幻想郷の決闘者達   作:あんぷら
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再激突! 反転するデュエル

 私のせいだ。
 私が負けなければ、剣はまた危険に飛び込まなかった。ディスクを叩き壊してでも――デュエリストの自分を砕いてでも、剣に危険を向かせないようにすればよかった。
 2度も守ってもらったのに。私は剣を傷つけたのに。どうしてまた……こんなことにしちゃうんだろう。皆と一緒に強くなったはずのに、手も足も出なかった。私は強くなんてなかった……デュエルも心も、強くなった気でいただけだった。それでも剣の役に立ちたかった。できなくてもせめて、迷惑を掛けないようにしたかった。
 何で私がキラーズに追われてたのかもわからないけど、1人で何とかできるなんて思わなければ、〈PLUTO〉が盗られる事も剣が危険に晒される事もなかったはず……。私は取り返しのつかない事をしてしまった。

 でもどうして……外したはずの〈PLUTO〉がデッキにあったんだろう。


 ◆


 思ったよりも早かった。あの時よりあんまり前には進めてないけれど、負けたくない、負けられない戦いなんだ。今もその気持ちは理解できない。デュエルは誰の中でも楽しくあって欲しい。
 だからこそこのデュエルを突き通して――楽しいデュエルをするんだ。

「僕の先攻! スケール1の〈英霊獣使い―セフィラムピリカ〉と、スケール7の〈炎獣の影霊衣(ネクロス)―セフィラエグザ〉で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 緑のペンギンに乗った少女と、かぎづめを付けた青い竜。白い翼を持つ2体が浮かぶ。
 正邪は強敵だ。慎重に動かないと。

「ペンデュラム召喚! 手札から〈秘竜星―セフィラシウゴ〉!」

 白い翼を生やした灰色の竜が降りた。そのまま額にある黒い紋章が輝く。

 攻0 守2600 レベル6 地属性 幻竜族〔守備表示〕

「ペンデュラム召喚に成功したことでデッキから、〈セフィラの星戦〉を手札に加える。永続魔法〈補給部隊〉を発動してターンエンドだ」
「複数枚のコンボで手札を蓄える気か。私のターン」

 やっぱり、正邪は僕のデッキ――〈セフィラ〉を知ってる。前に使わなかったカードまで理解してるんだ。どういうことなのかはわからないけど。

「〈影依融合(シャドール・フュージョン)〉を発動! 手札の〈シャドール・ヘッジホッグ〉と〈シャドール・ハウンド〉で融合。来いよ、〈エルシャドール・ミドラーシュ〉!」

 真っ黒な渦から、竜の人形に乗った少女が現れた。糸に繋がれた竜は息を吐き出した。

 攻2200 守800 レベル5 闇属性 魔法使い族〔攻撃表示〕

「こいつは効果じゃ破壊できない。残念だったな。融合素材になった〈ヘッジホッグ〉と〈ハウンド〉の効果発動! デッキから〈シャドール・リザード〉を手札に加え、〈セフィラシウゴ〉を攻撃表示に変更する」
「なんだって」
「さらに〈シャドール・リザード〉を通常召喚」

 糸に縛られたトカゲが浮遊した。

 攻1800 守1000 レベル4 闇属性 魔法使い族〔攻撃表示〕

「バトルだ。シャドール・リザードでセフィラシウゴを攻撃! どうする? このままならお前のダメージは4000だ!」

 正邪の煽りと共に迫るトカゲ。猛進しながら尻尾を振り上げ、狙いを定めた。

「く……手札から罠〈セフィラの星戦〉発動! 僕の〈シウゴ〉と正邪の〈リザード〉を破壊する」

 2体共爆散し、星屑をばらまいた。
 今ここでダメージを受け過ぎたらまずい。初めて見たあのドラゴンもいるんだ。今は余裕を持とう。

「破壊された〈シウゴ〉の効果でデッキから〈セフィラの神意〉を手札に加える。さらに僕のモンスターが破壊されたことで〈補給部隊〉の効果が発動。1ターンに1度だけ1枚ドローする」
「なら私も効果で墓地送りされた〈リザード〉の効果発動。デッキから〈シャドール・ドラゴン〉を墓地に送る。その〈ドラゴン〉も効果発動。魔法・罠1枚を破壊する。消えろ〈補給部隊〉!」

 ドローソースの〈補給部隊〉を破壊された……もっと手札が欲しいのに。

「追撃しろミドラーシュ。逆弓『天壌夢弓の詔勅』」

 地面から無数の影の矢が生み出され、次から次へと上に向かった。矢は僕の体をすり抜けた。

「があああ!」
「剣!」

 僕が叫ぶ中で、刀から悲痛な声が聞こえた。
 体に穴を空けられた訳じゃない。でも何故か、肌を切ったような痛みが走った。影の矢は放たれ続け、暫く僕は痛みを叫んでいた。

「ぐ……」

 声を圧し殺して、その場に崩れた。少しして刀が何か言っているのに気づいた。でも、そっちにまで意識を回せない。

「実体化の味はどうだ? 質量なんてもんじゃない、性質までも再現する技能だ」
「ぎ、技能……」
「さっきお前は一瞬でやって見せたがな、私はこれをするのに1ヶ月掛かった。さあ、私にも同じことをやってみろよ! ターンエンド!」

