【完結】しゅらばらばらばら━斬り増し版━   作:トロ

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エピローグ【斬った】

 

「凄かったなー……」

 

 山が遥か下に見える程の上空、月詠に大きなヌイグルミのように抱かれながら眼下で行われていた決闘を見届けた木乃香の第一声は、拍子抜けするくらい単調なものだった。

 だが無理もないだろう。一閃で山を斬り、大地を斬り、濁流すらも斬り、巻き起こした暴風で空に雨雲すら作り上げた両者の戦い。個人が起こしうる限界を凌駕し、最早その力は戦略兵器ですら匹敵するか難しい程である。

 そんなものを見てしまって思考が麻痺してしまったのだろう。木乃香は自分を抱きしめて虚空瞬動で空を蹴り続けている月詠へ「ウチ、重くない?」などとどうでもいい質問をしてしまう。

 

「大丈夫ですー。えへへ、お姉さまとっても軽くて、とっても冷たくて気持ちえぇ」

 

「ならえぇんやけど。ごめんな、ウチ、まだ、えっと……こくーしゅんどー? やったっけ? 出来へんのや」

 

「任せてくださいー。お姉さまの出来ないことは、全部ウチがやりますわー」

 

 朗らかに笑いながら、木乃香が苦しくならない程度の力加減で、背中から回した腕に力を込める。まるで宝物のように扱われることに、しかし木乃香は特に何かを感じることはない。

 それよりも――。

 

「ふ、ふふ……」

 

 その隣、同じく虚空瞬動で空を蹴りながら浮かぶ鶴子の浮かべる生理的嫌悪感を覚える笑みが気になって仕方なかった。

 

「……妹さん、死にましたけど、嬉しいんですか?」

 

 こみ上げる嫌悪感を癒しつつ、木乃香は面倒に思いながらも鶴子に声をかけた。

 だが鶴子は笑いを堪えるように一本だけの手で己の体を抱きしめて口許を震わせるばかりだ。

 

「……阿保らし」

 

 ――人間止めてるなぁ、この人。

 肉親同士が殺し合う間、その光景を嬉々として見届けた鶴子の本質を理解しようとは思わなかったし、理解できるとは今の木乃香では思えなかった。

 修羅でもなく化け物でもない。怪物となった鶴子を阿呆と断じて興味を無くした木乃香が再び視線を眼下に移す頃には、月詠は木乃香の心でも読んだように地表へと着地を果たしていた。

 かつて山だったクレーターの中央部。未だ止まない時雨に濡れながら、そこに立つたった一つの影は、黙して空を見上げていた。

 

「……あ」

 

 青山さん。

 そう呼ぼうとして、木乃香は口を噤んだ。

 傷だらけのその姿。今ならば全て癒せるはずだと木乃香は思う。

 しかし、その傷だらけの体に触れるのは躊躇われた。

 欠損しているからこそ、それは美しかった。完成された絵画にはない、穢れた故の崇高さが内包されたその背中。

 そして、振り返ったその姿に、木乃香は言葉を忘れて飲まれた。

 

「目……」

 

 闇夜に立つ影、青山響の青に染まった眼に射抜かれた木乃香は、そこに込められたありとあらゆる何かに絡まれ、呼吸することすら忘れた。

 同時に、いつもと同じく奈落如き右目によって、絡みとられてそのまま吸い込まれそうな心地になる。

 汚泥と美麗。相反する二つを両立されたその様を、木乃香は崇高であると感じる一方で、見るに堪えぬ餓鬼であると悟った。

 そう、傷を含めて、青山響は完成された存在として立っている。

 

「あぁ、木乃香ちゃん」

 

「青山さ――」

 

「ふふ、お疲れ様、青山はん」

 

 『響』の声に応じようとした木乃香の前に割り込んで、鶴子が淑やかに笑いながら『青山』の戦いを労った。

 背後で木乃香が僅かに目尻を細めてその背中を睨んでいるが、鶴子はその程度を気に掛けられる程、余裕があるわけではなかった。

 

「……貴女か」

 

「よくぞ、ウチの考えなど遥かに超えて、よくぞ青山の悲願を。……育んだ才覚を全て引き出してくれました」

 

