日本にひっそりと生き続ける、世界中に住んでいた人ならざる者たちの理想郷。結界で外界から隔離されたそこは、幻想郷と呼ばれている。すべてを受け入れる幻想郷の湖の畔に建てられた真っ赤な建物、紅魔館。その地下にある図書館にて、紅茶の香りを漂わせながら静かに本を読む女性が一人。この紅魔館が幻想郷に来る前からこの図書館に住んでいる魔法使い、パチュリー・ノーレッジだ。
少し古い大きな本を閉じる音が小さくこだまする。普段彼女しかいないここは、雪の積もった世界のように静寂を保っている。する音と言えば、今のような本を閉じる音、ページをめくる音、紅茶のカップの置かれる音、そして――――
「いかがでした?」
「なんだか懐かしい感じね」
パチュリーと彼女の使役する低級の悪魔、通称小悪魔の他愛のない会話くらいなものだ。小悪魔は普段いたずら好きであるが、パチュリーに召喚され使役されているということもあって、契約を重視する悪魔族である彼女は、パチュリーの言うことには基本的に従うし、敬う。
「懐かしい、ですか」
「他人のものとはいえ日記を読んでいると、ふと自分の過去を思い出すものよ」
「自分の過去……」
不思議そうな小悪魔にパチュリーは少し微笑むと、話を続けた。
「日記帳をつけたことが無くても、誰しも自分の過去の印象に残っている出来事っていうのはあるわ。例えば何か初めて見たり感じたりしたもの。何かの記念。自分の生き方の転機。誰かとの出会いも、印象に残っていることがあるわね」
「出会いですか。そういえば、レミリア様と出会ったのはどんな時なんですか?」
「レミィと? そういえば、話したことはなかったわね。ちょうどいいわ、少し話してあげる。あれはまだ、幻想郷に来る前のことよ――――」
20世紀のほんの少し前、某国。未だ1世紀以上前の風習である魔女狩りの名残を残すこの町に、彼女――――パチュリー・ノーレッジはいた。ごくごく一般的な過程で育った彼女は、そのころから本をよく読む少し体の弱い子供だった。大きな障害なく育った彼女は本から得ていた知識を認められ、専ら周囲の評判は「頭が良い」というものがほとんどである。
しかしそんな彼女の幸せも長くは続かなかった。夜、日も沈み夕食を済ませたころ、突然彼女の住む家のドアが乱暴に叩かれ、怒号が家に突き刺さる。
「おい開けろぉ! 娘を出すんだ!!」
ドアを叩いて叫んでいる者の他にも何人かいるのか外は騒がしい。用心深かった彼女の父親が、そうっとドアを開けると、町長の息子が、すさまじい怒気を孕んだ表情で仁王立ちしていた。
「一体ウチの娘に何用ですか? こんな夜分遅くに」
「黙れ! 貴様の娘、魔女だという情報が入った」
「魔女!? 娘が?」
信じられない、という父親の表情も意に介さず、変わらずの怒号で続ける町長の息子。がたいの良い彼のその様子はより迫力をもたせていた。
「そうだ!! 貴様が娘を素直に差し出さないというのなら、貴様も匿ったという罪をおうぞ!!」
「ぐ……! だ、だが私は娘が魔女ではないと信じている!! 魔女狩りなどというふざけた風習で娘を犠牲にするものか!!」
負けじと返した父親。その間、母親は必死に、震える娘をかばう様に包み込んでいた。母親も恐怖で腕が震えていたが、その眼には父親と同じく娘を守る強い意志があった。
「貴……様ァ!! そこを退けぇ!!」
「退かぬ!! 娘を守らずして何が父親か!!」
「貴様……! 貴様ぁ……!! 退けと……言っているんだ!!」
怒りが頂点に達した町長の息子。鈍く月明かりを反射した剣が、父親の体を切り裂いた。一瞬の間を置いて、母親が嗚咽を鳴らしながら崩れ落ちた。だが彼女は……パチュリーは、何が起きたか脳が理解することを拒み、ただそれを眺めるしかできなかった。
「はっ……はっ……最初から素直に娘を差し出せば死なずに済んだものを……」
