トリオンエンジニアリング!!   作:うえうら

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「確かに、この格好は不利だけど、知らない相手は油断するからそれで帳消し。脚が見えないから、最初の一撃が絶対的に有利」
小鳥遊練無より、『地球儀のスライス』から



13 お姫様と模擬戦

 目が開けると雪原であった。

 見渡す限りの白。

 凪いだように風は無く、しんと澄んだ空気が透き通る。

 空を仰げば雲量1の快晴。

 大地のように固い雪の上に、10cmほどのパウダースノー。

 足を動かせば、真っ白の雪が舞う。

 冷たい雪に匂いは無い。

 彼我との距離はおよそ10m。

 白衣を羽織った岬とドレス姿のエルフェールが対峙する。彼女のドレスは単一パタンの雪原迷彩に(いろど)られていた。

 足元まで伸びる不思議な(がら)のドレスに、岬は思わず怪訝(けげん)な表情を見せる。

 下半身に向けられる視線に気づいたのか、エルフェールは白いドレスの裾をちょいとつまんで、はにかんで見せた。

「やっぱりお洒落じゃないですね、これ。でも、戦闘用だから仕方ありませんよ! 」

「戦闘用って……。動きにくくはないの? 」

「トリオン製の繊維ですからほとんど抵抗はありません! それよりも、利点の方が大きいです!! 」

「へえ、利点って? 」

「これから教えてあげまショウッ!! 」

 勢いよく発せられた語尾と同時にエルフェールの右手が弓なりにしなった。スナップを()かせた右手から光の筋が蛇行する。音の波形のように揺らいだ一条の光は雪面を鋭く(えぐ)った。

 横っ飛びしていなかったら、岬も雪面のように真っ二つになっていただろう。

 再度、エルフェールの手首がしなる。

 光の筋が鞭のように伸びる。

 雪を巻き上げ、横っ飛びで躱す岬。深く切れる雪上。

 伸びた光の筋はエルフェールの右手に巻き戻った。彼女は縄を束ねるように光の鞭を持ち直し、その獲物(えもの)を岬へ向ける。

「不意打ちを避けるとはやりますねっ!! 」

「エルの得意な武器って、剣じゃないの? 」

「さて、私は一度も得意なんて言ってないですよ。剣も悪くないと言っただけです!! 」

 ――ㇶュン!!

 三度(みたび)、風切音を引っ()げて光の筋が疾った。光の瞬きにも似た、これまで最高速の一撃。

 旋空弧月もかくやという勢いに、避けることを断念した岬は両防御(フルガード) を選択。接地角が浅くなるように、シールドを展開。

 ギンッと甲高い金属音。

 光の鞭は右側へ逸れる。

 透き通る琥珀のように透明なシールドに、亀裂が走っていた。

 その光景にを前に、驚愕の表情を浮かべるエルフェール。その程度のシールドの密度ならば、軽く両断してやれる自信と自負を彼女は持っていた。トリオン保有量を制限されていても、瞬間最大出力量は制限されていない。先の一振りは自身の一発であった。お転婆を働くため、城から脱出する度に、この一発で兵士をのしてきたのだ。それを防ぐだなんて……。あの、シールドの角度……。なるほど――

 ――面白い! 最高ですよ、ミサキ! やっぱり玄界はおもしろい!!

 

 彼女の蒼い瞳は、新しいアイディアを閃いた研究者みたいに爛々(らんらん)と輝いていた。

 岬の目の前の少女は、ニヨニヨと笑みを浮かべながら縦横に光の鞭を振るわせている。ちょっとどころでなく不気味だと岬は感じていた。ただ、それを口にするつもりはない。仮想戦闘のログに会話が残って、不敬罪だと訴えられたらたまらない。

