幻想転生記   作:黒崎竜司

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お久しぶりです。川瀬です。いろいろあって遅くなりました。


第30話

見知らぬ森の中を探り探り歩き回って、脱出方法を探していた。

「どんだけ広いんだよこの森…」

森の中をしばらく歩き回ったが、生き物の気配すらない。

「なんか懐かしいな…」

初めてこの世界に来た時も森の中にいたなぁ…

「しかし…ここは俺のいた世界なのか?」

歩きながら考える。第一、ここが死後の世界の可能性もある。

「それはないか…」

死後の世界とか言ったらこの世界に来る前のあの空間しか知らないし。

 

「そこのお前!何者だ!?」

歩き回っていると、後ろから甲高い声が聞こえた。

「ん?」

振り返ると青い服を着た金髪の少女が立っていた。頭には目が二つついてる特徴的な帽子をかぶっている。

「見たことない顔だな…どこのものだ!」

少女は俺に対して質問してくる。

「俺か?俺は…」

しまった…あの都の名前がわからない…

「怪しいぞ!ちょっと来い!」

いきなり怪しいって…ちょっと町の名前が言えなかっただけじゃん…

「いや、断る」

人のいるとこに行けるのはありがたいけど、ついて行く気はないので断る。

「そうはいかん!」

そういうとその女の子は白い蛇を大量に出してきた。

「お?やるのか?」

俺は武器を持たないまま戦闘態勢に入った。

 

「行け!ミシャグジ!」

女の子が叫ぶと、白い蛇が一斉に動き出した。

「この程度か…」

こっちに向かって噛みついてくるミジャグジ。だが、全く統率がとれていない。確かに不規則な攻撃はできているが、うまく連携していないために避けやすい。

「クッ…」

ミジャグジを向かわせている女の子が悔しそうな声を漏らす。

「これじゃ傷一つ付けられないぜ?」

蛇たちの攻撃が激しさを増す。蛇の動きに合わせて避け続けていると、ついに連携が取れなかった結果が出始めた。蛇同士が絡み合ってしまったり他の蛇に噛み付いてしまったりしたのだ。

「あーあ…」

遠くからそれを眺める。見てて非常に気持ち悪い。大量の白い蛇が一つの球体のような見た目になっているのだ。

「早く攻撃しないか!」

女の子が蛇たちに指示を飛ばしているが、あれじゃ何の意味もない。何せ、全く動けないのだから。

「無駄だ。諦めな」

女の子にそう言い放つ。無駄な戦いはしたくないんだけどな…

「無駄ではない!まだ私が戦える!」

女の子はこっちの言葉に答えるように地面から鉄の輪を二つ出現させ、両手に持ってこっちに向かってきた。

(あれ、今地面から取り出した?)

軽い疑問を抱きつつ、向かってくる相手の対処をするためにこちらも武器を呼び出す。

(来い!滅奏!)

刃が人間一人分ぐらいの長さもある長剣を呼び出し、片手で構える。

「何!武器を創造しただと!」

女の子がそれを見ておどろいている。いや、あんたもやっただろ…

「驚いてる場合じゃないぜ?」

驚いている隙に剣を構えて突っ込む。戦いのときは集中しないとな。

「オラァ!」

一気に接近して横薙ぎに振るう。やっぱり近接格闘のがいいな…あの時飛び道具でやったのは失敗だった。

「くっ…!」

鉄の輪で防がれる。まぁ、一発で倒れるようなやつではないか…勝負挑んでくるぐらいだし。

「まだまだ行くぜ?『燕舞』!」

鍔迫り合いをしていた剣を滑らせるように外し、相手の武器の間合いを抜けて相手の背後に回る。その後、その場所から相手に向かって剣を脇に構えて突っ込み、反対側に回る。そして、その場所から相手に突っ込んで反対ではなく少しずれた位置に止まる。不規則に場所を移動して、反撃の隙を作らせないように攻撃を仕掛ける。

「しまった…」

何度も繰り返すうちに、相手に限界が来てこっちの攻撃を弾こうとして鉄の輪を振るった瞬間鉄の輪を手放してしまった。それを見逃さずに相手の女の子の喉元に刃先を近づける。

 

「俺の勝ち…でいいか?」

投降を勧める。

「くそっ…私の負けだ…」

女の子が負けを認める。それを聞いた俺は刃先を外して女の子に背を向けて歩き出す。

「待て!」

女の子が俺を呼び止める。

「どうか…どうか民には手を出さないでほしい…」

泣きそうな声で女の子はそう言う。

「民?」

それを聞いて立ち止まる。だが、俺には何が何だかわからなかった。民?ということは、この女の子はどこかの国の長なのか?でも、この辺りに国があるとも思えない。そもそも、こんな女の子が『民』というものを思うような立場の子なのか?

「私の国の民は私のせいで命の危機に瀕している…だというのに、さらに危機を増やしたくはない…」

女の子が続ける。相当この子の言う『国』はピンチのようだ。

「どういうことだ?」

この子の話が一旦止まった頃を見計らい、聞き返す。状況が整理できない。まず、この近くに『国』というものがあるのか、ここはどこなのかなど、いろいろ聞きたいことがあった。

「お前は大和の神ではないのか?」

「大和?」

大和って、歴史の出てくるようなアレのことか?

「違うのか?私はてっきり大和の神が来たのかと…」

どうやら、盛大に勘違いされたらしい。

「俺は大和の神じゃない。というか神じゃない。川神臨人。人間だ」

隙間を見つけて自己紹介をする。また間違えられたら怖いしね。

「川神…というと、人ながら宵闇の妖怪を従えて月移住計画を成功させたというあの『月の英雄』か!?」

どうやら、この近くでも有名らしい。というか、あれで成功なんだね…移住計画…

「なぜ生きているのだ!都の兵器の自爆に巻き込まれて死んだという記録が残っているというのに!」

待て。今なんて言った?死んだ?記録?

「ちょっと待ってくれ。なんで記録なんだ?おかしいだろ?」

気になったので聞いてみる。

「おかしくないだろう!月移住計画といえば、今から1億年以上も前の話だぞ!記録ぐらいしか残っていない!むしろお前がおかしいだろう!なぜ生きている!」

い、1億年以上前だと…俺たちが魔界にいる間にそんなに時が経ってたのか…

「なぜ生きてるかは分からない。でも、その記録を聞く限りでは俺が『月の英雄』なんだろうな」

どうやらだいぶ時が経って、あの計画は伝説になったらしい。

「なぜ生きてるかは分からない…か。当然と言えば当然か。あの爆発に巻き込まれて生き残っていたものはいないと言われる爆発で死なないのだからな…」

なんか納得された…

「少しいいだろうか?英雄様」

英雄って知ったら言葉遣い一気に変わったな…

「どうか、私の国を守ってほしい」

まじかよ…普通戦った相手に任せるか?まぁ俺はいいけど。

「わかった。だが、一つだけ条件がある」

「なんでしょうか?」

「俺は親友を探している。もし親友が見つかったらすぐに親友のもとに向かうが、それでもいいか?」

「…」

国を守ってくれという頼みに俺は応じた。なぜなら、今の状況をだいぶ説明してくれたから、その恩を返そうと思ったからだ。だが、無条件では戦いを挑んできた相手を信用できないから、条件をつけた。でも、実際に竜也が見つかったら何処へでも行くんだけどね…

「わかりました。その条件を飲みましょう」

どうやら、納得したようだ。

「よし、交渉成立だな」

こうして、俺はこの子の国を守ることになった。


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