俺は驚きを隠せなかった。
「グハッ…」
「え…」
奴は倒れた後、息も絶え絶えになりながら俺に話しかけてきた。
「私は…あなたに敵わないのか…実力も…運も…」
「……………」
俺は奴の言葉に答える事ができなかった。そんな俺を嘲笑うように、一陣の風が吹いた。
「何故…あなたは…」ガクッ
言葉を紡ぎ終えることなく奴は息絶えた。その時、インカムから声がした。
「臨人様!ロケットの準備が完了しました。」
「俺は…」
「臨人様!?どうしたのですか!?」
「ん?あぁあぁ…悪い。で、どうしたんだ?」
「ロケットの準備が完了致しました!臨人様も避難してください!」
「俺は…ちょっと後片付けがあるから…先に行っててくれ…」
「了解しました!また月で会いましょう!」
「あぁ。」
「今地上には臨人様のためのロケットだけが残っています!」
「了解した…ありがとな…」
通信が切れると共に、ロケットが発射した音が聞こえた。
「クソッ!アイツニシタガッタノハヤハリマチガイダッタカ!」
「ソコノニンゲンモロトモアイツモコロシテシマエ!」
計画が破れたと分かった途端、止まっていた妖怪たちが声を上げ、一斉に動き出した。
「ちっ…」
厄介な置き土産を残して逝きやがって…
「あらあら?さすがの貴方もこの妖怪の量は厳しいみたいね。」
「何?」
痛む右脇腹を押さえて残りの妖怪を片付けようとしたら、右のほうから闇のレーザーと共に聞き覚えのある声が聞こえた。
「手助けするわ。雑魚に大きな顔はさせないわ。」
「お前…妖怪サイドじゃないのかよ?」
「私は他の妖怪なんて気にしないって言ったでしょ?」
「そうだったな…」
普通にしているが、会話するのも大分きつくなっている。
「傷が深いようね。」
「あぁ…でも、俺がやらねぇと…」
「少しだけ私に任せて頂戴。その間に、私の居候に治させるわ。」
「良いのか?」
「えぇ。それに、その居候は貴方と縁が深い人物かもしれないのよ。」
「俺と…縁のある…」
縁のある人物?
「さて、私を怒らせた報い…受けてもらいましょうか!」
そう言ってルーミアは妖怪の群れに突っ込んでいった。
「グアァァ!ナゼルーミアガ…」
「クソッ!ウラギッタノカ!?」
ルーミアが敵を次々に斬り倒す。
「ちょっと…ルーミア…早すぎるって…」
もしルーミアに殺し漏れがあった場合のために警戒を強めているとこれまた聞き覚えのある声と共に、銀色の髪以外は見覚えのある男がこっちに向かってきた。
「え…」
おい…嘘だろ…あれは…まさか…
「はぁ…はぁ…やっと追いついた…」
そいつはこっちに気付いていないのか、ルーミアに追いついた事で安心しているようだ。だが、こっちはそれどころじゃない。何故こいつがここにいるのか、そもそもこいつは俺の知ってるアイツなのかなど、さまざまな事で混乱している。
「竜也!そこにいる人間の傷を消しなさい!」
「わ、わかった。」
強い語気でルーミアが指示を出す。竜也…か…
「ちょっと失礼。」
そう言って竜也と呼ばれた人間…いや、竜也が俺に右脇腹に手を添えた。
「ほいっ…と、これでよし。」
そう言って竜也は手をどけた。俺の右脇腹を見ると、傷と痛みが綺麗さっぱりなくなっていた。
「サンキュー。竜也。」
「え…あぁ。」
いつもの調子で礼を言う。竜也はいきなり起きた事に動揺しながら返す。仕方ないか…初対面の人に名前を呼び捨てにされた上に、知り合いみたく振舞われたんだからな…(初対面じゃないけど)
「さてルーミア、後は任せな。」
「何を言ってるのかしら?怪我人に任せるわけ無いでしょう?」
「しゃあない。なら、勝手にやらせてもらうぜ?」
「死んでも知らないわよ?」
「大丈夫だって。」
傷が直ったあと、戦闘に復帰する。
「おらぁっ!」
戦闘に復帰した後、近くの妖怪を手当たり次第に薙ぎ払う。殺している間に、都からは遠ざかっていっていたが、気にする事もできなかった。
「やぁぁぁ!」
ルーミアのほうから声が聞こえる。あっちも妖怪を殺してまわってるんだろう。
「はぁ…荒事は好きじゃないんだけど…」
生前聞いていた竜也の声が聞こえる。戦えるのか?
「喰らえっ!『フレイムライン』!」
竜也がそう唱えると、遠くのほうの妖怪の足元から炎が吹き出てきた。
「マジか…」
竜也…魔法使いになったんだったな…
こうして、三人で数時間ぐらい妖怪を殲滅していた。
「これでっ!」
「終わりよっ!」
俺のほうに来ていた妖怪を全滅させると同時に、ルーミアのほうも、殲滅完了したようだ。
「お疲れ。」
「お疲れ様。」
「二人とも、お疲れ様です。」
俺たちは森だった場所で殲滅が完了した事を確認していた。
「さて竜也、貴方が探していた人物が今目の前にいるわよ。」
「え…」
竜也が驚いたように固まっている。
「おいルーミア…もうちょっと隠してたほうが良かったんじゃね?」
「嫌よ。面倒くさいもの。」
しまった…ルーミアはこういう奴だった…
「まさか…お前が…」
「ハァ…バレちゃあしゃあねぇな…」
さすがに混乱するよなぁ…探してた奴が知らないうちに見つかるんだから。
「久しぶりだな。竜也。」
「臨人…本当にあの臨人なのか…?」
こうして、俺たちは再会した。