町長の息子も、人を殺したのが初めてなのだろうか、息を切らしながら剣をしまい、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。抵抗することすらできなかった彼女は腕を乱暴に捕まえられ、ようやく抵抗を始めた。だが、小さな娘の抵抗など大の男にはあってないようなものだ。ずるずると引きずられていくのを見て母親も懇願しながらしがみつくが、蹴りはがされてパチュリーも抱えあげられてしまう。そして軽々と家の外へと連れ去られてしまった。家の外は顔なじみの大人たちがいつもとは違う、「魔女を見る目」でパチュリーを見ていた。忌々しいものを、穢れたものを見る目で。本能的に恐怖を覚えた彼女だったが、既にどうすることもできはしなかった。乱暴に放り投げられた痛みと重さすら実際に感じそうな恐怖に、涙を浮かべる。しかし声を上げる間もなく、今度は両腕を片手で強く握り上に持っていかれて、別の形で身動きを封じられた上に、もう片方の手で口と鼻を塞がれた。荒れに荒れた手が痛いのと、だんだんと苦しくなってくる。
「このまま1分以上生きていたらこいつは絶対に魔女に違いない!!」
1分程度息を止めただけで魔女だなんて。そう思うものの、言葉を発することはできない。このままでは魔女として、火あぶりだろうか、それとももっとひどいことをされるのだろうか。苦しさと恐怖で、ますます涙が出てくる。
「くっ、まだ耐えるか。やはりこいつは魔女に違い――――」
そう言いかけた男だが、その言葉は途切れてしまう。同時に、パチュリーを縛っていた両手も力が無くなる。
「げほっごほっ……な、なに……?」
「おいしそうな
パチュリーと男の間に立ったのは、10にも満たないのではという子供。しかしその背は蝙蝠のような巨大な羽を背負い、その右手では90Kgはあろう町長の息子を軽々と持ち上げている。正確には腹部に突き刺しているから、右腕は真っ赤に染まっているのだが。
事態を呑み込めない周りの人間達。そんな人間達の反応が面白いのか知らないが、笑みを浮かべる彼女の顔は返り血でデコレートされ、うすら寒い感情を覚える。夏の暖かい日のはずが、鳥肌すら立っている人間もいた。
「逃げないのか? 逃げないなら……」
「そ、そいつも……そいつも仲間だ!! 殺せ! 殺せぇ!! どっちも殺せぇ!!」
そう言いかけた彼女を遮るように、一人が発狂したように叫ぶ。それにつられ、手に持っていた各々の棍棒やら鉈やらを振りかぶって、小さな彼女に突っ込んでいく。もちろん、対象にはパチュリーも含まれていた。思わずパチュリーが頭をかばう様に縮こまったと同時に、パチュリーの前に立っていた少女は堂々と、若干の怒りを込めて叫んだ。
「私を殺す? 貴様らがか? やれるものならばやってみろ! 人間風情が!!」
その怒声に怯んだ町民らだが、一瞬だけで今度はさらに勢いを増して襲いかかる。怒りに身を任せ、たった一人の少女に向かって。
ぐっと、身を縮こまらせたパチュリーは景色が見えなかった。しかし見なかったことは幸いだっただろう。幼い彼女には凄惨すぎる光景だった。次々と体が千切れ飛んでいく町民達。あるものは腕を、またあるものは首を。あるいは、上半身と下半身が分かれるものもいた。臓物や筋肉、骨、脳みそ。体の様々なものが飛び散り、何より深紅の血で辺り一面は染められていた。もちろん、その惨劇の中心人物である小さな少女も。
「ス、スカーレット……デビ……ル……!」
わずかに命が繋がっていた男が、そうつぶやくと同時にガクリと命の灯が消える。丸く、大きな月が彼女らを照らす。この惨劇に相応しくない程綺麗な蒼い光に照らされる紅い広場の中で、ようやくパチュリーが事態の収まりを感じて顔を上げる。そこには、たった一人。小さな女の子が、手についた血を舐めているという珍妙な光景があった。
「ああ、もったいないったらありゃしない。まあ、これだけ人間がいたとしても食べ終わる前に腐っちゃうわね」
「あ……あなた……何者……?」
