東方風天録   作:九郎

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手抜きしたつもりはないんですけど……
令和になる前にひと段落つけたかったもんで……急ぎの投稿になってしまいました。
クオリティの方はあまりよくないかと……

さて、令和になったらクロスの方を頑張りますよ!!


里に最も遠い天狗

ペタンと霊夢は尻餅をついた。

 

まだ、息が荒い。

 

目の前に倒れた瀕死の青年、とても穏やかで、優しく微笑んでいる様に見えた。

 

ついさっきまで、殺し合いをしていた相手には思えない。

 

「最後に立ってたのは私……でも、勝負に勝ったのはあんたよ……でも……」

 

ハァ〜と大きな溜息をついて霊夢は、青年を見る。

 

霊夢の霊力は、もう尽きた。

 

もう青年にとどめを刺す事はできない。

 

フッと霊夢は笑った。

 

「見てるんでしょ?どうするのこれ?私はもう戦えないわよ?」

霊夢は虚空に向かって言った。

 

「してやられたわね……この子、本気でこの幻想郷を滅ぼす気でいるんだと思ってたわ……」

 

 

「ささかやな仕返しのつもりなんじゃない?あんたに良いように使われてるから……」

 

「手痛い仕返しね……恥かいたじゃない……」

 

「こいつの事、どうするの?」

 

霊夢の問いに紫は、答える事なく厳しい表情で青年に向けて手をかざした。

 

「ッ!!」

霊夢は、紫を止めようとするも体力の消耗も激しく、ガクッと膝が折れて立ち上がる事が出来なかった。

 

 

 

「待ちなよ」

 

 

男の声が聞こえた。

 

聞いたことのある声だった。

 

「何しに来たの?」

冷淡に紫は、男に問う。

 

「友達を助けに来たのさ、だって彼は無実だからね」

 

「何を言ってるの?この子は里の人間を殺したのよ?」

 

「殺したね……でも、殺したのが里の中じゃなかったとしたら、その辺の妖怪が人間を襲うのと同じ事だよね?」

 

 

「貴方……何を?」

 

怪訝な顔をして紫は、霖之助を見た。

 

霖之助は、不敵な笑みを浮かべつつ続ける。

 

「里の外で死んだんだよ……あの幼子の家族の2人……1人は里のギリギリ外だったし……もう一人は……そう、まだ息があったんだ、でも、何を思ったか里の外まで出て行って死んでたんだよ。 一体、何を考えてたんだろうね〜妖怪の臓器を薬として食べる人の気持ちは分からないな〜、それに、君はクロ君がその人達を殺すところを見たのかい?それに、その人達が死んだのをちゃんと確認したのかい?してないだろう?証拠なんてない……つまり『そういうこと』さ」

 

それを聞いて紫は、チッと舌打ちをする。

確かに、クロが里の人間を殺すところは誰も見ていない。

だが、里の中にクロの殺した男の死体があるはず、それが動かぬ証拠だとおもっていたからだ。

 

 

「貴方が運んだの?」

 

低い声で紫は問うた、しかし、霖之助は少しも物怖じする事なく答える。

 

「さぁ?知らないね……でも、彼は里で人を襲ったりしてない……だから、今、不当に殺されようとしてるんだ。」

 

 

「でも、この子はこの幻想郷を滅ぼそうとしたのよ?」

紫は、この問いを愚問だと思った。

何故なら返ってくる言葉は殆ど分かりきっていたからだ。

 

半ば諦め半分だった。

 

「何言ってるんだい?ただの竜巻がほんの小1時間吹いただけだろう?そして、それで誰も死んじゃいないんだ……君はただのなんて事ない災害まで異変と見なすのかい?フッ、おかしな話だね……」

 

 

「………………」

 

 

「そろそろ、僕の友達をこっちに渡して貰おうか?彼を待ってる子も居るんだ……」

 

 

「なんで、貴方がこの子の為にこんな事までするの?」

 

 

「決まってるじゃないか……友達だからさ……」

 

スタスタと霖之助は倒れた青年の前まで歩いて行き、青年に肩を貸した。

青年の意識は殆ど無かったので霖之助は、少しよろめいた。

 

「別に……殺すつもりなんて最初からなかったわ……」

 

去ろうとする霖之助に紫は、消え入りそうな声で呟いた。

 

「そう……」

霖之助は、紫を見ずに言った。

 

 

フッと紫は、スキマに消える。

 

「?」

 

紫の気配がしなくなったので霖之助は、振り返り辺りを見回す。

帰ったか……

 

気を抜いた瞬間だった。

 

「二度と同じ事が出来ないようにするだけよ」

 

「なっ!?」

 

ガチッと音がした。

 

見てみると友人の右手に腕輪がはめられている。

 

「何したんだ!?」

キッと霖之助は紫を睨みつける。

紫は、クスッと笑い、歪んだ口元を扇子で隠した。

 

「言ったでしょう?二度と同じ事が出来ないように、呪いをかけたのよ……彼、これで里に最も遠い天狗になるわよ」

 

そう言い残し紫は、消えた。

 

そして…………

 

 

里の中を歩く霖之助……

 

「軽くなったのは良いんだけど……それでも痛々しいね、傷だらけだ……あっ、無理して飛ばなくて良いからね!!軽くなったし……このまま、運んであげるよ」

 

「ア〜ア゛〜」

 

「ハイハイ、気にしない!!言ったろ?君は数少ない友達なんだ……だから助けたのさ……」

 

ブツブツと手に持った黒い塊に話しかけている

 

ヒソヒソと周りの人達が霖之助を指差して話していた。

 

側から見たら、霖之助が独り言を言っているか、話の通じない何かに話している危ない人間に見えるからだろう。

 

「ア゛〜」

 

「うん……あと少しで里を抜けるからさ、それまでの辛抱だよ気にしないで……僕は大丈夫だから、それよりも君の方が心配だよ……えっ、射命丸に怒られるって?うーん……それは僕にはどうする事も出来ないよ……困ったね……」

 

「ア゛〜ア〜ア゛〜」

 

 

真っ黒な鴉の声が里に虚しく響いた……

 

 

 

 

 

 


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