 神鳴流。

 宗家、青山。

 それらが生まれた経緯を完全に知ることは、その血統である青山に連なる鶴子を含めた現代の青山達も、その門下である剣客達も出来ていない。

 妖魔を打倒するために練り上げられた、化け物と互角に拮抗しうる人間を生み出す。お題目は弱き民草を守るためというものだが、しかしそんな建前を省けば、結局のところ人間を妖魔如き存在へと作り変えるということに他ならない。

 そしてその結晶体がここに完成したのだ。

 人間を遥かに凌ぐ妖魔すら上回る人間。

 人間のまま、人間すら超えた至高天。

 鶴子の才覚ですら理解することが出来ない狂気の産物を前にして、どうして平静を保てるだろうか。

 だからこそ、この手で作り上げた奇跡を体で感じようと鶴子は光に誘われる羽虫の如く響へと近づいていく。彷徨いながら伸ばした手は、さながら空より伸びた一本の蜘蛛の糸を手繰るかのように。

 響はゆっくりと迫る鶴子を見据えながら、応じるように歩を進める。

 

「あぁ」

 

 鶴子にはそれが己を労うような響の敬愛に感じられた。両手に掴んだ刃を地面に突き立てて、素手で歩み寄る響の手が、その手を作ってみせた己の体を抱擁する瞬間を夢想し、今まさに、死闘を制した弟と、それを見守った姉の感動の抱擁が――。

 

「貴女は邪魔です」

 

 興味は無い。

 響は感極まった表情を浮かべる鶴子の手を払って、その横を抜けて行った。

 

「え?」

 

 まさに羽虫のように邪険に払われた鶴子は、大した力が込められていない響の手に弾かれた拍子で、茫然としたままたたらを踏んでそのまま地面に崩れ落ちた。

 

「木乃香ちゃん。怪我はないかい?」

 

 だが響は振り返ることすらもせず、月詠に抱えられたままの木乃香の前に立って、僅かに腰を曲げて視線を合わせる。

 

「う、うん……ウチは、大丈夫やけど……」

 

 木乃香は後ろ姿だけでもわかる程絶望している鶴子を見た。その視線に気づいた響は「あぁ」と一つ頷くと。

 

「どうでもいい……っと、これだけだと伝わらないか。……つまりだな。いつでも斬れる相手より、君が綺麗だからね。大切だろ? そういう願いとか思いって。俺は斬りたいのさ、未来の君を」

 

「えっと……」

 

「分からない、か。そうか、困ったな。……いや、これもツケか。今まで自分の常識と他人の常識の擦り合わせをしなかったせいなんだろうな」

 

 木乃香が自分の言葉を理解出来ていない事実に、響は心底困ったように頬を掻いて苦笑している。確かに響の言っていることが理解出来ないのは以前からそうだったが、木乃香はそれとは別に、響が今まさに、『他者の常識』という自己以外に目を向けている事実の異常に気付いた。

 

「青山さん……?」

 

 何が。

 貴方に何が起きたというのか。

 木乃香が癒すということすら忘れてしまうくらい動揺しながら、問いかけようとしたその時、響の背後で悶えるような刃鳴りの音色が奏でられた。

 

「……いけずな人やなぁ」

 

 鶴子が地面に刺さったひなを掴み、その切っ先を響の背中に向けている。その声は微かに震え、響を見る眼は、時雨ではない何かで濡れているのが見えた。

 

「ウチが目一杯愛したのに……ホンマ、姉不幸な子や」

 

 言いながら、鶴子は未だ衰えを見せぬ気を全身から漲らせた。

 充実する気は、響に腕を切断されたあの日と比べても遜色ない。当代一と言われた力の冴えは片腕になった今も健在であり、心を犯しつくした怪物性と相まって、木乃香の目には理解出来ない怪物が口を開いたようにすら見えていた。

 

「……すまない。少し、待っていてくれ」

 

 そんな木乃香の不安を感じ取ったのか。響は目尻を小さく緩めて、不器用な微笑みを向けると、表情を引き締めて鶴子へと向きなおった。

 

