まあ、果たして何日続くかわかりませんが。
後、今回は特に何も進展しないのでタイトルに迷い、結局アルゴさんの名前にしました。
てな訳で初めに言いますが今回は戦闘なし。
シンジ君の羞恥回ですのでどぞ
仮想空間で気を失うのはどういう仕組みなのだろう。
気絶というのは脳の脳の血流が瞬間的に滞り、機能が一時停止する現象で、その原因とされるものは色々とある。
しかし、それ等は大概は肉体的な原因で、今回のレイピア使いのように仮想世界にフルダイブしている状態ではそのようなことはまずありえない。
ましてや自分たちの体は今病院にあるだろうし、健康状態に問題があるとも思えない。
では、なぜ?
考えられるとしたら、無茶な連戦による疲労から神経反射性の失神を起こした。
「つまり脳に負担を掛け過ぎて、脳が体の安全のために機能を一時的に停止した。 ってことでいいのか?」
「まあ、平たく言うとそうだな」
へ~、と思いながらキリトの話を聞く。
迷宮区から気を失ったレイピア使いを救出してから、数十分。
俺たちはレイピア使いの少女を所持していたカーペットの上に寝し、暇なので仮想空間での気絶の仕組みについて話していた。
とっ、言っても俺はほとんどキリトの説明を聞いているだけなのだが。
「それにしてもよ。 気絶するまで迷宮に篭るなんて自殺行為なことを、なんでこのレイピア使いさんやってたんだろうな?」
「それは俺にも分からない。 ただ彼女は何かやけくそになってる、そんな感じがした」
「……やけくそね~」
確かにそれは俺も感じていた。
彼女からは生きるために戦おうというより、どうせ死ぬのならこの世界に一矢報いてやろう。
そんな風に思えた。
「もったいないな。 あんなスゲー技術持ってんのに」
「ああ。 俺も同感だ」
俺とキリトは互いに頷く。
その時だった。
後ろから突然物音がし、俺は後ろを振り向く。
するとそこには先程まで気絶していたレイピア使いが、こちらに痛いぐらい鋭い眼差しを向けながら睨んでいた。
「よ、よぉ~。 よく眠れたか?」
おそるおそる声を掛けてみるが、レイピア使いの目は変わることなくこちらを睨み続けている。
恐ぇ~、ダッシュでこの場から立ち去りて~。
と、思っていると今度はレイピア使いが声を上げた
「なんで助けたの?」
「そ、そりゃあーなあ」
なんとなく分かる。
ここでもしも下手なことを言ったら俺は即座に切り捨てられる。
もちろん精神的に。
勘弁してくれよ、俺のライフはもうゼロよ!
と言うことでキリトの方をチラ見して、「お前が何か言ってくれ」とアイコンタクトを贈る。
そうするとキリトはやれやれと言ったような顔をして、レイピア使いに向かい
「別にあんたを助けたわけじゃないさ。 ただ、最前線に気絶するぐらいまで居たって事は、未踏破エリアをかなりマッピングしているはずだ。 それが消滅しちゃうのは少しもったいないと思ってね」
と言い放つ。
……なんと言うかキリト。
確かにこれなら切り捨てられるようなことにはならんと思うけどよ、何かひどくね?
「……なら、持って行けば」
レイピア使いは低くつぶやき、メインウインドウを開く。
最近ようやく慣れたのだろうか、少々ぎこちない手つきで操作しながらマップデータオブジェクト化し、こちらに放り投げてきた。
俺はそのマップデータを右手で掴む。
はずだったが、誤って弾いてしまい、マップデータは俺のすぐそばに落ちる。
めっちゃくちゃ恥ずかしい。
「それであなた達の目的は達成したでしょう。 じゃあ、私は行くわ」
と言い残し、レイピア使いはよろよろと立ち上がりながら再び迷宮に向かう。
その足つきは僅かにふらついている。
きっとまだ消耗は完全に回復していないのだろう。
と言うか回復するわけがない。
仮想空間で気絶なんてよっぽどのことだ。
恐らくこのまま止めずに行かせたら、今度こそ彼女は誰も居ない暗い迷宮で果てるだろう。
それこそ大気圏内で燃え尽きてしまう流れ星のように。
しかしだからと言って彼女を止めること等できるのだろうか?
そもそも俺たちは彼女のことについて何も知らない。
彼女の方も俺たちに何も言われる筋合いなどないはずだ。
つまり助ける義理もなければ、助けられる義理もない、と言うところだ。
だから俺たちは何も言わずにこの場を去るしか____
「ちょっと待てよ」
気がついたら言葉を発していた。
レイピア使いは俺の声に反応し、迷宮に向かう足を止めてこちらの方を向いた。
何をやっているんだ俺は。
なんの理由もなしに彼女を止めた所で、彼女は迷宮に行くに決まっている。
無駄なのだ、止めても。
なのに何故俺は止めた?
