俺だけ能力を持ってない   作:スパイラル大沼

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第10話

 

 

 

翌日。栞ショックとも呼ばれる激震によって精神を粉々に粉砕された慶だったが、その後に「やっぱり、好きっ」と言われて(葵が言わせて)、高揚感マックスになった。その為、今はかなり機嫌が良い。

 

「フハハハハッ‼︎ダメじゃないかァッ‼︎死んでなきゃあッ‼︎」

 

ザビーネで無双している時だ。

 

「けーちゃん、ご機嫌だね♪」

 

茜が後ろから肩に手を置いた。

 

「おう!」

 

「そこでお願いがあるの」

 

「なんだ?」

 

「ちょっと動きやすい格好に着替えてついてきて!」

 

「はぁ?なんでまた……」

 

「いいからいいから♪」

 

渋々着替える慶。で、半強制的にバイクに跨らせられ、後ろに茜が乗って茜の案内により移動。慶が連れて行かれた先はどっかの学校だった。

 

「あ?何ここ……」

 

「はい!早くこれに着替えて!」

 

「これは……剣道着?」

 

「二年生の山田先輩が風邪で休みなんだって!だから今日1日だけけーちゃんは山田先輩ね!」

 

「何言ってんだお前」

 

「いいから早く!もう試合始まるよ!」

 

「いくらなんでも急過ぎだろ!つーか、アップしてねぇよ!せめて切返しだけでも……」

 

「早く!」

 

「あー畜生ッ!」

 

とりあえず体育館へ向かった。

 

 

 

 

で、慶は中堅。なんとか着替えて挨拶を終えると面をつけ始めた。

 

「おい、山田」

 

「え?」

 

横から声がして、見ると副将の人がいた。

 

「今日は頼むぜ」

 

「頼まれても困りますよ。剣道なんて一年ブランクあるんすからね」

 

「奏様の推薦なんだから。しっかり頼むよ」

 

「え?そなの?あの野郎、五回殺す」

 

「頼むよ」

 

「は、はぁ」

 

で、面をつける直前だ。たまたま視界に入った自分の兄弟姉妹。

 

(なんでお前らいんだよ……)

 

キュッと面をつけると懐かしい感覚になった。

 

(そういえば……昔はもっと燃えてたっけ……)

 

そんな事を思い出しながら立ち上がる。ちょうど次鋒が終わったところだ。

 

「って、二本負け⁉︎二人とも⁉︎嘘だろ!」

 

「「ご、ごめんね……」」

 

仕方なく慶はため息をついた。竹刀を左手に持って歩く。そして、開始線まで歩いて、相手とお互いに礼をした。三歩歩き、蹲踞。

 

「始めッ」

 

審判の声でお互いが立ち上がった。

 

「イヤァァァァッッ‼︎‼︎」

 

声を出す相手に対して、慶は声を発しなかった。ただ、相手を見据える。

 

「懐かしいな、慶の剣道」

 

修が呟いた。

 

「そだね。あの時はギラギラしててカッコよかったなー。なのに今は……」

 

光もそう言った。

 

「………そうなの?」

 

「あー栞は覚えてないかー」

 

「そうだぞ栞。慶お兄様はめちゃくちゃ強かったんだぞ」

 

輝が力説をすると、目を輝かせる栞。

 

「ま、一年もブランクあるんだけどね」

 

遥も読んでた本を閉じて試合場を見た。

その試合場では、慶は動かない。ただ構えて相手の動きを見ていた。そして、向こうが面を打とうと跳んだ。その瞬間、慶の姿は消えた。だが、剣先だけが相手の小手を捉えていた。ポコッとマリオみたいな効果音を立てて、残心をとった。

旗は全部赤に上がっている。あ、慶が赤ね。

 

「…………今、何したの?」

 

岬がポカーンとした表情で呟いた。

 

「小手よ。出小手」

 

そう言ったのは奏だった。

 

「………よく見えたね」

 

「誰でも見えるわよ」

 

「ほら、奏って慶の剣道の試合は必ず観に行ってたから」

 

「姉さん!余計なこと言わないで!」

 

顔を真っ赤にして怒る奏だった。で、試合は2本目。再び「始め!」の声。今度は向こうは気合いなしでいきなり竹刀を振り被った。ガードする慶。が、向こうは面に振り上げた竹刀を小手に軌道を変えた。

 

「!」

 

「こてェェェェッッ‼︎」

 

それをわかっていたかのように、慶は手首を返し、小手を竹刀でガード。そのまま面を打った。相手は首を曲げて避けた。そのまま鍔迫り合い。

 

「今の、よく躱したね相手」

 

「スゴイの?」

 

奏の呟きに栞が聞いた。

 

「ええ。大抵の相手はアレで勝ってたから慶は……」

 

「よく知ってるね」

 

「! え、ええそうよ!全部見てたからね!悪い⁉︎」

 

「開き直った……」

 

