時刻は19:00ちょっと過ぎ。
警戒区域内に明かりが無いためか、真夜中みたいに辺りは暗くなっている。その中で、僕の白衣だけがぽつんとたゆたっていた。川のせせらぎの安らかさとは真反対に僕の心は動揺に埋め尽くされていた。ドローンのカメラで補正を加えたミニマップに、僕を捕まえようと一直線にこちらへと向かう10のマーカーが映っているからだ。
「ご主人、識別信号の照合が完了した。向こうには風間隊と二宮隊、三輪隊がいる」
「クーちゃん、三輪隊の狙撃主の所在は」
「古寺は見つけた。奈良坂は…………おっけー、見つけたよ、ご主人」
クーちゃんがそう言い終わると人工視覚に新しい窓が作成され、そこにドローンのカメラ映像が投影された。狙撃主の2人はイーグレットをかまえている。
この城戸の犬どもめ、と心の中で唾を吐きつける。
風間隊と三輪隊は城戸さんの一声で動いたのだろう。二宮隊は完全に二宮さんの私情だと思う。鳩原さんのことを調べていく中で、二宮さんが彼女のためにどれだけ心を砕いて頑張っているかを、僕は知ったからだ。
「クーちゃん、熱観測で風間隊を補足して。あとは2本目の電極の使用、3本目の電極の準備。それと蝶の楯も使おう。それから、
「了解、ご主人。本当に何でもありだね」
ヘッドセット越しでも、わくわくが十分に伝わってくる跳ねるような声音だ。肩口に切りそろえた薄緑の髪の隙間からギラリと目を輝かせて、指をワキワキとさせながら0と1の電子の世界を駆け巡る――クーちゃんのそんな姿を想像することができた。
「もう後腐れとか、禍根が残るとかはどうでもいいからね。ここで僕が緊急脱出する羽目になったら、間違いなく記憶凍結だし。……あ、凪、これから無線通信の電波帯で狭帯域連続波妨害を使うから、連絡は端末を通しての電話でね」
「了解しました、兄さん。狙撃主2人は任せてください。位置バレしている狙撃主はただの的ですからね」
一緒に遊ぶようになって以来、ずっと相棒だった妹の声がなんとも頼もしかった。
ドローンの鳥瞰カメラで補正を加えたミニマップへと目をやる。先陣を切っている3つの点が風間隊のもので、これは距離300程。その後ろ、遅れて距離400の地点に5つの点が固まっている。これは三輪隊の攻撃手2人と二宮隊を合わせたものだ。凪はこちらとの距離が1000程、まだボーダー本部の近くにいるらしい。
高い所で戦えという掟に従って、一際太くなっている木の枝に立つ。広葉樹のもっさりとした枝葉が隠れ蓑替わりだ。気分は歴戦のスナイパーあるいは、必死に抵抗するゲリラ兵といったところだろうか。高い所から三門市の街並みを見られたので、旅立ちには丁度いいのかもしれない。といっても、夜の帳が降り切った警戒区域内は非常に暗く、無計画に乱立されたビルの群れが無機質な印象を与え、それは大きな墓標のようにも映った。ボーダーの犬どものな! とぽつりと呟く。
そして、蝶の楯 と心の中で静かに発した。
闇夜に溶ける無数の金属片が自分の周囲を電磁浮遊し始め、その鋭角の金属片は自己相似上に集合していき、ローレンツ力を動力源とした電磁加速砲を形成した。
一般に電磁加速砲はその理論上、レールが長く加速が長時間維持できるほど弾丸の速度が大きくなる。長すぎればその分だけ摩擦が大きくなり、長さと速度が正比例しなくなるのだが、僕の手元のそれはそこまで大規模なものではない。
金属片を余剰させることなく、その全てで真反対の方向に螺旋状の磁界ベクトルを描く一対の金属柱を形成。その全長は4mほど。ちなみに5mのレールで作った電磁加速砲の初速は6km/sに達する。
十字に切られた照準に捉えられているのは、もちろん菊地原だ。
キィイイイインと高周波に近い音が一対のレールから発せられる。直流電流の入力が完了したと伝えているのだ。
クーちゃんと一緒に、ファイア! と闇夜に吐きつける。僕達の声はやけに楽しげだった。
