ソードアートオンライン 刀使いの少年   作:リスボーン

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仮想世界

第1層フロア・西フィールド

 

 

「オラァッ!!」

 

 掛け声とともに振り下ろされた剣が青いイノシシ《フレンジーボア》に命中し、HPバーを0にした。

 

 

 途端に《フレンジーボア》は断末魔をあげ、光の小さな欠片となり周囲に拡散し、俺の目の前に紫色のフォントで加算経験値の表示が浮かび上がる。

 

 βテスター時代に飽きるほど見たこの表示も、久しぶりに見るととても懐かしく感じられる。

 

 

「……本当に、帰ってきたんだな」

 

 

 ボソリとつぶやく。

 

 

 このゲーム《ソードアートオンライン》略称《SAO》は、『ナーヴギア』というヘルメット型の機械を被り、意識を仮想空間にとばし電磁パルスでアバターを操る。

 

 分かりやすく言えばゲームの世界に入り、自らがプレイをするような感じだ。

 

 

 今までのゲームとは圧倒的に違うこのゲームは、発売前から知らない人はいないと言われるまでになり実際に予約は即終了、ゲーム店にも長蛇の列が発売3日前からできたほどの人気っぷり。

 

 

 俺はβテスターと言う稼動試験参加者に選ばれており、その特典の正式版パッケージの優先購入権がプレゼントされ、楽にこのゲームを手に入れられたが、もしβテスターに選ばれてなかったら間違いなくここにはいなかっただろう。

 

 

 ログインする前、《SAO》を買いに行っていた数人の友達とボイスチャットで話しを聞くと、まさに戦場だったたと語っている。

 

 

 結局その数人の友達で買えたのは一人しかいなかったのだが、そいつも今日は「やらないと」といっていた。

 

 一体ゲーム店で何がおこったのか想像するだけで恐ろしい。

 

_________

 

 

 

 

「っと、もうこんな時間か」

 

 

 ふと空を見ると、もうだいぶ日が落ちてきていた。

 

 

「そろそろ帰らないと母さんや妹にどやされんな」

 

 

 ちょうどここ等のモンスターは全て狩り尽くし、しばらくはし出現(POP)しない。

 

 

「(腹も減ったし、そろそろ一度ログアウトするか。)」

 

 

 人差し指と中指をまっすぐにあげ、振り下ろす。

 

 すると俺の目の前に《メニュー・ウィンドウ》が出現した。

 

 コントローラのないこのゲームでは、こういったアクションなどでメニューを開く。

 

 

 当時βテスターだった頃の俺は、チュートリアルをすっ飛ばしてゲームを始めたため、《メニ

ュー・ウィンドウ》の開き方が分からず、半日間ログアウトできなかった。

 

 

 そんな苦い記憶を思い出しながら、メニューの一番下にあるログアウトボタンを押そうとした

時だった。

 

 俺の指が途中で止まった。

 

 いや、止まったというより止めるしかなかった。

 

 なぜならそこに押すべきものがないのだから。

 

 このゲームにはなければいけない、絶対がつくほどの物が……

 

 

「……馬鹿な、そんな訳あるか!!」

 

 

 自分に言い聞かせるように怒鳴り、今度は上から順に探す。

 

 が、やはりどこにも見当たらない。

 

 だったら、GMコールならどうだと、コールしてみるが反応はない。

 

 

「どうなってんだ……」

 

 

 空を見ながらつぶやく。

 

 俺の知っている限りログアウトする手はもうない。

 

 ……いや、よく考えたらあった。

 

 現実(リアル)で、《ナーヴギア》を外してもらえばいい。

 

 それなら万事解決で、この事態は収まる。

 

 幸い、もうすぐ俺の家では夕食の時間だ。

 

 あと数分もしたら妹が呼びに来てくれるだろう。

 

 そしてまだゲームの中に居る俺に加減しらずの数発の拳をくらわせ、『ナーヴギア』を外して

くれるはずだ!!

 

 ……ただじゃ済まないな。

 

 ま、まあ、別に焦っても変わらないし、とりあえず《始まりの町》に戻るか。

 

 俺が歩き始めようとした時だった。

 

 

 リンゴーン、リンゴーン

 

 

 突如、不気味な鐘の音がこの世界に鳴り響いた。

 

 なにかこれから起きると暗示させるように。

 

 直後、俺の体が青色の光に包まれる。

 

 この現象はベータテスター時に何度も見た。

 

 結晶系アイテム《転移結晶》による《転移》(テレポート)。

 

 だが、生憎俺はそんな物使ってないし、第一にこの層で入手は不可能のはずだ。

 

 運営側の強制転送にしても、アナウンスがないのが引っかかる。

 

 

「一体この世界(ゲーム)で、何が起こってるんだ?」

 

 

 その言葉を最後に俺の視界は完全に光に包まれる……

 

