付くことが出来なかった。

 

 咄嗟に声のした方を警戒しようと動く2人だが、何者かを中心に広がる闇に呑まれ、その場所から完全に姿を消し去ってしまったのだった。

 




次回投稿は未定ですが、今月中に投稿する予定です。

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