 全身を駆け巡る痛みに耐えながら、何とか立ち上がってデッキに手を掛けた。
 ここで倒れる訳にはいかない。

「僕のターン……」

 ……僕のライフは5800。手札4枚。ペンデュラムスケールは揃ってるけど、〈ミドラーシュ〉がいる限り1ターンの内に1度しか特殊召喚できない。ペンデュラム召喚をしても、〈ミドラーシュ〉は倒せない。なら――。

「〈セフィラの神意〉を発動。デッキの〈セフィラ〉を手札に加える。僕は〈剣聖の影霊衣―セフィラセイバー〉を手札に加える。セッティング済みのスケールでペンデュラム召喚! エクストラデッキから〈秘竜星―セフィラシウゴ〉! 手札から〈剣聖の影霊衣―セフィラセイバー〉と〈オルシャドール―セフィラルーツ〉!」

 集った3体の白き翼。〈シウゴ〉は咆哮、〈セイバー〉は剣を向け、というように正邪への威嚇を取った。〈ルーツ〉だけは、右半身の黒い部分が怪しい光りを放つだけ。

 攻0 守2600 レベル6 地属性 幻竜族〔守備表示〕
 攻1500 守1000 レベル4 水属性 魔法使い族〔守備表示〕
 攻450 守1950 レベル4 闇属性 岩石族〔守備表示〕

「〈シウゴ〉の効果で〈セフィラの神託〉を手札に加え、発動」

 僕側のフィールドに、10色中4色の紋章を輝かせる樹が浮かび上がった。

「デッキから〈竜星因士―セフィラツバーン〉を手札に。そしてモンスターを1体セット」

 手札に加えたカードを即座に切って、別のカードをディスクに叩きつけた。
 僕の手札はさっきの時点では3枚。正邪から見たら、手札に加えた〈ツバーン〉をそのまま伏せたように見えたはずだ。レベル4を揃えて次のターンへの準備をした具合に。僕が伏せたのは〈精霊獣使いウィンダ〉。破壊されれば攻撃力3200の〈ガイアペライオ〉を呼ぶ。これで、〈ミドラーシュ〉を倒す。〈ツバーン〉は光属性だから〈オッドアイズ・セイバー〉の条件にもなる。僕のデッキを知ってる正邪なら、こっちを狙ってくるはずだ……。

「ターンエンド」

 手札は2枚になっても、まだピンチじゃない。頼りにはできないけど。

「私のターンだ」

 寧ろ、正邪の手札が4枚もある事の方が危険だ。前回の〈大革命〉と言い……予想できる気がしない。
 正邪が弱々しく目を向けた。

「……なあ、私のデュエルはどうなんだ? 痛み、苦しみ、それでも楽しいと言えるのか?」
「勿論。こんな強い相手なのに、楽しくない訳がないよ」

 空を仰いで「そうか……」と溢し、顔を戻した。すると目付きを強め、口元を歪めた。

「じゃあ、これならどうだ? 私は〈大革命〉を捨てた」

 思わず目を見開いた。正邪のこれは、デッキから抜いたとか、そんな風には聞こえない。まさか……。

「〈大革命〉だけじゃない。〈弾圧される民〉も、〈逃げまどう民〉も、〈団結するレジスタンス〉も。もう場所も忘れたよ。雨風に流れたかもな」
「か、カードを……」

 どうして……どうしてそこまで嫌いなんだ。カードを捨てるなんて……どうして!

「どうして!」
「気づいたんだよ。私はあのカード達とは根本的に違う。奴らには、共に戦う同志が常にいた。それが私はどうだ? 孤独を背負った天邪鬼の私には、あのカードが邪魔だったんだ!」

 お互いに息が切れて、呼吸を繰り返す音だけが場に残った。僕は、自分の右目が赤くなるのを感じていた。

「剣……」

 刀の声が聞こえた。ボロボロなのに僕を心配してくれるのは嬉しくて、なのに、今はどうしてもどす黒い感情が沸き上がる。
 必死に止めようとしたけど、その思いはすぐに打ち砕かれた。

「私が勝ったら……貰うぜ。そのデッキを」
「は……は?」
「これはそういうデュエルだ。キラーズは強制アンティ集団だからな」

 ――デュエルが嫌いなら、楽しいと思わせればいいと思ってた。まさかカードを捨てるなんて……それに飽きたらず、人のカードまで奪うのか。もう、もう、そんなの……。
 僕のどす黒い感情は、1つの憎しみに固まった。

「正邪……鬼人正邪! お前はデュエリストじゃない!」
「元からそのつもりだ! 装備魔法〈ワンダーワンド〉を〈ミドラーシュ〉に装備! その効果を発動!」

 緑の宝玉がはめ込まれた杖を持つと〈ミドラーシュ〉は、竜ごと消え去った。
 〈ワンダーワンド〉は魔法使い族に装備されて、装備モンスターごと墓地に送って2枚ドローする。これはコストだから〈シャドール〉の効果は発動しないけど〈エルシャドール〉は別。

「カードを2枚引き、墓地にいった〈ミドラーシュ〉の効果。〈影依融合〉を手札に戻す」

 これで手札6枚。いよいよ差が圧倒的になってきた。

「私が捨てたのは、何も合わなかったからだけじゃない。より強い力を手に入れるためだ。私のフィールドにモンスターが存在せず、墓地に闇属性モンスターが5体以上眠る場合、〈ダーク・クリエイター〉を特殊召喚できる」