そんなことを考えているうちにレイピア使いは
「……用がないなら行くわ」
そう言い、再び迷宮へと歩いて行こうとする。
とにかく止めねば。
今までの疑問全てが吹き飛び、とにかく何か言おうと言葉を模索する。
しかし彼女を引き止められそうな言葉など何も浮かんでこない。
「(何か、何かないのか?)」
考えつかないままレイピア使いの足が動き出した時だった。
そんな時。
「今日の夕方、迷宮区最寄りの《トールバーナ》の町で、一回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれるらしい」
「……え?」
レイピア使いは再び歩を止め、後ろを振り返る。
俺もそれに続いて振り向く。
言葉を発していたのはキリトだった。
と言うより三人しかいないので当たり前だが。
「あんたも基本的にゲーム攻略のために頑張っているんだろ? だったら《会議》に顔を出してみてもいいんじゃないか? 幸い予定の時間には今から行けば間に合う」
キリトは言いながら、《トールバーナ》の町を指差す。
レイピア使いは行くか行かないかを考えているのか、数秒間じっと動かなかったが、
「……分かったわ」
と答え、会議に出ること宣言した。
俺はその時何故か心の中でホッとしている自分に気がついた。
「(俺はなんで安心したんだ?)」
またしても疑問が浮かぶが、今は頭の隅に置いておこう。
そう思いながら俺とキリトと謎のレイピア使いは《トールバーナ》の町を目指して足を進めた。
□ □ □ □ □ □
「ふぅ~、やっと着いたか」
森を抜け、そびえ立つトールバーナの北門をくぐりながらつぶやく。
ここに来るまでの間すごい気まずかった。
なんせ、レイピア使いは俺たちとある一定の距離をとって歩くし、会話も当然なし。
俺にとって、その時間は地獄だった。
「会議は街の中央広場で、午後四時からだそうだ」
キリトが門をくぐってしばらく歩いてからレイピア使いに言い、彼女はこくりと頷くと、俺たちの前を通り過ぎていく。
どうやら行動を共にするつもりはないらしい。
「妙な女だよナ」
「うおっ!」
突然、後ろから声が聞こえ俺は思わずヘンテコなポーズを取りながら振り返る。
そこに居たのは俺より頭一つと半分身長の低い女性プレイヤー。
「びっくりさせんなよ、アルゴ!!」
「にひひ、相変わらずシン坊は面白いナ」
ふてぶてしくけたけた笑うアルゴに、若干コノヤローと思ったがいつものことなのであえて何も言い返さない。
しかしその代わり、俺はアルゴにある質問をした。
「なぁ、アルゴ。 お前、あのレイピア使いのこと何か知ってんのか?」
「五百コル」
アルゴは五本の指を立てながら言った。
……いや、分かってはいたんだ。
アルゴは情報屋で、βテスターの時代から情報の信用度は高かった。
それはデスゲームと化したこの世界でも同じで、多くの人が彼女から情報を得ている。
しかし、情報を得るのにただでと言うわけにはいかない。
彼女から情報を得るためには、その情報に応じた《コル》、つまり情報料を支払わなければいけない。
それは今回のことも例外ではなく、あのレイピア使いの情報を知りたきゃ金をよこせという事らしい。
だが、生憎俺は女の子の情報を金で買うほど落ちぶれちゃーいない。
「残念だが遠慮するぜ。 なぜなら俺は紳士だからな!! ……ってあれ?」
大声で叫んだ俺だが、気づいたら二人の姿が見当たらない。
居るとしたら、俺のことをチラチラ見ながら小爆笑している周りのプレイヤーぐらい。
……これは、なんの罰ゲームですか?
