ネギがクウネルの元で修行を始めてから、既に二週間もの月日が流れていた。時間に換算すると、一ヶ月以上はクウネルに教わっているのだが、その原理は魔法具による恩恵のおかげだった。
現在彼らが居るのは、水晶体の中にあった建物だ。エヴァンジェリンが保有する別荘と同じく、水晶体の内部では、外の一時間が一日になるような仕組みとなっている。ネギはその中で毎日のように外では二時間、つまり二日間クウネルとの修行に当てていた。
「さて、それではまずは咸卦から」
「はい!」
言われるがまま、ネギは身体の内側に気を練り上げ、重ねるように魔力を外側から混ぜ合わせた。
すると眩い光と共に膨大なエネルギーがネギの身体からあふれ出す。一流の魔法使いすらかすむほどの膨大なエネルギーを、ネギは既に自在に扱えるまで成長していた。
だがクウネルとネギが求めるのはその先。クウネルは真剣な表情で「続いて術式固定」と告げて、ネギは応じた。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル。風精召喚。戦の乙女100柱!」
渦巻く魔法を右手の上に纏め上げる。フェイトのときと比べてネギの身体への負担は少なく、咸卦法の出力があれば充分に耐え切れるほど。
「術式固定! 掌握!」
そして躊躇いなく纏め上げた風の精霊を握りつぶした。直後、召喚した精霊が体内で練り上げられ、ネギの周囲に風が巻き起こる。
術式兵装『風精影装』。それも以前とは違って、デコイを一分以上展開できるほぼ完全状態だ。
「素晴らしい。これに関してはもう問題なく扱えるようになりましたね」
では始めましょう。クウネルがそういうや否や、ネギは本能のままにその場から飛びのいた。
遅れてネギが先ほどまで居た場所がクレーター状に押しつぶされる。詠唱もなしに放たれた重力魔法。押しつぶされれば風のデコイがまとめて消されるそれをわざわざ受ける意味はない。ネギは術式の恩恵で杖もなく空を飛びながら、最初の立ち位置から一歩も動かないクウネルに杖を向けた。
「術式排出! 戦の乙女10柱!」
体内で練られた風の精霊が通常の魔法となって四方を取り囲みつつクウネルに襲い掛かる。だがクウネルは精霊の突撃を前に動くこともせず、両手を軽く掲げてそれら一切を重力の球で押しつぶした。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル! 雷の精霊100柱! 魔法の射手! 連弾・雷の100矢!」
それも許容範囲内だったネギは、その僅かな隙を狙って怒涛の如き雷鳴の連弾を上空から解き放った。
中位精霊と同化している今のネギは、ある程度の魔法なら精霊に負担させることで、魔力の消耗を抑えて放つことが出来る。絨毯爆撃のような連弾も、今ならば詠唱込みで余裕を持って放てるほどだ。
「不合格」
だがネギの魔法に晒されているはずのクウネルは、詠唱の間にネギの後ろに回りこんでいた。咄嗟に振り返って迎撃を行おうとするが、クウネルの動きは早い。背中に圧し掛かる重圧。重力に囚われたネギはなすがままに地面へと激突した。
「くっ……!」
だがデコイで受けきったことでダメージはない。急いで立ち上がるネギだが、手をついた時点でクウネルは彼の前に立っていた。
「おしまいです。今のあなたではここから離脱する方法がないですからね。尤も、短距離転移を無詠唱で扱えるようになれば大丈夫なのですが」
クウネルの助言に苦笑しつつネギは立ち上がって、術式を全て解除した。
これで何敗目になるだろうか。数えるのも億劫なほどネギは敗北したが、とりあえずこの一ヶ月でようやくクウネル本人と軽くでは戦えるほどにはなった。
「もしかしたらいけるかなとか思いましたけど、やはり駄目でしたね」
「いえいえ、私自身驚くペースで上達していますよ。ですが最終目標は近距離のスペシャリスト相手に遠距離戦を演じれるようになることですから。私のような遠距離専門に近距離でも圧倒されるようでは、やはりまだまだ……ここはタカミチ君を再生して、中距離から鍛えなおすことにしますか」
そう言ってクウネル・サンダース。本名、アルビレオ・イマは仮契約カードを取り出して、アーティファクトを召喚した。
現れたのは無数の日記帳だ。それがクウネルを取り巻くように螺旋状に並んで浮かんでいる。
アーティファクト『イノチノシヘン』。特定の人物の身体能力や外見を一定時間だけ自身の身体を使って再現するこのアーティファクトこそ、クウネルがネギに与える最大の経験値だ。
様々な能力を持つ相手と時間制限はあるが戦えるこのアーティファクトは、本来、戦闘での用途は薄いものの、戦闘経験値が少ないネギを鍛えるには充分以上の効果を発揮した。近距離、中距離、遠距離。クウネルがこれまで採集してきた猛者の能力がそのまま再現されるのは、一人をいつまでも相手にする以上に効率的だ。
そのおかげで、クウネルが操作するために、本人よりは劣化するとはいえ、咸卦法を使用しないタカミチと戦えるほどにはなっていた。
そしてみっちりと様々な相手と戦った後は、魔法の講義および、クウネルが集めた人々の経歴を辿る勉強会となる。タカミチなどの英雄から、世間では大悪党と呼ばれた者達まで、プライベートを侵害しない程度にイノチノシヘンから抜粋された彼ら、彼女らの足跡を、クウネルの解説を交えつつ蓄えたことで、これまで一方向しか見なかったネギは様々な価値観を持つことになった。
中には参考にすべき素晴らしい考え方もあり、また唾棄すべき邪悪もあった。一方、素晴らしい考えの持ち主が行う邪悪を嫌悪したり、唾棄すべき邪悪がそこに至るにあった凄惨な状況にある日の自分を重ねて共感もした。
魔法や戦いの実技以上に、人を知ることはネギの経験となった。同時に何が正しいのか、間違いなのか、思春期特有の悩みにぶつかることになるが、クウネルはそれこそ己で答えを出すことだと諭す。
そんな折、ふとネギはクウネルに質問をした。
「師匠にとって立派な魔法使いってなんでしょうか?」
「そうですね……自分に素直なこと、でしょうか。何が正しいのか、何が間違ってるのか。多数決でそれらを決めるのではなくて、己の中の価値観でそれらを決める。私にとっての立派な魔法使いは、そんな人でした」
クウネルは懐かしむように目を細めながら答える。何故か寂しげな雰囲気がそこにはあり、そしてその後、彼は父親のように優しい眼差しでネギに笑いかけた。
自分の父親は、どんな人物だったのだろう。幼少の頃考えていたことを、この頃再び考えるようになった。既にもう居ないと言われ、幼い頃はピンチになったら助けてくれつと信じて、色んな悪戯も行った。
結局、父さんはあの紅蓮の日にも現れなかったけど。自分を助けたのは、悪魔の軍勢を殺しきった恐ろしい男で──そこで記憶がなくなっている。
父親のことを考えていたのに、どうしてあの日を思い出すのか。ネギは脱線した思考を戻して、父親のことを想像する。
強くてかっこいい、誰もが憧れる英雄。御伽噺になるような英雄で、そんな父親こそ自分がなるべき立派な魔法使いなのか。