字義通り、音を置き去りにする初速で先鋭の金属片は放たれた。
反作用の慣性を受けて、躰が大きくのけ反る。それで、背後の木の幹に強くもたれかかった。
副作用に強化聴覚があろうとも、一切役立たない。
音の伝達速度が340m/sに対して、こちらが放った弾丸の初速は3km/sに達するからだ。
カメレオンも熱観測の前には無力だ。
刹那にして、ポニーテイルに縛っていた髪とすこしネコ目のかわいげな顔が爆ぜる。
「クーちゃん、次弾の電力入力までどのくらい」
「大体4秒」
「レールを短くしていいから、3秒で済ませて」
「了解、ご主人」淡々と会話が済んだ。
距離が200まで詰められた頃、再び発射の準備が整う。
ドローンの鳥瞰カメラと統合処理しているため、こちらの狙いはすこぶる正確だ。
2発目も音を置き去りにして、闇夜を突き抜ける。
目で追えるはずがなかった。
今度は風間の顔が爆ぜる。ぶっちゃけてしまえば、ランク2位の攻撃手であろうとも、感知しようのない射撃には為すすべがない。人間の神経機構の構造上の問題で、0.09秒以上のレスポンシビリティを期待することは不可能なのだから。
距離100まで歌川が接近したところで、同様にして感知不能の攻撃を行う。
彼は察しがよいらしく、カメレオンを解いてシールドを張っていたようだが、極めればエスクードを貫通する電磁加速砲の前には紙切れも同然だった。
瞬刻にして、気遣いイケメンの胸に大穴が空く。
同じ要領で、シールドの魔術師こと二宮隊の犬飼を電磁加速砲の餌食にしてやった。
電波妨害による通信断絶が彼らの情報共有を妨げたから、これほどまでに上手くいったのだと思う。第二次世界大戦以降、主要な戦場は情報空間へと移り変わったのだ。非対称な情報は立派な兵器である。
蝶の楯による迎撃は順調かに思えた。が、電磁加速砲にはそれなりのクールタイムが必要なので遂に接近を許してしまった。
ザッザッザッと草木を薙ぎ倒す足音が無数に聞こえる。それに合わせて、もっさりとしていた広葉樹から飛び降りる。着地の衝撃で、湿気をはらんだ草の深緑の香りが僕の肺にまで達した。彼らがこちらへと迫るせいで、川のせせらぎが一切聞えなくなってしまった。冷めた大気と奴らの敵意がひりりとした緊張感を生み出し、それが僕を包み込む。
三輪、米屋、辻、二宮さんと距離30程で接敵。二宮さんが僕を撃ってこないのは、聞き出したいことがあるからに違いない。
凪が合流するまでの時間を稼ぐために、僕は奴らに言葉を投げかける。
「模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる。――そうでしょ、三輪さん」
「ふざけるな! お前は近界民と内通しているんだろうが!! 」
近界民に対して、同じ天を抱かずとも絶対の殺意を見せる三輪が声を荒げた。釣り上げた双眸には不倶戴天以上の怒気がこもっている。今の彼とまともに話し合うことは不可能。
僕は三輪の怒鳴り声を右から左に聞き流して、二宮さんを見据えた。ダークスーツが長身の体躯に似合っていて、ポケインしている姿も絶妙にオサレだ。
「東町のハイツ三門208号室、僕の部屋がある場所だ。二宮さん、そこに色々と真実を残しておいた。鍵は右に8回、左に2回。……きっと鳩原さんにつながる。上層部と麟児さんの組織に消される前に行った方がいい」
鳩原、あるいは麟児という単語を耳にして、二宮さんのポーカーフェイスが一瞬崩れた。目を鋭く細めて、僕の瞳を射抜いてくる。僕は真っ直ぐに見つめ返した。嘘をつく人がこんな目をできるかって具合に。
「辻、いくぞ……」
ぽつりと二宮さんがこぼす。小さな声だったが、夜の闇とざわめく草木の音に飲み込まれはしなかった。その証拠に、辻はコクリと小さく首を縦に振っている。
衣擦れの音すら残さずに、2人のスーツ姿の男がその場から消える。二宮さんの手はポケットから抜き放たれていた。