「思えば……全部、貴女が仕組んだことでしたね」

 

「そや。外道の修羅も、正道の修羅も、ウチが丁寧に、誰にも汚されないように育ててみせました。なのに、その恩を忘れて振り払うとは酷いやろ?」

 

「……確かに、恩義はあるのでしょう。貴女が居たから、俺は素子姉さんという家族を得て……そして、斬った」

 

 斬ってしまった。

 そんな響の心など分からぬ鶴子は、歓喜に頬を染めて哄笑した。

 

「アハハハハハ! 斬った斬った! 青山が青山を斬って生き延びた! そしてその結果! 完成したんや! その素晴らしさをウチは――」

 

「斬ったんだぞ?」

 

 響は、言葉の刃で虫唾の走る声を断った。

 

「俺は、姉さんを斬ってしまったんだよ……」

 

 そして、返す刃をその喉元へと突きつける。

 斬ったのだ。

 唯一無二の家族を、響はその手で斬って捨ててしまったのだ。

 だが眼前の怪物は、今まさに刃が突き刺さろうとしていることにすら気づかずに、何を今更と嗤うばかり。

 

「いつも通りのことや! 青山はんは斬るから斬る! そして今回はその相手が肉親であり、同じ域に達した人間であっただけの話! その結果! こうして新たな青山として到達しただけや!」

 

 鶴子は叫ぶ。これまでと何が違うと叫ぶ。

 斬ってきただろう。

 万象一切平等に、何であろうと斬ってきただろう。

 そのことを今更。

 

「まさか、今更懺悔するとでも?」

 

 そうではないだろう。鶴子の確信を持った一言に、響は視線を下に――鶴子の横で眠る素子へと移す。

 安堵の笑みを浮かべながら、安らかな骸となった姉の姿。

 それを見て、懺悔?

 

「……しないよ。俺は、斬るから斬るだけだ」

 

「なら! 何故!?」

 

 斬るから斬る。

 当然の答えに是と返す響に、では何故己に興味を示さないと鶴子は叫ぶ。

 さぁ、斬れ。

 その完成で斬ってみせろ。

 

「あるいは、ウチがこの場で斬ってあげましょう。えぇ、それがえぇ。手ずから完成させた芸術品を、自らの手で壊す……! ふふふ、その感動、興味ありますわ」

 

 鶴子は本気で響を斬り殺すつもりで、ひなの狂気すら容易に抑え込みながら、その刀身に気を収束させていく。

 放つのはおそらく神鳴流が決戦奥義。この巨大なクレーターをさらに深く掘り下げる破壊の嵐が生まれるのは間違いなく、発現の予兆は、木乃香を抱える月詠が即座に離脱を考える程には巨大。

 だが、先程死闘を終えて、気を全て出し尽くした響は涼しげな表情で、一切焦りなど見せていなかった。

 それもそうだ。

 何故? と問われても当然だからとしか答えられない。

 体は自分の物ではないように重く、鈍く。

 失われた血潮は甚大で、眼前の気の濁流を浴びているだけで意識は吹き飛びそう。

 それでも当然だと響は思う。

 何せ――。

 

「貴女は、つまらない」

 

 酷薄な一言。それを皮切りに、鶴子は吐き出した全ての気をかき集めた最大最強の一撃を振りかぶり、しかし、鶴子は何かを察してその動きを止めた。

 

「何を躊躇っているのです」

 

 ひなを掲げたまま固まる鶴子へ、響は今にも倒れそうな体でゆっくりと歩を進めた。赤子に小突かれるだけで飛んでいきそうなくらい弱弱しい。見事な歩法は見る影も無く、辛うじて止血されていた傷口も、歩くだけで開きかけている。

 なのに、鶴子は躊躇した。それは決して肉親故の情でも、剣士として正々堂々を望む気位でもない。

 

「さぁ、俺を斬るといい」

 

「青山、はん……」

 

 ――斬るイメージが浮かばない。

 ――斬られるイメージしか浮かばない。

 片腕を失い、戦場よりもう何年も離れているとはいえ、かつて最強を誇った己が、気すら満足に練り上げられない響に気圧されている。

 彼我の戦力差?