「ネギ君?」
物思いにふけっていたネギを現実に戻すクウネルの穏やかな声。ネギは慌てて返事をすると、新たな魔法の術式の練習に戻った。
だが思考は再び己に沈む。
何が正義で。
何が邪悪で。
自分はどうやってその線引きをするのか。
世が定めた法律。違う。法律に縛られた正義は、時に悪となる。
ならばクウネルが言っていた、己の価値観で善悪を決めることか。だがそうするにはネギに足りないものは沢山ある。正しいことを正しいままに行えるほど、ネギは大人ではなかった。
天才だ。
英雄の息子だ。
そう言われても、所詮ネギはまだ子どもだった。何かをすれば盲目的になるし、何も決めなければ右往左往する。庇護なくしては歩くことも出来ぬひよこのような存在。
クウネルによって教えられた様々な人々は、ネギに様々な導を与えたと同時に、広大な闇の深さをまざまざと見せつけもした。
目先の闇すら照らせなくて、しかも闇はなおも広がっている。
何処に己の道があるのかわからない。
それでも。
それでも、一つだけ、確かなのは。
終わっては、いけない。
ネギは僅かにうずく左目を、そっと掌で隠した。
─
超鈴音は現在、計画の最終段階を前に追い込まれていた。
というのも、一人の不確定要素。
名前を、青山。
地獄の如き、修羅の名。
「……圧倒的に数が足りないネ」
一人、麻帆良に作った隠し部屋で愚痴るが、解決策などエヴァンジェリンの助勢くらいしかない。
それだって、残されたタカミチと学園長という戦力を出し抜くには五分五分。計画の最中、エヴァンジェリンが敗北することがあれば、計画は完全に潰されるだろう。
後、一人。真名レベルとまではいかないが、それに準ずる戦力があれば道は見える。
既に超の知る歴史とは随分と違うが、魔法を世界にばらすという計画は、だからこそ遂行する必要があると確信していた。
結局、京都の事件は魔法使いが引き起こしたものだ。それを断罪するというわけではないが、いつ再び同じようなことが起きるかわからない。そのとき、魔法が知られていれば、魔法使いはもっと迅速に動くことが出来たはずだ。
だから、五分五分では拙いのだ。改めて思い知る。自身の未来のためにも、そして今の世界の明日のためにも、魔法を知らしめる。
だが。
「駄目ネ。私は駄目駄目ネー」
やる気なく身体をだらけさせて、超はんがーと大口を開けた。切羽詰っているわけではない。焦りはあるが、余裕を失うほどではなかった。
余裕こそ、自分のようなボスキャラに必要な要素である。失敗も計算に、むしろ使命感やらなんやらを覚えていては、それに囚われてやりづらくなるというものだ。
「んー。計画に賛同してくれて、かつ優秀な魔法使いは……」
改めて探そうとして、思い出したのは京都の惨劇を乗り越えたネギとその一行のことだった。
「……」
超は顎に手を添えて考える。監視カメラの映像を見る限り、あの災厄の中心にネギはいた。魔法という力が行う惨劇。あの惨劇は、魔法を知る人間が自由に動ければもっと簡単に解決できることは、少し考えれば、十歳で教師として赴任した聡明なネギであればわかることだろう。
「ちょっと……危険だが」
英雄の息子、ネギ・スプリングフィールド。京都での戦いぶりを見る限りでも、その実力は充分及第点に届く。
「誘ってみる価値はあるネ」
ネギが誘いを断れば、自分の計画が事前に崩れるリスクは確かにある。だがそれを補って余りあるリターンが、ネギを引き入れるという報酬にはあった。
─
桜咲刹那が京都の惨劇の後も、護衛対象である木乃香を麻帆良に返してまで一人残ったのは、未熟な己を鍛えなおすためである。
ネギ達が京都を出て早々、その日のうちに刹那は行動に移ることにした。
幸いにも今回の件によって西と東の関係はある程度改善し、刹那は久しぶりに神鳴流の総本山に戻り、そこでとある人物の居場所を知ることが出来た。
「だがあまり近寄らないほうがいい。思うところがあるのか、ここ数ヶ月ほど山に篭ったまま出てこないのだ。京都の件を聞いても出ようとしないのは、それほどの何かがあったのだろう」
高弟の一人から聞いた助言に感謝しながらも、刹那は一人人知れぬ山奥に乗り込んだ。代々神鳴流の剣士が鍛錬の場として選ぶその場所は、清涼な空気が充実しており、精神を研ぎ澄ますには最高の場である。
道なき道も刹那にとっては苦にもならない。愛刀の夕凪の入った竹刀袋を背負い歩くこと暫く、刹那はようやく目的の場所に辿り着いた。
木々の迷路を抜けた先に広がるのは、見上げるほど巨大な滝を中心に試合が出来るほど大きな一枚岩が特徴的な開けた場所だった。その大岩の上に目当ての女性が座っているのを見て、刹那は声をかけようと──躊躇う。
「……」
ただ座禅を組んでいるだけだというのに、妙齢の女性は目が眩むくらいに膨大な気をその内側で練り上げていた。だが驚くべきは、恐るべき青山に匹敵するほどの気を練り上げながら、刹那が視界に収めるまでそれを外界に晒さないほど濃縮していることと、その気が春に吹く暖かな風のように心地よいものであったことだ。
目が眩んだのは、刃のように鋭いのに、女性らしい柔らかさがその気に含まれていたことによるアンバランスさからか。そうして暫くその美しい座禅に見惚れていると、女性は閉じていた瞼を開いて、立ち尽くす刹那にそっと微笑みかけた。
「桜咲、刹那……だったかな? 大きくなったな」
名前を呼ばれて正気に戻った刹那は、反射的に片膝をついて頭を下げた。
「失礼しました! 神鳴流、桜咲刹那、次期当主、青山素子様に拝見できたこと──」
「そういう堅苦しいのは止めてくれ……疲れる」
そう言って、もう一人の青山にして、現神鳴流最強の剣士、青山素子は恥ずかしそうに頬を掻いた。
鍛錬所より数分歩いた場所にある木製の小さな小屋に招かれた刹那は、自分が決断したこととはいえ、雲の上の存在である素子と対面していることに緊張を隠せずにいた。
素子はそんな刹那の緊張を知り、それとなく緊張を解すために雑談をしたりとってきた魚を焼いたりした。
そんな気遣いに気が回ることのない刹那は、出会ってからこれまで緊張し続けていて、素子は刹那の緊張振りに、何となく懐かしさすら感じて笑みを浮かべた。
それも対面して、雑談をしながらともに同じ食事をすれば緊張も和らぐ。ようやく落ち着きを取り戻した刹那は、串に刺しただけの魚を美味しそうに頬張る素子に、質問を投げかけた。
「京都のお話は聞いていますか?」
「あぁ。人が沢山死んだみたいだな……」
どこか人事のように語る素子の言い草に若干の苛立ちがこみ上げなかったといえば嘘になる。刹那はそんな自身の気持ちを吐き出すように、語気を強めながら視線を下げる。
「私は、あの惨劇で己の無力を感じました……木乃香お嬢様を何とか取り返すことが出来たとはいえ、それ以外に何も出来なかったのです。魔から人々を守るのが神鳴流の剣士であるというのに、しかも──」
「弟に……青山に会ったか」
