もう、八幡なのかもわからなくなってきたよ
‥‥45人か
現在、トールバーナの広場に集まったプレイヤーの総数だ。
「‥‥こんなに、たくさん‥‥」
俺の左後ろにいるフェンサーがそう呟いた。
確かに、この1ヶ月で2000人もの犠牲者が出ているなか、よく45人も集まったとも言える。
「初めてこの層のボスモンスターに挑戦するんでしょう?
全滅する可能性もあるはずなのに‥‥」
「いや、どうだかな‥‥」
俺の呟きにフェンサーがフードの奥から怪訝そうな瞳を向けてくる。
「自己犠牲の精神ってのより遅れるのが不安なんだよ」
「遅れるのが不安?」
「あぁ、死ぬのは怖いけど、知らないところでボスが倒されて先に進まれるのが怖いんだよ」
フェンサーが少し首を傾けると、
「‥‥それって、学年10位から落ちたくないとか、偏差値70をキープしたいとか、そういうのと同じモチベーション?」
‥‥大丈夫、俺は国語学年3位だ。数学は9点で学年最下位だが、なんら問題ない。問題ないよね?
「うん、‥‥まぁ、たぶん‥‥‥そうなんじゃないっすかね」
そんな、俺の言葉を聞くとフードの下の顔がほんの少し綻んだ。微かながら笑い声まで聞こえた。
迷宮区から助け出した俺に、感謝の言葉ではなく、罵声を浴びせてきたコイツが?‥‥ありえん
そんな考えを切るかのように、パン、パンという音が鳴り響く。
「はーい!それじゃ、5分遅れたけどそろそろ始めさせてもらいます!」
堂々たる喋り主の片手剣使いは、噴水の縁に助走なしでひらりと飛び乗る。
その動作だけで筋力・敏捷力ともにかなり高いことがわかる。
振り向いた片手剣使いを見て、一部が小さくざわめく。気持ちは解るぞ。なぜなら、そこにはイケメンがいた。髪が青く染められている。
そんなアイテムは無かったはずなので、レアドロップアイテムか、クエスト報酬なのだろう。
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!オレ《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
いや、SAOにジョブシステムなんてねぇーだろ‥‥
しかし、このコミュ力、リア充で間違いないな
心のなかでディアベルをナイト(笑)と位置付けよう
「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらったのは、」
少し間を空け、
「‥‥今日、オレたちのパーティーがあの塔の最上階へと続く階段を発見し、ボスの部屋に辿り着いた。」
どよどよ、と周囲のプレイヤーがざわめく。
驚いたなもうそこまでいっていたのか
「1ヶ月。ここまで、1ヶ月もかかったけど‥‥それでも、オレたちは、このデスゲームそのものもいつかはクリアできるんだってことを、始まりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。それが、オレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そいだろ、みんな!」
‥‥オレはそんな義務を背負った覚えはないんだが
そんな俺とは違い、他のプレイヤーは拍手や賛辞の言葉を送っている。
その時だった。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
歓声は1人の男性の一言でピタリと止まった。
声を上げた男は、その、なんていうかサボテン?のようなゴツゴツした頭をしていた。なにあれ?どうなってんの?
「わいは《キバオウ》ってもんや」
そう名乗った男が集まったプレイヤーを鋭く睨みつけた
「こん中に、5人か10人、ワビぃ入れなあかん奴らがおるはずや」
「奴らがなんもかんも独り占めしたから、1ヶ月で2000人も死んだんや!せやろが!!」
途端、重苦しい沈黙がこの場にのしかかった。
「ーキバオウさん。君の言う《奴ら》とはつまり‥‥元ベータテスターの人たちのことかな?」
「決まってんやろ、奴らはこんクソゲームが始まったその日にダッシュではじまりの街から消えよった。右も左わからんビギナーを見捨てよった。ウマい狩場やボロいクエストを独り占めして、ジブンらはぽんぽん強うなって、後は知らんぷりや。」
「‥こん中にもおるはずや。そいつらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられんし預かれん!」
なんだ、そんなことか‥‥
「わいはそう言っ「すまない、ディアベル。話を先に進めてくれー」
その瞬間、集まっているプレイヤー全員がこちらを凝視した。キバオウを至っては今にもブチ切れそうである
「おう、おまえさん。どういう気や」
「いや、だって、早く会議終わらせて帰りたいし‥‥それにこんな馬鹿げたことに付き合ってられんしな」
俺は盛大にため息を吐きながら口を開く。
「まず、第一にベータテスターに金やアイテムを吐き出させたら戦力にならない。お前がいうようにこの場に10人もいたら、35人だ。ビギナーだけで人数減らしてどうすんだよ」
「第二に約1万人ものレクチャー、おまえならできるのか?それとも、今からここにいる全員で教えに行くのか?」
そして、少し声量を上げ、
「まず、おまえがベータテスターじゃないっていう証拠はどこにある?」
この一言で先程まで沈黙を守っていたプレイヤーが立ち上がる。
「俺の名前はエギル。キバオウさん、情報なら最初からあったんだよ」
‥‥ふぅー、これで俺の役目も終わったな
さっさと帰りてぇーよ
そして、会議の終わりを静かに待った
次回予告!
会議をおえた一向は宿屋に向かう
数時間後、宿屋には2人の男の死体とそれを見下ろす黒い影が!
‥‥ふぅー嘘です