1月3日になった。昨日までの王族としての務めは終わり、パーティやら何やらに参加させられ、全員お疲れムードである。その為、ほとんど全員が昼まで寝過ごす羽目になった。唯一早起きした葵は玄関に出た。
「ほっ、さむっ」
白い息を吐きながらポストの中を漁ると、もう3日目なのにたくさんの年賀状が届いていた。それらをすべて回収し、炬燵に入ると仕分けを始めた。
(私、奏……これも奏、輝、茜、私、光………)
と、心の中で呟きながら分けているときに、事件は起こった。
(あら、今年は慶のも来てるのね。クラスに友達が出来たみたいで良かったわ。……………あれ?慶?)
どたどたと走って葵は茜、慶の部屋に入った。
「慶!」
「……んー、どうしたのお姉ちゃん………」
茜が眠た気に起きた。
「昨日まで動きっぱなしだったんだからゆっくり……」
「そんな事より!慶は⁉︎1日から見てないわよ私!」
「けーちゃん………?」
ぼーっとした目で隣のベッドを見た。誰もいない。眠たげな目が見開かれた。
「けーちゃん⁉︎」
全員慌てて起こし、会議。
「と、いうわけで慶の居場所に心当たりのある人!」
すぐに修が手を挙げた。
「はい修ちゃん!」
「1日からいないんだったら、ミケの一件で俺が飛ばしてから迎えに行くの忘れてたのかもな」
「すぐに迎えに行きなさい!」
そんなわけで、修は瞬間移動して迎えに行った。南の島には大量の魚や動物の骨と焚き火の跡、そして慶がいた。
「よ、よう………」
控えめに修は声をかけた。慶はジロリと修を見ると、「うっ……」と涙腺が緩んだ。
「しゅううううううううッッ‼︎‼︎」
ガバッと修に抱き着いた。頭を撫でてやる修。すると、慶が乾ききった唇で言った。
「とりあえず、お前は後で殺す」
*
櫻田家。シャワーを浴びて慶は自室で拗ねていた。それを葵と茜が全力で慰めていた。
「携帯は繋がらないし、水は海水しかないし、ろ過しようにもペットボトルも何もないし、森には変な肉食動物たくさんいて眠れないし、そいつら焼いても硬くてマズイし、魚を取りに行っても中々捕まらないし、いい歳して野糞したし、まさか本当に葉っぱでケツ拭くことになるし、なんか嵐が来て火とか全部消えちゃうし……」
と、暗い思い出が蘇っていた。
(というか……肉食動物に素手で勝ったんだ……)
とは思わずにいられなかったが口には出さなかった。
「本当にごめんね。私達も忙しくて全然気付かなくて……」
「怒ってないし。…………でも修は殺す」
ボソッと物騒なことを言う慶。
「ほんとにごめんね。私もお姉ちゃんなのに全然気付かなかった」
茜も詫びた。
「いいよ別に。クソダルい新年パーティサボれたと思えばマシに思えるし。…………でも、辛かったなぁ。よく泣かなかったなぁ、俺………」
しみじみと呟く慶だった。
*
慶は修を殺す代わりに奪ったお年玉を持って出掛けた。
(何買おうかな……。こんだけあればMG10個は買えるよな……)
なんて考えながら歩く。すると、こんな声が聞こえた。
「やだ!離してください!」
「いいから金出せって。お年玉いっぱいもらってんだろ?」
「持ってない!やめて!」
それを聞いて慶はため息をついた。で、ゴキッゴキッと指を鳴らす。
「さて、と。今年一発目」
言いながら路地裏へと入った。女の子が二人の男に囲まれている。
「おーい。そこまでにしとけよ」
気だるげに声を出すと、その三人は振り返った。
「あ?なんだテメェ。関係ねぇだろ」
「ほっとけよカス」
「ほっとけ、かぁ……ダメだよお前……ほっとかれる奴の気持ち分かってねぇなぁお前……分かってないようん……」
「はぁ?何言ってんだお前」
「まぁいいや。テメェもついてねぇ野郎だ。この子と一緒に金出してもらおうか」
「ついてない、か。確かにな。正月から無人島に飛ばされてゲームセットしても迎えに来てもらえずに無人島生活我慢選手権だ。確かについてなぁい……」
「本当に何言ってんだこいつ」
「もうめんどくせーや。逃げる?やる?」
「やるに決まってんだろ!」
「死ねコラァッ!」
と、殴りかかってくる2人。それを二発で壁に減り込ませた。
「………無人島行ってから少し強くなったかな」
と、呟いた時だ。
(しまった。こういう行動が国民の人気一位獲得の原因になってるんじゃ……!)
そう思った瞬間、さっさと退散しようとした。だが、
「あ、あの!」
声をかけられてしまった。仕方なく振り返ると、助けた女の子が立っていた。
「はい?」
「た、助けていただいてありがとうございます!」
その子はペコッと頭を下げた。
「いやそんな気にしないでください。じゃっ」
「櫻田慶さん、ですよね⁉︎」
(うわあいバレてる)
ガッカリしつつも慶は頷いた。
「そうですけど」
「その、よかったら……お茶しませんか?」
「え、いや………」
「お、お願いします!」
勢いよく頭を下げられ、断るに断れなくなってしまった。
「わ、分かりましたから頭上げて……」
「では行きましょう!あ、名前まだでしたね」
その女の子はそう言うと、笑顔で言った。
「米澤紗千子です」