刹那の言葉に素子は続けた。ハッと顔を上げた刹那が見たのは、途端に表情が失われた素子の顔だ。まるで別人になったかのような様変わりに言葉が失われた。
代わりに今度は素子が淡々と語りだす。
「私は数ヶ月前に、アレとやりあった。理解できなかったよ。こんな人間がこの世に存在するのかと……今だって、怖くて怖くて、仕方ないんだ」
「素子様……」
刹那にとって、彼女が青山と戦っていたことも驚きだったが、それ以上に素子であっても青山が怖いという事実が衝撃的だった。
「兄上は、詠春様は見つかっていないのだろ?」
「は、はい……おそらく、総本山を襲ったマグマによって命を奪われたと……」
唐突に変わった話題に、刹那は驚きを引っ込めて懺悔するように告白した。あの悲劇は刹那が間接的に招いたようなものでもある。だから責めを幾らでも受ける覚悟もあった。
しかし素子は「そうか」と、どこか他人事のように語る。
「多分、私の責任だ」
「え?」
「山に篭らず、京都に戻っていればその惨劇は免れ、兄上が死ぬことはなかっただろう」
「そんなことは……」
「あるのだ、桜咲。恐怖せず、青山をあの場で殺していれば、惨劇は回避されていたはずだ」
素子の言葉は有無を言わせぬ説得力があり、同時に疑問が浮かぶものだった。
今は京都の惨劇の話をしていたはずだ。それが何故青山を殺すという話になっているのか。確かに恐ろしい男ではあった。だが事実、青山がいたからこそ惨劇は被害をあそこまで抑えられたことも事実。
意味がわからないといった刹那の表情を見て、素子は己の説明力のなさに内心で舌打ちをした。だからわかりやすく、簡潔に告げる。
「青山が斬った」
「……それは、どういう」
「あの修羅が……あぁクソ。姉上はやはり気が狂っている。桜咲、悪いことは言わない。お前に守りたいものがいるならば、一刻も早くその者を連れてここに来い」
素子はそう言いながら紙と筆を取り出して、ひなた荘という場所の住所を書いた。
問答無用でそれを押し付けられた刹那が目を白黒させていると、素子は疲れ果てた老婆のように背を丸めてため息を吐き出した。
そして刹那は背筋に怖気が走るのを感じた。素子の様子が反転し、最初に見たあの優しい気が嘘のように、冷たく、凛と奏でるような音が今にも聞こえそうな様相に変わっていく。
「私の予想が正しいのなら、今のアレを止められるのは、この世で私を含めて数人いるかいないかだろう。あぁ言わなくてもいい。お前の身体にアレの気が僅かに染み付いてるのはわかってる……そして木乃香お嬢様が麻帆良にいること、姉がアレを麻帆良に送ったこと。全部、わかってる……わかってるが……怖いのだ。わかってしまうから怖い。私はいい、だがアレはいつか私の大切なものも斬ってしまうのではないかと思う、いや、確信がある。そのとき、私は私のままなのか? 私は今の私ではなく、その向こう側に行ってしまうのではないか? 冷たい場所が広がる。冷たくなっていくのだ。凍りつくのではない。触れば斬り裂く冷たさが延々と広がる……アレはそこに平然と立っている」
素子は背筋を正しながら、弱音を吐露した。まくし立てるように言いながら、一言一句が刹那の脳裏に刻み込まれた。言葉自体に重さが、冷気が込められているようで正気が失われていきそうになる。
青山。
あの青山が、素子をここまで追い詰めたというのか。刹那は愕然とした面持ちで、なおも語る素子を見据えた。
「私はもうアレと真正面から対峙するなんてしたくない。京都の件は間違いなく青山が関わったから惨劇に繋がったのだ。証拠なんて必要ない。青山だよ。青山が青山だというだけで全ては繋がる。アレが元凶だ。そして、アレを後一歩まで追い詰めながら、恐怖で逃した私の責務だ。そしていつかアレは私の前に現れる。そのとき、一瞬だけでも同じ領域に辿り着ければ、アレと相打つことは可能で……すまない。少々、取り乱した」
「いえ……気になさらないでください」
「そう言ってくれると助かる」
お茶を一口飲んで落ち着きを取り戻した素子は、その場で座禅を組んで己の体内に気を練り上げた。
すると、素子の身体から発揮されていた冷たい気配が吹き飛ぶ。再び誰もを包み込むあるがままの気に戻った素子は「青山と仕合ってから、この様だ」と己を恥じた。
「異変は青山に刀を斬られたその日からだった。今はどうにか抑えるところまできたが、最初の頃は一秒だって気が抜けない状況が続いたんだ……恐ろしかったよ。もし刀ではなく、己自身を斬られたらと思うとな」
「素子様……」
刹那はようやく素子がこれまで山に篭っていたのかを理解した。山から出たくても出られなかったのだ。
今もなおこの人はあの恐ろしい男と一人で戦っている。刹那は神鳴流として素子の高潔さを誇らしくすら思った。人間とも呼べぬ外道畜生と戦って、それでも修羅に陥らぬ心の強さ。
やはり、押し付けがましくても、この人しかいない。刹那は覚悟を決めると、一歩下がり床に頭をこすり付けた。
「無礼ながらお願いがあります! 素子様が今も苦行に立たされているのは重々承知のうえで! それでもなお! 私は人を守る強さが欲しいのです!」
「私は、誰かに指導できるほどではない。未だ道を彷徨う求道者だ」
「ならば隣に、せめて素子様の求道をその傍で見させていただけないでしょうか?」
何卒お願い申し上げます。刹那は頭を下げることしか出来ない。だが決して退くことはない強固な意思がその姿からは感じられた。
素子はそれでも何かを言い募ろうとして、だがこの少女はやはり動かないだろうなぁと、かつての己を見るような複雑な気持ちで納得するのだった。
「一週間だ。それが過ぎたら一度戻り、改めてまた来るといい……本業は学生だろう? 勉学を怠ることいけないからな。本当に……うん……」
勉学という言葉が何かしら響いたのか。遠くを見つめながら数度うなずく素子。だが刹那は期間は短くとも、素子の師事が得られたことに喜び、ただ力強く「ありがとうございます!」と答えるのみであった。
─
思ったよりも俺は人の輪に入れるようになったのだろう。
などと自惚れてみるくらいちょっとだけだったらいいはずだ。何せあの夜の一件以来、刀子さんとは少々疎遠であるものの、魔法関係者の皆様に、清掃中に挨拶をされることが多くなった。
子どもの魔法使いも挨拶するので、必然、その周りの人達にも挨拶される。気付けば軽く挨拶をするだけではあったが、挨拶が挨拶を繋げて、色々な人と関われるようになっていた。
「こんちゃーっす」
「こんにちは」
今も清掃中に男子生徒に挨拶をされる。俺も律儀に返して、それだけで何だか嬉しくなってしまうのだ。
だがここ数日で爆発的に人数が増えてきたので、錦さんには「ちゃんと仕事しろよ?」とからかわれつつ釘を刺されて赤面ものだったが。
ともかく。
良き日々である。
誰かと触れ合い、繋がっていく。陽だまりは連鎖していき、暖かな陽気が俺をまどろみに引きずり込む。それは冷たい修羅場とは違う面白さがあって、これをそのままあの冷たい感覚に引きずり込んだら面白いだろうなぁとか思ったり。