 強敵を下したことによる覚醒?

 それとも蒼に染まった左目のせいか?

 

 ――理解出来ない。

 

「ふふ……」

 

 鶴子は嗤った。

 これだ。待っていたのは己の力では測ることなど出来ない規格外。ただでさえ斬るという祈りに終わった響は理解の範疇を越えていたというのに、今や目の前の修羅は、そこすら超越した前人未到の位階へと上り詰めている。

 これが青山だ。

 初代より受け継がれた人類の化生。

 赤より濃き青い血潮が完成させた――。

 

「違う」

 

 そんな鶴子の思考を、響の眼は容易に見破り。

 

「俺は、青山響だ」

 

 ――凛。

 

 か細く、音色は空気に溶けた。

 

「……え?」

 

 木乃香は、いつの間にか鶴子の手から離れたひなが響の手にあり、それがやはりいつの間にか横薙ぎに振るわれていることに気付くのに、数秒以上の時を要した。

 遅れて、鶴子の体から気が虚空に霧散して、まるでそれが命そのものだったかのように、力無く体が崩れ落ちる。

 木乃香は背後で何かが落ちる音を聞いた。だが振り返ろうとは思わなかった。

 見なくても分かる。

 鶴子の首は、もう無い。

 

「俺が欲するのは斬りたいのに斬れない者だ……忌々しくて、狂おしくて、だからこそ愛すべき者達だけだ」

 

 だがそれでも、向かってくるなら斬ろう。向かってこなくても気が向いたら斬ろう。

 斬るために斬る。

 しかし、斬りたいと思える相手がまだ居るのに、有象無象に構うほど響は酔狂ではないと思えるようになった。

 それはつまり、斬りたいと欲求を覚える相手が全て居なくなった時こそ――。

 

「……貴女が待ち望んだ『青山』は、もう死んだのです」

 

 青山素子というたった一人の家族の手によって、修羅外道(青山)はその胸に抱かれて敗北した。

 そして、素子という同胞によって、自分はこの場に立っている。

 

「さよなら、鶴子姉さん」

 

 響は素子に寄り添うことも出来ず死骸を晒す鶴子を一瞥すると、木乃香へと再度向きなおった。

 

「さ、木乃香ちゃんは先に宿へ帰って……いや、ここに泊まるつもりだったから宿が無いか……えっと、そこの君」

 

「は、はい……!」

 

「手頃な宿に木乃香ちゃんと一緒に泊まってくれ。場所は後で探り出すから」

 

「はい……分かりましたー……」

 

 木乃香を背中から抱きかかえる月詠は、まるで借りてきた猫のような態度のまま、言われるがまま響の提案に応じた。

 そしてすぐにこの場から瞬動で離れようとして、その前に木乃香が「待って」と言って、月詠の手を解き、響の前に立った。

 言いたいことがあった。

 伝えなければならないことがあった。

 治したいとも思っていた。

 だが、木乃香はそれら一切をまとめて放棄して、疲労した響を労うようにはにかみながら、その体が壊れないように、血濡れの着物を指先でそっと握った。

 

「響」

 

 青山としか告げなかった男の、名。

 

「響さん」

 

 穢れなき腐敗物。

 本当の意味でそう成り果てた男が取り戻した名前。

 おそらく。

 いや、必ず、その名前は世界の脅威として語り継がれることになるだろう。

 善も悪も関係なく、誰もかれもが恐れ戦くだろう。

 人間(狂気)の本質だと知るからこそ、怖くて怖くて仕方ないと思うだろう。

 だがそれでも。

 せめて、分からずとも。

 

「お疲れ様です」

 

 同じ道に至れるからこそ、せめてこの場で自分だけは認めてあげなければならないのだ。

 それは奇しくも、青山素子が死ぬ間際、世界に災禍を撒き散らすと知りながらも響を受け入れたのと同じ気持ち。

 

「……ありがとう」

 

 木乃香の気遣いを察した響は、薄らと嗤って感謝を伝える。

 死者の骸と、自我を失った少女の間、まるで素晴らしいことを終えたとばかりに笑いあう男女が一組。

 