 突如として漆黒の稲妻が落ちた。そこに、頭上で黒いエネルギーを作り出す漆黒の巨人が現れていた。

 攻2300 守3000 レベル8 闇属性 雷族〔攻撃表示〕

「〈ダーク・クリエイター〉……利用された……」
「1ターンに1度、墓地の闇属性1枚を除外することで、闇属性を1体蘇生できる。〈シャドール・ヘッジホッグ〉を除外し、蘇れ、〈エルシャドール・ミドラーシュ〉」

 黒いエネルギーが巨大化し、中から消えたはずの竜と少女が現れた。
 しかもまだ、正邪は1回特殊召喚できる。墓地の闇属性が3体ってことは……。

「墓地の闇属性モンスターが3枚のみの場合、こいつを特殊召喚できる。来いよ、〈ダーク・アームド・ドラゴン〉

 地面を突き破り、巨大な漆黒の竜人が姿を現した。背中の刃は大きく、それで地面を破ったらしい。

 攻2800 守1000 レベル7 闇属性 ドラゴン族〔攻撃表示〕

「まずい……!」
「〈ダーク・アームド〉の効果だ! 墓地の闇属性を1枚除外することで、フィールドのカード1枚を破壊する。〈シャドール・リザード〉を除外して、ペンデュラムゾーンの〈セフィラムピリカ〉を破壊する」
「僕は……墓地の〈神意〉の効果を発動。〈セフィラ〉が破壊される代わりに除外できる」

 尻尾をしならせ、飛ばしてきた衝撃波の標的になった少女とペンギンは、光の障壁に守られた。
 危ない……ここで使わないと、手札にスケール1……つまり〈セフィラツバーン〉があるのがばれる。僕のデッキを知っているなら、〈ウィンダ〉の可能性を頼りに伏せモンスターを破壊しにきても可笑しくない。少なくとも〈ダーク・アームド〉の弾数を1にする必要がある。僕としては、ペンデュラムスケールを守りたいと思われてほしい。守らず破壊させたら、そっちは捨ててモンスターを破壊しにいく危険がある。ペンデュラムスケールは1枚じゃ機能しないんだから。

「まだまだ。墓地の〈ドラゴン〉と〈ハウンド〉を除外して、2枚のペンデュラムスケールを破壊」

 背中の刃が外れ、黒い闇を纏いながら飛ばされた。切り裂かれ、四散する〈セフィラ〉。でもこれで、正邪の墓地にモンスターカードは無くなった。

「バトルだ。やれ、ミドラーシュ。伏せモンスターを攻撃! 逆弓『天壌夢弓の詔勅』」

 再び、地面から影の矢が生み出された。矢は姿を現した少女の杖を貫き、爆発した。

「今のは……」
「破壊された〈精霊獣使いウィンダ〉の効果発動。デッキ・エクストラデッキの〈霊獣〉を特殊召喚する。来て、〈精霊獣騎ガイアペライオ〉!」

 〈ウィンダ〉が散ったその場所に、プロテクターなど様々な物を装備した大きなライオンが出現した。オレンジ色の髪をなびかせる少女が乗り、杖を掲げている。

 攻3200 守2100 レベル10 光属性 サイキック族〔攻撃表示〕

「1ターンに1度しか特殊召喚できないなら、相手のターンに特殊召喚すれば問題ない」
「甘いな。今すぐ〈ダーク・クリエイター〉に特攻させれば、そんな奴破壊できる。尤も」

 正邪は攻撃宣言をするんじゃなく、手札の1枚を引き抜いた。

「そんな必要はないがな。速攻魔法〈月の書〉。〈ガイアペライオ〉を裏側守備表示に変更する」

 月の光が〈ガイアペライオ〉を照らし、眠りに誘った。眠り込んだライオンと少女は裏側に変更され、攻撃力を下回る守備力を盾にするしかなかった。

「やれよダーク・クリエイター。ガイアペライオを攻撃」

 ほとばしる雷が、フィールドに伏せられたモンスター――〈ガイアペライオ〉を貫いた。貫かれたライオンは一瞬だけ穴の空いた姿を晒し、静かに散っていった。

「1体も……」
「ダーク・アームド・ドラゴンで、セフィラルーツを攻撃」

 竜は腕を降り降ろした。鋼のような強さを誇る手のひらが鎧を捉え、握り潰した。

「これでお前のモンスターは〈セフィラセイバー〉と〈セフィラシウゴ〉の2体。私の〈ミドラーシュ〉も健在だ。さあ弱者を踏み潰してみろよ。カードを1枚伏せてターンエンド」

 手札を2枚も残してる……しかも〈影依融合〉を潜ませて。正邪が弱者だとしても、デュエルの腕は本物だ。ならなんであんな。
 ――そうだ。それでいい。

「え……。ぼ、僕のターン!」

 なんだ……今の声。聞き覚えあるのに、思い出せない。

「〈EMプラスタートル〉を召喚して、自身と〈セフィラセイバー〉を対象に効果発動。モンスター2体のレベルを1つ上げる」

 シルクハットと丸メガネを身につけた亀が回転して登場すると、シルクハットを取って軽快な音を鳴らした。

「レベル5のモンスター……何する気だ?」
「覚悟しろ! レベル5の水属性、〈プラスタートル〉と〈セフィラセイバー〉でオーバーレイ! 溶け落ちた氷雪よ。浄化の光の晒されて、聖なる水流となれ! エクシーズ召喚! 〈No.73激朧神アビス・スプラッシュ〉!」