なんて、誰かに聞かれたらからかわれそうなことを考えていると、いつの間にかこの場の清掃が完了してしまった。毎日のように掃除していたため、意識せずともこの程度なら出来るようになったのか。我ながら進歩したよなぁと、いっそ刀もそうだが清掃の道を究めるのもいいかも、なんてね。
「あら、青山さん。こんにちは」
そうして惚けていると、不意に俺の背中越しに聞きなれた声が届いた。
慌てて振り返る。そこにはいつの間に俺の傍に現れた刀子さんが、憑き物が落ちたような表情で俺に笑いかけてくれていた。
「びっくりした……あ、失礼しました。お久しぶりです。葛葉さん」
「あぁそんなにかしこまらなくてもいいわ。刀子って呼んでちょうだい」
「はぁ」
なんか。
なんか、変わったなぁ。
あの夜に会ったときは、蛇に睨まれた蛙。猫に捕らわれた鼠。買い手を見上げるチワワ。そんな哀れむべき雰囲気が全開だったのだけど。
男子もそうだが、女性も三日会わなかったら活目せよといったところだろうか。妙齢の女性らしい色気を滲ませた今の彼女は、すれ違う通行人が何人も振り返るほどに美しかった。
「いいことでもありました?」
俺は率直にそう聞いてみるが、葛葉さん、もとい刀子さんは困ったように頭を振った。
失礼なことを聞いてしまったのか。その表情を見て申し訳ないと頭を下げた俺の肩を刀子さんは優しく抑えた。
「それ、もう何度も聞かれてたから混乱しただけで、謝らなくていいわよ。むしろ、私が謝らないといけないってずっと思っていたの」
「そうなのですか? 俺は葛葉さん……刀子さんに何か迷惑された覚えはないのですが」
そう言うと刀子さんは苦笑して「ほら、あの夜のことよ」と告げてきた。
あの夜は……んー。刀子さんが驚くのも当然だし、俺はそれほどのことをしてしまったからなぁ。
だから気にしないでくださいと言ったが、刀子さんは「そういうわけにもいかないわ」と返してきた。
「魔法先生の方々の前で恥をかかせたのは事実よ。ごめんなさい。今思えば、どうしてあなたをあそこまで怖がってたのか不思議でたまらなくて……」
「ですが、確かに俺は鶴子姉さんに取り返しのつかない怪我をさせましたからね。それで道場に連れていったのだから、怖がらないほうが当然だと」
「そうなのだけど。でもほら、あれは斬ったから怪我をしたので、それなら仕方ないかなぁと。勿論、怪我させたことは反省しなくてはいけないわ。でも斬るのは仕方ないものね」
んー。まぁ斬るのは普通だしなぁ。
「ほら、しかし怪我はしましたし。姉さん腕がぽーんって」
「そこよりも驚いたのは血の量だったわ。第一、あなたが腕を斬るところは誰も見ていないでしょう?」
「あ、それもそうか」
「ふふふ、うっかりね青山さんは……それでまぁ仲直りでというのも変だけど、少し相談してもいいかしら? ほら、秘密の共有で仲良しってあるでしょ?」
刀子さんの提案に内心で苦笑。秘密の共有で仲良しは、いかにも女の子らしいなぁとか、自分の年齢考えてくださいとかふと思ったり。
「何か変なこと考えたかしら?」
「いえいえ、ところで、相談というのは?」
錦さんは空気を読んだのか刀子さんが来た時点でこの場を離れて次の場所に先に行っている。周囲の人も俺達の話に耳を貸すことはないだろう。幾ら刀子さんが人目を引くとはいえ、往来の場である。わざわざ立ち止まって聞くような人はいないだろう。
それがわかっているのか。刀子さんも場所を移そうとはせず、なんら気負いもなく口を開いた。
「えぇ、明日彼氏とデートなのだけど……久しぶりだからちょっと緊張してて。男性にとっての、理想のデートのシチュエーションとか何かないかしら?」
うむぅ。
これは軽く聞こうとした罰か。中々難しい問題だなぁ。俺はこの年になっても彼女も出来たことないし、好きな異性も出来たことはない。
しいて言うなら好敵手とかは沢山斬ったけど……
俺ではそういう方面でしか助言できないなぁ。
「とりあえず」
「とりあえず?」
「二人っきりになって斬りあえばいいのではないでしょうか」
好きな相手とは斬りたい相手だ。上手くいけば冷たいあの場所に一緒に行ける。だから一般論として俺はそう告げたのだが、刀子さんはどうやらお気に召さなかった様子。不満げに眉をひそめると、俺に詰め寄って怒鳴ってきた。
「そんな当たり前なことは聞いてません!」
「そうですよねぇ」
やはり俺には恋愛ごとの相談を解決は出来ないみたいだ。そも、斬ることなんて普通なのだし、そんなこと言われても困るのは目に見えていたというもの。
呆れた様子で「相談しなければよかったわ」などと自分から勝手に提案したくせに理不尽なことを言う刀子さんに呆れつつ、とりあえずせめてものということで、最近ではかなりよかった詠春様を斬ったときの感想とか語ったりする。
刀子さんもこの話は気に入ったらしい。「私なら一瞬で斬らないで味わって斬るわ」「ですが断続的な音はその人の感性を傷つけますよ」「それでも一瞬で終わらせたらそこだけしか斬りとれないから、やはり別の角度から行うべきよ」などとそれぞれ意見を交わしつつ、俺達は錦さんがいい加減にしろと携帯電話越しに怒鳴りつけてくるまで、雑談を続けるのであった。
翌日、駅について買った今朝の新聞に、首だけの死体が見つかるという殺人事件が新聞の一面に載ってるのを見た。帰り際に交換した番号に電話して刀子さんに聞いてみたら、斬ったのはやっぱし刀子さんだったので、どうでしたと聞いたら、刀子さんは電話越しに。
「汚い声でしらけました」
などと一言。
ご愁傷様、そういうこともよくありますよ。なんて俺が冗談めかして言ったら、やっぱし大声で怒鳴られた。残念。
そんなよくある朝の出来事。俺は今日も笑顔の陽だまりを守るために、麻帆良の清掃業務に勤しむのであった。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
うん。
今日も麻帆良は平和だなぁ。
─
日差しが暖かく、流れる空気は緩やかに身体を包み、呼吸一つにすら美味しさを感じる。
だが全てがまやかし。偽りの空間で感じる全ては意味をなさないもので、現実世界に充満している排気ガスで汚染された空気にすら届かない。
しかし。
それでもしかし。
この空間こそ、青山と自分の内心を表すのに最適な場ではないのだろうか。エヴァンジェリンは束の間の休戦。外界とは切り離された別荘で、毎日の恒例となった青山との会合を楽しみながら、そんなことを考えた。
「どうかしたか?」
「ん? いや、なんでもない。取るに足らぬことだよ。私にも、貴様にとっても」
青山は意味がわからないといった風に眉をひそめる青山に、内心を悟らせぬ怪しい笑みを返した。
「しいて言うなら、この会合も今日で最後だからな。少々、感傷に浸っていたところだ」
青山が別荘を利用する理由は、京都での怪我を癒すという目的のためだ。かれこれ二週間以上。長いように見えるが、マグマと呪詛の砲撃を受け、さらにフェイトによって骨を幾つか折られたというのに、己の気を使った自然治癒でほぼ回復したのだから、正気を疑う回復速度だろう。