栞とのやり取りを聞いてた茜が呟いた。で、また試合。慶は竹刀を握る左拳で鍔迫り合いを崩すと、引き小手を放った。が、浅い。それを好機と見た相手は面を打ってきた。それを慶は見透かしていた。竹刀で受けて、そのまま高速で胴に返す。返し胴だ。パパァーンッ!と綺麗に決まり、全部の旗が上がった。

 

「おー!勝った!勝ちましたよ兄上!」

 

「ああ、勝ったな」

 

はしゃぐ輝の頭を修は撫でた。他の家族もはしゃいでいる中、奏は礼をして面を取る慶を見ながら微笑んだ。

 

(ほんと、剣道の時はカッコいいんだから……)

 

ちなみにこの後は副将も大将も負けて一回戦敗退となった。

 

 

 

 

夏休みも終わり、学校開始。

 

「けーちゃん!起きてよー!」

 

茜が慶を起こしていた。慶の枕元にはゲームに漫画に携帯と、遅くまで夜更かししてたんだろうなぁと予想できるアイテムが転がっている。

 

「もう……めんどくさいなぁ。ボルシチ」

 

「おはよう」

 

「うん。朝ごはんだよ」

 

そのまま着替えて連行された。

 

 

 

 

学校。結局、慶はあの後朝食中に3回ほど寝落ちし、遅刻した。時間は9:10。一時間目は始まっている。一時間目はサボることにしました。

その間は体育館裏でずっと携帯を弄り、ようやく終了時間になった。で、教室に向かった。ガララッとドアを開けると、茜が立っていた。スカート無しの。

 

「もうっ!遅いよけーちゃん!」

 

「」

 

「今までなにしてたの⁉︎」

 

「………………」

 

慶はしばらく考え込んだ後、iPhoneを取り出した。そして、パシャりと一枚茜を撮った。

 

「? なに?」

 

「なんでもない」

 

そのまま慶は自分の席へ向かい、クラス全員に言った。

 

「欲しい奴は、放課後に屋上に来い。売ってやる」

 

『うおおおおおおおおおッッ‼︎‼︎‼︎』

 

男子全員が答えた。

 

 

 

 

昼休み。ピンポンパンポーン、と教室のスピーカーが鳴った。

 

『1年A組の櫻田茜さん。副会長がお呼びです。至急生徒会室まで来てください』

 

「カナちゃん?なんだろう……わざわざ呼び出しなんて」

 

いや絶対スカートだろ。と誰もが思った。ちなみに1年A組は2階。生徒会室は3階にある。つまり、男子全員が立ち上がった。

 

(必然的に下から覗ける)

 

だが、その隙に慶は別の場所へ向かった。で、男子一同は茜と付き添いの花蓮を後ろから堂々とストーキング。

 

『下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける下から覗ける………』

 

「茜!早く行くよ!」

 

「え、ええ?なんで?」

 

「いいからっ!」

 

そのまま逃げている時だ。バッタリと奏と出会した。

 

「茜?」

 

「奏さん!いいところに……!」

 

「あんたホントにスカート履いてなかったのね」

 

カミングアウトした。だが、茜は言った。

 

「や、やだお姉ちゃん。ちゃんと下履いてるよ」

 

「でもどう見ても……」

 

「ああ、それで今日はやたらと男子が……も、もう、しょうがないな男の子は……」

 

で、顔を赤らめて続ける茜。

 

「登校中スカートが破けちゃったから、途中で短パンに履き替えたんだって、ほらちゃんと履いてるよ」

 

言いながら茜は自分のブラウスを捲った。が、どう見ても下着で、男子全員が鼻血を噴射した。

 

「あ、あんた!早くしまいなさいそれ!」

 

奏に言われて「えっ?」と間抜けな声を出す茜。で、自分でも確認すると、どう見ても下着だった。

 

「イヤァァァァァァァッッッ‼︎‼︎」

 

悲鳴が響いた。

 

 

 

 

その頃、慶。

 

(いくらバカネでもスカートを履き忘れるなんて思えない。つまり、登校中になんらかのアクシデントが起こり、スカートが破けて何処かで履き替えていたところを予鈴が聞こえてズボンだけ履かないまま登校したと思われる。この仮定が正しかったとして、予鈴が聞こえて尚且つ下半身を露出出来る場所といえば監視カメラの存在しない学校の敷地内のみ!そこをしらみつぶしに探せば……あったぜ!スカートと短パン!こいつは売れるぜ!)

 

慶はそれを確保すると、今朝寄ったコンビニの袋の中に隠し、教室へと引き返そうとした。だが、

 

「慶?」

 

声をかけられ、振り返ると茜と葵と奏が立っていた。

 

「な、なんでここに⁉︎」

 

「葵お姉ちゃんが教室で外を見てる時にあんたが外であたしのスカートを握ってるのが見えたって教えてくれたの」

 

殺意の波動を醸し出す茜と奏。

 

「あ、あの……なんで奏も怒ってんの?」

 

「なんとなく」

 

「八つ当たりじゃねぇかそれ!」

 

「「死ねェーーーーッッ‼︎」」

 

「おまっ……!能力は……ギャアァァァッッ‼︎」

 

ボコされた。

 

 


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