 巨大な水柱が昇り、中から激朧神が水を掻き分けて来た。白いマントが風を受けてはためき、大振りな杖を振りかざす。青い鎧は水を浴びて水滴を流した。

 攻2400 守1400 ランク5 水属性 戦士族〔攻撃表示〕ORU2

「〈セフィラ〉を素材にエクシーズ召喚したことで〈セフィラの神託〉の効果発動。1枚ドローして1枚捨てる」
「いつの間にそんなカードを……〈ミドラーシュ〉の攻撃力を越えやがったか」
「これでミドラーシュを攻撃する。やれぇ!」

 水を纏った杖が空気を巻き込み、竜と少女に向かって迫った。

「簡単にやれると思うなよ。リバースカード発動、〈魂源への影刧回帰(プルシャドール・アイオーン)〉! 手札の〈シャドール・ファルコン〉を捨てることで、〈シャドール〉モンスター1体の攻撃力・守備力を1000ポイントアップさせる。〈シャドール・ファルコン〉の効果発動!」

 淡い光に包まれ、〈ミドラーシュ〉の攻撃力が3200に跳ね上がった。さらに隣には糸に繋がれた小鳥が裏側で浮上した。

「これでお前は終わりだ」
「そうはいかない! 〈アビス・スプラッシュ〉の効果発動! ORUを使うことで、相手のエンドフェイズまで攻撃力を倍にする」
「なんだと!?」
「終わるのはお前だ!」

 無理矢理に杖を降り下ろして、淡い光ごと少女を叩き潰した。その後も杖に纏っていた水が雨のように降り続けた。

「この効果を使った場合、相手に与えるダメージは半分になる」

 やっと正邪のライフに傷をつけられた。それでも800。まだ7200も残ってる。
 正邪が憎らしげに僕を睨む頃には、雨もやんだ。

「……墓地に送られた〈エルシャドール〉の効果で、墓地の〈魂源への影刧回帰〉を手札に戻す」
「メインフェイズに移って、〈強欲で貪欲な壺〉を発動。デッキから10枚を裏側表示で除外して2枚ドローする。新たに加えたスケール1の〈イェシャドール―セフィラナーガ〉とスケール7の〈オルシャドール―セフィラルーツ〉をセッティング!」

 昇った。影を引き、白と黒、金と黒、各々の美しい鎧が昇り、白い光を放った。

「ペンデュラム召喚。エクストラデッキから〈英霊獣使い―セフィラムピリカ〉! 〈炎獣影霊衣―セフィラエグザ〉!」

 1度砕かれた翼の持ち主達が蘇った。それに導かれて、緑髪の少女が緑の光に包まれて復活した。

「ペンデュラム召喚された〈ピリカ〉の効果で、〈精霊獣使いウィンダ〉を特殊召喚する」
「ええいわらわらと」
「〈精霊獣使いウィンダ〉と〈英霊獣使い―セフィラムピリカ〉を除外して融合! 〈精霊獣騎カンナホーク〉!」

 雷鳥の背に乗った少女〈ピリカ〉。早速その杖を掲げて祈りだした。

 攻1400 守1600 レベル6 風属性 雷族〔守備表示〕

「〈カンナホーク〉の効果。除外されている〈霊獣〉2体を墓地に戻して〈霊獣の連契〉を手札に加える」

 除外した融合素材が効果に結び付くのがこのモンスターの強さ。正邪の〈シャドール〉程じゃないけど、これでまだまだいける。

「カードを2枚伏せる。僕はこれでターンエンドだ」

 〈連契〉は〈霊獣〉の数――1枚のカードを破壊できる。手札が尽きてもこのまま押し負けはしない。逆にやってやる。

「私のターン。〈影依融合〉発動!」
「だったら伏せてある〈セフィラの星戦〉と〈霊獣の連契〉を発動! 〈セフィラシウゴ〉と〈ダーク・クリエイター〉、〈ダーク・アームド・ドラゴン〉を破壊する!」

 〈シウゴ〉の紋章と〈カンナホーク〉の杖が光り、合わせて3体のモンスターが爆発した。
 これで蘇生は封じた。けれど、真っ黒な渦は問題なく発生する。

「私の道具を蹴散らそうが、お前のフィールドにエクストラデッキのモンスターがいるのに違いはない。デッキの〈シャドール・ビースト〉と〈裏風の妖精〉で融合! 〈エルシャドール・ウェンディゴ〉!」

 攻200 守2800 レベル6 風属性 サイキック族〔守備表示〕

「破壊された〈シウゴ〉の効果で〈セフィラの神意〉を手札に」
「墓地に送られた〈シャドール・ビースト〉の効果発動。カードをドローする! さらに〈シャドール・ファルコン〉を反転召喚することでリバース効果発動。〈シャドール・ビースト〉を裏側守備表示で蘇生する。そして――」

 飛び出した〈ファルコン〉は自分の糸で墓地の獣を引っ張った後、2つの輪っかに変化した。
 まさか――。

「レベル6の〈エルシャドール・ウェンディゴ〉に、レベル2の〈シャドール・ファルコン〉をチューニング! 繁栄は衰退を、希望は絶望を、強者は弱者を。陰りを生む世の転変を引き起こせ! シンクロ召喚!」

 輪の中の少女に光が差した瞬間、かつてない感覚が体を支配した。胸の奥から溢れてくる恐怖が手足を凍り付かせ、息が詰まった。目は光を失うよう、ゆっくりと赤から黒に戻った。
 こんなのと対決していたんだ。刀は。

