東方風天録   作:九郎

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起源にして頂点

ダランと両腕を垂れ下げ、青年は、ガタガタと足を震えさせながら立ち上がる

 

体に力を入れたからだろうか?

傷口からボタボタと血が滴った。

 

「まだ死んでねぇのかよ!!」

驚いた様子で黒狼は青年を見た。

 

「まだ、死んだらダメなんだ……まだ……」

 

 

「お前が死んでも誰も悲しみやしねぇぞ?天狗の面汚しが……」

ペッと唾を吐き捨てて黒狼は、刀を構えた。

 

内心、驚いている。さっきの技を受けて立っている奴はそうは居ない

 

並みの天狗なら倒れる筈なのに……

 

コイツ……

 

黒狼の頬を汗が伝った。

 

 

絶望的な状況で青年は、自分の中に芽生えていた斬り合いたいという衝動を心底恨んだ。

 

逃げるべきだった……

生きたいのならば逃げるべきだった!!

 

クソッ馬鹿じゃねぇのオレ……

 

オレが死んでも悲しむ奴は居ない……か……

 

霖之助は泣くだろうな……きっと泣いてくれる。

 

あの子は……泣くかな?

 

泣かないよね? 泣かないさ……

 

 

それで良いんだ……

 

あの子が泣いてるとこ、見たくないから……

 

でも、側で笑っているところをもっと見たいんだ……

 

側にいちゃいけないと思うけれど……

 

側じゃなくたっていいや、ただ君が笑ってくれればいいんだ……

 

笑った顔……もっと見たいんだ。

 

背水の陣とはこの事か……足掻こう、本気で足掻こう。

 

オレの全てを……全てを賭けて。

これで死んでしまっても後悔の無いように、死ぬ気で…… それでいて、生きるために……足掻くんだ!!

 

 

グッと青年は足に力を込めた。

 

全てを乗せて、ただ真っ直ぐに突っ込もう

大剣は爆発の拍子に何処かへ飛んでった。

 

今は体が軽いんだ……

 

ハッ、特攻する気分だな

 

神風かよ……

 

 

一つこれに技名をつけるならば……うん、そうだ

 

『桜花』[おうか]……桜花にしよう

 

 

 

桜花は凄いよ、戦艦を真っ二つにしたんだ。

 

命を賭てるんだからそれくらいでも、足りないくらいだけどさ……

 

さて、行こうか……

 

地面を蹴って黒狼に向かう青年の突進は……

 

 

「ガハァ……」

 

ドンッ……

 

音 を 置 ざ り に し た …………

 

 

 

青年は、頭から黒狼の鳩尾に突っ込んだ。

 

黒狼は、反応する事さえできなかった。

 

 

青年の頭から血が流れてきた。

なにやら硬い物に当たった様だ。

 

 

「ガハァ、グッ……オエェェェ」

 

黒狼は、悶絶しながら嘔吐する。

暫く悶絶した後に、ヨロヨロと立ち上がる。

 

「クソッ……」

 

 

「こいつが守ってくれた……」

スッと黒狼は、服の内側に忍ばせた紅葉柄の鞘に入った小さな小太刀を青年に見せた。

 

 

 

「運が悪いな……」

 

 

「運が良かったぜ……お前名前は?」

 

「殺す奴に聞いてどうするよ?」

 

 

「覚えといてやるよ……」

 

 

「クロ……」

 

 

「オレは、祇園黨司《ぎおんとうじ》だ……」

 

 

「ハッ、刹那で忘れるね……」

 

 

「あの世で自慢しろよ、オレはいずれ、風天衆の隊長になる男だ……」

 

 

「風天衆?」

 

 

「天狗組織の1〜7隊まである特殊部隊だ……天狗組織の切り札、一人一人が鬼にも匹敵……クッ、長話をし過ぎた、サヨナラだ……」

黒狼は、刀を青年に向けて振り下ろそうとした。

 

「お〜い、その辺にしとけ」

黒狼の後ろの木の陰から老人が顔を出した。

ゾッと黒狼の背筋が凍った。

 

何だ今のは?斬られたのか?

いや、斬られていない……斬られたように感じたんだ……

 

「誰だアンタは?邪魔するなよ!!アンタも斬るぜ?」

 

 

 

「ほう?斬るのか……いいのかお前?さっきからワシの間合いに……入 ッ テ イ ル ン ダ ガ ……」

 

 

ニコ〜と老人は笑って黒狼を見た。

 

ビリビリビリビリ!!

と威圧感を感じて黒狼はよろめいた。

 

それを見て老人は笑う。

 

「お前は、10点じゃ」

 

老人は懐から紙と筆を取り出して紙に10点と書いて黒狼に貼り付けた。

 

「10点だと……舐めやがって!!」

 

 

「怒るその意気や良し、他の雑魚天狗どもは1点や2点じゃ……そこに倒れとる男置いて去れ、何なら儂が相手になるがの?」

 

 

「クッ……」

黒狼は老人を睨んだ。

老人は、それを無視して青年を見下ろして、紙に零点と書いて青年に貼り付けた。

 

 

「ハッ、0点とか初めて取ったわ……」

自嘲気味に青年は笑う

悔しさが隠しきれてなかった。

 

あいつが10点でオレが0点かよ……クソが……

 

それを見て黒狼は、クッと笑って青年に

 

「じゃあな、生きてたらまた会うかもな0点……」

 

と言って去って行く

 

「クソッ……悔しい、初めてだこんなに悔しいの……」

 

 

「最後のは良かったぞ……良いセンスだ……」

 

 

「命助けて貰って言うのはなんなんですが……なんかその口調ワザとらしいですね〜オレっ、猫被ってる奴と皮被ってる奴嫌いなんすよ〜」

 

タラ〜と口から血を垂らしながら青年は言った。

 

「ア"?何だとコラ?」

 

ギロリと老人は青年を睨んだ 。

 

それを見て青年はクスッと笑う。

 

顔や歳が口調と一致してないのがおかしくておかしくて……

 

まるで、地元のヤンキーの先輩と話してるみたいだ。

若々しさを感じる。

 

クソ爺なのに

隠そうとしてるけど隠しきれてないじゃないですかww

 

 

「あ〜目の前が霞んできたなぁ、思ったより傷は深そうだ……今度こそ死ぬのかなぁ……」

 

ガクッと青年は気を失った。

 

「ふんっ、クソガキが生意気言いやがる……だだ、お前は自分を0点だと言ったがオレが付けた点は、零《ゼロ》点だぜ? その傷だと3日は、死線を彷徨うな……10点は強かった……また会おうや……ただし、生きてたらだけどな……」

 

スタスタと老人は去って行った。

 

 

「良いセンスだ……オレと同じ世界が見えてる奴に初めて会った、フッ……長生きしてみるのも悪かねぇな……」

 

 

 

 

 


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