羞恥心から、早く二人の居場所を探そうと辺りを見渡すと、路地を発見。
恐らくいつもの交渉のために、路地に場所を移動したのだろう。
俺はその場から逃げるように路地の入り込み、恥ずかしさを紛らわせるかのように走った。
しばらく進むと、奥の方にキリトとアルゴが見えた。
「お前ら、置いてくなんてひどいぞ!!」
半分怒り、半分涙目で二人の元に急ぐ。
が、今日は不運なのか目の前にあった小石に足をつまずいてしまう。
グラっと体が前のめりに倒れていく。
そして俺の顔はそのまま地面とキスすることに……
なっただろう、現実ならば。
しかしこの世界では違う。
俺は現実ではありえない反応速度で手を顔の前に。
そして、地面に着くと同時に思いっきり伸ばす。
すると、俺の体は宙に浮き、縦に一回転。
その動きは、傍から見たらオリンピック選手さながらの動きだろう。
そして俺は華麗に____
「うぐっ!!」
壁にキスした。
俺の体はそのままズルズルと落ちていき、そのまま地面にもキスすることになった。
しばしその場には沈黙が走る。
「お、おい大丈夫か?」
キリトが心配したのか、俺の元に駆け寄ってくる。
しかし、俺はキリトを手で静止する。
今こられたら、俺はもう立ち直れない。
数秒間無言のまま仰向けになり、ようやく立てるまでに回復したのでむくっと立ち上がる。
「まーた、キリトの剣を買取りたいってやつの代理交渉かよアルゴ?」
「まさかのなかった事にするつもりなのカ!?」
「なかったこと? なんのことだよ、アルゴ」
「……まあ、いいカ」
アルゴは何故か変な顔をしたが、俺は気にせずに彼女の話を聞いた。
「依頼主は剣の買取価格を二万九千八百コルまで引き上げるそーだ」
「だいたい、三万コルか。 相手さんも頑張るね~」
三万コルと言えば、今の段階ではかなりの大金だ。
普通、今の時期に武器にそこまで出す奴など居ない。
「こりゃあ、案外売ったほうが利があるんじゃないか?」
「いや、俺はどれだけ上積みされてもこの剣を売るつもりはないよ」
「はは、だよな」
俺もキリトと同じ立場だったら恐らくそう言うだろう。
今まで共に戦ってきた相棒を、そうやすやすと売ることなんか出来るわけがない。
それに買取たいと言う相手も怪しいしな。
「なあ、アルゴ。 買取りたいって奴の口止め料はいくらだっけか?」
「確か千コルだナ」
「千コルねぇ~」
口止め料とは、アルゴに代理で交渉させている奴の名前を伏せてもらうために予め払う金のことだ。
もしこちら側が正体を知りたいと思ったときは、相手以上のコルを支払う必要がある。
しかし、支払ったからといって必ずしも正体がわかるわけではなく、相手がさらにコルを支払えば、こちらもさらにそれ以上のコルを支払わなければ、正体を知ることができない。
「キリト、試しに払って見ないか? 金なら貸すぜ」
「いいや、遠慮しとくよ。 剣の取引で金を減らすなんて馬鹿らしいからな」
「そうかい」
俺としては、キリトの剣を買取たい奴の少し興味があったんだがな。
まあ、それでも俺が本腰を入れてまで知りたい訳じゃないし、第一俺が知ったところでほとんど意味がない。
「まったく、情報を売らないほうでも商売するなんてよ。 恐れ入るぜ」
「それがこの商売の醍醐味だナ! 誰かに情報を売ると、その瞬間に《誰それがなになにの情報を買った》ていうネタが生まれるわけだからナー」
現実では客の名前を明かすってのは犯罪に当たるわけだが、この世界はゲームなのでそういうのは一切適用されない。
つまり、彼女の客になる=名を売られてしまう。
ということになるのだ。
その代わり彼女の情報屋としての腕は超一流なので、文句のつけ所がない。
「まあ、どっかの女性プレイヤーが俺の情報を買った時は教えてくれ。 相手の情報全部買うから」
ため息混じりにキリトが言う。
「お! そんじゃあ、俺も頼むわ」
俺もそれに同調し、アルゴに頼むと彼女は愉快そうな笑い声を上げてから表情を改めた。
「んじゃ、依頼人には今度も断られたって言っておくサ。 この交渉は無理筋だ、ともナ。 ほんじゃまたな、キリ坊、シン坊」
ひらっと手を振り、身を振り返す。
だが、彼女はそこで何かを思い出したかのように立ち止まり、再びこちらを向くと
「さっきの話しなんだが、多分、シン坊の情報は売れないと思うゾ」
「は? 今それ言うかフツー!?」
「そんじゃナ~」
アルゴは、敏捷さをフルに使って表通りへと走っていった。
「ちくしょ~。 いつか仕返ししてやる」
拳をワナワナ震わせながら、密かに誓う。
そんな俺をよそにキリトはデジタルタイマーを見ていた。
「そろそろ会議の時刻も近いし、飯にしないか?」
キリトの言葉を聞いてか、俺の腹が空腹を訴える。
考えてみりゃー、まだ昼飯食ってないな。
「よし、今日はレストランでも行ってガツガツ食おうぜ!!」
キリトと無理矢理肩を組み、俺達は表通りへと足を進めた。
なんか気づいたら主人公がドジっ子に……。
あっ、それはそうと言ってなかったと思うのでいいます。
お気に入り登録して下さったみなさん、ありがとうございます!!
今頃かよと思うかもしれませんが、感謝してます。
それでは自分はクールに去らせてもらいます。