ようやく震えつつも声を絞り出したパチュリー。怯えきったその表情を見て、ニヤリと笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。
「こんばんわお嬢さん? 私はレミリア・スカーレット。簡単に言えば、吸血鬼よ」
「吸……血鬼……?」
名前だけならばこの町、いやこの国の者ならだれもが知っている。しかしそれは、伝承上のことにすぎなかった。しかし、レミリアと名乗った彼女はそれに気づいていないのか、はたまた意に介していないのか。
「そう、吸血鬼。聞いたことはあるんでしょ? 吸血鬼は伝承だけの存在じゃない。魔法使いと共に、吸血鬼も実在なのよ」
「そんな……でも、吸血鬼ってもっと大きな印象が――――痛っ!?」
そう言いかけたパチュリーの頭を、涙目になりながらポコンと殴るレミリア。今までの人間達を千切り飛ばしてきた怪力ではない。ちょっとしたコミュニケーションで使うような力加減だった。
「小さくて悪かったわね! 男じゃなくて悪かったわね! だ、だいたい吸血鬼にだって子供の時期くらいあるのよ! 女だっているのよ!!」
「いや悪いなんて言ってないじゃない……むしろ、いい意味で驚いたの」
「いい意味で?」
「吸血鬼って……思ったより可愛いんだなって」
「か、かわ……ッ!?」
はにかんで言ったパチュリーの台詞に、血以外で顔を赤く染めるレミリア。とても、つい先ほどまでの惨劇の直後とは思えないやり取りである。
「とにかく、助けてくれてありがとう……」
「助けて、って……何か勘違いしてない?」
え? と首を傾げたパチュリーに、レミリアは返す。
「私は単に、お腹が空いたから来ただけよ。もともとはお嬢さん、貴女の美味しそうな匂いにつられてやってきたんだからね?」
「でも……結果として私を助けてくれたわ。だから、ありがとう」
「……ッ!! あーもう、ペース崩れるわ……」
再び顔を真っ赤にするレミリア。彼女を食べよう、と思っていたのだが、その気も失せてしまった。ため息をひとつついて、パチュリーに手を差し出すレミリア。
「ほら、いつまで石畳なんかに座ってんのよ」
「え、あ……うん、ありがと」
そういってレミリアの手を取ったパチュリー。思わず、呟いてしまう。
「温かい……」
「温かい? 冷たいじゃなくて? よっぽどの冷え症でも私の体温よりは高いはずだけど」
確かにレミリアの手はとても冷たい。体温的にもパチュリーが温かいと感じるはずはないのだが。
「うん。でもね、多分あなたが優しいからじゃないかな」
「うー……ほんとこの子といるとペースが崩れるわ……」
パチュリーを引き上げて、もう一度ため息を落とすレミリア。はた、と思い出してパチュリーに尋ねた。
「そういえば、貴女の名前、聞いてなかったわ。聞いてもいい?」
「え? あ、そういえば言ってなかったわ、ごめんなさい。私はパチュリー。パチュリー・ノーレッジ」
「パチュリー・ノーレッジ……このあたりじゃあんまり聞かない名前ね。まあ、いいわ。また会いましょ」
そう言ってレミリアは、大きな漆黒の羽を羽ばたかせて飛んで行ってしまった。
「それが、最初の出会いですか」
「ええ。あの時、私はレミィのやったことをほとんど見てなかったわ。初めて姿を見たのは、既に皆死んだ後、月明かりに照らされた返り血に塗れたところ。だから今みたいに紅魔館に来ることになったのは、その数日後……もう一度、レミィが訪ねてきた時よ」
あの惨劇から数日。唯一生存していたパチュリーの母も、蹴り飛ばされたときに打ち所が悪かったらしく、脳震盪と出血の過多で亡くなってしまった。幼くして独りになってしまったパチュリーは、ただ途方に暮れながらも必死に命を繋いでいくしかなかった。
その日、たまたま家に一度戻り、久しく数日ぶりに本に手をかけたパチュリー。不思議と、いつも何かあったとしても本を読んでいる間は落ち着くことができた。文字の舞台に目を走らせてどんどんと吸収していく。何度読んだ本でも、読むたびに新たな発見のたびに自分に新たな知識がついていくことは、彼女には至上の喜びだった。
