東方風天録   作:九郎

202 / 213
かなりの長文ですね
早いとこまとめてクロス回を書きたかったもので……

因みにツイッター始めました。
rKU8QOu23MXSCVr
です


夢想転生

風立ちぬ、いざ生きめやも……

 

たしか、フランスの詩人の

Le vent se lève, il faut tenter de vivre

を訳したんですよね?

これを和訳すると、風が起きた、生きる事を試みねばならない

って意味だった気がします。

 

いつだったかなぁ……オレが人間だった時……そして、まだこの世界に来る前に……堀さん、貴方の本を読みました。

 

いざ生きめやも

話の流れからして、この言葉

 

風が吹いた、さぁ生きよう!!

 

って意味だと思ってたんです。

 

でもね?

 

なぜ貴方は、『生きめやも』って訳したんですか?

 

『めやも』って……

 

それ、単純に直訳したら

 

生きるのかなぁ?いや、生きないなぁ?

 

ってなって。

 

下手したら

 

死んじゃっても良いや……

 

って意味ですよね?

 

誤訳なのかなぁ?

 

でも、結核に侵されて自身の死と向き合う若い男女の物語……

 

誤訳じゃない気もするんです。

 

ずっと疑問だったんです。

 

生きたかったのか……死んでも良いやって思ってたのか?

 

ずっと……分からないんです……

 

いつか、分かるようになるのかなぁ?

 

 

____________________________________________

 

________________________________

 

________________________

 

 

『夢想天生』

 

博麗の巫女は、呟いた。

 

青年は、それを聞いてハハッと苦笑いする。

 

無敵状態だ。

 

色んな物から浮いてる。

 

全部の物から浮いてる。

 

相手は無敵状態、そしてオレは満身創痍で目も霞んできてる。

 

対抗策があるとするなら、この人の霊力が枯渇するまで耐え切るしかないかな?

 

 

八つの陰陽玉から沢山の弾幕が形成される。

これが、弾幕ごっこだったらどんなに楽か……

 

向こうは本気でオレを退治するつもりらしい。

 

青年は、満身創痍の身体を無理矢理動かしてギリギリのところで弾幕をかわしてゆく。

 

「圧倒的ですね……まるでスーパーマンだ……」

 

青年は、遠い目をして呟く。

 

「そう、強大な力を持つスーパーマン……でも、スーパーマンは大局的な正義なんだ……犠牲もやむ終えないって考えだ……そんなのオレは認めない……弱者が踏みにじられて理不尽な目に合うのが許せない……オレの考えは、個の正義だ、どっちが正しいかなんて分からないけど……それでも……」

 

何発か被弾した。

しかし、青年は歯を食いしばり霊夢に近く為に弾幕を避け続けた。

 

「アンタに勝ち目は無いわよ」

霊夢は弾幕を避け続ける青年の頭上目掛けて踵落としをし、冷淡に言い放った。

 

ドーンと大きな音を立て、青年は地面に激突する。

 

激突した地面から、青年はヨロヨロと立ち上がり、無駄とは知りつつも手から光弾を放つ。

 

青年にはもう武器が無い。

振り慣れた大剣が無く、丸腰状態だった。

 

光弾は、全て掻き消される。

地面を思い切り蹴って殴り掛かっても陰陽玉から発射される弾幕で近づく事も許されない。

 

それでも、決死の思いで弾幕を掻い潜っても、霊夢に触れる事も出来ない。

 

将棋で言う詰みの状態だった。

 

「最期に、なにか言い残す事ある?伝えとくわよ……」

霊夢が、青年にお祓い棒を突きつけて言い放った。

声が震えていた。

 

しかし、満身創痍になった青年はその言葉さえ聞こえなかった。

 

「伊織……見てるか?お父さん……頑張ってるぜ?情け無いお父さんだけど……弱っちぃお父さんだけどさ……見ててよ……もう……伊織みたいな子が……出てこないように……スーパーマンに勝つから……」

 