任務を放棄するのか!! と三輪が声を荒げたが、2人の耳にはおそらく届いていない。
ふと考えてみれば、僕を緊急脱出させてから色々と聞きだせばいいのに、二宮さんはそれを選ばなかった。何故かは分からない。勝算が無いと判断したのかもしれないし、僕が緊急脱出させられた後、その身柄がすぐに拘束される、あるいは記憶凍結されると判断したのかもしれない。
いずれにしろ、よく分からなかった。状況を分かっていないというのは米屋も同じだったようで、彼はニヤニヤしながら弧月(槍) を野球少年みたいに肩口にぶら下げていた。おそらく早く戦いたい、とうずうずしているのだろう。槍の矛先が闇夜に白く煌めいている。
「もういい。……話は本部に戻ってから聞く」
怒鳴りたてる三輪の声を無碍に扱っていると、彼はとうとうしびれを切らしたようで、弧月を素早く抜刀した。正眼に構え、白光する刀身の剣尖を真っ直ぐにこちらへと向けている。
それに同調して、米屋も槍の矛先を僕の顔へと向けた。腰を落とし、地を踏みしめ、重心を整えたその姿勢はすぐにでも刺突が放てる状態だ。
サーと流れる冷え切った風がより一層の緊迫感を煽る。風が頬に流れる汗をさらい、雫となり、それがピンと張りつめた緊張の糸を濡らした。僕の白衣はその風になびいている。
緊張に昂った僕の心を表すかのように、風が一層強く吹きすさぶ。
と、その時、風にはためく白衣が2つになった。
「兄さん、これがこちらの世界での遊び納めですね」
すんと耳の奥に快く入っていく、聞きなれた声音。凪の躰の再構成が済んだ直後だった。
白衣と闇夜が刻む陰影は相変わらず綺麗で、凛とした瞳は怜悧に見開かれている。
「さあ、一緒に遊ぼう」「遊びましょう、兄さん」「一緒に遊ぼう、ご主人」
タイミングは絶巧にぴったりなのだが、色々揃わないところが実に僕達らしい。
背の低い草が踏みしめられ、薙ぎ倒される音が響く。川辺の湿った空気が身を切り裂かれているかのように風切り音を上げる。
その音が素早くこちらに近づいた。
三輪は刀を下に振り、一歩前に出る。当然、こちらは後ろへと下がる。
米屋はこちらの後ろに先回りをしていたらしく、鋭く刺突を放った。
凪が寸でのところで腰を回し、足ブレードを繰り出してそれを弾く。
いつかの時のように、僕と凪は背中合わせになっていた。
ただ、その間にはクーちゃんもいる。蝶の楯の金属片が僕達2人を守ってくれるみたいに、周囲を電磁浮遊していた。
キンと鳴らして、僕は鞘から弧月を引き抜き、顔の前横一文字に構える。
刀身は闇夜を切り取るが如く鮮烈に白光を放つ。
その刀身を先鋭の金属片が覆い黒刀へとその姿を変えた。
それは清冽な肌合いを持ち、たぐいなき刃には歴史と未来が秘められている。
「内通者が!! 」
近界民絶対殺すマンの異名は伊達ではない。激昂と共に、袈裟切りに刀身を振り下ろす。
躰を右に運び、三輪の手の返しを見て、躰を屈める。
頭上を剣線が走った。背丈の低い凪にもそれは当たらない。
屈めた躰で地を押し、抗力が僕を押し返す。それを利用して切り上げた。
三輪が半歩下がって躱す。その左手に拳銃が握られた。銃口の先には一直線上に僕と凪と米屋がいる。
迷いなくトリガが引かれる。通常弾と判断。
僕の躰が右に引っ張られるように動いた。これはクーちゃんの補助のおかげ。
背中合わせの凪も同じく右に躱す。三輪の銃撃が見えていた米屋も同様だった。
三輪は再び大きく一歩を踏み、横ざまに弧月を薙ぎ払う。
弧月を垂直に構えて受け太刀。ギンと激しい衝突音。手に鈍いしびれを覚える。
至近距離で三輪の銃口が再び火を噴いた。
金属片が組成した小楯がこれを防ぐ。鉛弾だったらしく、その金属片は羽を奪われたかのように地に落ちた。
僕は左足を軸にして、躰を捻り、体重を乗せて斬撃を放つ。
磁界が生み出す斥力がそれを加速させる。
それは虚空を切った。
電磁加速した弧月であっても、三輪はそれを紙一重で躱したのだ。