だが当の本人からすればこの程度は手馴れたものなのかもしれないが。若輩でありながら、終わりの領域にまで到達した男だ。その人生は長く生きただけの老人をはるかに超える密度のものだったろう。
例えば、化け物になりきれなかったかつての己のような。そう自嘲して、堪えきれずにエヴァンジェリンは笑った。
「お前の笑みは、気持ち悪いな」
「今さらだぞ青山。貴様がそうした。貴様の責任だ。だから責任はしっかりととれ」
打てば響くように、青山の率直な感想を真っ向から突き返す。言ってることは事実なので、なんとも複雑な感じに青山は唸って視線を逸らした。
そんな情けない姿を鼻で笑う。なんにせよ、随分と長くこの男とは接した。もう充分に語りつくしたし、言葉で伝えることなんて特にない。
あるとすれば、そうだ。
「なぁ青山」
「……何だ?」
椅子に腰掛けてのんびりとしている青山が答える。エヴァは偽りの空を見上げて、ただ自然のままに口ずさんだ。
「次に会ったとき、貴様を殺す」
挨拶をするような気軽さで、しかし聞けば誰もが絶望するほどの恐ろしい殺気を漲らせたその言葉に、青山は特に動じた様子も見せず。
「それは嫌だなぁ」
などと、当たり前な回答を口にして、エヴァンジェリンを笑わせるのであった。
─
雨は勢いを増すばかりだ。
その夜、錦宗平とその仕事仲間は、京都災害の後からボランティアで行っている夜の麻帆良の見回りをしていた。
話題に出るのは、休みを取るたびに怪我をしてくる、寡黙ながら誠実な好青年である青山のことだ。些か以上に浮世離れしており、表情も常に変わらないために不気味といえば不気味なのだが、彼らの中での評判はすこぶるよかった。
仕事の勤務態度が素晴らしいことや、表情が変わらない代わりに、身振り手振りで丁寧に感情を表すその真摯でありながら、田舎者のような雰囲気も評判がいいのに繋がっていたが、真の理由は別にある。
ともかく、青山は透明なのだ。それこそ無表情と相まって、己がないように見えるものの、それ故に打てば響き、放てば返す。ブラックホールのような黒い瞳も、裏を返せば何もかも透かす透明と同義であった。
特に、彼の相方である宗平は青山のことを気に入っていた。我が子を事故で失った彼にとって、青山は子どものようでもあったことも理由だろう。ともかく、職場では人気者である青山の話題は毎度尽きることはなく、本人がいれば赤面すらしたはずだ。
「……しかし錦さん。あの子は一体何を抱えているのかねぇ。俺達じゃ力になれないもんか」
「阿呆。あの怪我を見ればわかるだろ。兄ちゃんの抱えてることは、きっと俺らでどうこうできるもんじゃねぇ。」
あの年齢で表情が変わらなくなったのだ。そして毎度の休暇と怪我をしており、さらに学園長の推薦でここに来た。
これだけでも得体の知れない何かを抱えているのは明白だった。だが宗平は無理に理由を問いただすつもりはなかった。
事情はわからなくても、傍にいることでその苦労を取り払うことは出来るはずだ。最近は生徒に挨拶されることも多くなり、昼休みのときはどこか嬉しそうに「友人が出来ました」と、少々頬を染めながら言ってもいた。
少しずつ変わっている。最初のときに感じた、冷たい刃のごとき印象も随分と様変わりしてきたから。
青山は透明な感性はそのままに、普通の人間のように成長をはたしたのだ。宗平は我が子の成長を見るように、青山の変化が嬉しかった。
だから、兄すらも失った彼の隣で、父親とまでは行かないが傍にいよう。そう新たな決心をして、唐突にそれは現れた。
誰もがそれが現れたとき驚きに声を失った。見た目は全身黒尽くめの、少々古臭い帽子も被った紳士の如き姿。だがまとう空気があまりにも現実的ではなかった。
まるでその老人の周囲だけが異界のような錯覚。いや、宗平を含めた彼らはそれが現れる瞬間を確かに見ていた。
突如、空から雨とともに降りてきたのだ。周囲には高さのある建物などないというのに、道の真ん中に男は悠然と降り立った。
それは、何処までも異常な光景であった。
「ふむ……魔法関係者から逃れるのを意識するあまり、一般人への警戒を怠ってしまったようだ……」
老人はそんなことを呟くと、困惑と恐怖で動くことも話すことも出来ない宗平達を見据えると、「残念だが、見られたからには眠ってもらおう……殺しはしない」そう言って、一輪の花を取り出した。
直後、男は人間には考えられない跳躍力で後方に飛んだ。
遅れて道が爆発した。そうとしか思えぬ斬撃が発生したのだが、宗平達には理解できない。
最早全てが常識の枠から離れた出来事だった。逃げるという意識すら浮かぶこともなく、爆撃の跡地に降り立つのは、宗平に見覚えのある人物。
「あの時の、姉ちゃん?」
背中しか見えないが、そこに立っていたのは、確かに青山と世間話をしていた女性、葛葉刀子その人だった。雨に濡れ滴る姿は、この状況を忘れるくらいに美しく、扇情的な色香がむせるほどにあふれ出ているようだ。
「……もう追っ手が来たか。上手く撒いたつもりだったが、君はあのメガネの黒人の仲間なのかな?」
「えぇ……尤も、彼は今怪我をしているので動けませんが……代わりに私があなたを倒します」
そう言って、女性が扱うにはあまりにも長大な刀を刀子は構えた。瞬間、対峙する男の表情に焦りと恐怖が滲むが、すぐに表情は引き締まり、構えを取る。
「私の目的のために、悪いが君に構っている暇はないのだよ」
「……構いませんわ。どうせ、すぐに終わります」
そして対峙も一瞬。一般人である宗平達を置き去りにして、二人は同時に飛び出した。
瞬動を利用した高速戦闘。技量の上で老人を圧倒する刀子は、距離を詰めると同時に、容赦もなく充実した気を吐き出した。
「奥義、斬岩……!?」
だがその瞬間、刀子は己の気が雲散霧消するのを肌で感じて当惑した。構築した技が紐解かれるような違和感。そしてその違和感を覚えたことによる隙を男は見逃さなかった。
「遅い」
「ッ……!?」
刀子が防御に回るよりも早く、男は野太刀の内側に入り込む。大柄な肉体からは考えられぬほどに洗練された踏み込み。余分等微塵もない動きは、風のように防ぐ余地も与えず刀子への接触を果たす。
接触状態から、刀子の腹部に痛烈な一撃が炸裂した。気で強化されたとはいえ、鳩尾を抉られたような男の拳の威力は耐えられぬものではない。たちまちミックスされた血液と胃液を撒き散らして、刀子は雨に濡れた地面に叩きつけられた。
「ぐぅ……!」
「はぁ!」
痛みにうめく暇もなく、地面を陥没させるほどの威力を受けた刀子に追撃の蹴り足が迫る。踏み込みとは大地の反発を得るための打撃と同義。大地を砕く踏み込みを、大地ではなく対象を刀子へと変える単純ながら恐ろしい脅威。胸部目掛けて振り下ろされる足裏を、刀子は苦悶しつつ横に転がることで間一髪逃れた。
えぐれた大地の破片が刀子の頬を打ち、足一個分で地面をえぐる足に冷や汗。だがその程度で止まることはない。倒れたまま身体を回して、両足で刀子は男の足を挟みこむ。
「むっ?」
「シッ!」
