それでも自己満足なので書き続けますけどね
「見ちゃったか……多分、そうするだろうと思ってたけど……ごめんね、キツいもん見せちゃったね……」
困った様に微笑んで、青年は、キタザワの両の目から伝った涙を拭う。
そして、もう一言
「ごめんね……」
と呟き、青年は、話を続けた。
「オレ、鴉に化けて見てたんだ……キタザワ君がこの世界に入ってきたところ……ホラッ、キタザワ君、鎖を地面に刺してたでしょ?よく分からない言葉を喋りながらさ?んで、その後、日本語喋りながら変な被り物を付けた……恐らく、何かを読み取ったんじゃないかなぁ?と思った訳さ、だから、オレの読みが正しければ、きっとここでもやると思った……やるように誘導してたんだ……」
「…………」
キタザワは、静かに青年を見つめていた。
キタザワ自身、青年に対して感じていた違和感の正体に気付き、薄々感づいてはいたが、青年自身の口から理由が聴けたことを内心安堵していた。
「利用する様な真似してごめん……大切な友達なのに……でもさ?どうしても、どうしても覚えてて欲しかったんだよ……あの子の生きていた証を……オレ、あの子の事、幸せにしてあげれなかったから……だから……せめて、誰かの記憶の中で生きてて欲しかったんだ……」
「その為に、僕に近づいたって事ですか?」
「うん、8割型それが目的だったよ、残りの2割は文に頼まれた取材かな……最低だろ?オレは自分の目的の為に……キタザワ君を利用したのさ」
ヘヘッと青年は笑う。
その様子を見てキタザワは、変な笑い方だ……
と哀れむ様に青年の作り笑いを見つめた。
青年はというと、罵られ、殴られても仕方ない……嫌われても仕方ないと半ば諦めつつ、真に彼と友人でいるために、青年は洗いざらい話す事にした。
「クロさん……変に悪役ぶるのやめて下さい、僕は全然気にしてませんし、それに……クロさんがどれだけあの子の事を愛しているのか……よく分かりましたよ……」
変に悪役ぶるな……か……
前にあの子にも言われた台詞だな……
違う、違うんだよ……キタザワくん……
オレは悪役なんだ……本当にキタザワくんと友達になりたいのなら、初めから嘘なんて吐かないし、利用なんてしないだろ?
オレは、君よりも伊織を優先したんだぜ?
もっと怒ってくれた方が、オレの気も晴れるのに……
青年は優しく微笑むキタザワを、哀しげに見つめていた。
「そっか……嫌な物……見せちゃったよね?ごめん、例え嫌われても、恨まれても……キタザワ君の心の片隅にあの子が居たっていう記憶が有れば……あの子も少しは浮かばれると思ったんだ……」
「誘導されてたとしても、勝手に覗いたのは僕です……それにクロさん……伊織くんは、不幸せじゃあなかったと僕は思いますよ?だって、物凄く幸せそうな表情でしたから……」
「その表情を……オレは直視できなかったんだ……完璧な父親になろうともがいて……もがいて……変にカッコつけて……カッコ悪い自分を隠そうとした……今の自分が嫌いで嫌いで仕方なかったんだ……オレなんか死んでしまっても構わない……そう思ってた」
遠い目をして、青年は空を見上げる。
この空の更に先から……あの子はオレを見ているのだろうか?
もし見てくれているのなら……どうか笑ってくれまいか?
オレは……君の笑顔が全てだったのだから……
何を犠牲にしてでも……守り抜かなきゃって……
そう思ってたんだけどな……
例え、世界が終わっても……
「今だって死んじゃってもいいやって思ってませんか?」
刺す様なキタザワの質問に、青年はビクッと肩を振るわせる。
「どうだろうね?」
少しの沈黙の後、青年は質問を質問で返した。
「射命丸さん……きっと悲しみますよ?」
畳み掛ける様に、キタザワは問う。
「うん……」
苦笑いして、青年は答える。
「僕だって悲しいですよ!!」
「ありがとう……」
ハハハと後ろ頭を掻きながら、照れ臭そうに青年は笑った。
しかし、キタザワには、その笑みの裏に深い哀しみが隠れている事が良く理解できていた。
「死んでしまってもいいやって思っちゃだめです!!クロさんは、優し過ぎるんです!!もう少し、他人の事ばっかりじゃなくて自分を大切にしなくちゃ……」
「分かってるよ……オレが死んだら文も悲しむ、伊織だってそんな事は望まないと思うし……それに、キタザワ君も悲しいらしいし……こりゃ、辛いけど生きないといけないなぁ……」
ヘラヘラと悲しげに笑いながら……青年は、キタザワを担ぎ飛び立った。
まるで逃げる様に……
小さく
「うん……そうだよね……」
と青年は呟いた。
別に死にたいなんて思っていないんだ。
ただ、どう生きればいいのか分からない。
それだけなんだよ……
心の中で青年は、呟いて自身の黒い翼を見つめる。
奇形の翼だ。
あの子の綺麗な翼とは大違い。
あの子は自由に空を駆ける。
大きな空を窮屈そうに縦横無尽に駆ける。
オレは違う……
まるで、見えない鎖に繋がれた囚人だな……
青年は、キタザワを抱えながらヘッと自嘲した。
そして……マヨヒガに着くまで、青年は、無言だった。
ずっと遠い目をしていて 、時折、空を見上げて目をパチパチと瞬いていた。
ピピッと快晴なのにキタザワの頬に水滴が掛かる。
キタザワは、誰にも聞こえない声で
「見栄っ張り……」
と呟いた。
そして……
「これで取材終了で〜す!!ありがとうございました!!新聞出来たら届けに行くね!!」
先ほどの哀しげな表情が嘘の様に、ニコニコと笑いながら青年は、キタザワを見る。
営業用の笑顔だ……
「ハイ、楽しみにまってます」
キタザワもニッと微笑み返した。
キタザワは、安堵した。
また、彼に会う事ができる、僕の力は及ばないかも知れないけれど……クロさんの背負った物、少しでも軽くしてあげれたらなぁと思った。
キタザワにとって彼は大事な友人の一人なのだから……
「あっ、そうそう、キタザワ君……もし、困った事があったり自分がピンチの時……大きな声でオレの名前を呼んでよ…………いや、心の中で呼ぶのも可!!どんな時でも、駆け付けるからさ……それに、オレ、キタザワ君の事殺さないといけないかも知れないって言ったじゃん?多分……今なら逆に殺されちゃうかな……『そうなっちゃった』から……」
儚げに青年は、微笑んだ。
キタザワは、少し照れ臭そうに後ろ頭をかく。
「クロさん、きっと忘れませんよ……貴方達が必死に生きた証を……」
「うん……」
にっこり笑って青年は飛び立った。
「『貴方達』……か……贅沢だよ……」
飛びながら青年はフッと口角を上げていた。
「さて、文になんて怒られるかねぇ〜困った困った……」
少し嬉しそうに青年は、笑顔で呟く。
正午過ぎの輝く太陽が青年を照らして、太陽の光と青年の黒い翼が対象的なコントラストを生じ、優しい風が辺りを吹き抜けた。