「ご主人! 」ヘッドセットからsAIの声。「中途半端な距離が一番よくないよ」

「そりゃそうだ」

「というか、僕、手を出さない方がいいかな。2対1だと卑怯だよね」

「まあ、そうかもね。エルの特訓って名目だし」

「じゃあ、頑張ってね、ご主人。僕は特に口出ししないよ。後で、凪になんて言われても知らないからね」

 sAIは声を尖らせて言った。

 戦闘中に、妹への言い訳を考えられるほど岬の作業メモリの容量は大きくない。一応、凪のためにやっていることだから正直に言えば分ってくれるだろう。岬は楽観的であった。

 10mの相対距離を保ったまま、防戦一方な攻防が続く。岬が距離を離せば、エルフェールが詰める。その逆も(しか)り。雪による移動の制限と岬の回避運動への目の慣れが相まって、次第にエルフェールの鞭は当たりだした。岬の白衣が千切れ、太ももに浅い切り傷。

 切傷部から漏出したトリオンが黒い霧となって、揺らめき、霧散していく。

 戦闘用視覚支援が表示する、自身の残トリオン量パラメータの減少に岬は顔を(しか)めた。

(少しずつ削られている。思ったよりも、使えるみたいだ。……自分の得意な距離を知っている立ち回りだ。戦い慣れているのかも)

 声には出さないが、岬はエルフェールの戦い方に少なくない感心を持っていた。しびれを切らさずに、じりじりと戦うのはいかにも玄人っぽい。

 待っていても消耗するだけと判断し、グラスホッパーを起動。

 強く踏みしめ、一足飛びで距離を詰める。

「その跳ねる板は見ました!! 」

 光の尾を引いて、鞭が宙を駆ける。

 躱すべく、岬はグラスホッパーで直角に。

 その軌道をエルフェールの目は逃さなかった。

「もう一発!! 」

 右手の鞭が消えるや否や、エルフェールの左手がしなった。

 波を打つ一筋の光。矢のように突き進む。

 瞬間、岬の躰が忽然と消失。

 エルフェールの背後で雪を踏む音。

 岬は弧月の柄を握る。

 一閃。

「へっ!? 」

 間抜けな声の主は岬。何が起きたのか分からない。そんな調子の声であった。

 どさりと鈍い音。落下の衝撃で雪が舞いあがる。

 下半身を失った岬を見下ろすエルフェール。ニッと無邪気な笑みが浮かんでいる。

「残念でしたねミサキ! ただし『雪の爪(シルト)』は足から出るっ! デスヨ!! 」

 パシンと音を立て、光の鞭がエルフェールの右足に巻き戻った。

 エルフェールの足を覆うドレスは滑らかに裁断されている。

「教えるって、こういうことか」

 と、(ひと)()ちながら――敗者を見下ろす笑顔、足癖の悪さ、(したた)かで狡猾(こうかつ)な戦い方――岬は凪のことを連想していた。

 戦闘体が弾け飛ぶ瞬間、胴体だけの岬が見たのはエルの生足(ただし、トリオン体)。それと、膝うえ丈の黒のレギンス。

 

「なるほどね、ご主人は僕の補助がなかったらこんなものなんだね。あと、視線がダメ」

 仮想戦闘空間から戻ると、sAIの毒舌が岬を迎えた。

 岬は言葉に詰まった。

 クーちゃんなしでは視覚共有もできない、2本目の電極による加速不随意運動もできない、3本目の自己機械化もできない、蝶の楯も使えない、牢屋からも出られない――クーちゃんの言うとおりだ。でも、今はクーちゃんに依存していたとしても、これからはそうもいかない。

 岬は強がりを見せた。

「別に、そんなことないけど」

 この強がりは虚勢以上のものではなく、sAIにはお見通しであった。

「テレポートで後ろからバッサリすればどうとでもなるとか考えていたんでしょ、ご主人。どうせだから、エルフェールの技をよく見ておこうって考えてたわけだね。それでゆっくりしていたら、やられちゃったわけだ」

