今回は短いですけど、私の尊敬する人物の引用があります。
マジでこの人の文章は好きです。
一読を薦めしますよ!!
では、本編です。
ペンと紙を手にして、暫く青年は目を閉じ思いを馳せていた。
そう、彼の尊敬する人物に対してである。
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学生の頃でしょうか?
貴方の恋文を読んだのは。
当時のオレは、恋愛なんてした事がありませんでした。
ましてや、誰かの事を本気で好きになった事など一切ありませんでした。
でも、オレは貴方の恋文を読んで感動したんです。
手が震えたのです。全身が粟立つような衝撃を受けたのです。
貴方は天才だ。
出来ることならもっと生きて欲しかったです。
もっともっと貴方の本を読みたかった。
ごめんなさい、これはワガママですね……
貴方の恋文は、直球に好きだとか、愛しているとか、そんな文章は無かった。
好きですって言葉はありましたけど……
でも、読みだけで貴方の文《ふみ》さんに対する思いがオレの中に流れ込んできたのです。
貴方の宝石の様に美しい純粋な気持ちがです。
どうして、文字だけでこうも思いを表現できるのですか?
いや、本当はそれ以上に好きなんでしょうね。
ただただ、好きだという気持ちでいっぱいだったんでしょう?
オレも、貴方の恋文を読んでから、もし、誰かの事を好きになるのならば……きっと貴方の様に誰かを好きになりたいと思いました。
貴方の恋文は、世界一だ……
ふふっ、なんの因果でしょうか?
貴方の恋文を送った相手の名前は『文(ふみ)』オレが恋文を送る相手は『文(あや)』
漢字が一緒ですね。
でも、オレは貴方の様に自分の気持ちを文章にして伝える技術を持っていないのです。
貴方の様に美しい文章などオレにはとてもとても、書くことはできないのです。
だから、オレはこんな恋文を書こうと思います。
オレも、貴方の様に自分の気持ちを載せることができるでしょうか?
ねぇ……芥川さん……
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クスッと笑って青年は、恋文を書き始めた。
そして書き終わる。
その間ほんの数秒である。
「ちょっと、書くの早いわね!?」
目を丸くして紫は青年に言った。
「これで充分です、これ以上書いたら、何だか余計な事まで書きそうだ、だから、溢れそうなあの子への思いを……この二文字に込めました。」
ニコッと青年は紫に微笑む
余りにも短い恋文とは呼べないかも知れない恋文である。
たったの二文字。
きっと世界一短い恋文だろう。
けれど、彼にはそれで充分だった。
青年は、それを折って大事に枕の下に隠した。
「不器用な貴方らしいわね、でも、貴方のそんなところ、私はとても気に入ってるのよ?」
ニッと胸を笑って青年を見て、そしてスキマの中へと消えてゆく
「さっきからうっさいよ?」
青年は、何もない窓辺に文句を言った。
其処にいる鴉の鳴き声が耳障りでならない。
「てめぇ、肉を見る様な目で見やがって……」
ムッとした表情で青年は、窓辺を睨む
ただ、そいつの翼があの子の綺麗な翼と重なって
ちょっとだけ寂しくなった。
「次来た時は、謝らなくちゃな……」
ふぅと青年は、息を吐いて。
遠い目をしたのだった。