もしもし、ヒトモシと私の世界【完結】   作:ノノギギ騎士団

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今さらですが、ポケモンオリジナルの世界観・人物観を大切にしたい方はブラウザバックを推奨します。

今話は原作出典の「あの人」が主人公です。


クロガネシティ
イッシュからシンオウへ。探究心が往く。


「何事も煮詰めるとうまくいかない……」

 

 白衣の青年は特徴的すぎる髪を撫でながら潮風の行く先を見つめていた。

 

「はぁ、どうしたことか……前向きだけがわたしの取り柄なのに」

 

 そういえばここはどこなのだろう。

 ポケットのモバイルを探り、ぽちぽちと現在地検索を行ったところ彼はほんのすこしばかり目を見張った。

 

「なんと、海上にして電波バリ4。……ではなく、イッシュを飛び出してしまったのか。やはり、好奇心は人の手に余るのか」

 

 ちょっとクルージングするつもりが……このままでは、長旅になってしまいそうな予感がする。

 

 次のイッシュ行の便はいつなのか。問い合わせ先を探そうとした矢先、モバイルが震えた。

 

 プルルルル。

 

 ありふれた着信音に彼はうっかりモバイルを海へ投げてしまうところだった。

 訝しみながらモバイルを耳をあてた。

 

「もしもし……?」

 

『…………』

 

 電話先の相手はなぜか黙っている。画面を確認すると知らない番号だった。切ってしまおう。手袋に包まれた指を動かすと『ドクター』という声が聞こえた。

 

「間違い電話ではないですか?」

 

『いえ、正しいですよ。ドクター・アクロマ』

 

 アクロマと呼ばれた青年は聞き覚えのあるような……無いような、ねっとりと記憶に絡みつく声に耳を澄ました。どうやら本当に、自分に用があって電話をしたようだ。

 理解すると、次の疑問が出てくる。

 

「あなたは?」

 

『ワタクシは、慈善団体の代表役をしておりますゲーチスというものです』

 

「そうですか、どうも」

 

『こちらこそ、どうも』

 

「それで、わたしに何かご用ですか?」

 

『とある筋から研究テーマについてお悩みであるとうかがいましてね』

 

「とある筋……ですか」

 

『三ヶ月前の学会雑誌に寄稿したものを拝見しまして』

 

 ああ、そういえばそんなの出したっけ。

 

 アクロマは朧気ながら記憶を辿り「うんうん」と頷いた。メールでもレターでも何か反応があればいいな、と思っていたがその後見事に何もなかった――それがたった今、待望の一本目が来たのだ。それだけで傾聴するに値する。……しかし、どうして三ヶ月前の話を今になってするのか、時間に余裕があればこのゲーチスという男を小一時間くらい問い詰めたい。

 

『テーマは「ポケモンの力は何によって引き出されるか?」と話題でしたね。そこで、まったく僭越なことですが助言……めいたことをいたしたく』

 

「ぜひお願いしたいですね」

 

『ずばり、反対に考えてみてはいかがでしょう』

 

「反対……」

 

『「何によって」引き出されるか――ではなく、現状は何によって「阻害」されているか。理論上引き出すことのできるポケモンの最大出力、それを妨げる要因に着目されてはいかがでしょう?』

 

「妨げる要因……なるほど」

 

 考え続けるアクロマの耳に「しかし……」という、これまた粘っこい言葉が自己主張してきた。

 

『高名なアクロマ氏であればすでにお考えしていたこともかもしれませんね……いやはや出過ぎた真似を』

 

「いえ、ありがとうございます。参考になりました。ひとりで煮詰まっていたところです。視界が開けましたよ」

 

『そうですか。お役に立てれば何より……ところで、ドクターはいまどこにいらっしゃるんです? 研究所を転々としているとお聞きしましたが』

 

「今ですか? 今は……あー……ははっ……えー……ちょっと海のほうに」

 

 ちょっとどころか現在進行で海上をさまよっていますとはいえず、アクロマは珍しく言葉を濁した。

 

『そ、そうですか。ドクター・アクロマには我がプラズ――』

 

 ブチッと切れた。思わずモバイルを取り落としそうになる。

 

「うあっ!? 圏外じゃないですか……もしもーし! ゲーチスさーん! お元気ですかーっ! あぁ……切れてしまった……」

 

 アクロマは充電器を探しに船室に戻ろうとしたが……散歩ついでにクルーズ中の自分には、そんな準備が無かったことに気付き、コンビニで調達すればいいか……とは思考を巡らせられないあたり盲目になる性質だった。

 

「そうか。そうか、その手があったか……!」

 

 ありがとう! ゲーなんとかさん!

 

 よし、やりますよ! やりますとも!

 

 

 

 人目も憚らず、大海原に吠えた彼の名前はアクロマ。

 

 一心不乱。

 

 そんな言葉が似合う男はそうそういないだろう。

 彼は、学会さえ爪弾いた探究心を抱え――

 

「さあ、いきますよ!」

 

 逆風さえ糧に進む。情熱渦巻く青年だった。

 

 

 

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