「理不尽な世界に虫唾を! 〈魔王龍ベエルゼ〉!」

 生み出された双頭が勢いのまま暴れて地面を抉った。その間の体から生えている包帯ぐるぐる巻きの人間が高い叫び声をあげると、双頭は引っ込んでいった。
 僕はその場固まって、一連の動きをじっと見ていた。

 攻3000 守3000 闇属性 ドラゴン族〔攻撃表示〕

「ベエルゼ……」

 こんな感覚初めてだ。一体どんな効果を持っているんだ。

「剣!」

 刀の声に意識を引っ張り戻された。気づいた時には、正邪は既に次のカードを手繰っていた。

「〈死者蘇生〉発動。蘇れ〈ミドラーシュ〉!」

 まずい……またロックを掛けられた。

「ミドラーシュでカンナホークを攻撃。消えろ!」

 竜がカタカタと音を発てて、口を開いた。放たれた紫のブレスは無抵抗な雷鳥を撃墜した。

「く……」
「これで〈霊獣〉は消えた。次はお前だ。ベエルゼでアビス・スプラッシュを攻撃!」

 攻撃力の劣る〈ベエルゼ〉で? 何を狙ってるんだ……戦闘ダメージの反射にしては元々の攻撃力が高過ぎる。ならコンバットトリック? いやまさか……戦闘そのもの。だったらまずい、攻撃を防ぐ手段がない。せめて――。

「〈アビス・スプラッシュ〉の効果発動! ORUを使って攻撃力をさらに2倍の9600にする!」
「でもダメージは半分だ! 突っ込めベエルゼ!」

 いつの間にか迫っていた牙が〈アビス・スプラッシュ〉に噛み付いた。けどそれは青く光出した鎧に弾かれ、杖で叩き飛ばされた。吹き飛ばされた龍は背中から木を押し倒して砂煙をあげた。
 今のダメージは3300。ライフを3900まで削られてまで何を……。

「〈ベエルゼ〉は破壊されない……しかも、〈ベエルゼ〉の戦闘で受けたダメージ分、その攻撃力を上昇させる!」
「なんだって!」
「それに加えてリバースカード〈ダーク・ホライゾン〉をオープン! 私が受けたダメージ以下の攻撃力を持つ闇属性・魔法使い族を特殊召喚する。屈辱の痛みを糧とし突き進め。欺符『逆針撃』」

 正邪の体から流れ出した黒いエネルギーは、〈ベエルゼ〉に吸い込まれていった。それに続いて空中を突き破るようにして、杖をくるくる回しながら長髪の黒魔術師が出現した。
 〈混沌の黒魔術師〉か。

「これで〈ベエルゼ〉は攻撃力6300。最早止められない! 追撃しろ、新たに特殊召喚した混沌の黒魔術師で、セフィラエグザを攻撃!」

 漆黒の魔法弾が竜の鱗を塵とした。一瞬で消し去られたその竜は、残骸ごと異次元に飛ばされる。

「〈混沌の黒魔術師〉が破壊したモンスターは除外される。これでペンデュラムは壁にもならない」

 突きつけられた事実に歯噛みした。〈アビス・スプラッシュ〉の効果を使ったのが完全に裏目に出た。

「カードを伏せてターンエンド。エンドフェイズ〈混沌の黒魔術師〉の効果により、墓地の〈死者蘇生〉を手札に戻す」

 物量が違う……ペンデュラムはできるし〈神託〉だってある。エクストラデッキに〈セフィラルーツ〉と〈セフィラシウゴ〉がいるし、手札には〈セフィラの神意〉もある。でも、〈ミドラーシュ〉がそれ以上の展開を封じてる。攻撃力だけなら〈アビス・スプラッシュ〉が超えているけど、あの伏せカードはたぶん〈魂幻への影刧回帰〉。コスト用の手札も残ってる。不用意に攻撃はできない。
 うーん……取り敢えずドローしてから考えよう。

「僕のターンドロー」

 ……これじゃ無理だ。というより、このターンじゃ無理だ。せめて、

「アビス・スプラッシュでミドラーシュに攻撃」

 何の強化も施せないまま、召喚した水流ごと杖を振り下ろす。それは〈ミドラーシュ〉の放った魔力に跳ね返されて、〈アビス〉自身に向かってとどめを差した。

「手札の〈影依融合〉を捨てて〈魂幻への影刧回帰〉。1000ポイントアップだ」

 ライフは後5000か……これと次のターンに賭けるしかない。

「カードを伏せて〈命削りの宝札〉発動。手札が3枚になるようドロー――3枚伏せてターンエンド」
「けっ、持つ者は救われるのか。〈魂源への影刧回帰〉の効果で、効果を受けたモンスターはエンドフェイズに裏側守備表示になる」

 パワーアップと引き換えに、〈ミドラーシュ〉は裏側になって影に消えた。
 本当に賭けだ……どう来る。

「まあいい。伏せカードが4枚あろうがお前のライフは5000。一撃で終わりだ。私のターン!」

 正邪の手札は2枚。でもその中には〈死者蘇生〉がある。1枚で充分なカード。このままじゃいくら倒しても切りがない。

「〈ミドラーシュ〉と〈シャドール・ビースト〉を反転召喚。リバース効果で2枚引き、〈シャドール・ドラゴン〉を手札から捨てる。これが〈シャドール・ドラゴン〉の効果を引き起こす!」

