俺は向かってきた妖怪を何体も切り倒し、戦いを続けていた。強い奴はいないが、いかんせん数が多い。幸い、都の中には一体も侵入させていない。
「何かおかしいな…」
さっきから、妖怪の動きがおかしい。今回の月移住計画を阻止したいから妖怪は動いているって思っていたのに、妖怪たちは都じゃなくて俺に向かっているように見える。
「このままだと月移住計画は成功するぞ?」
妖怪を殺しながら呟く。その呟きの直後に、つけていたインカムから声が聞こえた。
「臨人様!こちら第一部隊!妖怪が来ません!」
「何だと!?」
声が聞こえた瞬間、インカムを起動し答える。
「こちらの兵はどうしましょう?」
通話をしている兵士が聞いてくる。こっちはそれどころじゃないっての…
「住民の誘導にまわせ。」
「了解しました。」
妖怪を殺しながらの発言だから、妖怪の断末魔に掻き消されていないか不安だったが大丈夫なようだ。安心していると他の場所からも続々と入ってきた。
「こちら第二部隊、妖怪一匹も見えません。」
「そうか。兵を住民の誘導に回せ。」
「了解しました。」
第二部隊のほうにも来ないとは…
「こちら第三部隊…敵影なし…」
「なら、住民の避難誘導を頼む。」
「了解…」
第三部隊まで…ということは、三部隊分の妖怪がこっちに来てるのか…
「こちら第四部隊。妖怪は来ていない様子。」
「分かった。住民の避難誘導を頼む。」
「了解」
第四部隊まで…これで、都の防衛線が俺一人になった。
(増援呼ぶべきだったかな…)
これで、妖怪軍は全員俺のところに向かっている事になる。
「こちらロケット防衛部隊、妖怪の影も見えません。」
「そうか。引き続き警戒頼む。」
「了解しました。」
何か妖怪が俺を殺しに来てるんじゃないかって言うぐらい俺に向かっているらしい。
「ヤバイな…これ…」
いくら俺とはいえ、一対妖怪全体はキツイ。そう考えを巡らせていると、妖怪が何体か戦場から離れたところでこそこそしているのを見つけた。
「何だ…あれ…」
気になったので、妖怪を殺しつつそちらに近づいていった。すると、その妖怪の声が聞こえて、話している内容が聞こえてきた。
「コノタタカイ、カテルトオモウカ?」
「ダイジョウブダロウ。イクラヤツトハイエヒトリダ。」
「ソレニ、アイツモイッテイタダロウ。『ワタシニシタガッテイレバカテル』ト。」
何?『私に従っていれば勝てる』?それに、俺が一人なことを知っている?そう考えていると、妖怪がこちらに気付いて叫んだ。
「ナゼココニ!?」
「クソッ!ヤルシカナイ!」
こそこそ話していた二匹が俺に気付き、こちらに襲い掛かってくる。
「ちっ!これ以上は無理か…」
これ以上の情報は望めなさそうだ。でも、妖怪側に指導者がいる事が分かった。それだけでも好都合だ。
「シネェェェェ!」
「情報くれて、ありがとなっ!」
襲い掛かって着てた奴らを薙ぎ払い、別の奴に向かう。すると、インカムから再び声が聞こえた。
「臨人様!大変です!対策を話していたあの方がいません!」
「何だと!?本当か!?」
「我等が総力を挙げて探したのですが、見つかりませんでした。もしかしたら、臨人様の援護に向かっているかもしれません!」
「それはありえない。俺のほうに来ていないからな。」
「そうですか…こちらでも引き続き捜索を行いますので、そちらもお願いします。」
「わかった。」
あいつがいない…怪しいな…対策の件もある上に、『私に従っていれば勝てる』という言葉も気になるな…
「ナゼダ!アイツノイウコトハウソダッタノカ!?」
「ヤハリニンゲンヲシンジテハイケナカッタノダ!」
妖怪の何体かが動揺し叫ぶ。
「まさか…人間って…」
俺が小さく呟いた。すると、妖怪の大軍の奥からあの男が現れた。
「気付いてしまったようですね…」
「お前…」
「私はあなたを殺すために妖怪に身を投じました。」
何故…
「私はあなたを殺せればよかったのです。だから、妖怪をこんな無茶な采配で動かしたのです。」
「そんな…じゃあこの采配は…月移住計画の日に攻めたのは…」
聞きたいことがどんどん出てくる。
「この日に都を攻めたのは、あなたを釣りだせると思ったからです。それと、都は傷つけたくなかったので、あなたを狙うような采配をさせていただきました。」
「じゃあ…」
「もちろん、あなたを妖怪に殺させるためだけの防衛策です。」
「そうだったのか…」
じゃあ、月移住計画は…
「月移住計画は成功させるつもりでした。」
なるほどな…都は傷つけずに俺を殺そうとしたわけか…
「私はあなたに出世の道を崩された…」
アイツは急に低く呟き始めた。
「あなたがいなければ、私がその席に座っていた…」
「あ…」
「あなたのせいで私の出世の道が途絶えたのです。」
確かに、俺がいなければ別の人間がこの職に就いたかもしれなかったのだ。
「だから!あなたを殺してから月に行き!私がその席を貰う!」
俺はこの都での生活が誰でも出来るものだと思っていた。でも、並大抵の事では『軍の大将』なんてなれる筈がない。そう思うと、こいつや他の人間に少し申し訳なく思った。
「そうか…」
「行くぞ!川神臨人!」
「良いだろう!『軍の大将』として相手してやる!」
俺が蛇矛を構える前に、奴が光の剣を構えて突っ込んでくる。
「あぁぁぁぁぁ!」
「遅い。」
突っ込んでくる勢いを往なし、躱す。
「くそっ!」
「どうした?当てられないのか?」
避けた後、蛇矛を構え挑発する。
「うるさいっ!」
奴は挑発にかかり、闇雲に攻めてくる。
(こいつも…必死なんだな…)
ふと考えてしまう。すると、考え事をしていたせいか、奴の攻撃をかわしきれなかったのか、俺の右脇腹に剣が刺さっていた。
「ぐふっ…」
「何故…避けなかったんだ…」
俺だって何で避けれなかったか分からない。『軍の大将』として相手してたはずが、『一人の人間』として、同情してしまったのかもしれない。
「あなたなら…避けれるだろう…!」
当然だ。ルーミアの攻撃と比べるとあまりにも甘すぎる。速度も威力もルーミアのほうが格段に上だ。
「確かにな…でも…体の動きが鈍っちまってな…」
「まさか…手を抜いたのですか…?」
「さぁな…」
血を吐きながら答える。死ぬほど痛い。死なないけど。
「そろそろ終わりに…!」
ヒュンッ…
「なッ…」
奴が俺に止めを刺そうとした瞬間、奴の頭を闇が貫いた。
やっと人妖大戦だ…