「うっ……。それも結構図星かも」

「ふふっ。それもって、どういうことかなご主人」ニヤニヤと跳ねるような声でsAIが問いただす。「ねえねえ、どういうこと」

「さっきのは言い間違い」岬は首を横に振って、唇を尖らせた。

「へへへ、やっぱりご主人は僕がいないとだめだね」

「何で、機嫌よさげに言うのさ」

「別に」sAIはぷいっと答えた。「ほら、エルフェールが戻ってくるよ」

 玄界のエミュレータ装置と同様に、勝者は若干遅れて現実世界に戻される。敗者はトリオン体の崩壊と共に引き戻されるが、勝者は仮想空間のエミュレート終了処理と並行して戻る手筈になっている。

「さあミサキ!! 」エルフェールの栗色の髪の先端が跳ぶように揺れた。「早速、2戦目ですよ! まだ、あの壁を出すやつを見ていません!! 」

 蒼い瞳に宿るリンリンとした輝きは意思の強さと好奇心の深さを表していた。その好奇心の赴くままに、エンターキィが叩かれる。

 

 第2戦は岬が辛くも勝利した。エルフェールの足元をエスクードですくい上げ、動揺した隙をテレポート+弧月でバッサリ。

 何とか面目(めんもく)を保てた、と岬が安堵(あんど)している最中(さなか)、エルフェールからの質問があった。

「あの壁って、どこからでも出せるんですか? 」

「自分との相対座標がわかれば出せるよ。距離に比例して、伝達する際のトリオン漏出とタイムラグが大きくなるけどね」

「ふむふむ、デメリット引いてもなかなか便利そうですね! 私も使ってみたいです!! 」

「OK。エルの持ってる基幹トリガーと『エスクード』のチップに互換性があるか試してみるね。明日以降でもいい? 」

「ハイッ! 全然構いませんよ。今はとにかく特訓しましょう。もっと、玄界のトリガー見たいですし。弾を大量に出す技も見たいです!! 」

 互換性の調整と動作確認を明日しなければいけいない。幸い、ワークステーション機能を果たすノートパソコンを玄界から持ってきていたが、それでも一仕事には変わらない。忙しくなるなと岬は思った。そして、それに関連して、トリガーについての疑問がふと浮かび上がった。

(この仮想戦闘エミュレータがボーダーのトリガーをエミュレートできたのは何故だ? 少なくとも、≪アフトクラトル≫の蝶の楯(ランビリス)を解析したとき、互換性がちっとも無くて泣いた覚えがある。だが、エネドラが仮想戦闘空間に入れたのは、つまり、トリガーの規格に関係なく、エミュレートできることを示している。

 一見、MACでWindows専用のアプリを使っているように見えるが、実はそうではない。あるいは構文規則(シンタックス)に互換性がない言語を同時にぶち込むような感じかも。でも、そうじゃない。トリオンと各種のトリガーは機能の階層構造(ビルディング・ブロック) 関係になっているのではないだろうか。トリオンが言わば論理回路で最も抽象的。そして、トリガーとして具体化されていく。大元の0と1が同じなら、その表現され方が異なっても、0と1まで遡れば、エミュレートできる。果たして……本当にそうか? )

 思考の沼に()まってしまうと、周りが見えなくなるのは岬の悪い癖の一つであった。以前、この癖で痛い目にあっているため、直そうと気を付けているものの、考えるという行為の本質は自己の沼に入り込むことなので、それは難しかった。

「ミサキ? ねえミサキ? 」

 岬の肩をゆすったり、目の前にひらひらと手をかざしたりしても反応がない。とうとうエルフェールは耳元で大声を出すことに決めた。

「ミサキッ!! 」

「わっ!? 」驚いて椅子から転げ落ちそうになったが、すんでのところで岬は手をついて堪える。「驚いたー。ああごめん。ちょっと、考え事」

「ぶつぶつと独り言みたいで、少し怖かったですよ。大丈夫ですか」

「大丈夫だよ。ごめんね」

「いえいえ」エルフェールは顔の前で手を振る。「では、第3戦! ポチットな!! 」

 