 正邪のディスクから紫の糸が飛び出し、僕の伏せカードを貫いた。

「破壊されたのは〈運命の発掘〉。1枚ドローする」
「外れか……ならダイレクトアタックだ。やれ……ベエルゼ!」

 地の底から響くような声と共に、双頭が動き出した。大きく口を開けて僕を呑み込もうと迫る。恐ろしい牙は、薄い障壁に阻まれた。

「なんだと!」
「罠カード〈パワー・ウォール〉……戦闘ダメージ500単位につき1枚デッキのカードを墓地に送ることで、ダメージを無効にする」

 デッキから実に13枚ものカードを抜き出して墓地に送った。
 危なかった……いや、危ないのはこれからだ。

「この……だが、お前のライフを消す攻撃力は揃っている。ミドラーシュ、ビースト、一気にダイレクトアタックだ!」

 攻撃力2000を軽く超える魔法使い達が飛び掛かってきた。
 さっき墓地にいった〈クリアクリボー〉……駄目だ。こっちじゃないと。
 墓地のカードに手を掛けた瞬間、2つの紫の魔法弾が目の前に迫った。全弾炸裂し、僕のライフは5000からぐんぐん減って――。

「――な、600で止まった……」
「3枚目の罠、〈カウンター・ゲート〉! ダイレクトアタックを無効にする。〈混沌の黒魔術師〉の攻撃は無効だ」

 一命を取り留めた僕を見て、正邪は舌打ちした。

「さらにデッキから1枚ドローしてそれがモンスターなら、攻撃表示で通常召喚できる」
「ギャンブルか。強者の癖にふざけてる奴だな」
「ふざけてなんかない!」

 勢いに任せるままにカードを引いた。それは――。

「来た。ドローしたのはレベル4の〈星因士アルタイル〉だ!」
「なに! だがそいつお得意の蘇生効果は〈ミドラーシュ〉によって」
「〈カウンター・ゲート〉は特殊召喚じゃない、通常召喚だ! 〈アルタイル〉の力で蘇って、〈竜星因士―セフィラツバーン〉!」

 水色の翼のような装飾と、白い翼。それぞれの翼を広げて、光と共にフィールドに降り立った。
 正邪は舌打ちした。

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 伏せカード……なんだろう。〈大革命〉を抜かして純粋な〈シャドール〉になってるなら、そのサポートカード? いずれにせよ、

「僕のターン。〈セフィラの神意〉を発動。〈覚星輝士(アステラナイト)―セフィラビュート〉を手札に加えて、召喚」

 昆虫みたいな兜を被った輝士は現れた途端に飛び、剣を振るい、ペンデュラムゾーンの〈セフィラルーツ〉に鎧ごと剣を突き立てた。

「自分フィールドの〈セフィラ〉と、相手の伏せカードを破壊する。破壊するのはそれだ!」

 指差したのは、さっきのターンセットされたカード。その正体は〈あまのじゃくの呪い〉。これで安心できる。

「覚悟してよ。レベル4の〈テラナイト〉3体でオーバーレイ! 星々の剣よ、影を切り下せ! エクシーズ召喚、〈星輝士トライヴェール〉!」

 3体の騎士が1つとなって、光の波紋を広げた。光を受けたフィールドのモンスターは全て消え去り、波紋の中心には、トライアングル型の盾を構えた白い騎士が佇んでいる。右手の長剣を一振りすると、光は消失した。

 攻2100 守2500 ランク4 光属性 戦士族 〔攻撃表示〕ORU3

「馬鹿な……私のフィールドを……」
「エクシーズ召喚された瞬間、〈トライヴェール〉はフィールドの全てを手札に戻す。さらにORUを使うことで、相手の手札1枚を墓地に」

 僕が手を銃の形にすると、それに合わせて〈トライヴェール〉が長剣を上げ、短い光線を撃った。正確に、正邪の手札にある〈シャドール・ビースト〉を落とした。

「く、〈混沌の黒魔術師〉はフィールドから離れる場合除外される。だがしかし、〈ビースト〉の効果でドロー」
「手札に戻した〈セフィラの神託〉を再び発動し、2枚目の〈覚星輝士―セフィラビュート〉手札に加える。〈セフィラナーガ〉と〈セフィラビュート〉で、ペンデュラムスケールをセッティング!」

 揃った。もうやられはしない。倒す。
 両目がそれぞれの色に光だした。

「ペンデュラム召喚! 舞い戻れ、〈セフィラシウゴ〉と、2体の〈オルシャドール―セフィラルーツ〉!」

 セフィラ達を呼び戻したその瞬間、頭の中に膨大な情報が流れた。頭を刺すような痛みに堪えかねて、無意識に両手を回した。

「が……うぐぁぁ!」
「け……剣!」
「なんだ?」

 叫び声をあげる僕についていけてないみたいだった。
 流れてくるのは、映像と声。その全てが――正邪だった。デュエルは嫌い。カードを捨てた、奪った。嫌い。嫌い。嫌い――正邪!