そんな、彼女の世界の時間に入ってきた者がいた。ドアを叩かれ、不意に肩をすくめる。無意識のうちに、身体があの惨劇を思い出してしまっていた。
「だ、誰……?」
「あら、やっぱりいた」
震える声で応えたパチュリーの声に返ってきたのは、澄んだ幼い子供のような声。パチュリーはその声に確かに聴き覚えがあった。
「その声、もしかして……レミリア?」
二人には若干大きな木の扉を開けると、そこにはやはりレミリアの姿。大きな日傘で陽の光に当たらないようにしているらしい。憶えててくれたんだ、と笑うレミリアは、その幼い見た目に相応しい明るいものだった。まさしく、今彼女が避けている太陽のように。
「どうしてここに……」
「え? ああほら、あの時私調子に乗って全員殺しちゃったじゃない? だから貴女一人でどうしてるかと思って。興味本位よ」
「そう……とりあえず、上がる? 何もないけど」
レミリアをいつまでも立たせておくのもしのびない。椅子に座らせ、慣れた手つきで紅茶を淹れて出す。
「あら、ありがとう」
テーブルの紅茶が湯気を立てるなか、2人はしばし会話に花を咲かせる。どうでもいいようなことでも、ころころと笑うレミリアにパチュリーは楽しさという感情をいつしか覚えていた。そしていつしか、話題はパチュリーの今後のことになる。
「ねえ、貴女これからどうするつもり?」
「どうする、って……」
「こうなった原因の一端は皆殺しにした私もあるけど……正直、一人で生きていくにはここの環境は厳しいわ。それに、隣町までもそれなりに距離があるわ、歩いて行くにはここの町じゃ蓄えはあっても貴女の体力は持たないし、向こうで助かる保証もない」
レミリアの言うことはもっともだ。押し黙ってしまうパチュリーの反応は予想の範囲内だったのだろう、レミリアが続けて提案を出す。
「そこでね。貴女、私の友達にならないかしら」
「……友達?」
「そう。なんだかんだ言っても、私は吸血鬼だから友達っていうのはいないの。だから、友達がほしかったのよ。それに、友達なら家に招いてもいいでしょ?」
「……えっと」
「だーかーらー、ウチに……紅魔館に来ないかって言ってるのよ。友達としてね」
頬杖をついてそう言うレミリアの顔は、先ほどの笑みよりもいくらか口角のあがった……ちょうど、イタズラを仕掛けて成功した時の子供のような顔になっている。不意に手を差し出すと、彼女はこういった。
「さ、行きましょ?」
「ねえ、一つ聞かせて? なんで私にこんなに構ってくれるの?」
パチュリーは、レミリアが原因の一端を作ったということと友達がほしい、といった。とはいえ、流石にそれだけではないのだろうと思ったわけだ。
「そうね、貴女勘がいいわ。私は貴女の魔力に興味を持ったの」
「魔力?」
「そう。貴女の人間としては大きすぎる魔力。貴女は人間じゃなくて魔法使い……なのね」
「魔法……使い……」
「まあ魔法使いって言っても、貴女はまだ魔法を学んでいないから、魔法使いってのは名前だけね。本人もまわりもそうだとは思ってないでしょ」
「私が魔法使い……っていうことは魔法を使えるってこと?」
「そうね。ウチにはいわゆる魔導書の類もあるわ。それを読むだけでもいいから、ウチに来ない?」
「……うん、じゃあお言葉に甘えさせてもらうわ。これからお願いね、レミリア」
「ええ、よろしくパチュリー」
レミリアの差し出した手を取り、握り返したパチュリー。レミリアは説得する間手を下すことはなかったのだ。それを断るほどの勇気と理由はパチュリーになかった。
「ふふ、やっぱりレミリアの手温かいわ」
「もう……」
パチュリーを新たな世界に導いたレミリアの手は、パチュリーにはレミリアの体温の何倍も温かく感じた。手を引かれて走るパチュリーはひそかに、太陽を嫌う彼女はきっと自分にとっての太陽になるのだろう、と。そして私は彼女の光を受けて輝く月になれればいいな、と思うのだった。