拳銃と弧月を組み合わせて近接戦闘を行える実力は伊達ではない。聞けば、大規模侵攻の際に黒トリガーを相手に深手を負わせたというのだ。近接戦闘の実力は凪以上で間違いなかった。
凪も米屋の刺突に苦戦を強いられているようで、刀身を短くし密度を増したスコーピオンで弧月をギリギリのところで凌いでいる。クーちゃんの金属触手の補助があって、ようやく互角と言ったところだ。
「クーちゃん、一瞬だけ、凪の方を守ってあげて」
「了解、ご主人」
応答が終わると、弧月が纏っていた金属片が剥がれ落ち、それが僕の後方へと浮遊していく。
それを見た三輪はニッと悪い笑みを浮かべ、鋭敏に右足を踏み込んできた。
上段から弧月が振り下ろされる。初太刀のものよりも素早い。
弧月に両手を当て、なんとか受け太刀。骨にまで達する衝撃。そのまま刃と刃が交わり、鍔迫り合いへ。
ぎりぎりと押しつぶされるように力が加えられ、刀身越しにそれが伝わる。刃の逆側に切れ味が無いとはいえ、それが肉に食い込めばそれなりの痛みを覚える。
上から加えられる力は重力を味方につけて、じりじりとこちらを劣勢にする。
交差された刃が眼前一寸に迫り、恐怖心が刃を遠ざけようと僕の膝を折った。水気を含んだ地面の泥水みたいな感触が相手に屈した膝を迎えた。防戦一方は変わらない。記憶凍結という冷淡な字面が、この世の終わりを伝えに来たぞと脳裏をよぎる。
親の仇が如くこちらを見下す三輪の目はギロリと尖っており、その鋭さが記憶凍結という言葉に一層の現実味を持たせた。柄を握る手と刀身に食い込ませた手の平はぷるぷると振動しだし、限界が今か今かと近づいていることを知らせる。背中を反らせて力を入れ、何とか横に受け流せないかと思案する。
その時、三輪の右足が振り上げられた。瞬間、踵落としの要領で急降下。刃が交わっている部分へ、体重を乗せて踏みつける。今までとは比べようもない衝撃が躰全体に走り、自分の口から微かな悲鳴が漏れる。かはっと肺から空気が抜けだすような力のない音だった。弧月の反りがこれでもかと手のひらに食い込み、焼けるような痛みが刺してきた。膝は泥水にまみれ、せっかくのお揃いの白衣が台無しになっている。記憶凍結という人生の意味を否定する響きに立ち向かわん、と躰全体をつっかえ棒のように扱って何とか耐え忍ぶ。ぎちぎちと歯を食いしばる音が脳の中で反響する。三輪はその鋭い双眸を僅かに横に反らした。その視線を追ってみると、そこには銃身を握る三輪の左手があった。
ダダンと間断なく発砲音が響く。――――空気が震えた。
目の前が真っ暗になる。
思わず目を瞑ったからだ。
不思議と痛みを覚えなかった。三輪の左手を確認する。
彼の銃口からではなかった。
銃弾は僕のすぐ背後から放たれていたらしい。
それは凪の白衣を突き破り、僕の白衣を突き抜けて、三輪の首元を穿った。
のけ反った三輪の土手っ腹に蹴りを食らわせて、押し返す。
即座に、その右足を地面に強く打ち付ける。
衝撃で泥水の黒と草の緑が高らかに舞い上がった。
その足を軸に躰を捻り、横薙ぎに弧月を振りぬく。その軌跡は白い残影を刻んだ。
躰を動かす感覚は3人称視点のそれだ。
地と平行に振るわれた刀身の刃先は凪の黒髪をかすめ、米屋の首に達する。
凪の視覚からはコロリと地に落ちた米屋の頭部が見えた。
その胴体の切断面からは黒い粘製の霧が立ち上っている。
その間にも、マズルフラッシュが間断なく発せられた。
凪は後ろを振り返らずに銃弾を撃ち続け、三輪をハチの巣にした。
その光景に、歩行者用信号の赤色のおじさんの姿がデジャブ。
『ねっ、こういうことですよ、兄さん』その声までもがフラッシュバックされた。
ベイルアウト!! と叫ぶ間もなく、三輪隊の2人が空へと消える。
「兄さん、練習が役立ちましたね」
「やっぱり、準備が9割、実践が1割だからね」
「何とかななったね、2人とも。今のご主人は無限複製が使えなかったら、ひやひやしたよ」