「ああああ!」

 目に映った姿が、とても憎たらしく……見えてしまった。
 僕は、怒りをぶつけるようにカードを取った。2色の眼は、一層強く輝きだした。その時、僕の腕に巻き付いていた紫色の茨に気づく事はできなかった。

「待って、剣!」
「〈シウゴ〉の効果でデッキの〈セフィラの神撃〉を手札に。続けて〈死者蘇生〉発動! 〈シャドール・ドラゴン〉を僕のフィールドに蘇生する」

 紫の糸に縛られた竜の登場に、何故か僕の口角が歪んだ。一方で、正邪は歯噛みしながら、大きく目を見開いた。

「そうだ。それが強者の……」
「レベル4の〈シャドール〉3体で……オーバーレイ!」

 正邪のモンスターを含めた3体のオーバーレイは、いつもより黒く見えた。

復活せし(ヴェルズとなりし)氷龍よ、始まりも終わりもなき、死と再生の狂宴の幕を開けろ! エクシーズ召喚! 破滅の邪龍、〈ヴェルズ・ウロボロス〉!」

 狂った咆哮共に、悪意に噛み付いた三つ首が伸びてきた。相も変わらない龍は黒い凍気を放ち、尻尾の先の鏡を叩き付けるように振り回した。

 攻2750 守1950 ランク4 闇属性 ドラゴン族〔攻撃表示〕ORU3

「来た……来たな」
「〈神託〉の効果で1枚引き1枚捨てる。墓地へ送られた〈オルシャドール―セフィラルーツ〉の効果で、ペンデュラムゾーンの〈イェシャドール―セフィラナーガ〉を特殊召喚する」

 ペンデュラムゾーンから金が絡まった鎧がスライドしてくると、同時に正邪は口元を歪めた。

「お前の闇なんだろ、そのドラゴン!」
「それがどうした! ORUを1つ使い、〈ウロボロス〉の効果発動! 相手の手札1枚を墓地に送る!」 

 一本の首がORUを取り込むと、黒い冷気のブレスを放った。それは正邪の手札を狙い撃ち、凍結した。

「私の手札を次々と……だが」
「手札ごと吹き飛んでもらう! 墓地の〈グローアップ・バルブ〉の効果発動。デッキの一番上を代償にデュエル中1度だけ復活する! 来いっ!」

 小さな1つ目の球根が生えて、這い上がって来た。 

「このモンスターはチューナーだ……」
「もしかして……待って剣。それ以上やったら!」
「レベル6の〈セフィラシウゴ〉とレベル2の〈セフィラナーガ〉に、レベル1の〈グローアップ・バルブ〉をチューニング ! 封印されし氷龍よ。白き翼に導かれ、解き放たれよ! シンクロ召喚! 〈氷結界の龍トリシューラ〉!」

 指した光は、凍結した。氷柱と化した光は地表に根付き、氷を破壊して氷雪の翼が開いた。氷柱は翼を中心に崩れ、同時に骨が折れたような音を鳴らして再生していく。その音も、氷の破砕音が掻き消した。
 静寂が戻った時には、元凶は氷柱の前にいた。翼を広げたまま、白銀の鎧から冷気を放ち続けている。

 攻2700 守2000 レベル9 水属性 ドラゴン族〔攻撃表示〕

「〈トリシューラ〉の効果発動! フィールドには何も無いから、手札1枚と墓地の〈影依融合〉を除外する!」

 氷はさらに広がり、地面を這って僕と正邪の足を固めた。続いて吹雪が正邪に向かって流れ、2枚のカードを凍結する。

「て、手足が……動か……」

 かじかんだ指を必死に動かそうとする正邪を、2色の目で射抜いた。
 
「お前のライフは残り3900。これで終わりだ。3体のモンスターで――」

 うつむきながら片手を掲げて攻撃の指示を下した。吹雪は一層勢いを増し、その中を細い光線と太い闇のブレスが突き進む。
 総攻撃力7550。これで正邪は――。

「え……」

 そのライフは、僅か150残されていた。
 どうして、フィールドには何も無かったはず。

「お前が墓地に送った〈絶対王バック・ジャック〉と、除外した〈ドットスケーパー〉の効果が発動してたんだよ」

 正邪の声が聞こえて、自然と顔を上げ、目を見開いた。正邪は右半身の殆どが凍り付いていた。

「ど、どうして……」
「折角ながったらしく説明したのに……聞く耳持たなかったんだからな」

 〈ドットスケーパー〉は除外された時に自身を特殊召喚。〈バック・ジャック〉は墓地にいった時デッキトップ3枚を操作し、除外してデッキトップが罠ならセットして即座の発動を可能に。それで防いだんだ。
 聞かなかった……正邪の声を。僕は、何て自分勝手なデュエルを――。

「剣は〈ドットスケーパー〉に〈ウロボロス〉で攻撃して、〈迷い風〉で〈トライヴェール〉の攻撃力を半分にされたんだよ。でも、正邪のライフはたった150だし、手札も2枚だけだよ!」

 刀が必死に励ましてくれてるのは、耳に入っていた。でも今の僕の頭の中は、罪悪感とデュエルだけが支配していた。

「これがお前のデュエルか? 怒り任せで身勝手なデュエルが」

 僕は静かに膝を着いた。力を振り絞って手札の2枚をディスクにセットし、両手も着いた。目の光も消える。
 力が入らない。体を支える力が、虚空に溶けていく。

「私のターンだな……ベエルゼ!」

 地面を見つめていると、氷を噛み砕いたような音が聞こえた。ゆっくり顔を挙げると、正邪が氷から解放されていた。浅い噛み跡を両腕に残して。

「これで弱者のハンデも帳消しだ」

 ベエルゼ……まさか実体化させたモンスターに噛み砕かさせたの? フィールドにもいないのに。
 僕のカードは……そんな時でも来てくれるのかな?