移動すること数十分。吸血鬼の彼女に手を引かれ、初めて飛んだ空は、少し寒かったがとても美しい眺めだった。
「あれよ。あれが私の城、紅魔館」
「紅い……なんだか目に悪いわね」
「でも威厳溢れていいでしょ?」
行き過ぎて悪趣味だ、と言いたいところだが、彼女の趣味なのだろうからあまり悪く言うのも気が引ける。レミリアがふわりと地面に降り立つと、正門には緑の服に身を包んだ、赤い長髪の女性が立っていた。
「お嬢様、おかえりなさい。その方が例の?」
「ええ。パチュリーよ。紹介するわパチュリー。紅 美鈴、ウチの門番よ」
「門番……えっと、パチュリー・ノーレッジです」
「敬語なんかいいんですよー。とにかく、これからよろしくお願いしますね」
「え、ええ」
「さ、こっちよ。とっておきの部屋を紹介してあげる」
レミリアがそう言って館内に彼女を引っ張っていく。そして歩くことしばし。彼女らの前に広がったのは、歴史を感じさせる広大な本棚の壁。
「すっごい本……」
「流石でしょう? 紅魔館が誇る地下図書館。まだまだ本棚は空いてるけど、これからも埋まっていくでしょうし。貴女にはここを自由に使ってもらって構わないわ」
「いいの? ありがとう。ねえ、一ついいかしら」
「何?」
「レミリア……ってなんだか他人行儀みたいだから、レミィ、って呼んでもいい?」
「レミィ……うん、良いわ。じゃあ、私も貴女はパチェ、って呼ぶわ」
「えへへ、レミィ!」
「なぁに、パチェ」
恥ずかし気に、笑みを浮かべて何度も呼び合う。二人は今まで、あまり友達というものを持ったことはなかった。パチュリーは町で暮らしてはいたものの、頭が良いことが逆に災いし人が近寄りがたい雰囲気があった。レミリアはそもそも吸血鬼で、人に好かれるということがなかった。そんな二人にとって、友達というものの素晴らしさは大きな幸せをもたらした。
「考えてみれば、あの時はまだ喘息もなくて普通に走れたりしたのね。それに今よりも純粋に生を楽しんでいたわ」
「今は楽しんでないのですか?」
「いいえ。昔とは楽しみ方が変わっただけよ。今は今、昔はいなかった咲夜やあなたがいるし、同じ楽しみ方はできないしするものでもないもの」
彼女のいつも通りの柔らかい笑みが蝋燭の暖かい光に照らされる。小悪魔は、そんなパチュリーの笑みが好きだった。そして、パチュリーを館に招いたレミリアも、その笑顔が好きだった。だからこそ彼女をいつまでもここにおいているといっても過言ではない。
「懐かしい話ねー。今じゃパチェと私の関係もずいぶん変わったけど」
「いつからそこにいたのかしら、って聞くのは無粋?」
「そうでもないわ。懐かしい話も聞けたし」
少しは遠慮しなさいな、と咎めたパチュリーだが、本気でそう言っているわけではない。昔とは違って彼女らの間には、ジョークというか、言葉遊びというか。とにかく、どこか回りくどい言葉遊びが増えた。それは二人の付き合いを表すものとして申し分のないものだろうし、二人ともその付き合いが心地良いものだからやめようと思ったことはない。
「レミィ、たまには
「ええ、友人の願い事なら喜んで」
パチュリーが小悪魔にレミィと自分の分の新しい紅茶を頼むと、快く引き受けて紅茶を淹れに行く小悪魔。主の楽しそうな姿を見た小悪魔もまた、どこか少し楽しそうな笑みを浮かべていたのはまた別のお話。今夜はレミリアとパチュリーにとって、懐かしく楽しいひと時になるであろうと思う小悪魔だった。
いかがでしたでしょうか。妄想120%でお送りいたしましたが、「テメェなんてことしやがるぶっ飛ばすぞ!」というような方いらっしゃいましたらごめんなさい。幻想郷はその幻想郷を見る人の数だけあるので、きっとまたあなたの望む幻想郷がどこかにあるでしょう。今回はなにとぞ、一つの幻想郷の形として見ていただいていればと思います。