挟んだ足をそのまま捻り上げる。バランスを崩した男は勢いのまま地面に激突した。
その隙に身体を起こして距離をとる。追撃はしないし、反撃は来なかった。際外は立ち位置が逆転した状態。状況は刀子の腹部には鈍痛が残ったままで、男は顔面を強かに打ちつけたものの、まるでダメージになっていないので刀子に不利。
何よりも、先程の一連が引っかかっていた。身体に染み付いた神鳴流の奥義が放てない異常。偶然でも失敗でもない。明らかに何かの干渉の結果、刀子の奥義は散らされたのだ。
「……おや、追撃がないぞ?」
男はわざとらしくゆっくりと起き上がると、余裕たっぷりの様子で刀子に向き直った。
鼻からうっすらと血を流しているがその程度。何よりも刀子は、この見た目だけ人間に似せた者が、あの程度で怪我をしているとは思えなかった。
「この学院に何のようかしら……悪魔」
「おやおや、もうばれてしまったか……自己紹介が遅れたね、私はヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵。伯爵とは名乗っているが、しがない没落貴族だよ」
「爵位級の、上位悪魔か……」
刀子は苛立たしげに愚痴を零した。
悪魔と呼ばれる中でも一際戦闘力が高いのが爵位を持つ悪魔だ。伯爵、といえばそれなり以上の悪魔で、さらに奥義が使えないというのは状況的に分が悪かった。
何より、立ち位置が悪い。刀子は意識されぬようにヘルマンの背後にいる宗平達を見た。
今はある程度平静を取り戻しているように見えるが、それでも幾人かは恐慌状態で動けないように見える。
奥義を散らす得体の知れぬ技も脅威だが、ここで人質をとられては話にならない。
ならば早々に決着をつける。そう覚悟を決めた刀子は、決意を宿した眼でヘルマンを見据えた。
その純粋な闘志の冴えにヘルマンは楽しげな笑みを浮かべつつ、構えを再度とる。
これが調査対象であるネギであれば、加減したうえで負けてもよかったが、相手が完成された個性ならば話は別だった。
「どうやら君相手に手加減は不要みたいだ……様子見は止めて、増援が来る前に終わらせよう」
直後、ヘルマンがコートを翻すとそのコート自体が巨大な一対の翼に変貌した。さらに両手両足は異様に伸び、巨大な二つの角と、滑らかな黒い尾まで生える。
上位悪魔の覚醒した姿。人間の姿を象っていたときとは比べ物にならない魔力が巻き起こり、刀子の身体に叩きつけられた。
「行くぞ」
ヘルマンは卵に目と口をつけただけの異様な顔を笑みに変えて、口に魔力を収束した。
直感が刀子に回避を訴える。そして収束した魔力砲撃は、雨粒を石化させながら、瞬動で右に飛んだ刀子の服を浅く削り後方で爆発した。
「チッ」
刀子は石化を始めたスーツを躊躇せず脱ぎ捨てた。石化を始めたスーツは地面に落ちるときには完全に石化し、地面に落ちると同時に砕け散る。
そのときには刀子はヘルマンの懐に入り込んでいた。瞬動二連。スーツを脱ぐという焦りの色を見せることで相手の余裕を誘ったところでの奇襲。これにはヘルマンも完全に対応出来ない。表情がわからずとも驚いているのは手に取るようにわかった。
一線が空間に走る。線上の水滴を両断しながら、真一文字の斬撃をヘルマンは腹部を浅く斬られながらも逃れ、お返しと腕を突き出して魔力を放った。
「ぐ……!?」
二度、刀子の鳩尾を強かに打つ重い打撃。人体の構造上、誤魔化すことの出来ぬ激痛に、吹き飛びながら刀子は身体を九の字に丸めた。
無様に地面を二転、三転。回転するたびに吐き出される鮮血のテールランプを引きながら、しかし刀子は意識を切らすことなく踏み止まった。
空を見上げれば口内に再び石化の光を収束させたヘルマン。刀子は意を決して気を刀身にかき集めた。
「奥義……斬鉄閃!」
石化の一本腺が刀子目掛けて放たれるのと、螺旋状の気が振りぬいた刃の線の形にヘルマン目掛けて飛んだのは同時だった。
ようやく放つことが出来た膨大な気の出力は、石化の光すらも斬り裂いてヘルマンに激突し──はかなく散っていった。
「……やはり、一定距離内での無効化か」
「正解だよお嬢さん。報酬の景品はないがね……!」
ヘルマンが虚空で拳を連打した。拳圧と魔力が合成された怒涛の連撃が刀子に襲い掛かる。
刀子は視界を埋め尽くす弾丸豪雨を避ける余裕もなく、その場で迎撃をせざるを得なかった。砲弾をその細腕で逸らす作業に苦悶の表情が浮かぶ。
だが凌ぐ。
斬って。
斬りしのぐから。
これは、そこまで難しいことではなかったと、刀子はくるんと思考が反転したのを自覚した。
「奥義、雷鳴剣」
空が落ちる。雷雲ではなく、人間の手から眩い光の雷は放たれた。襲い掛かる弾幕を焼ききり、しかしヘルマンに届く前にそれらは霧散。
無駄だ、そう叫ぼうとしたヘルマンだったが、叫びよりも早く刀子はヘルマンと同じく空を飛び、何もない虚空を足で踏み抜いて飛んだ。
虚空瞬動。上空に飛び、虚空を掴んで鋭角に迫る刀子。
その速度にヘルマンは困惑した。
否。
困惑したのは、その眼。
「何だというのだ……君は」
顔を抉ったかのような、光を飲み込む闇色の瞳。
そして、惨劇は幕を開ける。
─
ガンドルフィーニがそれを探知できたのは、エヴァンジェリンが学園の警護の任を放棄して久しく、ローテーションで学内警護の担当をしており、彼が今夜の当番であったからだった。
結界に得体の知れない魔力反応を感知したガンドルフィーニが慌ててその場に急行したとき、その場にいたのは初老の紳士、ヘルマン。ガンドルフィーニは果敢に戦いを挑むもののまんまと煙に巻かれてしまったのだった。
「くっ、急いで応援を……」
「ガンドルフィーニ先生」
携帯を取り出して応援を呼ぼうとしたとき、聞きなれた声が彼の耳を打った。
振り返れば、おそらく異変をかぎつけてきた刀子が、愛刀を片手に鋭利な気を充満させて立っていた。
「よかった。葛葉先生、学内に不審者が一人、いや、使い魔らしき反応もあったので複数現れました」
刀子はガンドルフィーニの説明に表情を引き締めた。
「……京都の件もあります。迅速に、かつ的確な対処をしましょう。木乃香お嬢様の身が心配です。私はその不審者を追いますので、先生は応援を呼んでお嬢様の警護を」
「わかりました……くれぐれも気をつけて」
「はい。先生も気をつけてください」
刀子はそう言って華やかに笑った。傘もささずに来たせいで雨に濡れた刀子は、最近の変化で色気が増したこともあり、目に毒であった。妻帯者であるガンドルフィーニは顔を赤らめながらも、その姿から顔を赤らめて視線を切り。
それが、明暗を分けることになる。
凛。
という音の前、透明でありながら肌に張り付くような気持ち悪さを感じてガンドルフィーニは咄嗟に背後に飛び、しかしその胸部が激痛とともに赤い花を咲かせた。
「なっ」
当惑と、激痛、そして目の前で笑顔を浮かべたまま抜き身の真剣を振りぬいた姿勢の刀子。
着地とともに膝をついたガンドルフィーニは、信じられないといった様子で刀子を見上げた。
「何を……何をして……」
「え? 斬っただけですけど」
それが何か?