 3戦目はエルフェールの火力勝ち。エスクード+シールドで安心だと高をくくっていたところに、フルパワー『雪の爪(シルト)』が急襲。エスクードごと岬の胴体は千切れた。

「ご主人、負け越しだよ……」

「次は本気出す」

「女の子相手に本気出す男の人って……」

「クーちゃん、今日冷たくない? 」

「別に」またしても、sAIはぷいっと答えた。「今度は負けないようにね、ご主人」

「さあ、4戦目ですよミサキ! レッツラゴー!! 」

 

 4戦目は岬の反則勝ちだった。

 グラスホッパーとテレポートを併用して距離を開けようとする岬を、ICEB(内燃機関付きブレード) を利用して追うエルフェール。巧みなブレード(さば)きを見て横に逃げられないと判断した岬はグラスホッパーで中空へ逃げる。そのまま連続発動でホバリング。『雪の爪(シルト)』の射程外から誘導弾を掃射。エルフェールが張った正六角形のシールドは鋼鉄を思わせる強度だったが、誘導弾に紛れた通常弾が決壊の楔となった。

「狡くないですかミサキ。縦に逃げるのは! 」

「仕方ないでしょ」

「私に射撃戦を挑むのですね。いいでショウ!! 」エルフェールは右手でピストルを作る。「バキュン!! 」その指がエンターキィを叩いた。

 

 第5戦が始まる。

 彼我との距離は30m。射撃戦というわけで、エルフェールが設定したのだ。

 岬は始まるや否や演算を開始した。誘導補正を重力に見立て、一秒を経ずして第一速度運動方程式を構築。地球と静止衛星の関係であるなら、衛星の速度には秒速7.9km必要だが、誘導補正を調整してやれば、それほどの速度は必要なかった。

 速度、誘導方法、誘導補正による向心力、威力、射程、等々の変数を次々と代入。

 4*4*4 64の誘導弾が弧を描いて周回軌道。

 第二速度、準第二速度、次々と解を導く。楕円、長楕円、様々な軌道の衛星が吹雪となって岬を覆った。攻防一体、彼、オリジナルの技術。

 エルフェールが衛星軌道誘導弾を見るのは2度目であった。そうであったとしても、多数のトリオンキューブが秩序だって弧を描く光景の美しさが、彼女を惹きつけていた。

「きれいですね! ダイヤモンドダストみたいです!! 」

 エルフェールは白い歯を見せて声を出す。輝く瞳は自分もやってみたいと語っていた。

 相対(あいたい)する岬は人差し指を立てて、ちょいちょいと倒した。

「ほら、先手をあげるから、早く」

 単純な挑発であった。≪キオン≫製トリガーを見たいという意思の表れでもある。

「先手をくれたのを後悔させてやります! 端的に愚かな行為でしょう!! 」

 エルフェールは右手で『雪の爪(シルト)』を起動させた。

 それは雪よりも白く硝子(ガラス)よりも透き通って輝く。その光の鞭から、どこか神秘的な印象を岬は受けるのだが、同時に疑問を抱いた。

(『シルト』の射程は20m強だったけど、はて……? )

「では、いきますヨー!! 」

 エルフェールは『雪の爪(シルト)』を半分に折り、弓を形作る。左手が清冽に光った。そちらもおそらく『雪の爪(シルト)』だろう。だが、鞭に見えたそれはえらく固そうだ。少なくとも重力に負けて(たわ)むことをしない。

 エルフェールは左手の『雪の爪(シルト)』を弓に(つが)える。ギリギリと弦から悲鳴があがる。光の弦を限界まで引き絞り、左目を瞑った。右目が彼女の利目。

「ハッ!! 」

 光が――――

 疾った。

 比喩ではない。少なくとも岬はそう覚えた。

 痛みを、知覚を、距離を、時間を、置き去りにして、

 右胸に空いた風穴、残ったのは結果。

 トリオン供給器官を射抜かれた岬はたちどころに立ち消えた。

 