「そこの奴が言った通り、私は圧倒的に不利だ。だからこそこの戦況をひっくり返し、今一度下剋上の旗を上げてやる!」

 大袈裟な動作で宣言しながら、デッキのカードを引いた。目を見開くと、別のカードに持ち代えた。

「〈シャドール・ファルコン〉を召喚。続いて、〈死者蘇生〉を発動!」
「リ……バースカード……〈セフィラの神撃〉。エクストラデッキの〈セフィラナーガ〉を除外して無効に……」

 〈ベエルゼ〉を召喚させる訳にはいかず、息を切らしながらも、どうにかして防御策を発動した。正邪は1枚。僕も1枚。あの手札が違うなら、まだ――。

「〈ワンダーワンド〉発動。〈ファルコン〉に装備しリリース!」

 小鳥は空から降ってきた杖に貫かれ、中心から静かに散った。その破片は、正邪のデッキに吸い込まれていった。それに釣られるかのように、正邪はデッキに手を乗せる。

「転覆しろ、無上の翼。ドロー!」

 背中を曲げて、上向きにカードを引き抜いた。
 正邪はのけ反ったままドローしたカードを見ると、顔を歪めた。

「これだからデュエルは嫌いなんだ……」

 体制を変えずに囁き、歯ぎしりした。
 
「向き合って、相手を見て、相手の手を考えて……そんな努力をたった1枚のカードで泡に還す。弱者は泣き寝入りか。何故天邪鬼たる私も無理矢理向き合わなければならないのか!」

 違う……デュエルはそんなんじゃ……そんな悲しいものじゃ……。

「我らの痛みを知るがいい! バトルフェイズだ。速攻魔法〈造反劇〉! バトルフェイズ中、〈トリシューラ〉のコントロールを私が得る!」

 体をバネのように起こし、叩きつけるようディスクにそれを差し込んだ程なくして、〈トリシューラ〉は反転。僕を睨んだ。

「ト、トリシュ……」
「自らの切り札に希望を断たれな。トリシューラで、ヴェルズ・ウロボロスを攻撃!」

 トリシューラが……正邪の手に。だとしても……このデッキを奪われる訳にはいかない!
 最後の力をかき集めて、両足とお腹に力を注いだ。地面を突き放して、立ち上がり、空に向かって叫んだ。

「ウロボロス! 破滅のデストロイリザレクション!」

 超至近距離でニ龍のブレスが激突する。凍気と凍気。ブレスの衝突は霜を降らせ、2体の姿はお互いを入れ換えたように白と黒に覆われていった。
 どうして――〈トリシューラ〉を選んだんだ。攻撃力だけなら、〈ウロボロス〉が上なのに。

「反逆の一撃を受けてみろ。速攻魔法〈収縮〉! 〈ヴェルズ・ウロボロス〉の攻撃力を半分にする!」

 次の瞬間、白い吹雪が僕を襲った。正邪の妖力で実体化した、僕の切り札の一撃。邪龍を純白に染めて、最後には僕を氷に閉じ込めた。氷はすぐに崩れ落ちたものの、もう、立っているだけの体力は残ってなくて、僕自身も崩れ落ちた。

 winner鬼人正邪

「お前の負けだ」

 負けた。あれだけ有利な状況から。でもそれがデュエル。それが楽しいところなのに、今は――。

「キラーズとのデュエルに負けたんだ。このデッキは貰っていく」

 容赦なくデッキを剥ぎ取った正邪に、僕は何の抵抗もできなかった。体力が無いのなんて、言い訳。本当は、どこかでデュエルで決まったから仕方ないと、思ってしまっていた。

「……」

 正邪は最後剥ぎ取った伏せカードを見て顔を曇らせた。
 あれ……〈幻影騎士団(ファントム・ナイツ)シャドーベイル〉だった。

「じゃあな」
「待って」

 正邪が立ち去ろうとしていると、刀が声を投げた。正邪は呼び止められた理由を察したのか、右腕を挙げて、またあの名前を呟いた。ベエルゼ。

「あ……」

 三度実体化した魔王のばらまく恐怖と圧力に晒され、刀もその場にへたりこんだ。体中が震え上がり、圧迫される感覚に、僕も口を動かす事すらできなかった。
 気づいた時にはその感覚は消え去り、正邪もいなくなっていた。

「う……ぐ、ああ……ああああ!」

 うめき声を叫び声に変えて、悔しさと虚しさを吠えた。
 負けた……負けた……憎しみをぶつけるようなデュエルをして。最悪だ僕は……何が貫くだ。大した力も精神力も無くて、デッキまで奪われて……何も、貫けてない。滅茶苦茶になっただけだ。僕がデュエルを貫いて、正邪が1度でも楽しそうだった? 正邪だけじゃない、今までそのデュエルで、誰かいつもより楽しそうな人は? いなかったじゃないか。霊夢だって、霊夢自身がその気持ちを持ってたに過ぎない。僕が何かした訳じゃないのに。
 スターヴに勝って、強くなった気でいた。自惚れていたんだ。1度決めた事を絶対に貫けるって、自分を自分より強いと思ってたんだ。デュエルの中だけでも正邪を許せば良かった……デュエルに憎しみなんて、いらないんだから。

「もしもーし。こっちいるのー」

 どこかから、こいしちゃんの陽気な声が聞こえた。
 無事だったんだ――良かった。
 僕はそれに安堵したかのように、目蓋を落とした。
 意識が眠る直前、どこからもなく、クリア、という言葉が囁かれた。この声の主は――。



……正邪とは違う、もう一人。その敵対者に当たる者がいなければ、この話はどうなっていたのでしょうか。
とどのつまり、二章で成した事は全て無駄だったのでしょうか。それとも――

次回のキーカード
PSYフレーム・オーバーロード






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