_________

 

 

 

 光が晴れると、俺は《始まりの町》にいた。

 

 いや、俺だけではない。

 

 俺の他にも、続々とプレイヤーが《転移》してきている。

 

 ざっと見ただけでもその数は5000人は軽く越していた。

 

 恐らくこの街に全プレイヤーを集めているのだろう。

 

 《転移》してきたプレイヤーは皆各々に不満を叫んでいた。

 

 

「どうなってんだ」「早く出せ!!」「さっさと説明しろ」「私、怖い……」「大丈夫だよ、僕が守るから」

 

 

 ……最後の方の奴らはくたばれ。

 

 

「あ……上を見ろ!!」

 

 

 誰かが言い出したその言葉に俺以外のプレイヤー全員が上を向く。

 

 俺も少し遅れて上を向くと、空の一部分だけが血のように赤くなっている。

 

 しばらくすると、その血のような赤はすごいスピードで空を覆い、一分足らずで空を赤く染め上

げた。

 

 さらに赤い空の中心から赤いどろりとした雫が垂れ落ち、姿を人型に変え、広場中央に降臨した

 

 恐らく運営のGMマスターのアバターだろう。

 

 そしてそいつはここに居る全プレイヤーに低く、落ち着いた声で言葉を発する。

 

 

「ようこそ、私の世界へ」

 

 

 

 

 その後こいつは、色々な事を説明した。

 

 自分はこのゲームの開発者の茅場晶彦であること。

 

 ログアウトできないのは、仕様であること。

 

 もし外部からの解除を試みた場合、脳を焼かれること。(これについては、既に犠牲者がでて居

るらしく、テレビで注意を促しているため、問題はない)

 

 第百層のボスを倒すまでここから出れないこと。

 

 そして、この世界での死は本当の死を意味すること。

 

 馬鹿らしい。

 

 こんなことはでたらめだ。

 

 周りのプレイヤーは、皆こういうが、内心では恐怖を感じている。

 

 

 「それでは、最後に、諸君にとってこの世界が唯一の現実あるという証拠をみせよう。諸君のア

イテムストレージ、私からのプレゼントが用意されている。確認してくれたまえ」

 

 

 それを聞き、俺は右手の指二本を真下に向けて降る。

 

 出現したメニューから、アイテム欄のタブを押し、表示された一番上のアイテムを見る。

 

 アイテム名は、手鏡。

 

 意味が分からなかったが、とりあえずオブジェクト化させ、手に取った。

 

 覗き込んで見えるのは、俺の自信作のイケメンアバター。

 

 自分でも上手くできたと改めて思いながら、同時にこのアイテムの意味が分からないことに、不

安を感じた。

 

 しかしすぐに理解できた。

 

 鏡が急に白い光を放出し、体を包む。

 

 ほんの2、3秒間視界がホワイトアウトし、すぐに元の風景に……いや、違う。

 

 世界も建物も変わってはいない。

 

 ただ、ひとつだけ変わっているものがある。

 

 俺はすぐに手鏡を下に放り投げて、周りを見る。

 

 今までいた、プレイヤーの顔がほぼ全員変わっている。

 

 俺にはすぐ分かった。

 

 あのアイテムは、現実の自分の姿をアバター化するアイテムだと。

 

 

「……以上で《ソードアートオンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー

の諸君_____検討を祈る」

 

 

 最後の言葉を機に、あのアバターは消え、この町も本来の姿を取り戻した。

 

 だが、約一万人のプレイヤーは違った。

 

 ほぼ一斉に、様々な感情を込めた叫びが、大ボリュームでこの世界に響き渡る。

 

 怒り、嘆き、苦しみ等が叫び声とともに伝わってくる。

 

 俺はその叫び声に耐えられず、両手で耳を抑えながらこの広場から逃げるように去った。

 

 

 

_______

 

 

 

 複数あるうちの街路に入りようやく叫び声が聞こえないところまで来た。

 

 俺は静かに壁に腰を掛けて、崩れるように座る。

 

 

 「(ここから出るには100層まで攻略するしかない、か)」

 

 

 ベータテスターの時も、ろくに攻略できなかったのに、果たしてそんなことが可能なのか?

 

 だったらここで助けを無難に待つべきなんじゃないのか?

 

 様々な不安が俺を襲う。

 

 考えても、考えても不安しかない。

 

 

 「ここに居てもしょうがないか……」

 

 

 俺は静かに立ち上がり、両手で自分の両ほほを叩く。

 

 せめてこの世界でできることだけはやろう_____そう思いながら。

 

 

 「そうと決まればまずは、資金集めだ」

 

 

 メニューを開き、そこからマップを表示する。

 

 目標場所は《ホルンカの村》

 

 

 「そんじゃ、行くか」

 

 

 俺は西門の方角にゆっくりと歩いて行った

 




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