博麗神社の縁側にて……
足をプラプラさせながら青年は、風に当たっていた。
よくもまぁあんなにドンチャン騒げるなぁ……
何度か吐いたらかなり楽になってきた。
まだフラフラしてっけど……
だから酒は嫌いなんだよ、そんなに美味しく感じないんだよな
ジュース飲んだ方が美味いと思うんだけど?
それはオレがガキだからなのかな?
「どうだい?楽になったかい?」
ニッと笑って萃香は、青年の隣に座った。
「ウゲッ、もっ、もう飲めませんよ!!」
思わず青年は、身構える。
それを見て萃香は、笑った。
「あっはっは、軽くお仕置きしたつもりだったけど、やり過ぎたか?」
「お仕置き?なんすかそれ、オレとアンタは初対面でしょ?オレはアンタに何も悪い事してないと思うんですけど?」
ムッして青年は、萃香に問うた。
萃香は、青年の方を見てハァと溜息を一つ吐く。
「気に入らないんだよ……」
「なっ、何をいきなり……」
萃香の返答に対して何が気に入らないのか全く分からない。
困惑した表情で青年は、萃香を見る。
「あたしは、嘘つきが嫌いなんだ!!」
「嘘つき?別にオレはアンタに嘘なんて……」
「違う、あたしには嘘をついてないさ、お前はお前のここに嘘をついてる、それが気に入らない……」
スッと萃香は、青年の胸を指差してチョンチョンと突いた。
それで、青年はもっと困惑した。
「別に嘘なんて……」
「霊夢に聞いたよ、あの天狗の記者の事……好きなんだろ?でも、自分から身を引かないといけないと思ってる。色々あって思い悩んでるんだろ?お前の過去なんて知らないし、そんなものをズルズルと引きずりながら生きてるお前が、あたしは本当に気に入らないんだ。」
「…………」
「オレは、あの子を笑顔にする事なんてできないと思います、それに、オレはもっとあの子の側に居たいと思っちゃってます。でもね?
オレは今、人間なんです、あの子は妖怪だ。種族も生きる時間も、何もかも違うんですよ……オレはあの子の側に長くは居られないし、天狗にだってなれません……叶わない恋というやつでしょうか?いや、叶ったとしても待ってるのは悲しい結末だと思います。」
「ほぅ?」
「オレはあの子を悲しませたくない……」
「なるほど、それがお前の本音かい……」
「はい、酔っ払いの妄言ですよ……」
ふぅ〜と息を吐いて青年は、外の景色を眺める。
萃香は、暫く考え込んでスッと立ち上がった。
「他人の色恋沙汰に口挟むのも野暮だけどさ?それを承知で一言……酔っ払いの妄言だ……」
「なんすか?」
「かっこつけるなよ……」
そう言い残して萃香は、霊夢や魔理沙達のドンチャン騒ぎの中に戻っていった。
「分かってますよ……かっこわるいことくらい、でもね?オレはなによりも、あの子が大切なんですよ…萃香さん、アンタは悲しい結末になるなんて誰が分かるんだって事が言いたいんでしょ?分かってますよ……分かってます。きっと、あの子に想いを伝える事が正解でしょう。オレの取るべき行動の模範解答なのでしょう……でも、幸せになれない男は、誰も幸せになんてできないんです。オレにそんな大層な力などないのですから……」
久しぶりに青年は、煙草を口に咥えて火を付けた。
フゥ〜と吐いた白い煙が虚空に霧散する。
「不味い煙草だな……」
少し胸の辺りがズキッとするけれど、もうこれにも慣れた。
あとは、耐えるだけだ。
オレはもう良いんだよ、幸せじゃなくたって……
幸せにじゃなくたって生きていけるんだ。
それで十分だろう?
「な〜に、辛気臭い顔してんのよ!!」
バシィッと背中を叩かれた。
振り返ると霊夢さんと魔理沙がいた。
「知ってるか?そんな顔してため息ついてたら幸せが逃げちまうんだぜ?」
酒瓶片手に魔理沙は笑う。
この人達は凄いな……なんでそんなに明るくいられるんだ?
貴方達は悩み事が無いのか?
いや、違うな……
貴方達は知ってるんだ。
悩んだって意味の無い事を……
だから、ウダウダ考えずに前を向く。
凄いよ……
「霊夢さん達は凄いですね……前向きでいられて……オレはいつだって後ろ向きだ……オレも、霊夢さん達みたいになりたい。」
「ったく悩み過ぎよ……でもね、ずーっと前を向いて歩いてたら転んでしまうわ、たまには下を向いたり、振り返ったりするのも悪いことじゃないわよ」
「大体さぁ?私や霊夢が凄いってクロは、羨ましがるけど、お前はお前にしかなれないんだぜ?どうやったってな……悩んだって良いじゃないか、悩むのがお前なんだよ、お前自身の持ってる性質なんだ、もっと、自分を大切にしろよな〜他人ばっかり気にしてさ」
霊夢と魔理沙は、酔ってはいたが真剣な顔で青年を見つめていた。
青年は、俯き気味に彼女達の話を聞いている。
「大切なんです……オレ以上に、みんな大切なんです、きっとこれもオレの持ってる性質なんでしょうね……」
性質は困った顔をして笑った。
「ったく危なっかしい性質だな?天狗から聞いたぜ〜、死にかけたんだってな?あんまり……無茶するなよ……」
「クロ、アンタはもう誰も守らなくたって良いのよ……大丈夫、何か異変があったら……私が解決するし、それに、私がアンタの大切な人達を守るから……博麗の巫女に任せなさい。」
霊夢は青年に微笑みかけた。
「私だってそうだぜ?」
ニッと笑って魔理沙も青年を見る。
それを見て青年は、微笑んだ。
悪くないな……
オレは一人じゃないって事か……悪くないな。
人に恵まれてるよオレは、これもあの子のおかげだ。
ありがとう。
青年は、夜空を見上げて手を伸ばす。
綺麗だなぁ……オレの元居たところじゃあ、こんな夜空は見られなかった。
ここに来て……良かった……