 そんな理解不能の光景こそ、なんて様だと人は言うに違いない。

 

 時雨は、止む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ【斬った】

 

 

 

 

 そして、世界樹の発光で勝利を確信した数秒後、超鈴音はあらゆる全てに絶望した。

 

 

 

 

 術式は完全に起動し、麻帆良を中心とした全世界への認識魔法は波及し、伝播し、世界は魔法があってもおかしくないと認識するはずだった。

 はず、だったのだ。

 

「あ、あ……」

 

 だが鈴音は激戦で疲弊した体のことすら忘我して、歓喜ではなく絶望に言葉を失っている。

 そしてそれはきっと、彼女のやり方に賛同した者も、彼女達と戦っていた立派な魔法使い達すらも共有する絶望であった。

 響いている。

 響き渡っている。

 響き渡る認識魔法を斬り捨てた音色が。

 

 凛と鳴り響く修羅の音色が――。

 

「ふは、ふははははは! あーはっはっはっはっはっ!」

 

 だがその中で唯一哄笑する化け物が一匹。

 虚空に謳われた斬撃に合わせて、自らの鎖を食いちぎった少女の皮を被った鬼畜が吼えている。

 

「待っていた! 待っていたぞ! 三千世界に轟くこの福音を! 全くもって、素敵な素敵なラブソングだよ!」

 

 言語を超えた理解を叩きつけられて崩れている鈴音達を尻目に、否、それを見計らったように、麻帆良を襲撃する鬼神と機械人形の群れを全て掌握した。

 瞬間、その邪悪な魔力に染められた人形達が、漆黒と氷結に姿を歪められ堕落する。

 人を害する武装を持たなかった傀儡は、この時、頂点に君臨する化け物の全魔力を与えられたことで、殺戮に特化した悪鬼となったのだ。

 そして、そんな彼らの周りを取り囲むのは、一つ一つが命を与えられた、無限に増殖する赤き茨。

 命無き人形と、凍てつく氷の茨の総軍。国家一つを蹂躙しつくして余りある軍勢は完成する。

 そしてその指揮棒を操るは、あぁなんということか――命を嘲るもう一つの狂気。その指揮棒を振ることに一切の躊躇いを見せない化け物の手。

 歓喜に染まった化け物は、消耗しつくした魔力を補うべく、世界樹に牙を突き立てその魔力を根こそぎ胎にため込んで嗤う。

 

「ぷはっ! 最高だ! やってくれた! ならば私も貴様のお眼鏡に叶うように毛並みを整え手土産片手に行ってやる! 今すぐ、今すぐ! 今すぐになぁ! 溜ってるんだ。やりたくてやりたくて! 愛しくて愛しくて! 貴様の血を飲み干したいと、こんなに疼いて仕方なくてなぁ!」

 

 吸血鬼の真祖。闇と氷の絶望は行く。

 誰もかれもが絶望する中、絶望の権化故に行けるのだ。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。

 魔の本懐を目覚めさせた、この世で唯一無二の化け物め。

 

「今すぐ殺し尽くしてやるぞ! 青山ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 総軍を全て飲み干す巨大魔法陣と共に、絶望の残響を最後にエヴァンジェリンは決戦の地へと行く。

 待っていろ。

 あと少しだけ待っていろ。

 お前()の戦場へ。夢にまで見た修羅場へと。

 あぁ。ここより先、希望は存在しない。

 それを素敵と、あるいは愚かと、呼べる者のみ、抗ってみせろ。

 

 だが、気を付けろ。

 

 

 

 ――歌声は、もう永遠に鳴り止むことはないのだから。

 

 

 

 

 




というわけで、第五章【青】終わりです。実際、四章と一纏めにしようとも思っていたのですが、やっぱ素子との最終決戦ということで章を区切ったと言う感じ。実は四章と合わせて十万文字くらいといつものペースを守っているのですのことよ。

さておき、次章は今度こそ最終章です。エピローグ的にももうとんでもないことにしかならないのですが、これも全部オリ主ってやつがネギまに投入されたせいだと笑ってください。

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