その後しばらく、3人で健闘を讃え合った。
ミニマップに敵の姿はなく。上空のドローンからも確認できなかった。
周囲のドローンに帰投指示を与え、それが戻って来たら、いざ旅立ちだ。
無限複製で同位相に極限まで詰め込まれたエネルギーが臨界点に達しようとしている。
閉じた宇宙と閉じた宇宙の時空間を同位相にするために、曲率を小数点以下7桁まで一致するように調整する必要があった。というのも、五次元目の座標軸である曲率は近界ごとに僅かにしかずれていないからだ。曲率が大きすぎる世界になんて行きたいとは思わないしね。
ゴィゴィゴイゴィゴィという、自然界には存在しえない不気味な音を発し、向こうの閉じた世界と繋がり始めた。擬球面と擬球面の尖ったふち同士がこの特異点で極限まで一致しつつある。真っ黒い球の外延部からは重力レンズ効果で角度的には見えてはいけない光景も確認できた。
「凪、生身の方はしっかり準備してある? 」
「とりあえず、色々と詰め込みましたよ。薄型液晶、ゲームのハードとソフト、ノートPC、個人端末、将棋盤、オセロ盤、トランプとUNO、ノートと参考書、小説に学術書、あと着替えと化粧品と防寒具、システム手帳とカチューシャ、こんなところですかね。……今は身一つなのに、これだけ持って行けるってすごいですね」
「凪、完全に、旅行気分じゃない……」
目を輝かせながらに言った凪に、呆れまじりにクーちゃんが返した。
これだけのものを身一つで運べるのは、偏にトリガーのおかげである。だって、トリガーオフした瞬間に裸になっていたり、ポケットから財布が無くなっていたり、通学カバンが無くなっていたら困るからね。
「兄さんは何を持っていくんですか」
「とりあえずは遊び道具、それから太陽光発電機と充電器とバッテリー、手回し発電機、ジャガイモと大根の種、蝋燭とLEDライト、簡易テント、スコップ、紙の辞書と電子辞書、裁縫道具、筆記用具、本、金と宝石、ドローン10台、トリガー各種、ノートPC5台、トリオンが動力源のPCを5台、個人端末、薬箱、非常食と水、調理道具、濾過機、コンタクトケア用品、あとはブルーライト遮断グラス、それと興味本位でゴキブリとミント」
「ご主人、それ無人島に行くみたいだね……。あと生物汚染はしないように」
得意げに並べ立てると、これはこれでクーちゃんに呆れられてしまった。
凪もげんなりとした表情を浮かべている。
「クーちゃん、クーちゃんの一部はこっちの世界に残るんだよね」
「一部と言うか、僕そのものだけどね。だけど、帰って来て、その僕に再開したら全く別の人格になっていると思うよ」
「やっぱりそうだよね。……クーちゃん、二宮さんを助けてあげてね」
「……了解、ご主人。……もう一度こっちに戻ってくるためにもね」
ゴィゴィゴィゴィという音が安定し始め、一定の周期を刻むようになった。今、閉じた系と閉じた系が位相幾何学的に同値となり局所的につながったのだ。曲率座標――0.0027628 ≪雪原の大国 キオン≫ への扉が開く。
僕達3人は互いが互いに勇敢だと確認するみたいに、門の向こう側へと足を踏み出す。
門の黒に2人の白衣の白は混ざらずに鮮烈に浮かび上がっていた。
夜空に煌々と白く輝く月のように鮮明だ。
白い月がこんなにも綺麗だから。
しばらくは、くすみそうにない色だった。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。
一応完結。あるいは第一部完。打切り、駆け足エンドとも言う。
最後まで読んでくれた方には感謝のしようもありません。
感想のおかげで、ここまで来ることができました。
本当に駄作ですみませんでした。文章のテンポが悪く、地の文が多過ぎでしたね。
次回書くことがあれば、この反省を活かした体です。
本当にできればいいので、悪かったところを言ってもらえると次回作。あるいは2部への意欲が大きく沸きあがります。