竜也Side
みんなが各々の相手に突っ込んで行った後、マガンと俺が取り残された。
「やる?」
人型になったマガンに確認を取る。
「ん〜…どうしよっかな〜?」
マガンは無邪気な声で言ってくる。こんなに戦いと無縁に聞こえる無邪気な声を聞いたのはいつぶりだろうか?
「やろっかな〜?でもなぁ〜、この姿になるのも久しぶりだしなぁ〜…」
マガンはこっちを気にすることもなく、独り言を言う。
「あんまり力を使いすぎると強制的に戻っちゃうしな〜」
姿は完全に自由に変えられるわけじゃないのか…
「あの姿、あんまり可愛くないのよね〜…」
確かに、あれは可愛いとは言いづらいな…ただの5つの目玉だし。
「確かにあっちの姿は便利なんだけどな〜」
だろうな。目玉一つ一つはそんな大きくないし、小回りも効くだろう。
「あなたはどう思う?こっちの方がいいかあの姿の方がいいか。」
いきなりこっちに話が飛んできた。今の今までこっちに気を向けていなかったのに、急に来られると少しだけビクッとなる。
「うーん…」
考えてしまう。もしこれで機嫌を損ねたら、いきなり戦闘にもなりかねない。慎重に選択肢を選ばなければ…
「君の思う方でいいんじゃないかな?」
無難と思われる選択肢を選ぶ。
「それがわからないから聞いてるんじゃない!」
あらら…間違えたか…
「で?どっちがいいと思う?」
もう一度聞いてくる。
「今の方がいいんじゃないか?」
少し悩んだ結果、そんな結末に至った。
「そうよね〜!今の方がいいわよね〜!」
良かった…今度は間違えてないみたいだ…
「でも、この姿をどうやって維持しようかしら?私だけじゃどうにもならないし…」
姿の維持か…ん?あれならいけるんじゃないか?
「誰かいないかしら?そんな魔法みたいなことできる人…」
能力でどうにかなるか?『消す程度の能力』なら、原因だけを消すことで解決できるかもしれない。だが、リスクが高すぎる。もしかしたら、余計なものまで消してしまうかもしれない。これでマガンの感情や力まで消してしまったら、存在が崩壊してしまう。
「どうすれば…」
思わず小さく呟いてしまう。
「何が?」
マガンに聞こえてしまっていたのか、反応が返ってくる。これはヤバイ。あまり下手には伝えられない。
「いや、マガンの悩みの解決法でも見つけられたらな…って思ってな。」
とりあえず、考えの中心だけを言う。
「助けてくれるの!?」
「まぁ、な。」
マガンが嬉しそうに詰め寄ってくる。
「それで、どうやって戻らないようにしてくれるの?」
「それがだな…思い浮かばないんだ…」
「え〜…」
いい案が出ないとマガンに伝えると、がっかりした声で呟いた。
「やっぱり私はこのままなんだ…」
マガンが寂しそうに呟く。
「いや、一つだけ方法がある。」
「あるの!?」
仕方ない。あの手段を伝えよう。
「俺の能力で、『姿が変わる現象』だけを消すんだ。俺の能力は消す程度の能力でさ、ある程度のものは消せるんだよ。」
「いいねそれ!やろうやろう!」
マガンが嬉しそうに言う。だが、しっかりリスクも伝えなければ…
「でも、これには一つだけ問題がある。」
「問題って?」
「もしかしたら、必要なものまでなくなる可能性がある。」
リスクを伝える。果たしてマガンは乗ってくるだろうか…
「いいよ。別に。多少だったら我慢できるもん。」
どうやら、マガンは気にしないらしい。
「そうか…じゃあ、ちょっとこっちに来てくれ。」
「いいよ〜。」
マガンに来るようにお願いすると、マガンは素直にこっちに来た。
「始めるぞ。」
マガンが来た後、マガンの背中に手を添えて呟く。正直、メチャクチャビビってる。能力の使い方はルーミアに教わったとはいえ、そんなにうまく使えるわけではない。
「………」
目を閉じて気持ちを集中させる。針に糸を通す以上の精度が必要な作業のため、一瞬たりとも気が抜けない。
「………」
魔力を流してマガンの体の中にある変化の原因を探す。どこにあるかもわからないので、手当たり次第に探していく。魔力の使い方もルーミアに教わっておいて正解だった。
(これか!)
しばらく探していると、マガンの変化の原因のようなものを見つけた。
(これを消せばいいのか?)
変化の原因と思われる場所に魔力に能力を混ぜたものを流し込む。
(成功してくれ!)
徐々にそれが消えていくのがわかる。
(頼む!)
完全に消えたことを確認し、マガンから手を離す。
「ふぅ…」
「終わったの?」
俺が手を離して一息つくと、マガンが終わったかどうか確認してくる。
「一応な」
「本当に?」
マガンに終わったことを伝えると、再確認するようにマガンが聞いてくる。
「あぁ。試しに、戻ってみようとしてくれ。」
本当に成功したか確かめるために戻ってもらおうとする。
「わかった。」
マガンは俺の言葉に従って戻ろうとする。
「あれ、戻らない?ということは、成功したのね!」
マガンの姿は変わらず、人型のままだ。
「良かった…」
マガンに聞こえないように呟く。
「ありがと!」
マガンは可愛くこっちに礼をした後、どこかに行ってしまった。
「ふぅ…助かった…」
戦闘にならなくて良かった…と思っていると、視界の端の方で巨大な闇が放出されるのが見えた。
「あれは…臨人のいる方向!」
その闇を見た瞬間、自分の背中に悪寒が走るのを覚えた。
「もしや…」
臨人に何かあったのかもしれない。
「今回ばかりは間違っててくれよ…」
嫌な予感を振り払いながら闇が見えた方向に走って行った。