提督だと思った?残念、深海棲艦でした(仮)   作:台座の上の菱餅

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第6話

 

 

 

 深海、それは思ったよりも綺麗で、深海棲艦の姿から連想できるような禍々しい空間ではなかった。

 光は届かない筈なのに、青い光が薄く射し込み、幻想的な空間を作り上げている。

 何か不思議な力が働いているのか、その空間が全く違う世界のようだ。

 

 戦艦棲姫に会う為に来ていた乃黒とモモも、神秘的な光景に見惚れていた。

 記憶が無いにしろ、この光景は絶景と断言できる。

 が、何時までも戦艦棲姫を待たせるわけにもいかないので、後でじっくり見ようと心に誓いヲ級の後を追った。

 

 しばらくその空間を進み続けていると、少し開けた場所に出る。

 そこには一つ、大きな影が佇んでいた。

 

 

「アンタが、俺を呼んだの?」

 

 唐突に、その影の目の前に立ったと同時に乃黒は口を開いた。

 粗相の目立つ話し方に肝を冷やすヲ級を尻目に、乃黒は目の前の影にもう一度話し掛けようとするが、急に動き出した影に口を噤む。

 圧倒的な存在感を出すその影は、まるで深海を泳ぎ回る大魚のように、少しずつその姿を明らかにしてゆく。

 

 砂を掻く音と、地面が何処かにぶつかる低い音が辺りを制するなか、その姿に乃黒は唖然とした。

 自身の身の丈の三倍はあるだろうか、

 化け物、そう呼ぶに相応しい姿をした何かを尾のように従えた、角の生えた黒髪の女が、凛とした表情で此方を見詰めていた。

 

「よく、来られました」

「…………」

 

 その一言は、まるで質量があるかのように、彼の体にのし掛かる。

 威圧、そうとも言えるだろう。

 心配そうな顔をするヲ級とは反対に、乃黒は笑みを浮かべて口を開いた。

 

「初めまして。なんの誘致? 加軍のお誘いならお断りだよ」

 

 少し戯ける乃黒を心配そうに見詰めるヲ級と、冷たい瞳で見詰める戦艦棲姫。

 そちらから呼び出しておいて、と内心毒を吐く乃黒だが、それは一切外に出さない。出しても無益、単純に意味がないからだ。

 

 暫く静寂が辺りを漂うが、戦艦棲姫が急に笑いだしたことでそれは砕かれる。

 

 疑問符を浮かべるヲ級と無表情で佇む乃黒。

 一頻り笑い終えると、戦艦棲姫は興味深そうに彼を見詰めながら口を開いた。

 

「フフッ、私の娘達の言っていた通り、変わった者ですね」

「娘? アンタの娘なんて見たことない」

「いえ、直接会ったことは無いでしょうが、娘が貴方という変わり種を見て、私に話してくれたのですよ」

 

 にこやかに話す戦艦棲姫を見詰めながら、釈然としない表情で腕を組む乃黒。

 自身の知る限りでは、ヲ級以外の深海棲艦が島の近くに来たことはない。

 もしかして、何処か遠くから見詰めていたというのか。

 確かに遠出することもあったが、彼処の近くに深海棲艦は居なかった筈。

 

 疑問に思う乃黒を察したのか、笑みを少し作りながら戦艦棲姫は答えた。

 

「貴方が根城にしていたあの鎮守府は、私達が占拠した物」

「……だから、あの島の付近にアンタの娘とやらが居るのは当然の事、と?」

「えぇ、その通りです」

 

 だとしても、釈然としない。

 あの鎮守府を襲ったのが、この戦艦棲姫率いる艦隊だというのが分かった。

 しかし、それとこれとは全く別の話。

 が、ここでどんなに思考を練ろうと話は進まない為、次の話に切り出す。

 

「ま、いいか。それで、どんな用件で?」

「そうですね……切羽詰まっている訳ではありませんが、貴方が言った通り誘軍ですね。大凡五十程度の大艦隊を撤退まで追い込む奇策を練る程の頭を持ち、それを実行できる程の力量を持ち得ている貴方を、是非私の元に、と」

 

 そこまで知ってんのかよ。

 

 口には出さないが、驚きと疑念の混ざった表情で戦艦棲姫を見詰める。

 恐らく、ヲ級に伝言を託したのもその"娘"とやらだろう。

 底が知れないな、と苦笑いを浮かべると、答えを待つように笑う戦艦棲姫と目を合わせる。

 

 一息吐くと、つまらなそうに口を開いた。

 

「やだ」

 