「クーちゃんあれ見た!? 」

 一足先に現実世界に戻された岬は驚愕の声で訊く。sAIは特に驚いた様子も見せず、淡々と答える。

「計測してみたんだけど、31mを0.02秒だね。矢が離れてから避けようとするのは、人間の反応限界だと厳しい。というか、無理だね。秒速1550mだから、実銃のスナイパーライフルよりも速そうだよ、ご主人」

「げ……、ライトニングより速そう。音速の4倍はあるし……」

 岬はげんなりとため息をつく。かつて、『ライトニング』を千佳に撃たせたらどうなるのかという議論を荒船隊の面々としたことがあった。『ライトニング』はトリオン量に正比例して弾速が増すため、音速とか、戦闘機くらいだろ、大方とか、光速とか、様々な憶測が飛び交ったのだが、ついに、一つの回答を得られた気がした。

「フッフッフ、驚いてますね、ミサキ」エルフェールはしたり顔を作る。「これができるのは王族でも私と第一お兄様しかいませんからね! では、いざ鎌倉!! 」

 ちょっと用法が違うと岬が突っ込みを入れる前に、エルフェールの指がエンターキィを叩いた。

 第6戦は岬の物量勝ち。エルフェールに弓を引き絞る隙を与えず、トリオンスフィアの無限複製で圧倒した。

 その後も第7戦、第8戦、第10戦、……20、30、40と回数を重ね。とうとう第50戦が終わった。ダイヤグラムは5:5くらいで拮抗していた。これは岬が無限複製を遠慮したからだ。最後の20戦ほどは、岬が『雪の爪(シルト)』や内燃機関付きブレード(ICEB)を使い、エルフェールが玄界のトリガーを振るわせていた。彼女のお気に入りのトリガーはスコーピオンとエスクードだった。どこからでも出力できる汎用性が(しょう)に合うらしい。

 50戦目の決まり手はエルフェールの脚ブレード。足の動きを完全に隠し、技の出始めを(さと)らせないスカートの長所をいかんなく発揮したローキック。両足を刈り取られた岬は足癖悪すぎでしょ、と不敬罪な呟きを残した。

 トリオン体であるため、体力的な疲れはほとんどないが、メンタル的な消耗は当然ある。だが、気分の悪い消耗ではない。岬は久しぶりの心地よい疲労感を味わっていた。腰を掛けた石造りの椅子がじわじわと温まり、自分の躰が火照っていたことを教えてくれる。隣に座るエルフェールも、遊び疲れた子供のように頬を緩めていた。

 

 頭が疲れたら甘いものが食べたくなる。このテーゼは玄界だけでなく、≪キオン≫でも通じるのだろう。特に、年頃の女子なら尚更(なおさら)であり、エルフェールも例外ではなかった。

「さあミサキ! 十分特訓はしました。次は、私の行きつけのお店に案内しましょう! 」

「城から出たら危なくない? 」

「そのためのミサキですよ? 」

 エルフェールはきょとりと首をかしげる。

 そういえばそうか、と岬はため息交じりに答えた。国王と交わした、20日間エルフェールの身辺警護をするという契約もある。だがそれ以上に、残り時間の少ないエルの言うことを聞いてあげたい、とも考えていた。

「では、お城の裏門で待ち合わせしまショウ!! 」

 言うや否や、エルフェールは地下室の出口へ向かって駆け出した。岬は慌ててを追いかける。

「いや、城内も安全じゃないみたいだからついてくよ」

「分かってないですねえ」エルフェールはくるりと振り返る。「待ち合わせをして、『ごめん、待ったー? 』、『いやいや、全然待ってないよ』までが定番なんです!! 」

 わざわざ声の調子を変えて、身振り手振りを交えて一人寸劇を行うエルフェール。その無邪気な姿に、彼女の意向を汲んであげたいと思う岬であったが、彼は心を鬼にした。これから親バカ国王と交渉するのだ、彼女に何かあったら拙い。