ガンドルフィーニに以上に困惑した表情でそう言った刀子こそ、彼を混乱させた。
「斬ったって……」
「って、あら、申し訳ありません。怪我させてしまいましたね。どうしましょう。とりあえず斬りますね? 怪我なんてさせて私ったら何をしてるの……あぁもう、斬りますから動かないでください」
ガンドルフィーニは、一歩一歩、真剣を掲げて近づいてくる刀子が、本当に刀子なのかわからなくなった。
何を言っている。
この女は、何を言っている。
「待て! 葛葉先生! 正気に戻るんだ!」
「正気も何も普通ですよ? ……いえ、わかります。わかっていますよ先生。確かに私は先生に怪我させてしまいましたけど、斬るのですから。斬るのなら当然です」
「は、ぁ……え……?」
「斬りますから。死んでしまいますけど。あぁ、殺すなんて酷い。そんなの許されないわ。でも斬るのは仕方ないですし。でも斬ったら死ぬ。死ぬのに斬った。斬ったら死ぬ。死ぬ? 斬る。あれ? おかしい。ううん、おかしくないわ。斬るのは普通で、でも斬ったら死ぬ。でも斬らないと、斬るのは当たり前だから、怪我も痛みも死ぬのも殺すのも、全部斬るから」
刀子はうわ言のように意味のわからない言葉を羅列したと思うと、そっと瞼を閉じてからゆっくりと開き、痛みすら忘れて唖然とするガンドルフィーニを。
「怪我して痛んで死んで殺して……斬るのです。先生」
光すら飲み込む黒い眼で、見下ろした。
「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ガンドルフィーニの生存本能が逃走を叫んだ。咄嗟に取り出した拳銃で、相手が同僚なのも関わらずその顔面目掛けて弾丸を撃つ。
これを咄嗟に弾いた刀子の隙を突いて、ガンドルフィーニはその場から離脱した。全力で逃げ、振り返ることなく、道すらも決めずにひたすら走った。
得体の知れぬ深淵が広がったような錯覚に陥った。恐怖を超えた何かが彼を動かした。
身体を構成する全てが逃走を訴えた。叫ぶ体力すら足を動かすことに使って、そしてガンドルフィーニは当然のように全力で走り続けた影響で地べたに倒れた。
「あ、ぅ」
幸い、斬られた怪我は命に関わるほどではない。それでも治癒魔法を早急にかけるほどの深さだ。ガンドルフィーニははいずりながら近くの木に寄ると、必至に身体を起こして幹に背を預けた。
「葛葉先生……」
何があったのか。落ち着きを取り戻し始めた思考で、ガンドルフィーニは刀子の変貌を冷静に考えようとする。
しかし何故彼女があんなことになったのかわからなかった。
とりあえず、応援を呼ばなければ。ガンドルフィーニは懐に手を入れて、先程の一撃で手から落としたのを思い出して力なくうなだれた。
激痛を無視して動いたため、最早一歩も動くことは出来ない。
何より。
何より、怖かった。
得体の知れない化け物の口の中に入れられるような、捕食される哀れな草食動物の如き心境だった。
今は心が折れている。動くことすら出来ない。
雨は強かに身体を打ち、じっとりと体温を奪っていった。
いや、雨はとても暖かくガンドルフィーニを癒している。
体温は雨にすら暖かさを感じるほど低くなっていた。おかしい話だが、身体は冷たかった。
まるで、刃のようだとガンドルフィーニは思う。
空を見上げれば、雷雲が雷を纏いながら、雨をいっそう強くさせていた。
その光景を見てから、ガンドルフィーニの意識はゆっくりと沈んでいく。まるで投げ捨てられた人形のように力なく眠る彼を見るのは、優しく降り注ぐ雨だれのみ。
不幸中の幸いか。
あるいは、不幸に重なる災厄か。
この先の光景を彼が知らずにすんだことだけは、せめてもの救いとなったことだろう。
─
斬撃は冷たく、そして熱い。切り口は刃の冷えに凍てつき、同時にあふれ出す熱血が傷口を焼けるくらいに熱くした。
斬られた。
驚愕に怯む一瞬を突いて、一閃は見事へルマンの腕と片羽を奪い去って、バランスを崩した身体はそのまま大地に落下する。
だがヘルマンはただやられるだけではなく、口内に再度閃光をかき集めて、刀子目掛けて放った。
「ッ!?」
瞬きの暇もなく、夜空を貫く一筋の光が刀子に炸裂した。石化の直撃。気で強化されていようが問答無用であらゆるものを石とする光を、刀子は咄嗟に差し出した左腕で受けたものの、たちまち左腕は汚染され。
躊躇いなく、腕を斬り落とす。そのとき女の口元に隠しきれない快楽が浮かんだのが見て取れた。
「うん。これもいいわ」
鮮血を迸らせながら、しかし刀子は全く怯んだ様子もない。ヘルマンが背中から無様に着地したのに対して、刀子は羽のように優しく地面に降り立った。
同時、鮮血が滂沱。降り注ぐ雨に逆らって虚空の空に飛び散っていく。己の血と雨に濡れながら、刀子は野太刀を持った右腕を抱擁するように空に掲げて、石化した左腕を迷いなく斬り裂いた。
「ふふ、ふふはは!」
刀子は石化したとはいえ、己の腕を斬った事実に歓喜していた。
こんなにも気持ちいい歌声は他にあるか? いや、ない。
自分の腕だ。大切な、苦楽をともにした大切な四肢の一つ。だが斬る。
刀子は斬ることの段階を一つ上げられたのを感じた。僅かにくすぶっていた殺人や死への疑問が吹き飛ぶのを感じる。
斬るから、斬る。
当たり前に、とうとう疑問を浮かべることがなくなってしまっていた。
「……何だというのだ」
ヘルマンは血まみれで笑う刀子の変貌に当惑した。
彼も長年を生きてきた悪魔だ。異常な人間の一人や二人、それこそ今の刀子に似た人物だって両手の指で足りないくらいに知っている。
だが、これは違う。
狂気でありながら、それは何処までも透明で、邪気とは無縁の慈愛に満ちていた。
例えるならば、空気。
あるがままの自然体。
「あ、死んじゃう」
刀子はヘルマンの困惑を他所に、他人事のようにそう呟いて己の傷口に気を収束して出血を止めた。
それでも血が足りないせいか、刀子の身体は右に左に揺れている。