 恐らく、戦艦棲姫の元に着けばこれからの安全は保証されるだろう。

 それに加えて、自分が何者かが明確に分かるかもしれない。

 しかし、何処かの組織に入るということは、ある程度の自由を失うことに等しい。

 極端に言えば、戦艦棲姫が誰かと喧嘩になればそれに巻き込まれる。

 百あったら百の自由を求めるのが乃黒だ。

 だからこそ、この申し出に頷くことはどうしても出来なかった。

 

「そう……それは残念です」

 

 そう言うと、巨大な艤装を一撫でする。

 軽巡ト級に似た姿をしているその艤装は、まるで命を持っているかのように、その巨体を動かした。

 

「此方も無理に誘おうとはしません。それに、今日貴方を呼んだのはこれだけでは無いので」

 

 そう戦艦棲姫が口にすると、緊迫した空気は一気に抜けて、少し気を休める空間になる。

 終始、顔面蒼白(元々だが)になっていたヲ級も、安心して胸を撫で下ろした。

 

 険しい表情をしていた乃黒も、何時ものように雲みたいな顔に変わる。

 だが、前もって隠れておけと言ったモモは、まだ隠れさせておくことにした。

 

「他の用件は?」

 

 つまらなそうにする目を向けながら、乃黒は尾の艤装に腰を掛けながら問う。

「えぇ、その事なんですが……――」

 

 

 

 

 

「記憶を持った者が、本能に抗える上位種。成る程ね」

 

 戦艦棲姫の用件、それは深海棲艦の本質についてだった。

 彼女の見解によると、強い意思を持っていた者が深海棲艦となると、一部の記憶を保ったままになるらしい。

 曰く、それがflagship級等の上位種や、戦艦棲姫等の域に達する者だと言う。

 戦艦棲姫自身も少し記憶を残しており、元は何処かの鎮守府に居る戦艦だったそうだ。

 

 確かに、記憶を残しているヲ級、戦艦棲姫、加えて乃黒は、他の深海棲艦とは桁違いの強さを誇る。

 だが、やはり疑問に思うところは幾つかあるのに違いはない。

 

「……ま、いいか。さてさて、もう出てきていいぞモモ」

 

 乃黒がそう言うと、上着の中からゴソゴソと漁るようにしてモモが顔を出す。

 少し暑かったのか、何時もより顔が少し赤くなっている。

 

「ふぅ、結構時間かかりましたね。あれ?ヲ級さんはどうしたのですか?」

「ヲ級? 何か彼処に残るらしいぞ?」

 

 別れ際、これからどうするか話していると、どうやらヲ級も誘軍されていたそうだ。

 去り際に、此処に残れと泣き付くヲ級を引き剥がすのに一番苦労したのは余談だ。

 

「さて、と。これからどうする?」

「燃料は満タンですよ。これならどこまでも行け……ます……ね……」

 

 何故か、途中で言葉を途切らせるモモ。

 複雑な笑みを浮かべる彼女に疑問符を浮かべる乃黒だが、後ろを振り向くことで全てを理解した。

 大きな機械の破片のような物に、沈まぬようしっかりと捕まる人型の影。

 よく目を凝らすと、それは深海棲艦ではなく小さな女の子だった。

 

「えーと、これはデジャブってやつ?」

「ちょっと違いますよ。この子は……恐らく駆逐艦の響でしょう」

 

 白銀の髪をした少女……響は、自らの艤装に掴まって気絶していた。

 いや、掴まっているというより、絶妙な具合に服が引っ掛かり、浮いていると言ったところだろうか。

 大破している様子は無く、小破程度の傷だ。

 恐らく不慮の事故で気絶したか、自身のミスで気絶したか。

 

 ヲ級の時は無かったが、所々破けた服を着ている少女を見詰めるのは、致しか目のやりどころに困る。

 目覚めるまで待つわけにもいかず、仕方なく背負うことにした。

 

「よっこらせ、っと。……艤装を片手にでも案外軽いもんだ」

 

 思いの外軽い艤装を片手で持ち上げつつ、どうしようか考える。

 先程戦艦棲姫の所で補給したのは良いが、適当にほっつき歩くのは致し方ない。

 さてどうしたものか、と頭を掻く。

 

 ふと、響の方を見てみると、彼女の帽子に目が止まる。

 うっすらと、小さな文字で書かれているが、そこには『横須賀鎮守府』と書かれていた。

 

「横須賀、ねぇ……。さて、と。モモ、目的地は横須賀の鎮守府だ」

「りょーかいしました!!」

 

 

 

 

 

 

 




何か最後走り書きみてぇ

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