うわごとのように青年は、言った。

今にも倒れそうで、先程まで大きな竜巻を起こして霊夢を苦しめた青年は、影も形もなかった。

 

「もう十分よ!!これ以上傷付く必要ないじゃない!?あんたは、どこまで苦しむの!?もういい加減……」

霊夢は、青年の目の前に降り立ち懇願する様に青年を見る。

 

しかし、霊夢の声は青年には届かず

ブン……ブン……と青年の拳が霊夢の前で空を切った。

 

「れ……ないんだ」

 

「えっ!?」

 

「眠れ……ない……んだ……あんたに勝たなきゃ……伊織が安心して眠れないんだ!!二度と……伊織みたいな子が出てこないように……もう二度と……」

 

青年は、霊夢を見た。

 

霊夢は、青年を見てビクッとし一歩退いた。

 

「あんた……なんて目をしてるの……?」

 

澄んだ瞳だった。

秋空の様に曇り無い真っ直ぐで綺麗な瞳をしていた。

 

しかし、その瞳の奥に深い深い哀しみが隠れている。

まるで、敵を見るような目じゃない。

 

優しい瞳だった。

 

霊夢は、驚いて動く事ができなかった。

 

「私、あんたを殺そうとしてるのよ!?なんでそんな目をするの!?」

 

霊夢は、狼狽しつつ青年に問う。

 

「ウウ……」

 

答えは空を切る拳で帰ってきた。

 

「あんた……理不尽と闘ってるのね……」

 

この妖怪と人間が入り混じる中、この世界を管理する妖怪の決めたルールに乗っとって生きなければならない理不尽、そのルールのせいで幼子が真っ当に生きる事ができなかった理不尽、愛した者を失わなければならなかった理不尽……

 

それらと闘っているのだと霊夢は理解した。

 

しかし……自身の務めは果たさないといけない。

 

私が妖怪に負けたとなっては、他の妖怪が増長する。

 

やらなきゃいけない……やらなくては……

 

霊夢は、グッと歯を食いしばり

 

震える手で青年に向かって手をかざす。

 

『夢想封印』

 

ドドドドドドッ!!!

 

大量の札と光弾が青年を包んだ。

 

至近距離だ。

 

回避もできず、青年は跡形も無く消え去った。

 

 

そう…………

 

 

消え去った

 

 

 

「ッ!?」

青年の姿が消え、そして、数メートル後方、前方、そして自身の背後へと次々に残像を伴って現れる。

 

青年を襲う札と光弾は、青年を追跡し襲う。

 

しかし、そのどれもが青年には当たらない。

 

超スピードで避けてるのか?

 

霊夢は、思った。

 

だが、それは間違いだと直ぐに気づいた。

 

見覚えがあるからだ。

 

最初に霊夢が青年を打ち倒した時。

 

満身創痍の青年が自身の攻撃をすり抜けながら幼子を抱えて消えたあの時と同じだ。

 

透けている……そして残像とともにゆっくり動いて現れる。

 

自身の『夢想天生』と似た物を感じた。

 

「クロ、あんた!!」

霊夢は、無数の札と光弾を青年に放ち続ける。

 

しかし、青年には当たらない。

 

 

そして……霊夢の霊力が尽きた……

 

「ハァ……ハァ……」

息を荒げる霊夢に青年は、ゆっくり、ゆっくりと歩いて近く。

 

そして

 

ガッ!!

 

霊夢の喉笛を掴んだ。

 

「ッ!!」

霊夢は、自分がこれから首をへし折られて殺されるのだと思った。

 

 

しかし……

ゆっくりと青年は、口を開いた。

 

「霊夢さん……この日を覚えておいて下さい、この先何年も、1人になったら思い出して下さい……貴方の首に掛かったこの手を忘れないで下さい……貴方に勝った……妖怪の事を……」

 

そう言って青年は、霊夢の首から手を離し

 

ドサッとその場に倒れた。

 

「伊織……お父さん……勝ったよ……やっつけるとか、殺すとか、打ち負かすとか、そうじゃないけど……お父さんは……勝ったよ……」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。