立ち位置は再び刀子が宗平達、一般人を庇う形となっていた。当然、刀子の変貌を彼らも見ていたが、見ていたからこそ、あってはならない出来事が起きてしまうことになる。
「おい! お嬢ちゃん大丈夫か!」
宗平の後ろにいた男の一人が、片腕を失った刀子に駆け寄った。恐怖と混沌にまみれた戦場。異常が積み重なった状況で、男が刀子に見たのは──見知った青年の面影。
だから彼は思わず駆け寄っていた。お人よしゆえか、宗平とは違って何かと青山を構っていた男は、混沌に現れた見知った日常ゆえに。
駆け寄る。
駆け寄って、その首が吹き飛んだ。
「あ」
宗平は、あるいはその場にいた誰かがそう漏らした。
それくらい唐突に、一つの命が奪われたのだった。
「大変。首が飛んだわ」
本人は当たり前のように雨を弾いてくるくると飛んでいく男の首を見上げている。
空に。
夜空に。
消えていく、命。
「君は……狂人の類か」
ヘルマンは立ち上がりながら、忌々しそうに呟いた。将来が有望な少年少女は好ましいが、完成した個人、ましてや狂人はヘルマンの好みからは外れている。
刀子はヘルマンの言葉に不満げに眉を寄せた。
「……悪魔に狂人呼ばわりされる言われはないわ」
「狂人とはえてして己が正しいと思うものだから、これ以上は野暮だが……君は、今一人の男の命を奪ったことに、何かを感じないのかね?」
問答としては矛盾した場面だった。悪魔が人道を説く。その歪さに他ならぬヘルマン自身が笑いたくなったが、問いかけられた刀子は首をかしげて、落ちてきた首をその刀で団子のように突き刺した。
「命を奪ったのは悲しいことです……私は己の私利私欲を優先して彼の命を、守るべき尊いものを奪ってしまいましたわ。斬るのよ」
己の行いを反省する言葉と、斬るという言葉は、別々に言いながら、どちらも本心であった。
それはヘルマンが見たこともない異常性だ。
人間らしい善悪の価値観を持ちながら、斬るということだけはそれらと乖離して一つの価値観として存在している。
狂っているのではない。
人間の感性という鞘に包まれた、刃。
「……だが君は、私の見る限り中途半端だな」
ヘルマンは冷や汗を浮かべながらも、それでも落ち着いて戦闘体勢に入った。
刀子の精神は異常だが、どうにも違和感が残る。
まるで、誰かに飲み込まれたかのようだった。
ならば、その精神性から来る戦闘力も未だ些細。現に彼女の能力は、常識の枠内にあり、遠距離で落ち着いて対処すれば──
「あぁ、間に合った」
直後、そんな言葉が雨音を斬り裂いた。
それはこれまでの唐突さを全て覆すくらいに、唐突な発露だった。
刀子の後ろ、宗平達のさらに後ろ。夜闇から、ぞるりとそいつは現れる。
そのとき、ヘルマンは確信した。それこそ、目の前の刀子を飲み込んだ張本人だと、半ば本能で理解した。
雨音の支配する空間で、誰よりも言葉を失ったのは、錦宗平であった。背後、振り返ったそこにいたのは、見知った人物、息子のように思っていた青年。
「兄ちゃん……?」
「はい。ご無事で何よりです。錦さん」
暗がりよりいでし存在。青山は濡れた前髪の下、暗黒の眼を細めて会釈した。
その手に持つ長大な野太刀を収める鞘は、全てを術符に覆われ、さらにその上、上位悪魔であるヘルマンを数体は封じてなおお釣りがくるほど強力な鎖が乱雑に巻き付いている。
それでもなお、その野太刀が吐き出す『生きる』という単純な訴えはかき消すことは出来なかった。
「あぎぃ!」
ヘルマンや刀子はともかく、一般人である宗平達の内、精神の弱い幾人かは、その強烈な生存本能とでもいうものに当てられ、喉を押さえて窒息し、気絶した。
宗平自身も息苦しさに膝をついたが、それを凌駕する混乱が彼一人のみ意識を手放すことなく踏み止まらせる。
「アーティファクト……いや、あんな凶悪な……」
ヘルマンの長い年月ですら、あそこまで厳重に封じられた剣を見たことはなかった。魔剣と呼ばれる、持ち主を呪う剣を何本か知っているが、あれほどのものは理解できない。
それはありえぬ刃だった。常世にあってはならぬ魔剣。完結した者の全存在を抽出した奇跡の刃。
「証─あかし─と、銘打ちました」
青山は朗々とその刃の名前を謳いあげると、宗平は訳もわからぬままに青山に駆け寄った。
そしてその肩を掴むと、激しく揺さぶる。
「な、なぁ兄ちゃん! なんなんだこれは……!? これが、こんなのが兄ちゃんの抱えていたものなのかい!?」
「錦、さん……」
「止めようぜ? 逃げちまおう。こんなのやる必要なんかねぇ。もう戻って、酒飲んで、明日もまた一緒に仕事してよぉ」
既に一人、平和に暮らしていた人間の命が刀子に奪われた事実すら頭になかった。
冷静で、いられるはずがない。宗平を動かす思いは唯一つ。
息子のように見守ってきた。
息子のように接してきた。
息子のように、成長を喜んだ。
「だから逃げよう。さぁ、早く! こんな場所なんか……」
「いえ、それはいけませんよ、錦さん」
そう言って、青山は自身の肩に乗った両手を斬った。
「あ?」
「うん。錦さんはやっぱし素晴らしい人だなぁ」
宗平は何があったのかわからず失われた己の腕の断面を見つめ、噴出す血で顔を染めながら呆然と傷口を、続いて青山の顔を見た。
そして、悟る。
青山は嬉しそうに口元を三日月に変えていて。自分は、この今に至ってようやく、青山という人間を間違えていたことに気付いた。
そこにいるのは人間ではない。
ひたすらに修羅。
変わることなんて永遠にありえない何かで。
「なんて様なんだ。お前」
「だから俺は、青山と呼ばれています」
翻る刃の残光。
生きてください。
そんな優しい言葉を最後に、錦宗平は苦悶のままに絶命した。
次回、point of no return。
最後の壁を乗り越えるか、それとも後ろを振り向くか。
運命は、少女の一言に委ねられる。
そんな感じで、次回、分岐点です。