「国王陛下からも言われているし。エルの身に何かあったら心配だから」

「なるほどそういうことでしたら……」エルフェールは目線を上げて思案する。そして、ブンブンと(かぶり)を振った。「いえいえ、騙されません。みんなそう言って私を騙してきたんです! 」

 確かに、王女様ならこのような台詞で自由を奪われてきたことは想像に難くない。だが、実際の彼女はそのようなことを言う兵士をあの手この手で黙らせてきたのだが……。そして今回も、その軽妙な鞭撻(べんたつ)が振るわれる。

「最後に負けたのはミサキですよ? ≪キオン≫では、負けた人は相手の言うことに従わねばなりません! 郷に入れば郷に従えです! 」

「なるほど……。いや、なるほどなのか? 」

「ご主人、追って! 」

 岬が一理あるかもしれないと考え込んでいる隙を狙って駆け出すエルフェール。脱兎の如き瞬発力であった。sAIにハッと気づかされて、岬は追いかけるのだが、城内のことを知り尽くした彼女に追いつくなど、城のベテラン兵士でさえ不可能である。

(ちょっと嘘をついてしまいました。まあ、≪キオン≫ジョークということでミサキなら許してくれるでしょう )

 城の見取り図にはない抜け道を駆けながら、エルフェールはぴょこっと舌を出していた。

「テヘペロしましょう! 」

 




ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
感想もらえると、とんで喜びます。丁寧な描写を心掛けているけど、くどかったらすまみません。もっと書き込んでいいなら、テンポを犠牲に、もっと書き込みたいです。

※以下は余談
 今回の話はですねえ、模擬戦の途中にトリガーを変えられるのか? という問題がありますね。本当に謎です。たぶんできません。ですが、違和感なく読めたらわざわざ目くじらを立てる必要はありません。とりあえず、以下に仮想戦闘モードの説明を引用します。
 
 ボーダーの訓練室の、コンピューターとトリガーをリンクさせてトリオンの働きを疑似的に再現する機能。

 トリガーをリンクさせるという表現が謎です。トリオン体ならリンクできないだろとツッコミたくなります。だって、生身の躰がトリガーに格納されて、それって異次元? にあるんですよね。というより、仮想戦闘モード自体がクッソ謎なんですよね。
 トリガーをリンクさせるという表現をそのまま受け取れば、トリオン体にならずとも、仮想戦闘がこなせそうですが。
 岬君はエンジニアだから、試作とかも行っていただろうし、いちいちトリガーを着脱するのでは時間がかかると思うので、彼はそういうノウハウを持っていたということでいいですか?
 これでダメなら、≪キオン≫にはトリオン電池があって、岬とエルフェールがお互いのトリガーを交換するときに、その電池を使ってトリオン体生成分に消費したトリオンを回復したということでお願いします。
 ぶっちゃけエネドラの件といい、CPUが脳の働きをそのままシミュレートできるという極超ハイテクノロジーといい、仮想戦闘モードは本当に謎です。
 
 誰か私に教えてください。ワールドトリガーファンの皆様お願いいたします。

■今までの≪キオン≫のトリガー
原作では、≪アフトクラトル≫に関係する国のトリガーはギリシア語のようですが、≪キオン≫産のトリガーはトリガーの製作会社ごとに、ネーミングが違うというどうでもいい設定があります。といっても、トリガー製作会社由来のトリガーは一つしか出ていません。それ以外は、雪や冬に関係するネーミングですね。

凍土の牙:グラシアス(黒)
雪の爪:シルト(普通)
IECB:内燃機関付きブレード(普通)

■追尾弾か誘導弾か論争
最新刊では追尾弾の傾向にあるのですが、岬君の使い方的に、誘導弾の方が雰囲気に合うので、誘導弾(ハウンド) で行きます。


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