「おーい遥ー。いるかー?いるよねー?愚問でしたごめんなさい」
わけのわからない挨拶と共に部屋に入った。
「おーいたいたぁ。遥、ちょっとお兄ちゃんとお話しようぜぃ」
「はぁ?今度は何?」
「とりあえず、嘘でもいいから岬に謝れ」
「……いきなり何?」
「そうすりゃ俺が岬にiTunesカード買ってもらえんだよ。謝るくらいいいだろ?カップラーメン作るよりはえーだろうが」
「やだよ」
「即答かよ。じゃあこうしよう。あいつが拗ねてるのを俺が何とかしてやるから、だからとりあえず謝れ」
「別に僕は岬に機嫌なおしてほしいなんて思ってないよ」
(………なかなか面倒だなコイツ。素直じゃないというかなんというか)
うへっとなる慶。
「あっそ。ならいい。仲直りしなくていいと?」
「うん。そもそも喧嘩してないし」
「了解。岬に『遥はもう一生お前と仲直りするつもりはない』って伝えておくよ」
「は、はぁ⁉︎誰もそんなこと言ってないだろ!」
「だってそういうことだろ?機嫌なおしてほしくないって事は、仮に今あいつがお前のこと嫌いとして、そのままでいいって言ってんだから」
「そ、それとこれとは違う!」
「じゃあ何?仲直りしたいの?」
「そ、それは……!」
「ハッキリしろよ櫻田〜お前なら言えるはずだ櫻田〜」
「お前も櫻田だろうが!」
キャラが段々ブレ始めた遥だった。で、ため息をつくと語り始めた。
「したくない事はないけど……」
「じゃ、謝れ」
「ねぇ、さっきからなんなの?何で僕が悪いことになってるの?」
「ぶっちゃけ言うとお前らの喧嘩なんて俺にとっちゃどーでもいんだよ。俺の目に映ってるのはiTunesカードだけだ」
「最低だね本当に……多分、櫻田家史上ダントツトップで屑だと思う」
「結構。だから、はよ謝れ」
「とりあえず話だけでも聞いてよ」
「断る」
「なんで⁉︎」
「ゴッドフェスが明日までなんだよ。さっさと終わらせたい」
「まだまだ猶予あるじゃねぇか!とりあえずiTunesカードから頭離せ!」
肩で息をする遥。
「で、なんで私立行くことにしたん?」
「聞いてくれるの?」
「聞いて欲しくないなら早く謝れ」
「い、言うよ。別に1人で暮らすのもいいかなって思っただけだよ」
「ふーん。本音は?」
「今のが本音」
「話聞くって言ってやったのに嘘ついちゃうのはダメだろ。俺に嘘つくなら声のトーンとか視線に気をつけろ」
「………このドチート野郎」
最早完全にキャラが定まってないが、遥は不機嫌そうに語り出した。
「いやなんだよ、岬と比べられるのが」
「あ?」
「双子ってこともあって、岬の能力も分裂だったから、僕も岬の分身みたいに思われることがあってさ」
「まぁな。顔似てるし。お前女っぽいし」
「それで、『遥は岬の分身の中で特にダメなやつ』とか言われたりして……そういうのが嫌なんだよ。だから……」
「安心しろ遥」
「何?」
「岬の分身の中で一番ダメなのは岬の本体だ」
「や、だからそういうことじゃなくてさ……。例え慶兄さんがそう思ってても他の人は違う。そういうのが嫌で僕は……」
「そんなん気にしなきゃいーじゃん」
「はぁ?」
「気持ちはわかるよ。俺は茜どころか兄弟全員と比べられてたから」
「どういう……」
聞こうと思ったところで踏みとどまった。兄弟の中でなぜか唯一能力を持たない兄のことを思ったのだ。
「だけど、所詮他人の評価だ。自分には関係ない。気にするだけ無駄だ。それに、自分の足りない部分は努力して他の部分で補えばいい。俺はそうしてきた」
言われて、遥はハッとした。慶が性格以外完璧超人になったのは能力がないからだと聞かされてきた。
「なんて、ガラでもない事話してみたりしてな。ちなみにお前が私立の高校行きたいならそれでいいんじゃねーの?男には旅立ちが必要だ」
「えっ?さ、賛成なの?」
「おう。ていうか、遥の決めたことに他人がグダグダ口出しすること自体、俺はどうかと思うけどな。じゃ、後は岬と2人でじっくりこってりもっさり話し合え」
そう言うと、慶は出て行った。数時間後の食卓では、いつものように、仲良く話す遥と岬の姿が見えた。